親友 ベストフレンド

小泉兵曹は、あの事件の後艦に戻った晩、桜本兵曹・長妻兵曹・高田兵曹そして石川兵曹に集まってもらったーー

 

「呼び立ててすまんかったですが…うち」

と星明かりの最上甲板、二番主砲そばで、小泉兵曹は神妙な顔で切り出した。四人の兵曹たちはやや戸惑ったような表情で小泉兵曹を見つめた。その視線を受け止めて小泉兵曹は続けた、

「皆さんに謝りたい。ほいでオトメチャンにはうちの本当の気持ちを話したいんじゃ。皆さんにはその証人になってほしいんです」。

小泉兵曹は甲板に両手をついて平伏すると

「石川兵曹、うちは兵曹を何度もぶん殴ってしもうた。それもうちの勝手な思いからじゃ。ほんまにすまんことをしました。どうか許してつかあさい。ほいでオトメチャン、石川兵曹から聞いた思うがうちはオトメチャンのチェストをひっかきまわした…ほうじゃ、もうわかっとりんさるじゃろうがうちはオトメチャンの許嫁のことが知りたかった。ほいであがいな卑怯な真似をしたんじゃ。どうか許してほしい…。ほいで長妻兵曹、高田兵曹にはそのせいで余計な心配をさせてしもうたと後で聞きました…うち、みんなの許嫁のことを知りとうて…なんていやしい真似をしたんじゃろうと今は思うてます。本当にすみませんごめんなさい」

と言って泣き出す。

高田兵曹が腕を組んで小泉の前に足を肩幅に開いて立ち

「そんとなこといきなり信用できるかい。貴様は信用ならんけえな!貴様のどこを信用したらええんね?うちは信用せんで」

と厳しい語調で言った。小泉兵曹は平伏したまま泣いて

「ほりゃあ高田兵曹の言うことが当たり前じゃ、うちはもう誰からも信用されんでも仕方のない女じゃ。ほいでも、これがうちのほんまの気持ちですけえ、どうか聞いてつかあさい」

と言った。

石川兵曹が小さな声で「どうします?聴くだけなら聞いてやってもええん違いますか?」と言った。長妻兵曹は黙ったままであるが桜本兵曹は小泉兵曹の前に膝をついてその肩にそっと手を置くと

「うちは話を聞くけえ、泣かんと言いんさいな?」

とそっとささやくように言った。小泉兵曹は「ありがとうオトメチャン」と言い、桜本兵曹に引き起こされて座りなおすと

「うち、うちもみんなみとうに許婚とかええ人がほしかったんじゃ。でもうちは一人に絞るんはどうもできんで、見世の男を両てんびんにかけては悩んで勤務をおろそかにしてしもうた。ほいでだんだんオトメチャンが憎いいうたら厳しい言いかたじゃが、その…」

と言って言い淀んだ。桜本兵曹な静かな瞳で「なんでもええ。思うたとおりのことを言うてくれたらそれでええ。今更隠さんでほしい」と促した。小泉兵曹はためらっていたが顔を上げるとまっすぐオトメチャンを見つめ

「うちより劣った生まれのくせに、うちより幸せになるなん許せん。じゃけえ邪魔してやろうおもうたんじゃ」

と言ったあと「本当にすまん、申し訳ない」と言って再び号泣し始めた。

長妻兵曹・高田兵曹石川兵曹があっけにとられて小泉兵曹を見つめている。高田兵曹が

「貴様、ええ気になりよってからに!人がどんな生まれであっても幸せになる権利はあろうが!それを貴様が邪魔する権利なん、どこにもないで!この…大店の娘じゃ言うて、ええ気になりよってからに!」

といきり立ち、小泉兵曹につかみかかろうとしたのを長妻兵曹が後ろから抱きかかえるようにして止めた。

小泉兵曹はしゃくりあげながら

「高田兵曹の言う通りです、うちはええ気になっとりました…。でもうちが貶めていたオトメチャンがうちを早う留置所から出してやってほしいいうて上陸のたびに艦隊司令部に来ていたいうことや何より、大雨の中玄関先で泥だらけになりながら土下座して泣いているオトメチャンを見たとき、うちはなんて阿呆な人間なんじゃろうと今までしてきたこと考えたことを後悔しました…。オトメチャンはうちを本気で思うてああしてくれている。そのオトメチャンにうちはなんて仕打ちをしてきたんじゃろうと思うたらもう恥ずかしいやら悲しいやら…うちは正直死にたくなりました。じゃがうちは生きてオトメチャンに恩返しをせんといけん、そう思い返しました…」

と語った。

高田兵曹は

「貴様の思いは本物じゃ思うてええんじゃな?もし嘘偽りだったら今度こそ承知せんで!」

と怒鳴るように言った。それに小泉兵曹はうなずいて

「小山田司令と約束しました。…今度戦友を裏切って勤務怠慢なことをしたときは、内地に送還して軍法会議にかけられても一切文句は言わん、申し開きはせんと。ほいで、今回のことでうちの昇進は同期の皆よりずっと遅れることも承知しました。それはうちのせいですけえもう誰も恨んだりしません。うちは自分の生き方をも一度見直して生き直します。嘘偽りはありません、ほんまですけえどうか信じてつかあさい」

と言って頭を下げた。ひたいが甲板に着いた。

桜本兵曹は「わかったで、小泉」というともう一度小泉兵曹を抱き起すようにしてからその顔をまっすぐ見つめ

「うちはあんたを信用する。今までのことはもう水に流す。じゃけえ…」

というと小泉をかき抱いて

「どうか、どうかもうあがいな思いはさせんでね。願います」

というと声を上げて泣き出したのだった。小泉兵曹と桜本兵曹は抱き合ったままそこで泣いていた。

長妻兵曹は高田・石川の両兵曹を見返って

「改心したとみてええかな。高田兵曹、どがいです?石川兵曹は小泉兵曹を許してええんか?」

と言い高田兵曹は頬をそっと掻くと

「ああいわれたら信用せんわけにいかんじゃろ?信用したるわい。なあ小泉、これからは何があってもオトメチャンをしっかり守ってやらんといけんで?それが貴様の罪滅ぼしなけえの。ええな」

と言い、小泉が泣きながら「はい、そうします。必ず」と言ってうなずくのを見て「ほんならうち、行くわい。またな」と言って歩き去って行った。長妻兵曹と石川兵曹も「これからまたよろしゅうにな」「うちも見ずに流しますけえ、よろしく願います」と声をかけ、そして去って行った。

 

甲板には二人だけになった。

泣き止んだ二人はその場に座って夜空を見上げている。今夜は月がないので星明りがいっそう強く感じる晩である。

小泉兵曹は桜本兵曹に視線を移すと

「うちら長い付き合いなねえ」

と言ってほほ笑んだ。桜本兵曹もほほ笑み返して「ほうじゃのう。海兵団以来じゃけえ、はあ何年になろうかねえ」と言った。小泉は「二人でよう、悪いことをしたもんじゃな」と言ってくすくす笑った。桜本兵曹は

「ほうよ。覚えとる?航海学校に居ったころ、暗室での訓練の時」

というと二人は声を立てて笑った。小泉兵曹は笑いすぎて涙をこぼしながら

「暗い部屋で夜間見張の訓練じゃったねえ、皆同じところを見とるんなけえ双眼鏡は皆同じ方向むいとらんといけんいうんに、うちとオトメチャン居眠りこいてしもうて双眼鏡がそっぽ向いとって…教官に『居眠りしとるんはだれじゃ!?』言うて怒鳴られて大目玉くろうたねえ」

と言ってさらに二人は笑った。

笑い収まると小泉兵曹はまじめな顔になり

「オトメチャン、うちはオトメチャンを守るで。じゃけえ大船に乗った気で居りんさい」

といきなり言った。急になんね?と言ったオトメチャンに小泉兵曹はまじめな顔のまま

「うちはオトメチャンに対してひどい思いを持ったこともあるがそれはオトメチャンのことがうらやましい反面もあったんじゃ。うちはオトメチャンみとうに綺麗でもないし見張が上手でもない。おぼこでも無いけえの…。じゃけえ言うてはいけんことを言うて思うてオトメチャンを貶めて悦に入って居ったあほじゃ。じゃがそのアホも心を入れ替えてまともになる、じゃけえオトメチャンを困らすような人間が出たらうちが懲らしめるけえね。安心しとり」

と言った。

桜本兵曹は小泉兵曹の顔を見つめ

「―ありがとう小泉さん。うちはあんたみとうな友達を持って幸せじゃわ。うちは…もう過ぎたことはいいとうないが…今度の件で大事な友達を失うてしまうんじゃないかと悲しかった。でももうそんとな心配ものうなって、うちはうれしい。うちも小泉を守りたい。小泉を虐めるもんがおったらうちがただじゃ置かんで」

と言って、小泉兵曹は

「ほうじゃわ、オトメチャンのあの〈秘技〉をくらわされたら誰でもかなわんわい。こわ~」

と以前<エガチャン>なる男にオトメチャンが食らわせた〈電気あんま〉の話を持ち出し、二人はまた笑った。

二人の笑いは星空をどこまでも駆けあがって行った。

 

その様子を二番主砲砲塔上でそっと見守っていた棗主計大尉はふっと息をついて空を見上げると

「親友…。ベストフレンド、ですね」

と独り言ち、二人の影に微笑みかけたーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹の本音でした。

目覚めた小泉兵曹は大事なオトメチャンを守る、と宣言しました。危うかった二人の友情も修復されました。

この後、小泉兵曹はオトメチャンのために細やかな心配りをすることになります。そしてある人たちと…おっとこの先は内緒w。

 

次回をお楽しみに!

 

キロロ「ベストフレンド」

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Comments 8

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見張り員  
ponch さんへ

ponchさんこんばんは
やっと二人の凍りついた心も氷解しました。小泉兵曹本来オトメチャンが大好きなのです。ですからもう、完全和解です。
本当の友情、友達とは何かをこれから模索してゆくことでしょう。

ちょっと私もハイペースかなあと思っておりますw。お話のストックがそれなりにある場合結構次々書いたりしますがどうぞ、ゆっくり読んでやってくださいませね^^。

この「ベストフレンド」という歌、大好きです!

2016/10/31 (Mon) 20:45 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
ponch  

雨降って地固まるという奴でしょうか。
これで小泉さんとオトメチャンは和解したと見ていいんでしょうか。
女の友情は長続きしないとはよくいわれますが、男も定年退職したら友達いなくなっちゃう人多いですよねー。
このふたりには末長くいい友達でいてほしいと思います。

見張り員さん最近結構ハイペースで描いてますよねー。
自分とこの創作神話もこのくらいのペースで描けたらいいんですけどねー。
読むのがおっつかなくて、コメント周回遅れになっちゃってゴメンなさいです(^-^;)

ベストフレンド。心に染み入るいい歌ですね。

2016/10/30 (Sun) 16:05 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
昼頃から雨になりえらく寒くなりましたね(;´Д`)…いきなりこう寒くなるって反則ではないですかあ??と言いたくなるほどの寒さでした。なんだか参っちゃいますね(-_-;)。

女同士の友情は続かない、とはよく聞きますがオスカーさんおっしゃる通り続かないものは友情とは呼べませんよね。
友情とはその場限り、刹那的なものではなく、(変な言い方ですが)牛のよだれのようなものかもしれませんねw。

本をたくさん読んでらっしゃるオスカーさんに褒められるとうれしいです、なんだかニヤニヤしちゃいますwww!

日曜日はどえらく寒いようですのでどうぞお気をつけてお過ごしくださいませ^^。

2016/10/28 (Fri) 21:01 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
長年同じ釜の飯を食った仲ですからもうここまで来たら…という感じですね。
すっかり心洗われた小泉さんはオトメチャンのためにあれこれすることになります。実家の会社の社員ですから融通が利く?かもしれませんね、どんな風にしてゆくのか?楽しみにしていてくださいませ♪

2016/10/28 (Fri) 20:55 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
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見張り員  
荒野鷹虎さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは
荒野さんの二番目のおにいさまは海軍航空隊でらっしゃいましたね。こんな物語でもおにいさまをしのぶよすがにしていただけると嬉しいです。

さあ明日はいよいよ広島での試合です!!今度こそ今度こそ日本一になってほしいというのが広島ファンの心です^^。
明日…どうなりますかーーー!

2016/10/28 (Fri) 20:52 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
オスカー  

こんばんは。
女同士の友情は長く続かない、なんて言いますが、反対に長く続かない関係を友情とか名付けるのはどうよ……なんて思ったり。
見張り員さまの物語には言葉で書かれた以上のものを感じるので好きです~!
今日は冷たい雨になりました。ご自愛下さい。

2016/10/28 (Fri) 18:29 | EDIT | REPLY |   
河内山宗俊  

さらに強固な結びつきになりましたね。何せ幼なじみのような間柄ですから、見栄も何もあったものではないですね。

ずっと心にしまってあったことを吐露したわけですから、憑きものが落ちたようになるのも道理であります。おそらく実家の小泉商店を通じて紅林さんのご両親とご対面とか?そこで小泉さんがオトメちゃんのためにひとはだ脱ぐのでしょうか?

2016/10/27 (Thu) 16:09 | EDIT | REPLY |   
荒野鷹虎  
見張員さんへ!!

おはようございます。!ご無沙汰してました。汗)
ここへ来ると次兄の海軍航空隊を思い出しますね。泣)

野球なんですが、アンチ巨人として広島さんには感謝しています。!
ただ道産子ですので日ハムは郷土愛として応援しています。!
鯉は泥水が好きな魚ですので、札幌の清水に食中りをしたのでしょう。笑)

今夜あたりから慣れてきます。!☆!

2016/10/27 (Thu) 08:19 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)