2017-10

心をつなぐもの - 2016.10.30 Sun

某海軍航空隊基地のある島では、搭乗員嬢たちは現地の人々に大人気である――

 

搭乗員の彼女たちが街を歩けば「ハーイ、パイロット!」「ニホンのパイロット、きれいね~」などと声をかけられることは日常茶飯事。

搭乗員嬢たちはやや恥ずかしげにそれにそっと手を挙げて応えるのが通例になって居る。

以下はそんなある日のちょっとしたお話し。

 

〈隠れた才能〉

その日の夕刻間近、零戦搭乗員の早川少尉以下数名は新飛行場の見学を終えて中型トラックの荷台に揺られて基地に帰る途中であった。皆、「新しい飛行場が早くできるとよいな」とか「すると、ほかの航空隊が入ってくるのでしょうかねえ?」などとおしゃべりが続いている。

その時、トラックのエンジン音がぶすぶすとおかしな音を立てて、やがてトラックは止まってしまった。早川少尉は

「どうしたの?ガス欠か?」

と荷台から運転席に乗り出して尋ねると運転席の整備兵曹たち二人が

「ガス欠ではないんですがエンジンがおかしくなってしまったようです…申し訳ありません、今調べます」

と言って車を降りた。

少尉は荷台の搭乗員嬢たちに「――だそうだよ。ちょっと時間がかかるかもしれない」と言ってから自分も荷台から降りて兵曹たちに「何か手伝えるかな」と言ってエンジン部分の点検を始める。

しかし思いのほか時間がかかり、まだ直らないうちに日が沈んでしまった。懐中電灯の細い光の中懸命に作業は続いたがはかどらない。

「こんなところで足止めとは…司令に連絡が取れればいいのだが」

早川少尉が心底困ってしまった時。

道の向こうに自動車のヘッドライトがギラリと光りこちらへ向かってくるのがうかがえた。整備兵曹嬢の一人、米倉兵曹が「おーい、おーい!止まってくれえ」と両手を振り大声を出した。果たして向こうから来た自動車は彼女たちの前で止まってくれた。

その中から降りてきたのは現地の男性で、この地の知事である。知事は

「ドウシマシタ?日本の海軍サン?」

と言って、兵曹たちから話を聞くと「ソレハいけません…私ノウチニキテクダサイ。自動車ナオセル息子イルネ、電話モアリマス。さあ行きましょう」と言って彼の自動車の後ろに綱をつけそれで海軍の中型トラックを引っ張ってくれた。

一行は知事の家に着いた、すると中から大勢の家族が飛び出してきて

「サアどうぞ!いらっしゃいませ!」

と言って皆を家の中へと招じ入れてくれた。飛行服姿の搭乗員たち、それに三種軍装の整備兵嬢たちも下へもおかないもてなしようで彼女たちは恐縮してしまった。

知事が一人の若い男性を連れてきて、「コレ私のムスコ。自動車ナオセル。チョトだけ待っていてホシイネ」と言って息子は笑顔で一礼すると外へ出て行く。

その間に、早川少尉は電話を借りて基地へ連絡。基地司令に訳を話し、司令は「直り次第帰隊しなさい。直らない時はまた連絡して。いずれにしても彼らには丁寧に礼を言って」と言い、電話を切った。

その間に家族たちはごちそうをもってきて

「サアどうぞ!召し上がれ」

と一行に勧める。いただきますと言っていいものか皆が戸惑っていると知事は早川少尉の背中をそっと叩いて

「ワタシタチとあなたたち、今日友達ニナレタネ。その印ダカラ食べてほしいデス」

と言って知事手ずからとりわけの皿を皆にそれぞれ手渡し、勧めた。彼の妻や娘息子たちも「ドウゾどうぞ」と勧めるので

「ではいただこう、せっかくの気持ちを無にしてはいけない」

ということで皆「いただきます!」と大皿に盛られた料理に手を伸ばした。美味いおいしいと嬉しそうな搭乗員嬢たちに家族や知事も嬉しそうである。

やがて楽しい会食が一段落つくころ、知事が立ち上がると部屋の中に鎮座しているピアノを弾き始めた。すばらしい、玄人はだしのピアノの音に皆はうっとりと聞きほれた。知事の娘の一人が搭乗員の一人・河野一飛曹に

「オトウサン、気分がいい時ピアノ弾きマス」

と教えてくれた。うれしいことですね、と、河野一飛曹が言うとその横に座っていた畑田上飛曹もうなずいた。しばし素晴らしいピアノの音に酔っていた一同は、弾き終えた知事に拍手した。

「素晴らしい、素晴らしい演奏です知事!」

口々に言う搭乗員たちに嬉しそうにほほ笑みながら知事は

「デハ、パイロットの皆さんモぜひ一曲」

と言ってピアノに手を差し伸べる。下士官嬢たちははっと身を固くした。彼女たちはピアノを見たことがありこそすれ、弾いたことなどない。

どうしよう…

下士官嬢たちの間に困惑が広がった其の時。

「では私が。下手ですがご容赦」

と立ち上がったのはだれあろう早川少尉。皆は「早川少尉ピアノを弾けるんだろうか」「そんな話聞いたことないわ…ああ恥かかなきゃいいけど」などとコッソリささやく。

早川少尉はピアノの前の椅子に腰かけると、飛行服の袖を少しまくり上げ鍵盤の上に軽く両手を乗せた。皆が固唾をのむ――と少尉の両手が滑らかに動き出し素晴らしい曲を奏で始めた。搭乗員嬢・整備兵嬢たちはびっくりして少尉を見つめ、知事一家はまるで祈りをささげるときのような格好で両手を胸の前に組んで聴き入っている。

そして弾き終えた少尉に皆は「ブラボー!」「早川少尉素晴らしい」と喝さい。少尉は恥ずかし気に椅子から立って「いやいや…とんでもない!学生時代ちょっとかじっただけの下手の横好きってやつです。お耳汚ししてしまって」と言った。ドアの前には知事の息子が立っていてこれも拍手して「ブラーボー!」と叫ぶように言っている。

そして彼は「自動車ナオリマシタ…時間かかってゴメンナサイ」と言った。彼は整備の米倉兵曹・庄司兵曹とともにもう一度外の自動車のところへ行き直した部分の説明をして整備兵曹嬢を感動させた。

一同は知事一家に丁重に礼を言い、早川少尉が「改めてお礼に参ります。知事、素晴らしいピアノをありがとうございました」というと知事は笑って

「御礼ナンカいいね、直ってヨカッタネ。そしてハヤカワサンのピアノ、素晴らしかった!マタ来てヒイテください」

と言い、皆は知事と固く握手をした。早川少尉のピアノという隠された才能は、ひそかにこの地の人々の間に流れていた「日本の搭乗員は場を盛り上げることが苦手」という風評を一掃するのに役立ったのだった。

 

〈祈りの歌〉

別の日。

新飛行場建設も緒についてきたある朝、建設現場を視察に行った基地司令一行。

しかし兵舎の建て方に一部不具合が見つかってしまった。それが現地作業員と海軍設営隊の間で悶着になり基地司令の加藤伊月大佐は収めるのに苦労する羽目に陥ってしまった。

司令に付き従う士官・下士官嬢たちも困惑してその激しいやり取りを見つめるばかりである。加藤司令があれこれ折衷案を考え出そうとしたが作業員も設営隊員もなかなか聞く耳を持ってはくれない。

このままでは無事飛行場を開くことができないのではないか…皆のあいだに不安が広がった。それでも昼食を取ろうということになり、皆押し黙ったまま車座になって昼飯を食べる。普段陽気な現地人作業員も今日は固い表情で黙々と食べ、海軍側もむっつりとしている。

食べ終わっても互いに目を交わしあうこともない。

いやな空気が流れているその時。

一人の下士官嬢―小西兵曹―がふっと歌いだした歌に、現地作業員たちは顔を上げた。そして腰を上げ、彼女の周りに座り込むと一緒にその歌を歌い始めた。

「なんだ?どうしたんだろう?」

加藤司令はこの展開に驚いて隣の中尉を見つめたが中尉も訳が分からないと言った顔である。

小西兵曹が歌ったのは讃美歌である。その歌に作業員たちは反応したのだった。そして彼らは

「ゴメンナサイ、私たち間違ってマシタ。許してクダサイ」

と言って海軍側に謝り、それに驚いた海軍側も「いや。こちらも悪かった。高圧的にものを言ってしまって申し訳ありませんでした」と謝る。

加藤司令は突然の和解に驚いて小西兵曹に

「どうしたことだろう、兵曹何か魔法を使ったのかね」

と尋ねたが小西兵曹はこともなげに

「魔法ではありませんよ。私、実はクリスチャンでして、時々ふっと賛美歌を歌うときがあるんです。今日たまたまうたった讃美歌が彼らの好きな歌だったようです。で、彼らは『この歌を歌えるなら信用に足る』と思ってくれたらしいですよ」

と言った。そうかそれは良かった、と加藤司令は言い皆を見た。今までずっと仲良くやってきたのであるから和解できないはずもなく、もう皆はにこやかに冷たい茶を飲み交わしてほほ笑みあっている。

兵舎も、もうじき出来上がるだろう。

加藤司令は爽やかな気持ちになって、現地作業員の一人が持ってきてくれた冷たい茶を飲みほした。

 

そして今日も、街中では「ハーイ、海軍サン!」「パイロットのミナサン、素敵ネエ!」と現地の人たちに声をかけられ笑顔で応える海軍搭乗員たちであったーー

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

何かで読んだ話をモチーフにして創作しました。

国や言葉は違っても、真心があれば伝わるし喧嘩も収まる。それにちょっとした小道具があればなおさらでしょうか。

皆晴れやかにいられるのが一番ですね。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
ピアノって本当に素敵でさりげない演出道具ですよね^^。
音楽に国境無しを痛感するときが多々ありますがまさにこの話もそれでしょうね。

かっこいい女海軍さんにまたあこがれてくださいましたか^^?

ピアノという小道具は、最高ですね。
かっこいい。

歌とか楽器というのは、言語に関係なく心に響きますよね。

かっこいい話だなあ。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
早川少尉のようにさらっとなんのてらいもなくピアノ弾けたらなあ~って思いますね。
こうした交流は実際にあったようです、当時まだピアノを弾くということは一般的ではなかったので外地の人とのコミュニケーションの際「ドウゾ一曲!」と言われて大変困ったこともあったとか。

女だらけの世界では女たちはメカに強いのですがたま~にこうした男性も出てきます^^。そこがこの物語の持ち味と言いますかなんと言いますかw。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
ご返事遅くなってごめんなさい!

大食い早食いが芸のうちに入る世の中ですよね、でも私もただのデブ。何もできないであいまいに笑うだけです…悲しい(-_-;)。
何か心に残るような一芸を持ちたいなあと思います!もう遅いかなあ…

「甲形」!ものすごい興味ありますね、後でゆっくり調べてみたいと思います^^。

昨日は寒かったですが今日の文化の日は穏やかでよい日でした。どうぞ御身大切になさってくださいませね♡

早川少尉にも意外な特技があったんですねー。
芸も武も兼ね備えた早川少尉には凛々しく美しい女の魅力を感じます。
現地の人間との心暖まる交流にほっこりさせられました。
そういえば、女だらけの世界でも男の方がメカに強かったり
するんでしょうか。

こんにちは。
無芸でも大食なら今は活躍出来る時代ですが、中途半端なデブな私には全く何もないので、ただただビビり焦るだけでしょう。芸は身を助けるといいますが、人の気持ちをほぐしあたたかく出来る何かを持ちたいものです……そのためには清く美しく……と思うのですが、江戸時代に甲形(かぶとがた)というべっ甲でつくられた避妊具があったが、装着感が悪く実用向きでなく、遊女相手の大人のおもちゃだった……という記事を読み、まぁ( 〃▽〃)となっていたので……真人間にはなれません( ̄0 ̄;) 寒い朝になりました。お身体に気をつけて下さいませ。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
早川少尉これ実は私自身の夢でもあります。私も幼いころはピアノを習ってはいましたがぜんっぜんものになりませんでした、それはもう笑っちゃうくらいw。
息子娘の結婚式に「では…」なんてさらりと弾けたらさぞかっこいいでしょうにねえ(-_-;)。
でも音楽のちからは大したものです。国境なんか関係ない!とばかりにひきつけあいますもんね^^。

お忙しかったのでしょう、どうぞ御身大切になさて下さいませね。だいぶ寒い日が多くなってきました、秋を吹っ飛ばしていよいよ冬到来でしょうか。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
まさに芸は身を助く。一芸に秀でていれば何かの時助かりますよね。でも私も何一つ芸と言えるものがないのでアウトです(;´Д`)。

「ビルマの竪琴」でも歌を歌う場面が出てきますね。歌は国境を越え、そして人の心を包んでくれる、そういう素晴らしいものですね^^。

何気なくピアノの前に座って、そしてこともなげに弾く。早川少尉かっこいい!!
もしも自分にそんな素敵な才能とテクニックあればと何度思ったことやら。息子の結婚式に「ではお父様から新郎新婦へ」など憧れました。今ではスマホも雑な太い指に化けて。若い時にやっておきゃよかった。
しかし音楽というのは国境を越えて人々の心を揺るがせ、そして感動を共有できるんだなと改めて思いました。

ご無沙汰をご容赦ください。
気温の変化が急激ですがくれぐれもご自愛をね。

芸は身をたすく?いずれもすばらしい才能ながら、それを自慢しない謙虚さ。おいらには、真似できません。それ以前に何の特技もないのですがwww

竹山道雄 ビルマの竪琴にもでてきますが、歌や音楽には国境はないようです。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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