2017-10

幸せの空の先 - 2016.11.13 Sun

「オトメチャンオトメチャン、えらいこっちゃで」と小泉兵曹が第一艦橋で当直を終えたばかりの桜本兵曹のもとへ駆け寄ってきたのは月もきれいなある晩のことーー

 

「なんね。どうしたんじゃね、そんとに慌てて」と桜本オトメチャンは言って、双眼鏡のレンズを布でそっと拭いてからその場を離れた。交代の酒井水兵長に「異常なし」と言って水兵長は「交代します」と言って双眼鏡についた。主羅針儀のそばに、佐奈田航海長が立っていて水兵長の敬礼を受け軽くうなずいて返礼した。

小泉兵曹は艦橋の隅っこにオトメチャンを引っ張って行った。オトメチャンの一等兵曹の階級章のついた袖を軽くつかんで。

そして「オトメチャン、えらいこっちゃ」とまた言ったがその瞳は笑っている。どうしたんじゃね、と桜本兵曹は言った。すると小泉兵曹はオトメチャンの耳にそっとくちを寄せると

「小泉商店の工場がトレーラーにあるんは知っとるよねえ。ほいで今そこの工場長をうちの弟の進次郎が務めとるんも知っとるよね」

と言った。オトメチャンが、ああ知っとってよというと小泉は

「その進次郎に昨日の上陸の時たまたま出会うて聞いたんじゃが、オトメチャンのええ人、紅林さん言うんか?が、来週にもここに来んさるんじゃと!」

とささやいてからオトメチャンの背中を軽く叩いた。

「ええっ!本当に来なさるん?」

オトメチャンの頬がぱっと桜色に染まり、声が軽く上ずった。オトメチャンは慌てて口を両手でふさぐと小さな声で

「ホントに…紅林さんが…ここに?」

と小泉を見つめた。小泉兵曹はしっかりうなずいて

「ほうよ。進次郎がな、ぜひこのことを桜本さんに知らせてあげてつかあさいいうけえ、うちは急いでフネに帰ってきたんじゃが、こげえに遅うなってしもうてすまんのう。―じゃがこの話は本当のホントじゃ。ほら、高田兵曹のええ人の<南洋新興>と小泉商店がここに合弁会社作った言うてじゃろ、その関係で紅林さんと何人かがここに来るんじゃと。視察いう奴じゃないか思うんじゃが…紅林さん言う人結構やり手らしいじゃないね、えかったねえオトメチャン。小泉商店の社員の中でも有望株なそうじゃけえ、玉の輿いうヤツかもしれんで」

と言って嬉しそうにオトメチャンの背中をも一度優しく叩いた。

よろこびに全身を浸らすオトメチャンに

「詳しい日取りがわかったら進次郎から連絡が来るはずなけえ、待っとり。楽しみなねえ」

と言って小泉兵曹は「ほんならうち、そろそろ防空指揮所に行くけえ」と言って艦橋を出て行こうとした。その後姿にオトメチャンは

「小泉兵曹、ありがとう!」

と言って、振り向いた小泉は照れくさそうに片手を振って笑った。オトメチャンはフフッと一人小さく笑ったが、佐奈田航海長に気が付くと慌てて笑いを引っ込めてまっすぐに立った。

佐奈田航海長は微笑みながらオトメチャンの前にたつと

「いいお話でよかったですね。幸せになりなさいね」

と言って、オトメチャンは感激した。「ありがとうございます航海長」と言って敬礼し、その場を辞した。佐奈田航海長は小泉兵曹と桜本兵曹の仲がきちんと修復されているのに安心し、(小泉兵曹にもいいお話があるといいですね…きっとそのうちあることでしょう)と思って一人ほほ笑むのだった。

 

その一週間前、内地。

紅林次郎の両親は、東京の自宅で訪ねてきた親戚と談笑していた。紅林次郎の父親、喜重郎の兄の仙太郎はもてなしの料理に舌鼓を打ちながら弟夫婦と久々の再会を楽しむ。

「で、広島の次郎はどうした?元気なのかな」

仙太郎はそういって弟と弟の嫁であり次郎の母である敏を見た。喜重郎が

「元気ですよ、〈小泉商店〉の社員として頑張っとります」

といい敏もほほ笑む。仙太郎は「なんだ次郎のやつ俺の商売敵のところに勤めてるのか」と言って笑った。仙太郎は〈南洋新興〉勤務である。

「そうだ次郎もそろそろ嫁を貰っていい歳だろう?誰かいい人はいないのかね」

と尋ねると喜重郎は「じつは、」と言って桜本トメの話をした。次郎から聞いたトメの人柄から彼女の生い立ちまで話した。

「そのあとトメさんの故郷を訪ねてきたんだよ、にいさん。それで彼女の養家にもお訪ねして行った…でも心配いらないよ、何の心配もいらない。きちんとした家だよ。だから私は結婚を許したんだ。そのうちトメさんが内地に帰ってきたら逢おうと思っている」

喜重郎はそう語り、敏も「いろいろ辛いことがあったような人でね、気の毒な話でしたが本人さんはとてもいいお人と聞いていますから、逢う日が楽しみですわ」と喜んだ。

しかし仙太郎は眉根を不機嫌に寄せて

「そんな娘を、お前たちは嫁に迎えるつもりか?不義の子供じゃないか、そんなものをわが紅林家の家系に入れるわけにいくか!」

と言い放った。そして

「お前たちは次郎に甘いぞ?長男はいい家から嫁を貰っているというのに、釣り合いがとれん。誰でもいいわけじゃないんだぞ、わかっとろうがそんなことくらい!二人が良ければいいというわけではないんだぞ?結婚をなんだと思ってるんだお前たちは!」

と怒鳴り始めた。すると喜重郎が

「そういいますがねえ、にいさん」

と口をはさんだ。喜重郎は居住まいを正すと

「太一郎(次郎の兄)の嫁は確かに良い家柄の出ですがね…気位ばかり高くてどうにも仕方がないんですよ。そのくせ何もできないと来ている、そんな娘を貰うんじゃなかったと思いましたよ。にいさんの口利きでしたがあれは正直失敗だったと思いました。だから私は同じ轍を踏みたくないんです。次郎が見初めたトメさん本人やその家族に問題がなければいいじゃないですか、しかも彼女のお姉さんという人たちは海軍の中枢にいる人たちですよ?立派な家柄じゃないですか、何も文句の付け所なんかない」

と言ってこちらも不機嫌そうにそっぽを向いた。仙太郎が今度は態度を変えて

「お前も知ってるだろう、私の部下の香椎。あれの娘の英恵が以前に次郎に会って、以来恋い焦がれてると聞いてる」

と柔和に言ったが喜重郎は黙ったまま。敏がハラハラしながら二人を見守っている。

ややして喜重郎が「だから、なんです?」とぶっきらぼうに言うのへ仙太郎は

「英恵を貰え」

と言った。喜重郎は「とんでもない。お断りだ。次郎にはもう決まった人が居る」ときっぱり断った。香椎英恵には確かに前に会ったことがあった、が、これも長男太一郎の嫁同様気位ばかり高くて喜重郎は好かないタイプであった。次郎も英恵には全く興味を示していなかった。

仙太郎は

「英恵は我が社に勤務していてね。女ではあるが実に有望な社員なんだ。初めての女性幹部になれるかもしれない逸材だ。貰って損はないと思うがね。よく考えておいてくれよ、大事な息子のためだからな」

というと、弟夫婦の表情には全く構わず何事もなかったかのように杯に残った酒を飲みほしたーー

 

そんなことが起きているとは夢にも思わない紅林次郎は、広島市内の〈小泉商店〉で社長の小泉孝太郎から

「紅林君。すまないが来週からしばらくのあいだトレーラーの工場に視察に行ってきてほしい。ほかに数名いるから大丈夫だよ。〈南洋新興〉との合弁が近い、向こうさんも何人か来ているらしいから顔を覚えるつもりで行ってほしいんだ」

と言われ胸が高鳴った。(桜本さんに、逢えるかもしれない)

小泉社長はその辺をも含め、彼にトレーラー行を命じたのだった。小泉社長の微笑みがそれを物語っていて、紅林次郎は心から感謝した。

「社長。しっかり見てまいります!」

紅林次郎は力強くそう宣言した。

そして小泉社長は、トレーラー工場の工場長を務める息子・進次郎に手紙を書いた。これこれこういう身上の社員が行くからその辺をよろしく願いたい、と。手紙を書きかけた彼は、デスクの引き出しから一通の封筒を取り出した。娘の純子からのもので、例の事件の詳細が書かれていて

〉バカなことをしでかし小泉家に泥を塗りました。これからは桜本兵曹をしっかり支えて、彼女の恋を成就させたいと思っています

と書かれているのをもう何度見たか、それを今一度見つめた後社長は、息子への手紙に、純子へ桜本兵曹に紅林の件を伝えるように、と書き添えた。

(純子、大事な友達を支えてあげんさい)

そう願う小泉社長である。

 

そういった父親の思いも込められた報せを、小泉純子兵曹は弟の進次郎から受け取って桜本兵曹に知らせたのである。

小泉兵曹は「えかったのうオトメチャン。うちはやっぱしオトメチャンが大事じゃ。オトメチャンが幸せにならんとうちも幸せになれん、じゃけえ紅林さん言う人としっかり幸せになりんさい」と指揮所できらめく星空を見上げつつ祈った。

 

ーそしてこの後、オトメチャンと紅林の仲を大きく揺るがすことが起きるとは小泉もオトメチャンも誰も、予想だにしてはいなかったのだ。そう、紅林次郎の両親でさえもーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

オトメチャンに朗報!紅林さんがトレーラーに来ることになりました。感動の再会も間近です。

しかし二人の行く手に暗雲が広がっているような気配もあり予断を許しません。どうかいい方向に向かいますように祈ってやってくださいませ!

DSCN1338.jpg
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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
叔母様のお話し。申し訳ないんですが笑ってしまいました。がっかりとは…(;'∀')。なんだかその時のおばさまのお顔が見えるような気がしておりますw。でもあの時代よくあった話でしょうね。

オトメチャン実は…おっととこの続きは是非読んでくださいませ!

No title

それぞれの家庭の環境が今より大事だった当時
大変ですよねえ。

私の母の妹、私のおばは、
結婚式の日まで夫になるひとを知らなったそうです。
写真でちょっと見たぐらいだったそうです。

式当日、夫になる人をを見て、がっかりしたそうです。

オトメちゃん、うまくいくといいな。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
まさにそれ、『ひとの恋路を邪魔するやつは…』ですね。あのへんなおじさんとやら、痛い目に合えばいいのにw。
紅林さん、胸躍らせてトレーラーへの長旅をします。そして待ち受けるオトメチャン…ああ青春物語が始まりそう~~♡

どうぞこの後もお楽しみに^^。
いつもありがとうございます!

紅林さん無事にオトメチャンに会えるといいですねー。
家族や親戚が横槍入れてくるのが気掛かりですが、
人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られろって言葉知らないんですかねー。
身内だからといって、人の恋路を邪魔していいって
もんじゃないと思います。

sukunahikona さんへ

sukunahikonaさんこんばんは
私はほとんどゲームをしないものでまったく知りませんでした(◎_◎;)。
今度の土曜日の晩にのんびりしながらアクセスしてみますね、ありがとうございます^^!

world of warships、これやってます?
ゲーマーじゃない私もこのゲームだけははまってます
やっと大根も済んで少しほっとしてるところです
もしまだやってなかったら下のアドレスからログインしてみてください
http://playtogether.worldofwarships.asia/invite/wVGPGgN

『sukunahikona』で水雷戦隊を指揮してますよ

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
お待ちかねオトメチャンの出番です!
この愛、この先どうなってゆくでしょうか。大変気になりますね。私もどう書いてゆこうか、実はいろいろ考えておりましてまだ結果を出しておりません!
どうぞお楽しみになさっていてくださいね♡

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
さてさて何やら暗雲が見えてきましたが…紅林のおじさんとやら、大変くせ者のようです。まさに大嵐の予感がしますね(-_-;)。
でも紅林さんの二親はオトメチャンの出自を解ってなお、嫁にと言ってくれていますから何とかなるか?
いろんな人を巻き込んで大騒動にならなきゃいいのですが…どうぞお楽しみに!

おっちゃんさんへ

おっちゃんさんこんばんは
この物語のキャラクター誰にも愛着があり幸せにしてやりたいものです。その中でもオトメチャンは特に…

この二人何事もなく祝言を挙げる日が来ればいいのですが人生は山あり谷あり。どうぞそのアップダウンをお楽しみくださいませ^^。

こんにちは。オトメちゃんの出番がやってきましたね(笑)
障害があるほど愛は燃え上がるものです! ドキドキ、ワクワクしながら次の展開を待ちますね~! 

さて、ご両親はともかく伯父さんが何やら横やりを?裏で何か画策している気配もあり?こりゃあスーパー台風も真っ青の大嵐の予感。
伯父さんはともかくご両親はオトメちゃんを嫁として迎えることに異論なし。いろいろな人物が様々に交錯しそうですね。なんか高田さんあたりにも飛び火しそうだし、やはりキーパーソンは小泉さん、忍者?長妻さんかな?

こんばんは

オトメチャンと紅林さん、何事もなくうまくいってほしいものです。紅林家のほうは何とかなりそうですけど、何かあるようなことを匂わせる最後の文章がとても気になりますね。
何事もなくということはありえないんでしょうけど、何事もなくハッピーに終わってほしい、と思いながら次回作を楽しみにしています。
前回のコメント、何も考えずにチェックを入れて送信したら管理人のみ閲覧となっていました。

ひらしおさんへ

ひらしおさんこんばんは
まったくいろんなことがある世の中ですね(-_-;)・・・
いつも楽しみにしてくださりありがとうございます、これからもよろしくお願いいたします^^。

ご指摘下さり感謝です。
いつも楽しく愛読しています。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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