2017-10

乙女の涙 1 - 2016.10.19 Wed

小泉兵曹は今も艦隊司令部の建物の中に<監禁>されているーー

 

兵曹は鉄格子の中からトレーラーの青空を見上げてはため息をついていた。もう今日でいったい何日ここにいるのだろうか、数えてみるともう二週間ほどになるだろうか。

先週の司令との面談では「兵曹はまだ恨み言を言っているらしいな。それに我々を舐め切ったようなことも言っていたそうではないか。その心根を直さない限り艦には戻れない、ここからは出られない。あるいは内地に送還して除隊という処分になるぞ」と言われて驚愕した兵曹であった。

兵曹の、独り言は司令部の見張当番に聞かれていて、当番の兵曹はその発言を危険なものとみなして司令に報告したのだった。

(すべて筒抜けだったか…)

小泉兵曹は自分の間抜けさに嫌気がさしてきた。そして(あんなこと言うんじゃなかった、きっと司令たちはうちの心の中まで見通してるに違いない…、うちはもう参った。本当に反省するけえもうここから出たい)と本気で思うに至った。食事は艦にいた時とは比較にならないほど粗末だし、風呂にもまだ二回しか入っていない。布団も薄くてなんだか痒い。もう本当にここは御免だ。

小泉兵曹は部屋の鉄製のドアの鉄格子にすがると

「出してつかあさい!うち、うち本当に反省しましたけえお願いです、出してつかあさいー」

見張の兵曹はドアにはめ込まれた鉄格子のあいだから顔を見せると小泉をにらみつけて

「貴様、そんなことばっかり言って何度も同じこと繰り返してきたらしいじゃないか。そんなやつの言うことどうして信用できる?ふざけるのもいい加減にしろ、貴様はな、もう海軍にいられない人間なんだ。覚悟しておけ、そのうち内地送還だ」

と吐き捨てるとドアを蹴飛ばして去って行ってしまった。小泉兵曹は「そんな、そんな!お願いです、うち本当に心を入れ替えましたけえ、お願いです、どうか願います」と泣きながら叫んでいた…

同じころ、司令部の玄関では衛兵嬢が困り顔で一人の訪問者と向き合っていた。衛兵は「そういわれても…出来ないのです。司令の許可がいるのです。何度来られても同じです」と言って、訪問者は肩を落として帰って行ったのだった。

 

その訪問者は桜本トメ一等兵曹で、彼女は旧知の仲の小泉兵曹が艦を下ろされた後彼女の身柄がトレーラー艦隊司令部に預けられているのを知った。そしてその待遇を佐奈田少佐から聞いて衝撃を受けたのだった。

「そんな、そがあな目ぇに小泉はおうとるんですか…そんな、まさか」

オトメチャンは呆然として突っ立ったままだったが佐奈田航海長はその肩をやさしく叩くと「仕方がないんだよ、あなたにも分かるでしょう?小泉兵曹は秩序を乱した、だから艦隊司令部預かりとなったんだ。この後も改心がなければ内地に送還されるかもしれない。あとは…彼女次第だね」と言ったのだった。

それを聞いた後からオトメチャンは上陸のたびに艦隊司令部を尋ね、門の前にたつ衛兵嬢に「小泉兵曹がここに居ると伺いました、どうか会わせてつかあさい。小泉はそげえな悪い人間と違います、きっと何かの間違いです、はように出してやってつかあさい」と頼んでいたのだった。

が、艦隊司令の許しもなく建物に入れることもできず衛兵嬢はオトメチャンを門前払いするしか方法がなかった。

「申し訳ない、本当に申し訳ないが入れるわけにはいかないのです…。どうかわかってください。小泉兵曹の件は今はまだお話するわけにいきませんので。ごめんなさい」

衛兵嬢はそう、すまなそうに言って、背中を向けて悄然と去ってゆくオトメチャンに向かいそっと敬礼した。

衛兵嬢は(あの小泉とかいう兵曹、こんなに思ってくれる友達がいるというのになんてやつなんだろう。男にうつつを抜かして軍務をなおざりにして、恥ずかしいと思わないのだろうか。あの綺麗な兵曹が気の毒だ)と思って去ってゆくオトメチャンの背中を見つめていた。

 

上陸のたびに尋ねてくる桜本兵曹の話は、やがて司令の知るところとなった。トレーラー艦隊司令の小山田イツ少将は副官の本川知美大佐を呼んで

「『大和』の下士官が、たびたびここを訪ねてくるようだが?」

と言った。本川副官ははい、とうなずいてから

「小泉兵曹が収監されてからまもなくです。どうも上陸のたびにここにきているようです。なんでも小泉兵曹とは海兵団の同期だとか」

と言った。

ほう、上陸のたびに?と副官を見つめた小山田司令に、本川副官は

「そうです。そして衛兵に『小泉兵曹に合わせてほしい、あいつはそんな悪い人間じゃない、早く出してやってほしい』と懇願するんだそうです」

と言ってかすかにうつむいた。そして

「そんな風に思ってくれる人間がいるのに、あいつはどうしてああなんでしょうね。本当に反省してるとは私には思えないんですが」

と衛兵嬢と同じ感想を言ってため息をついた。

小山田司令は

「全くだね。…しかしこのところ小泉兵曹の態度が少し変わってきたと当番の下士官が言っていたね」

と副官を見ると副官はうなずいて

「はい、ずいぶん泣いて『申し訳ない、申し訳ない』と言っているようですが…しかし!信用してはなりません。『大和』副長の話によればもう先からそんなことを言っては覆されているようですから」

と最後は厳しく言った。

小山田司令もうなずきながら

「そうか…。ここを出たい一心で、嘘偽りを言うということも考えられるからね。もうしばらく様子を見てみないと判断尽きかねる。しかし、厄介なものもいればいたものだ。『大和』艦長もさぞお困りだろう」

といい、二人はそれきり沈黙してしまった。

 

それから数日後、佐奈田少佐に新しい辞令が発せられた。それは

「佐奈田ヨウ海軍少佐 ○月×日付にて『大和』乗務を任ズ」。

これまでは繁木航海長の代理として乗務で、当座の航海長であったがこれで正式に『大和の航海長』として仲間に加わることとなった。

松岡中尉がこの話を航海科の皆に伝え、皆は「えかったねえ、佐奈田航海長!せっかく仲ようなったんじゃけえ、居ていただきたいわい。これで繁木航海長もご安心じゃろうね」と喜び合った。

その繁木航海長は、身重となり悪阻の体をトレーラー海軍診療所の一室で休めている。

繁木航海長は、気分の比較的良い日には杉山産科少佐とともに診療所やその周辺を軽く散歩することもあった。

杉山少佐は

「山中中佐は本当にひどい悪阻でしたからこうして散歩もできませんでしたが、繁木大尉は中佐よりはやや軽いとお見受けしました。…つらくなったら帰りますから、遠慮なく言ってくださいね」

と言い微笑んだ。

繁木航海長よりじっと年上の杉山少佐を(お母さんみたいだ)とうれしく感じた繁木航海長は

「ありがとうございます、今日はとても気分が良いんです。もう悪阻は終わったんじゃないかと思うほどです」

と言ってほほ笑み返した。

杉山少佐は「たとえ明日、またきつくなっても心の中では楽しいことを考えていてくださいね、そうしたらつらさの半分になりましょうから」と言って航海長の背にやさしく手を当てた。

二人はもう少し歩いて、トレーラ艦隊司令部の前まで来ていた。

司令部を右手に見ながらその前を通り過ぎようとしていた繁木航海長はふと、立ち止まった。

どうしました繁木大尉、と問う杉山少佐に

「いえ…。なんでもありません」

とほほ笑む繁木航海長。その航海長に杉山少佐は「そろそろ戻りましょうか、なんだか雲行きが怪しくなってきましたよ。降られると体を冷やしますから、戻りましょう」と言って空を指した。

南の空に黒い雲がわいて徐々に広がりつつある。

繁木航海長は「どっと来そうですね。では戻りましょう」と言って、二人は踵を返したが繁木航海長は

(あれは…オトメチャンではなかったのか知ら?なんで艦隊司令部に彼女が?

と不審に思っているーー

 (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹その後です。

本当に改心したのか?と疑念を持たれている小泉兵曹、ちょっとかわいそうな気もしますが彼女の身から出た錆でしょう。

そして佐奈田少佐は正式に『大和』乗務になりこれで安心のみんなです。

そして身重の繁木航海長、オトメチャンを見た…??

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
お返事大変遅くなってごめんなさい!

優しい人の存在ってうれしいものですよね。それが旧知の間柄ならなおさら。この二人いっそういい関係を続けてほしいものです。


「森須もりん海軍少佐!」
かっこいいなあ~~~もう憧れますね^^、私もこんな世界に行ってみたいです。ぜひ森須少佐の下で働きたいものであります!

小泉兵曹、いかなるや!!

どうであってもオトメちゃんのような優しいひとがいるのですよね、
いつの時代にも、どんな場所にも。

「佐奈田ヨウ海軍少佐 ○月×日付にて『大和』乗務を任ズ」
ああ、かっこいいなあ。
私は、いつも自分もその場所にいたらどうだろうと
考えて空想しては楽しんでいます。
「森須もりん海軍少佐 ○月×日付にて『大和』乗務を任ズ」
このような場合を。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます
小泉兵曹悪いやつではないんですが、お嬢様育ちが災いしたかなあ~という感じでしょうか。しかし持つべきものは友人ですからその力を借りて雄々しくよみがえってほしい小泉さんです。

人の根性、心根の良しあし。
素直でない人間は扱いにくいですね。よく年齢を重ねると丸くなると聞きますがそんなの嘘だあwと思う典型がすぐそばにいます。生まれ持った性格、育った環境。いろんな複合的要素が人を良くも悪くもするんですね。

変な天気の上に昨日の鳥取の大地震。いったいどうなってるんだ日本?と問いたくなります。風邪は…なかなか治りませんね(;´Д`)、咳が出だすと止まらなくて。
にいさまもどうぞお気をつけてお過ごしくださいますように。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます
小泉兵曹の歪んだ心を直す良薬はあるのか!?と思いますが人の心をいやせるのは結局…かもしれません。
彼女も長い海軍生活に疲れてきたのでしょうか、ちょっとだらしない気もしますがここで何か、「喝」が入らないといけないのかな。
さてこの友人同士どうなりますか。お楽しみに。

ぐっと気温が下がってきましたね、「寒暖差アレルギー」というやつでしょうか、私も鼻が変です(-_-;)…くれぐれもお大事に!

ponch さんへ

ponchさんおはようございます
その辺が一番気になるところではありますが…どうなるでしょう??
オトメチャンと小泉のあいだにこれ以上嵐が起きないよう祈りたいものです!

見張り員さんのこと、きっと小泉さんを見事に改心させるような大展開ではと。
そのキーマンがオトメチャンであったりして。

しかし人間の根性というのはなかなか素直になれるものでもないですね。
年を重ね、立場が変わっても、生まれながらの性格はなかなか。親のしつけと環境でしょうか。新たな親戚ができるとその良し悪しが一気に噴出というのが世の常のようです。
小泉さん、心底心を入れ替えなきゃ今いる素晴らしい仲間たちに申し訳が立たないでしょうに。

妙ちくりんな天気続きですが体調はいかがでしょうか。風邪は治りましたか。
無理をせずにお過ごしください。

おはようございます。
小泉さん……本当に反省しているのなら、今の状況を素直に受け入れ我慢すべきではと思いますが……ただ辛いから逃げたいだけって感じですね。オトメちゃんの心配する気持ちは素晴らしいと思いますが、少し離れた位置で辛抱強く見守ることもまた友情ではないかと思ったり……う~ん、いろいろどうなるのか気になります!
今日は気温が下がりますね。鼻がグズグズします~どうぞ見張り員さまも読者の皆さまもご自愛下さいませ!

オトメチャンはずいぶん小泉さんを気にかけてるようですが、オトメチャンの懇願で小泉さんが無罪放免になったとしても、彼女に素直に恩義を感じるでしょうか。
小泉さんの性格だと、むしろ逆恨みしてまたひと悶着起こしそうな気がします。

次回の展開が気になります。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
小泉兵曹果たして改心するか?これがこの先の物語の一番のネックになりそうです。そしてオトメチャンの懇願を彼女自身がどう受け取るか…これから目が離せませんぞw。

そして繁木さん、彼女をどう扱うか?これまた頭の痛い問題が起きそうですが…艦長以下の采配を待ちましょうかw。

これで小泉さんが改心してくれればいいのですが?

オトメちゃんが上陸のたびに何とか出してやってといっていることを、素直に感謝できるようになれば、一定の効果もありそうなものです。

ちょっと心配なのは繁木さんにそれとなく気づかれてしまったことですね。一番大事な時期ですので、この事実をいかに伝えるかというのが難しいところです。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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