2017-10

SQUALL 愛の嵐 2 - 2016.08.24 Wed

高田兵曹と佐野は互いに小走りに駆け寄ったーー

 

「佐野さん、お久しぶりです。今日はありがとうございます」

と高田兵曹は言って敬礼した。第二種軍装も凛々しい高田の敬礼を嬉しそうに受けた佐野基樹は頭を深々と下げ、そして顔を上げると

「今日という日をずっと待っていました。会いたかった…高田さん」

と言って、敬礼の手を下ろした高田兵曹の両手をしっかり握った。手を握られて恥ずかしげにうつむいた高田兵曹をいとおしげに見つめた佐野に彼女は気を取り直して

「さあ佐野さん、こちらのお席にどうぞ」

と席にいざなった。ありがとう、こんないい席をと佐野は感激しながらまず、高田兵曹の椅子を引いて「どうぞ。欧米ではレディーファースト、というんだそうですよ」と言って微笑み、高田兵曹はどぎまぎしながら「ではお言葉に甘えまして」と言って座った。佐野が正面に座り、ウエイターがメニューを持ってきた。二人は腹が減っていたので幾品か注文した。

ウエイターが去ると佐野は

「前にグアムで出会った時よりずっときれいになりましたね。それに凛々しい…私はうれしいですよ高田さん」

と言ってほほを紅く染めた。高田兵曹は恥ずかしくてたまらない、それでも佐野を見つめて

「ありがとう佐野さん。私あれからずっと佐野さんのこと考えていました。で、きょうはきちんとお答えしたいと思いまして」

と言ってその頬が緊張を帯びた。佐野も緊張の表情を見せた。高田兵曹は一息大きく深呼吸するとまっすぐに佐野を見つめて、言った

「佐野さん。こんな私でもお嫁さんにしてくださいますか」

と――。

みるみるうちに佐野の瞳に涙があふれ、やがて頬を伝わって落ちた。佐野は

「ありがとう高田さん。わたしは歳ばかり食って至らないところばかりの男ですが、そんな男でもよかったらぜひ嫁に来てください」

と感激に身を震わしながら言った。

そのうち注文の料理が並び、二人は箸をとった。佐野が「まるで夫婦になったみたいですね…というかもう夫婦みたいなものかな」と言って高田は一層恥ずかしくなって下を向いてしまった。

が、はっと顔を上げると佐野を見つめて

「佐野さん。その…あの…、うちらの結婚なんですがその…うちらはええんですがその、佐野さんのご両親様はどが委に思うてらっしゃるんじゃろうとうちは心配なんですが」

と言った。これこそ高田兵曹の唯一の心配事であった。

すると佐野は笑いだして

「いやだなあ高田さん、私はもういい歳のおっさんですよ?自分のことは自分で決めます。それにね、私にはもう両親はいません。三年前に相次いで病気で亡くなりました。私の係累は兄だけです。その兄に話をしましたが喜んでくれましたよ」

と言った。兵曹は少し安心したような顔になったがやはりどこか不安そうである。佐野は箸をおくと

「高田さんの心配事はよくわかっています。でもそんなこと私はまったく気にしていません。兄にも話しましたが兄も気にしていませんよ。だから高田さんは何も気にしないで嫁に来て下さればいいんですよ」

としっかり言い切った。

「はい…」

と高田兵曹は言って泣き出した。うれしかった。自分が親と信じていた人たちの子供ではないと知ったあの時から彼女は自分を恥じていた。口には出さないし、友人などに対しては強い時分を見せてきたが内心では自分の生まれを恥じ、こんな自分が佐野の妻になってよいものかと呻吟してきた。やはり自分はアノ時の女衒の男に従って外地に行き、体を売って生きるべきだったのかもしれないとも考えた。

しかしその思いを払しょくしてくれた佐野の言葉に、今本当に前を向いて生きる力が彼女の中に湧き出てきたのだ。

「ありがとうございます佐野さん。私あなたに一生ついてゆきますけえ」

そういう高田兵曹に佐野は優しく微笑み「私はあなたを一生、離しませんからね。幸せにします」と誓った。

 

二人は<ニッポン>で十分腹ごしらえをした後、「うちがトレーラー水島をご案内します」と高田兵曹が言って、トレーラーは初めての佐野にあれこれレクチャーをした。

海軍将兵嬢たちの憩いの場の丘へも案内した。ゆっくり上り、頂上に着いたときの佐野の喜びように高田兵曹はうれしくなった。佐野は彼には珍しく有頂天になって

「ほらあれ、あれは『大和』でしょう?それからあっちにいるのは何だろう、巡洋艦ですか?そして向こうに見えるのは海軍工廠ですね、とすると『小泉商店トレーラー工場』はどっちになるんだったっけかな?」

とあちこち指さして高田兵曹に話しかける。

兵曹は微笑みながらその様子を見つめた。この人がこんなにはしゃぐのを私は初めて見た、そんな自分を見せてくれるなんて、うれしいことだと思った。

ならばうちも本当のうちを見せんならんね。

そう思って高田兵曹がふっと微笑んだとき。

「あ、向こうに雲が沸いてきましたね」

と佐野が指さしたほうを見れば、スコールでも来るのだろうか。雨雲がこちらへ向かって広がるのがわかった。

「こりゃいけんわい。ああ、せっかくこの後海に行こう思うたんにねえ―-佐野さん、こりゃスコールが来ますけえどこぞで雨宿りしましょう」

高田兵曹のやや緊張した声に佐野もうなずいて「ではどこがいいでしょうか…高田さん心当たりはありますか」と尋ねる。兵曹のあの家には遠すぎる、となると、

「この丘を下ったところに『大和農園』があります。そこに雨宿りできるようなところがある言うて聞いたことがありますけえ行きましょう。今はだれも農園には来とらんですけえ、邪魔されることはない思いますよ」

高田兵曹は最後にそう付け加えていたずらっぽく笑った。佐野も笑った。

そして二人は「急げー、最大戦速―っ」と叫びながら笑いながら丘を巻く道を駆け下りて行った。

 

農園まで行き着かぬうちに二人は雨に降りこめられた。途中行きかう海軍将兵嬢の中には『大和』の乗員もいたはずだが互いにそれどころではなく、繁華街の通りを歩く人々はみな、算を乱してなじみの店―喫茶店や食堂―に駆け込むのであった。

高田兵曹と佐野は大通りを抜けて、『大和農園』と書かれた門柱のあいだを走り抜け、農園内の休憩小屋に飛び込んだ時はもう、二人は全身ずぶ濡れ状態であった。

「いやはや、話には聞いてましたがすごいものですね、スコール」

佐野が感心したように言ってハンカチを取り出し高田兵曹の肩を拭いたがそのハンカチさえもうびっしょり。兵曹はありがとう佐野さん、と言って小屋の隅の扉を開けた。そこにはいくらかのタオルの類が入っている。それを二つ三つ取り出した兵曹はその一つで佐野の雨に濡れた首筋をそっと拭こうとした。

するといきなり、佐野が兵曹を抱きしめてきた。はっとして身を固くした兵曹の耳に、佐野が熱くささやいたーー

「私は…あなたがほしい」と。

高田兵曹は佐野の背中に両手を回し、彼の胸にその頬をつけた。

稲妻が一閃し、それを合図に周囲が一層暗くなった。雨粒が屋根に派手な音を立ててぶつかり、二人の息遣いさえ聞こえないほど。

佐野のかすかにふるえる右手が…兵曹の二種軍装のボタンをはずし始めたーー

  (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

楽しいデートが雨に邪魔されて…と思ったらなんとなんと。

さあ高田兵曹と佐野基樹さん、この後どうなる?胸の高鳴りを押さえられない次回をお楽しみに!

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは

お母さま、ご兄弟の世話をなさって大変な娘時代だったのですね。
そして運命の出会いをなさった男性と母親の反対を押し切って一緒になった…それがもりんさんのお父様となるお人。
なんだかドラマのシーンを見るように私の脳裏に映像として動き始めました。

人に歴史あり。
そんな言葉が浮かんできました^^。

No title

雨もいいものかもしれない。
そう思いました。

雨が、逆になにかのきっかけを
つくると考えると楽しいな。

関係ない話ですが、ふっと思い出しました。


母は次女でしたが長女が早く結婚したので
家の切り盛りをしていたそうです。
母の父は早くに亡くなり
ちょっぴりお嬢さん育ちの気位の高い母親は
あまり家事をしない。

そこで私の母は家のこと、弟妹の世話も全部していたそうです。

自分の幸せより家の世話ばかりしていた母に
少し年上の男性があらわれ、一緒になりました。
家のことを手伝わせたい母親(私の祖母)は
娘(私の母)の結婚に反対しました。

でも、母は、あるとき飛び出すように
その男性と結婚しました。
それが私の父と母。

なぜか関係ないのに思いだして書いてしまいました。

鍵コメさんへ

鍵コメ様こんばんは
いろいろと大変なことが多いですがどうかお体にはお気をつけてくださいませね。
きっとうまくゆくと信じております。
私は鍵コメ様の前向きな生き方を見習いたいなと思っております。
パワー全開で!
私も頑張ります^^。

いつもありがとうございます。またよろしくお願いします!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます
〉透けた肌着というのはー
やはりそうですか…となると今後の展開は!!ですねw。

なんせ≪愛の嵐≫ですから、なんだかあの山中夫妻に負けるとも劣らない何かがありそうな予感です。ドキドキぢながらお待ちくださいませ♡

「通り雨でも…」の河内山さんのつぶやきに奥様の「あほか」の一言…(;'∀')。女はいつも冷静です…。

透けた下着というのは、スイッチ入っちゃいますよw
ここでじっと我慢しいるのも漢、一気に突っ走るのも漢。

南国の島なので冷えた体を温める展開は、なかなか成立させづらい。
合意の上なら好きあった二人のこと、あとは成り行き任せ。
タイトルからすればかなり激しい展開が予想されるのですが、
さて進展やいかに?

夏服の時期に「通り雨でも降ったらなぁ」とつぶやくと、
女房から「アホか」と鼻で笑われましたよw

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
続きが気になって眠れなくなっちゃうかも!?

ぐっしょり濡れた二種軍装…それを一体佐野さんはどうするつもりなのでしょう。気になりますねえ~(-_-;)。
もうここまで来たら最後まで行くのがオトコ!かなw?
しかし高田さんの気持ちも大事にしてねと言っておきましょうね^^。

こんばんは。
どうなるのかドキドキする展開ですね。濡れた衣服は肌にベタっ!とはりつくので身体のラインもあらわになりますし……誰にもジャマされずに突っ走るのか?(笑) 続きが気になって困りますわ( ̄▽ ̄;)


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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