2017-10

お直しいたします 2 解決編 - 2016.09.05 Mon

平野少尉の防暑服を手直ししたその翌日の晩の巡検後、工作科の水木兵曹は五名ほどの士官嬢に取り囲まれたーー

 

「な、なんでありましょうかいのう?」

と水木兵曹はびくつきながら尋ねた。下士官がこうして立派な士官嬢たちに囲まれるとやはり、正直緊張、それも極度の緊張を強いられる。水木兵曹はゴクリの喉を鳴らした。するとそれを合図のように士官嬢たちは

「水木兵曹、お願いがあるの!私たちの服も直してもらえないかしら?」

と言ってそれぞれ防暑服の上着を差し出したのだ。ええっ?と息をのむ水木兵曹に通信科の菊地中尉が

「聞いたわよ、機銃の平野ヒラ女エンガワ少尉。あなたに服をかっこよく直してもらったんですってね。見せてもらったけど本当にかっこいいじゃん、でも平野少尉にだけってずるくない?お願い、私たちのも直してもらいたいので、こうしてみんなで来たの。ね、お願い!」

と言って両手を合わせて見せた。ほかの少尉・中尉と言った士官嬢も「おねがい!」と手を合わせる。水木兵曹は驚きと恐怖をやっとこさ、収めるとはあっと一息ついた後

「お話はわかりました。…ですが、どうして平野少尉の服を直したとお分かりになったんで?」

というと、いつの間に来たのか平野少尉が皆の後ろに立っていて

「ごめんなさーい。水木兵曹、ホントは言うつもりじゃなかったんだけど」

と言って顛末を語り始めた…

 

平野少尉は水木兵曹に服を直してもらった晩、自室に戻るとうれしげに服を脱いでハンガーにかけ寝台にもぐりこんで眠った。同室の神田少尉はよく眠っていたから平野少尉の服が素晴らしく手直しされていることを知る由もなかった。

―のだが、翌朝起床して平野少尉が防暑服を身に着けると神田少尉は「…ん?」と言って平野少尉をじっと見つめたのだ。

そして平野少尉の前にたつとさらにじっとその体を見つめ、さすがに平野少尉は気味が悪くなって

「どうしたんだよ神田少尉、なにじっと見てるのさ、気味悪い」

と一歩足を引いた。すると神田少尉、平野少尉の肩をぐうっとつかむなり

「平野少尉、服…あなたのその防暑服、素敵になってない?昨日と違うんだけど」

と言ったのだ。(見抜かれてしまった)と平野少尉は思って、でもしかしシラを切ろうと「そんなことないよ昨日と同じだってば。何言ってんのよ神田少尉」と笑い飛ばそうとした。

が、神田少尉は平野少尉の服の直した部分を指先でなぞって

「そんなことなくない。すごいきれいな線…誰にしてもらったの?言って!」

と次の瞬間「言わんか、このエンガワ少尉~」と叫ぶなり平野少尉の靴下を脱がせその足の裏をくすぐりだしたのだ。これは平野少尉の弱点でこれをされるともう彼女は<アウト>なのだ。案の定平野少尉は「やめ、やめ~。やめてええ!言う言う言う~」とよだれと涙を流しながら叫び、あっさりと「工作科の水木兵曹に直してもらった」ことを告白してしまった。

――「いやあ、本当に悪いことをしてしまった。言うつもりはなかったんだよ本当に。だってそんなこと言ったら水木さん大ごとになるのはわかりきってたから。…でもダメだった、神田少尉私の弱点を突いてきたもんだから」

平野少尉はそういってがっくり肩を落とし、その横で神田少尉が「そういうわけだ。―-水木兵曹、悪く思わんでくれね。とても格好良くできていたものだからどうしても自分も、と思ってしまってね。どうか、願います」といいほかの士官嬢たちも「頼む!この通り」と手を合わせ、水木兵曹は笑いながら

「承知いたしました。では…順番に採寸いたしますからこちらに入ってくださいね」

と作業室に士官嬢たちをいざなったのだった。

それから彼女たちはワイワイにぎやかに採寸した後「では水木兵曹、願います!」と言って礼を交わし、それぞれの場所に散開して行ったのだった。

 

その晩から三日ののち。

工作科作業室に集った士官嬢たちは、

「はい皆様お待たせしました!お名前間違いの無いよう、よう確認してつかあさいね」

と水木兵曹から防暑服を手渡され、さっそくその場で袖を通すと

「おお!なんて素晴らしい出来なんだろう」

「見て!私のこのラインにぴったり」

「今までの色気のない防暑服がうそみたいね」

などと姦しく大喜びした。それを水木兵曹は嬉しそうにほほ笑みながら見ている。平野少尉がそばに来て「すまなかったね、水木兵曹。でもみんな大喜びだよ、ありがとう」

と言い水木兵曹は「こんなに喜んでもらえるなんて嬉しいですよ。少尉、今後も何かあったら遠慮のういうてつかあさいね」と言って二人は顔を見合わせてウフフっと笑いあった。

 

そこに、「水木兵曹、私の服も直してもらえるかな」とさらに数名の士官嬢たちが入ってきて…水木兵曹は大きな声で返事をした、

「お直しいたします!!」――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

 

水木兵曹お疲れ様の巻でした。士官の服は官給品ではなく自分で購入するものだったのでまだ薄給の少尉や中尉達には痛い出費だったようです。そして作り手によっても仕立てや染め具合が微妙に変わっていてそれぞれがまちまちの色合いだったとか。

その点で言えば下士官兵たちは衣服は官給品だったので楽と言えば楽だったかもしれませんね。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんにちは
士官は、被服はすべて自分持ちだったそうです。だから少尉に任官すると経済的にもやりくりが本当に大変だったらしいです(;´Д`)。
ちょっとした部分を素敵に治せる人が居たらこれはもう引っ張りだこだったでしょうねw。


もりんさんの小技!これはすごい技ですね、ちょっとネタに使わせていただくかもしれません!もりんさんをモデルにしてお話書いてもいいでしょうか??

No title

ええ、、そうなんですか。
自分で購入するものなのですか。
それなら大変ですよねえ。

そんな時に直してくれる人がいたら
大助かりですね。

こういう場所で、もし自分の得意なワザを
発揮できたらいいだろうなあ。、
わたしなんて何もないなあ。



洋裁ができる、歌がうまい、そういうことがあれば
ずいぶん助かりますよね。みんなに喜ばれる。

あ、あった!
わたし、もし乗組員だったらみんなに喜ばれる、ちょっとした小ワザをもっていました。

へへへ、わたし、マッサージが得意なんです 笑

関係ない話になってすいません。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
神官さんの装束は宮司様からの支給品なのですね。上の方からささげられる品は、神様から下されたものに等しいですね。

昨今使い捨てもここに極まれりというほどになりましたがやっぱり物を使いまわして大事にするっていいことだと思います。よく打ち捨てられた品物が妖怪になって人を脅かすというのを聞きますよね(-_-;)…昔の人はそういう話をもって物を大事に扱う心を養っていったのでしょうね。

台風に地震。いったい今年の日本はどうなってしまったのでしょう?なんだか不気味です。そして被災されたり亡くなった人たち、なんでそんな目に合わなきゃいけないのでしょう。大自然の不条理とでもいうべきものを垣間見た思いです。
にいさまお住いのところも今年は猛暑で大変でしたね、これから秋風たったときお疲れの出ませんように。
読み逃げ、お気になさらずに願います^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
平成生まれはなんだか日本人体系とは違う、と思いますね。昭和生まれの我々はまさに日本人体系、私もGパンなどを買うとき足の長さが合わなくて困ります。まさに半分ぶった切るクラスです。
お母さま裁縫の名手だったのですね、うらやましい。私は裁縫がだめだめなもので(-_-;)、本当にうらやましい。

水木兵曹、ホントに一家に一人ほしいですよね~(;´Д`)。

No title

神社の神官さんたちの装束なども宮司さんからの支給とかで、これもまた官給品の類かもしれませんね。恭しく頂戴する心と所作、神社だからこそ似合う場所柄なのかもしれないですね。
使い回す、リフォームって大切ですね。物を大切にするという原点かもしれません。しかし女性には変わりのない面々。嬉しそうな笑顔が浮かんできます。

台風やら地震やら、この夏は日本中が大変なことになってしまって言葉がありません。いつ収まることやらどころか、どうかこれ以上おかしな自然の営みにならないようにと祈るばかりです。
そんなしんどい日々ですがくれぐれも御身大切に過ごしてください。
いつも読み逃げばかりで申し訳ないです。

No title

おいらの場合、現代風の痩躯長身の真逆をゆく体型なので、スーツのズボン(現代風にはパンツ?)は、それこそ半ズボン出来るぐらいぶった切ることに。
直し代惜しさに、母に頼んでいたこともあったのですが、なにぶんこまごま忙しいため、なかなか仕上がらない。元々、洋裁、和裁、編み物等を教える学校の出身なので、出来映えには文句がないところなのですが、いかんせんタダで直してもらうので、いろいろと問題が。
一家に一人 水木さん、しかも仕事が早いし誰かクローンつくって?

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます
そうか刑務所の服も官給品ですよね!やはりサイズの問題が…(◎_◎;)、海軍でも体に合わないものを身につけざるを得ない場合があったそうで、「体を合わせろ」と無理なことを言われたと回想する方もいらっっしゃるようですよ。んなアホな、って言いたくもなりますがこれは陸軍さんもご同様だったみたいです。
私も実は裁縫が苦手で水木兵曹は私の願望ですw。着るものがちょっとでもカッコイイと仕事にも身が入るってもんですね^^。

昨日の熱かったこと…(;´Д`)。そして今日は朝から雨。ぐったりです。オスカーさんどうぞ御身大切にお過ごしくださいませね。

おっちゃんさんへ

おっちゃんさんおはようございます
水木さん無報酬でのご奉仕と相成っております。まあいただくとしてもほんの手間賃程度でしょうね、なにせこれが生業ではないので(;'∀')…
本人が好きでしていることなのでお金なんかどうでもいいのでしょうw。彼女にとっては手慣らしと言った感じなのかも!

こんばんは。官給品ときいて漫画の『刑務所の中」を思い出してしまいました! サイズのあわないヨレヨレのシャツとかパンツとか(笑) 家庭科も苦手だった私にはお直しの技術を持つ水木さんがうらやましいです。皆さま、キュッ!としたボディラインでグラビアデビュー出来ちゃうかも!
今日は本当に熱かったですね。お身体に気をつけて下さい。

鍵コメmさんへ

鍵コメmさんこんばんは
新しい道が開けそうですね!疲れること多いですがどうかお体には気を付けてくださいませね。今は辛抱の時だと思います。いずれ花咲く日が来ます。
その日までもうすこし!
『女だらけ』の海軍の皆が応援しています、「がんばれー」!
ご訪問をお待ちしております!!

こんばんは

まさか、水木兵曹はお金も取らずに防暑服を縫い直してあげたのですか?課業時間内でならまだ納得できますが、課業時間外で直していたのなら気の毒ですね。まあ、水木兵曹もそんなに嫌がっている感じがなかったので、良しとしときますか。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは
水木兵曹は器用者で、海軍を除隊してもやっていけるだけの腕を持っています!素敵なラインの服に補正するのは朝飯前のようです。
実際に士官は自費で服を調達したので、なかなか金銭のやりくりが大変だったようです。そういえば食事も自費で、だったと聞いていますよ。

今回の台風で、新しいスーツを汚されたり流された人もいらしたかもしれませんね。もう台風も自身もいらない~ッ!

安田さんへ

安田さんこんばんは
絶対、海軍の服のほうがかっこいい!と思いますよね~。実際海軍のほうがかっこいいから志願したという人もたくさん聞きます。
わが『女だらけの帝国海軍』もそのようでかっこいいもの素敵なものに魅かれるのです。水木兵曹は手際がいいから何とかこなせますがやはり大変な作業でしょうね(◎_◎;)。
この先…いったい何人の士官服を直すのかな水木さんw。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
河内山さん大当たりでございます^^~!
水木さんの仕事はきっととても丁寧なんだと思いますね。だからみんな殺到してしまうのだと。しかしあまり来られても困りますよね、人にはキャパシティってもんがありますから(;´Д`)。
手間賃、ほしくなりますよねw。

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No title

水木洋服店大繁盛ですね。手に職をお持ちだったんですね。
女性のファッションへの関心は当時から今も変わらないですね。
士官の服は官給品ではなく自分で購入するものだったんですか。
薄給の彼女達にとっては大変ですよね。

自分も就職したての若い頃にはスーツも買えませんでしたものね。

多分今回の台風の被災者は持っていたスーツも流されるか、
泥水に使って2度と着れなくなってしまったかもしれませんね。

No title

実際に見たことはない(当然)が資料で見る限り陸軍より海軍のほうが恰好良い。ましてや女だらけですから恰好は気になるんでしょうね。それにしても何人もの服を手直しするのは大変だ。ご苦労さまです。乗り組みの士官何人ぐらいいたのでしょう。全員ではないでしょうが一先ず収まって良かった。

No title

まさに前回のコメントで河内山さんがいってたような
展開になりましたねー。
水木さんお疲れさまでした。
これだけ依頼が殺到してしまうと、手間賃取っても
バチは当たらないんじゃないかと思います。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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