2017-10

ニャマトよどこに 1 〈行方不明〉 - 2016.09.09 Fri

常夏のトレーラー環礁、そこに停泊中の『大和』に不穏な影がーー

 

ある日午前の課業を終えた内務科の岩井中尉は艦のマスコットのハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチ、そしてニャマトを探して歩いていた。

灼熱の日差しはじける最上甲板に目を細めつつあがった岩井中尉は「いくらなんでもここにはおらんなあ」と独り言ちて下へ降りて行った。

十三分隊の居住区近くに来たとき、向こうからハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチがきょろきょろしながら来るのを見つけ

「ハシビロさんにトメキチ、ニャマト!水木兵曹が探しとってよ?何でも新しい服を作っとって仮縫いをしたいんじゃと」

と声をかけた。マツコとトメキチが岩井中尉に向かって走り寄ってきた。そのトメキチの背中の袋を見た岩井中尉は

「ニャマト、ニャマトがおらんが!」

と叫んでいた。するとマツコが大きなくちばしをガタガタさせて

「そうなのよ岩井さん…今朝アタシたちが目を覚ました時、もうニャマトはいなかったのよ」

といいトメキチも

「昨日の晩僕とニャマトは一緒の毛布で寝ていたのに、今朝になったらニャマトがいないの。今までこんなことなかったのに…ニャマト、朝ごはんも食べてないからきっとお腹すかせて泣いてるわ」

というと泣き始めた。マツコもつられて泣き始める。岩井中尉は

「ほうじゃ確かに昨夜は居ったわ。ほいであんたがたはいつものように松岡中尉と一緒に上甲板の艦首寄りの廊下で寝よったんじゃろ?――松岡中尉はなんぞ言うとらんかったかね?」

とマツコトメキチに尋ねた。胸が高鳴り何やら気分が悪くなってきつつある。マツコは

「マツオカとアタシたち今朝『総員起こし五分前』に目が覚めたのよ。でもその時もうニャマトはいなかったのよー!」

というなり大泣きし始めた。岩井中尉は困ってしまって「ほいで、松岡中尉は今どこに居ってん?」と尋ねた。トメキチが鼻をすすりながら

「マツオカサン、『私の大事なニャマトー。どこへ行った、誰かに誘拐されたかそれとも家出か?私が草の根分けても探しますよ』って言って、艦内を走り回ってます」

と答えた。岩井中尉は

「うーん…家出も誘拐も、よう考えたらちいとありえん話じゃが、そんとなをまじめに言うんがいかにも松岡中尉じゃねえ。しかし…ニャマトの足ならそう速いことないけえ、どこかで誰かが捕まえてもええはずじゃがねえ」

と言って腕組をして考え込んだ。

もしも艦内の誰かがかわいがろうとして連れて行ったとしても必ず誰かの目に留まるし、稼業の始まる前には昼戦艦橋に返しに来るはずである。今までもいくらもそういう事例があった。

だが今回は今までと違うにおいがする…岩井中尉はそう直感していた。そうこうするうちに、機関科の松本少尉が廊下を走ってやってきて「ああ、岩井中尉!」と声を上げた。岩井中尉が片手を上げて「松本少尉、どうしたんじゃ?」と尋ねると松本少尉は岩井中尉の前に立って敬礼した後

「松岡中尉から『ニャマトが消えた、誘拐か家出かわからんが探してほしい』言われまして。―-中尉もお探しですか?」

と言った、岩井中尉はうなずいて

「ちいと妙な具合になっとるようじゃわ…艦内のみんなに知らせんといけんな。ほうじゃハシビロさん、ひとっ走り佐藤副長の所へ行って話をしてきてくれんかね?」

といい、マツコとトメキチは「合点!」というなり走り出していた。

その後姿を見ながら岩井少尉は

「なあ、松本少尉。妙な話もあるもんじゃな、ハシビロとトメキチ、その上松岡中尉が一緒に寝とってほいでも居らんようになった。その…もしかして妙なもんでも艦内に入り込んでるんと違うじゃろうか」

と至極真面目な顔で言った。松本少尉は、中尉の顔を見つめたまま「まさか…。いったい何が入りこんどると思われますか」というと中尉は

「あれじゃ。南方妖怪の類じゃ。妖怪が入り込んで、ニャマトをさらっていったんと違うじゃろうか」

という。松本少尉もうーんと腕を組んで考え込み

「全くないとは言えませんのう。いや、十分あり得ます。ほうじゃ、水木兵曹に聞いてみたらええ思いますが」

と言って岩井中尉は「ほうじゃ、うちは肝心の人をすっかり忘れとってじゃ。彼女に聞いたらすぐわかるわ、松本さん、行こう」と松本少尉の肩をたたいて走り出した。

 

工作科作業室でマツコたちの仮縫いを待っていた水木兵曹は飛び込んできた岩井中尉と松本少尉にびっくりしながらも話を聞いて驚いた。

「まさか、ニャマトがおらんようになってしまうとは」

そういってしばし絶句する水木兵曹。その兵曹に岩井中尉は

「ほいでなあ、水木さん。艦内にまたあの、南方妖怪の類の気配がせんかどうか、うちらは聞きに来たんじゃが」

と急き込んで尋ねた。松本少尉まで必死の表情で水木兵曹を見つめている。やや怖くなった水木兵曹ではあったが気を取り直し

「南方妖怪がおるかとのお尋ねですが」

と言ってオホンと咳払いをした。うんうん?と二人の士官は先を急がせるようにうなずいた。水木兵曹は二人の士官の顔を等分に見つめると

「結果から申しますと、居りませんな」

と言ってうなずいてみせた。フハッ、と二人の士官は息を吐いてその場にへたり込む。しかしすぐに岩井中尉が顔をあげ立ち上がり水木兵曹の両肩に手を置くと

「ほかに何かの気配を感じたりせんかね?妖怪でなければ幽霊でもええ、要するにニャマトをさらってどうにかするようなもんじゃが」

とさらに尋ねた。水木兵曹は

「そ、そがいなものは感じませんが…。それにしてもどこへ行ったんじゃろう?ニャマト」

と最後のほうは独り言みたいに言った。そして三人は沈黙してしまったーー

 

そんなことを三人がしているその時、艦長室では梨賀艦長が「ない、ない、ない…」とうろうろしていた。その少し前に佐藤副長が来て

「艦長、ニャマトが行方不明だと内務科の岩井分隊士から報告がありました。今から艦内を見回ってきたいと思います」

といい、艦長は「なんと、ニャマトが?それは困った、では佐藤副長。よろしく願います」と言って副長を送り出したばかりだったのだ。

艦長は呆然と部屋の中に突っ立って

「ない…どこに行ってしまったんだ。敷布に下帯。なんでそんなものが消えてしまうんだろう…」

と言って頭を抱える。

そう、梨賀艦長の部屋から予備の敷布一枚と下帯が無くなっていたのだ。だが、荒らされたという様子もないので今の今まで気が付かなかった。気が付いたのは艦長従兵を務める桜本兵曹が艦長室に来て、ベッドの敷布を取り換えようとしたとき気が付いたのだ。

桜本オトメチャンはベッドの横に置いてある引き出しタンスの中から替えの敷布を取り出そうとしてそれがないのに気が付いた。(どうしたんじゃろう?三日前に替えに来たときはここに三枚入っとったのを見たんじゃが?)

不審に思いつつ、きれいに洗濯した襦袢や肌着を別の引き出しに入れようとそこを開けたときオトメチャンはまた、気が付いた。

(下帯も一枚のうなっとる!)

艦長の引き出しにはいつも下帯が五枚入っているのだがそのうち一枚が、ない。

さすがに妙に感じたオトメチャンは部屋に帰ってきた艦長にその旨を伝えた。艦長はびっくりして

「いつもの通りにしてあるはずだが」

と慌ててそれぞれの引き出しを見たが、オトメチャンの言う通り一枚ずつ無くなっている。オトメチャンと艦長はしばらくのあいだ、引き出しの中を見つめていた。

「もしかして、また妖怪の類でしょうか…」

そう、オトメチャンが言ったのへ艦長はやや顔色を青ざめさせて

「ま、まさか。そんなこと」

と言ったが心の内では(絶対また南方妖怪だ、ああいやだなあ…。そうだ水木兵曹というのがこういうことに詳しいんだったな、後で呼んで話を聞こう)と思っている。

 

またそのころ佐藤副長は艦内を経めぐってニャマトの行方を捜している。行きあう将兵嬢たちに「ニャマトを見なかった?」「ニャマトを知らない?」と話しかけながら。

だんだん艦内の将兵嬢たちにも「ニャマトがいないらしい」ということが広まり、午睡の時間を削ってニャマトを探す将兵嬢たちである。

 

機銃の長妻兵曹は「ニャマトがおらんようになってんと。はあ難儀じゃなあ、あがいにこまいものを見つけるんはやねこいねえ」とぶつぶつ言いながら灼熱の最上甲板に出て受け持ちの機銃座のあたりを見回っていた。

「おらん…どこに居るんじゃニャマト」

そうつぶやいたとき、一番主砲のあたりで何かがふわりと動いたのに気が付いた。彼女の視界の隅っこで動いたのだが何か気になってそちらへ走った長妻兵曹。

彼女は一番主砲を見上げて、次の瞬間「ぎゃああああ!」と大声で叫んでいた――

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・

さあ大変!ニャマトが行方不明になりました。しかも関連があるかないかわかりませんが梨賀艦長の敷布と下帯も行方不明です。

そして長妻兵曹は何に驚いて絶叫したのでしょう?緊迫の次回をお楽しみに!

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんにちは
戦闘がなくて暇(と言ったら語弊がありますが)な時はこんなこともあったかも、いやあったらいいなと思いながら書きました。

主砲をねぐらに…砲身の中、大和クラスなら入れるかもしれませんね!入ってみたいが出られなくなりそうw。

No title

みんなを翻弄させてますね。

実際に戦闘がなければ
こういうこともあったでしょうね。

そうでないと、面白くない。
まさか主砲をねぐらに・・・・?

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
不安な展開…いったいニャマトはどこへ行ったのか、そして無事なのか。さらになぜに敷布と下帯まで無くなったのか??疑問だらけの今回です。さあ次回とんでもないことが起こるかもしれません、覚悟を決めてお待ちくださいませw。

「ふらんす堂」さんのブログ拝見しにまいりました!私の好きな系統ですのでさらに読ませていただこうと思います。ヤマトちゃんの足が可愛かったですね^^。

夕方から涼しくなりましたが…明日は雨でしょうか?腰が痛いので雨かも(-_-;)。オスカーさんにはどうぞ御身大切にお過ごしくださいませね♡

いなばさんへ

いなばさんこんばんは
なんだか怖げな話になりそうな予感…かわいい子猫をだれがさらったのでしょう、そして仔猫のニャマトは無事なのでしょうか??
不安が増して行く次回をお楽しみに!

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
そーなんです、ニャマトがどこかに行ってしまいました…
海に落ちたのかあるいは海鳥に食われてしまったのか?心配は尽きませんね…

次回衝撃があなたを襲う!?お楽しみに!!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
今回もまた何か騒動の予感です。敷布と下帯??一体だれが何のために?気になりますねえ、もしかしたら黒タイツのあやつかも??神出鬼没のあいつですからあるいは…(-_-;)。
一体何が起きるか、次回をどうぞお楽しみに^^。

おっちゃんさんへ

おっちゃんさんこんばんは
ニャマトは以前『大和』乗り組み士官嬢が呉の街で拾ってきた小さな猫です^^。
ハシビロのマツコ、小犬のトメキチとともに艦のマスコットです。

戦闘もないので本当に平和な艦内、その艦内で何が???次回をお楽しみに♡

こんばんは。迷子の迷子のこねこちゃん…でしょうか、まさか三味線の皮ということはないでしょうが、心配です!
フンドシの行方も気になります……間違って何かとんでもないことに使われていたら……!
『秋の声』というタイトルでふらんす堂さんという仙川にある出版社さんの編集日記(By YAMAOKA Kimiko)にヤマトという猫が出てきます。もう高齢なのですが……俳句や短歌の記事も興味深いのでよかったら読んでみて下さい。URL:http://mblog.excite.co.jp/user/fragie/entry/detail/?id=25844688&_s=774da3b9f836ce7755fafa783f6850e7

ほのぼの話から、なにやら…。 横溝サスペンス?!。

No title

ええっニャマトがどっか行っちゃったんですかッッ
まさか海に落ちたなんてことはないと思うのですが、
いったいどこで何をやってるんでしょうか。
ニャマトがひょっこり艦内から姿を見せることを祈ります。

長妻さんいったいなにを見つけたの?
艦長の敷布と下帯がかかわっているとはおもいます、そこでニャマト発見となればいいのですが。

妖怪が関わらないとすれば、お騒がせ黒タイツかも?あやつが艦長室に侵入できるとは思いたくないですがwww

こんばんは

ニャマトはニャンコの事でしょうかね?
平和な時代の艦内生活の雰囲気が伝わってきます。
続きが楽しみです。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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