2017-10

青空 4 - 2016.10.02 Sun

麻生分隊士は厳しい表情で小泉兵曹に言い渡したーー

 

「小泉兵曹。明日から防空指揮所右舷班長の任を解く。貴様は指揮所後部五番見張につけ」

そういってから麻生分隊士は小泉の顔をじっと見つめて

「貴様最近どうかしとらんか?勤務は怠慢じゃしやたらと人に突っかかっとろう?何があったんじゃ、うちでよければ相談に乗るで?なあも遠慮はいらん。秘密は守るけえ安心して言え?」

と言った。しかし小泉兵曹は最初に言われた〈班長の任を解く〉という言葉が衝撃的過ぎて口が利けなかった。

その様子を見て取った麻生分隊士は小泉の肩をそっと叩くとその場を去って行ったのだった。

残された小泉兵曹の両手がぐっと握られた。そして全身がわなわな震え出した。彼女はきっと前を睨み据えると

「あいつじゃ、あいつらが告げ口したんじゃな。あいつらばっかしええ目におうて、なんでうちはいつも貧乏くじ引かんならんのじゃ。許せん…」

とうなった。そのまま彼女はしばらくのあいだ立ち尽くしていた。

 

麻生分隊士はこの件を松岡分隊長に報告しようと彼女を探していた、私室を持たない松岡分隊長を探すのは容易ではなく、しかも深夜のため難航した。(仕方がない、も少しまとう)と思い麻生分隊士は自分の部屋に戻るとなんとそこにはマツコトメキチニャマトを従えて、分隊士のとっておきの菓子を食らって大笑いしている松岡がいた。

「分隊長!ひとの部屋で何しとってんですか!」

麻生分隊士が思わず声を荒らげるとマツコたちは慌てて部屋の隅に固まってしまった。が、松岡中尉は平気でまた一ツ、菓子を口に放り込みながら

「ごめんねえ麻生さん。ちょっと疲れちゃったからここで一休みと思ったらあなたの部屋だったなんて。ああなんという奇遇。――それよか、小泉さんに話はしたの?」

と言った。麻生分隊士は怒りを抑えて

「しました…ですが分隊長。小泉反省しとりませんなあれは。なんというかこう、挑むような目えをしてこちらを見てきました。厄介なことになりました…これから注意してみてゆきますがあまりなことがあれば…」

とそこまで言うと言葉を切った。松岡中尉は菓子を口に運ぶ手をとめると

「航海長、副長に申しあげて…それなりの処分を考えないといけない、だね」

と言って麻生分隊士を見つめた。はい、と分隊士は悲しげに小さく言うとうつむいた。数瞬の後分隊士は顔を上げて

「こうなったんも私のせいです。私が部下の掌握ができてなかったからこげえなことになりました。もし小泉を処分の時が来たら、私も処分の対象にしてつかあさい」

と決然と言った。松岡中尉は

「まあ待ちなさい。そんなに逸るな。――で、麻生さんから見て小泉兵曹はどの辺から妙な具合になりだしたと思う?」

と尋ねた。そう問われて麻生分隊士は記憶を手繰った。そして

「分隊長、ほうじゃ、小泉兵曹がちいと変じゃ思い始めたんは桜本兵曹に許婚という人ができて、副砲の高田兵曹にもええ人ができて、ついでに機銃の長妻兵曹に許婚ができたころからですわい」

と言った。

「へ?なんだねそれじゃ小泉兵曹は嫉妬心から勤務にまで支障をきたすようなことになったというのかね?それは熱くなりすぎだ、というより熱くなりかたを間違ってるねえ」

松岡中尉は頓狂な声を上げあきれた、と言った表情をした。そして麻生分隊士に

「ご苦労だけど麻生さん、これからちょっとしっかり彼女を見ていてほしい。こういうことが続くと人事考課にも影響がないとは言えない。いくら今大きな作戦も戦闘もないとはいえ、こうしたゆるみが大きなほどけになって海軍ばかりか帝国を危機に追いやらんとは言えないでしょう?私も見ているが一番近くにいる麻生さん、願います」

と普段とは違うまじめな口調で言って麻生分隊士はその場に不動の姿勢をとると「わかりました!麻生中尉小泉兵曹をしっかり監督いたします」と敬礼した。

すると松岡中尉の顔がほっとほころんで

「悪いねえ麻生さん。というわけで私はどこかに行きますからね。緊急の場合は手近の伝声管で呼んでくださいね。では君たちも行くよ?」

というとマツコたちを見返って部屋を出て行った。マツコたちは「なにかとりこんでるみたいね。小泉がどうのとか言ってたわね…確かにあいつ最近変よね」と言いながら「御邪魔しました」と言って松岡中尉の後を追って駆けて行った。

麻生分隊士は部屋のドアを閉めながら(難儀じゃなあ。いったい何がどうしてこげえなことになったんじゃろう?ええがいに収まればええが、なにやら嫌な予感がしてならん)と思った。航海科を包む雨雲が去り、きれいな青空を見る日はいつなのだろうと麻生分隊士はその日を心から待ち望む。

 

翌朝航海科の面々に、松岡分隊長から繁木航海長のご懐妊という大変喜ばしい慶事がまず伝えられた。これには

「えかったねえ航海長。副長に続いてお子さんがお出来になってはあえかった」

と喜び、航海士の樽美酒少尉が「では繁木航海長は内地にお帰りになられるのでしょうか…だとしたら後任の航海長がどなたかいらっしゃるのでしょうね?」と松岡分隊長に尋ねた。分隊長はうなずいて

「今日繁木航海長は艦を降りられ、水島の海軍診療所に入られる。その時艦長も一緒に艦隊司令部に赴かれ、今回のことを報告し後任を要請するそうだ。だから訓練中はもしかしたら航海長不在にならんとも限らんよ?まあそんなこともあるまいが…気を引き締めてゆこう。それからもうひとつ」

と今度は顔を引き締めて小泉兵曹の件を伝えた。

一同ざわめいたがすぐ静かになって、石場兵曹長が

「困ったものだ。皆気をさらに引き締めてゆこう。勝って兜の緒を締めよの例え通りゆかねば敵に付け込まれる。実戦と思うてやろうじゃないか」

と言って皆はい!と返事をし松岡分隊長は散開を命じ、皆はそれぞれの配置へと散ってゆく。

桜本兵曹は周囲を見回して「ほういやあ分隊士と小泉がおらんが…どこへ行ったんじゃろう」とつぶやいたのへ石川兵曹が

「小泉兵曹は分隊士のおそばに居るようです。なんでも一人にしたらいけん言うて分隊士預かりじゃそうです」

と教えて桜本兵曹は「分隊士も難儀じゃな。そこまでとは思わんかった」とため息をついた。

 

そんなころ、小泉兵曹は麻生分隊士とともに指揮所の後部にいた。

さえない顔いろの小泉兵曹に麻生分隊士は

「海兵団の同期やらその周辺におめでたごとが重なってうらやましいんはわかる。が、だからというて職務怠慢は許されんで?それに暴力。自重せんと貴様、本当に昇進にかかわるで。しっかりやれや、ええな!」

と言って小泉兵曹を見つめた。

小泉兵曹は昨晩よりは殺気の抜けた瞳で分隊士を見上げると「わかりました。ご心配をおかけしてしもうて済みません。心を入れ替えます」と言って頭を下げた。

 

さらにそれから一時間ほどのち。

顔色の悪い繁木航海長と、梨賀艦長が内火艇で上陸桟橋へと向かっていた。上陸場には診療所からの自動車が迎えに来ていて、繁木航海長はそれに乗って診療所に入院と相成った。診療所の村岡軍医大尉に梨賀艦長は

「艦隊司令部の帰りに寄ります。その時いろいろ詳しいお話をしたいと…。では繁木さん、後でね。村岡大尉よろしく願います」

と言って別れた。

繁木航海長は診療所に入院し病室のベッドに横たわり悪阻の体を休めることとなった。気分の悪さで生きた心地のしない航海長であったが産科の杉山少佐の

「なにも気にしないでゆっくり休んでくださいね。今は一番大事な時ですからね」

との言葉に安心して休むことができそうである。

 

艦隊司令部に行き事情を話した梨賀艦長に、艦隊司令は「ちょうどよかった。ここに着任したばかりの少佐が操舵の名手ですから彼女を後任が決まるまで『大和』に行かせましょう」と言って一人の少佐を呼び出した。

ややしてやってきた少佐は「初めまして、私に『大和』のような弩級艦を動かせますかどうか」とほほ笑みながら梨賀艦長に握手を求めてきた。

彼女は「私は佐奈田ヨウ少佐です。海兵は○○期です」と言って梨賀艦長は「よろしく願います。今回は突然なことで申し訳ないです」と言ってその手を握った。

 

その上空、真っ青な空が広がっているーー

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹への処遇、どうなりますやら。分隊長分隊士は気をもまねばなりませんね。

繁木航海長は入院し後任が来るまで佐奈田少佐がピンチヒッターのようです。訓練上手くゆくといいですが。

次回をお楽しみに。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんにちは

こういう人が居たら職場、困りますね(-_-;)。なんて言うか皆の輪をかき乱すような。
どうしてそうなのかなあ~って首をひねってしまうような人、確かにいました。

小泉兵曹が心配ですね。

どうなることか。

こういう人職場にもいます。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
小泉兵曹どうしたんだか…(;´Д`)、こんなことで大事な訓練を無事に済ませられるのでしょうか。心配です。
でも彼女も立場ある人間、何とか立ち直らないといけませんね!頑張れ小泉。
キラキラ輝く女性たちであってほしいものです。

台風崩れが通るようで、どうも気管支の具合やらなんやらが変でして困りものです。オスカーさんもどうぞ御身大切になさってくださいませね♡

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
小泉さん自分のことは見えないようです(-_-;)。こんな部下を持った麻生さんが気の毒になりますが、さてこの後どうなりますか。そして佐奈田少佐はどんな操舵を見せてくれるのかも気になるところです。

私も船の操縦経験はないんですが『大和』型は舵が利くまで少々時間がかかるのが特徴だと、それを飲み込めば比較的動かしやすい艦だと聞いています。
さて佐奈田少佐、お手並み拝見^^。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
まさに『カイニン』だらけの大和となりました。
まさにかいにんブーム。
そして航海長の中継ぎの佐奈田少佐は腕が良いのか悪いのか気になりますね。

この世界は女が第一線で動くのです。
いつかまた帰ってくるというのが大前提の世界です!実際の世界では…難しいですよね。どんなにデキル人でも出産とか育児がネックになって第一線に帰れないのが悲しいです。

こんにちは。
小泉さん、もう自分でも制御出来ないくらい感情が凝り固まってしまっていますね。押してもダメなら引いてみな、的な感じでいろんなパターンを試してよい方向にいってほしいです~どんな立場の人もみんなイキイキ!女性が輝く世界(どこかで聞いたような…笑)であってほしいです。
天気が安定しませんね。どうぞお身体に気をつけて下さい!

冷静に状況分析すれば身から出た錆なのですが、たぶん小泉さんは気がつかないですね。
麻生さんもこの方のお守りはかなり骨がれる事でしょう。まだまだ波乱がおきそうですが、佐奈田さんのピンチヒッターぶりも期待されます。

船の操縦をおいらはしたことがないのでわからないのですが、急旋回は出来ないことは何となくわかります。まして大和クラスの大型艦はなおさらでしょう。

茂木航海長が懐妊したと思ったら、小泉さんが班長を解任されちゃいましたかー。
小泉さんも懐妊したがってたような感じがしますが、班長を解任されちゃうとは思いませんでしたねー。
こうして見るとたしかにプチかいにんブームだなーと思いました。
後任の佐奈田少佐もどのような人物なのか気になりますね。

女だらけの世界観は要職の人間が懐妊しても職場から追い出されないのがいいですね。
日本社会も女だらけの社会になってほしいと思います。

おっちゃんさんへ

おっちゃんさんこんばんは
なんだかんだと忙しく姦しい艦内ですが、小泉兵曹は分隊士にたしなめられ何とか落ち着いては居ますがさて…(-_-;)。
ピンチヒッターの佐奈田少佐、『大和』は癖のある艦だからうまく操艦しないと!
次回どうなりますかお楽しみにーー!

こんばんは

ここまで、おめでた、姑問題といろいろとありましたね。
小泉兵曹もどんどん暴走するかと思いましたが分隊士に叱責されて少し気持ちが落ち着いたようですがどうなることやら・・・。
佐奈田少佐も操舵の名手みたいだから艦のクセをつかめば問題なさそうですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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