2017-09

SQUALL 愛の嵐 1 - 2016.08.22 Mon

トレーラー水島では『大和』防空指揮所の桜本兵曹が「スコール近し!」と双眼鏡を見つつ叫び、艦内に「スコール浴び方用意!」の号令がかけられた。一斉に在艦の将兵嬢たちが裸で飛び出してきて降り出した雨を全身に浴びる――

 

女だらけの『大和』ほかの艦艇で多くの将兵嬢たちが天然のシャワーを浴びているころ、一週間の休暇を貰って上陸していたのは高田佳子兵曹である。彼女はかつての「蝙蝠事件」で休養しそれが明けてから長い休暇を貰っていなかった。否、取らなかったのである。入湯上陸で一晩ほどの上陸を数回していたくらいである。それが今回上司の生方中尉に

「そろそろ休暇を取りなさい。もう気にしなくていいから」

と言われ休暇をとることにした。ちょうど、恋仲の佐野基樹から〈トレーラーに来ています。今度広島の『小泉商店』さんとわが『南洋新興』は合弁会社を立ち上げることになり、トレーラーの工場を拝見しにまいります。出来ましたらお会いしたいです〉という手紙をもらっていたのでちょうどよい機会でもあった。

佐野のことはもう、生方中尉に話してあったので中尉はわがことのように喜んでくれて

「そう!そりゃよかった。佐野さんはトレーラーは初めてなんでしょう?なら水島の名所を案内してあげたらいいよ」

と言ってくれた。最近生方中尉のご機(機嫌のこと)が良いのは、縁談がまとまりそうだからであるのを高田兵曹は知っていた。高田兵曹ははい、と言ってからそっと「生方中尉もおめでたごとがお近いようですね」とささやくと果たして生方中尉は顔を真っ赤に染めて

「ありゃー!いやだわあ~高田兵曹ったら!」

と言って高田兵曹の背中と言わず肩と言わずバンバンひっぱたいて喜びを現した。高田兵曹は「あたた…。えかったですねえ生方中尉、どうか幸せになってつかあさい」と痛がりながらも喜んだ。生方中尉は「お互いにね」と言ってウフフ、ウフフと気味の悪い笑いをしながら高田兵曹を見送ってくれたのだった。

 

上陸した高田兵曹はまず、以前に日本人家族から預かった民家に向かった。いつぞや野田(当時)兵曹はここで腹を壊し動けなくなって生方中尉と医務科の名淵大尉に救われたことがあった。その時は「ごみ屋敷」と言われるほど汚かったが友人たちの手を借りて何とかきれいにした。そして先月高田兵曹宛てにこの民家の持ち主から手紙が来て、もうトレーラーに戻ることがないので家は自由にしてほしい、売るもよしあなたが使うもよし、とあった。

高田兵曹は家が大きすぎるので近い将来ここを「俱楽部」として使ってもらおうと思っている。誰か現地の人をここに住まわせて寮母として働いてもらってもいい。いろいろと彼女は考えているようである。

その民家に高田兵曹は来て、玄関の鍵を開けた。久々なので家の中に空気を通すつもりである。

兵曹は海に面した側の大きな窓を思い切り開けた。抜けるような青空、涼しい海風が家の中を吹き渡った。

深呼吸して、一人ほほ笑む高田兵曹の脳裏に、佐野基樹の笑顔が浮かんだ。

(明日、逢える)

兵曹の心は弾んだ。佐野はもうトレーラにきてはいるが「小泉商店」の工場視察が忙しく、明日明後日の二日間が休みなので逢えると嬉しそうな文字で手紙に書いていた。

兵曹はその場に座ると懐から佐野の手紙を取り出し、便箋を見つめた。几帳面な佐野の文字、その文字がまるで弾むように書かれている。

(うれしいんですね…私もうれしい。佐野さん、あなたに逢えるんが)

高田兵曹は微笑むと、手紙を元の通りに懐に仕舞った。一人ほほ笑んでいると、家の横の道を通りかかった『大和』の機関科の兵曹嬢二人が

「あれ?高田さんかね!ここ高田さんちかね?」

と声をかけてきたので「ほうよ、あがりんさい」と言って二人を家に招じ入れたのだった。

機関科の兵曹嬢たちもいつかの休暇をもらったばかりであったが、「どこへ泊まろうか考えとってじゃ。いつもの宿はいっぱい言うて泊まれそうもないけえのう」というので高田兵曹は

「ほんならここに泊まってあちこち行ったらええ。ここはうちがもろうた家じゃけえ好きにつこうてええよ。うちは明日明後日、ちいと逢う人がおってなけえ、戻るんは遅うなるかも知らん。どこでもあいとる部屋、つこうてくれて構わんけえね」

と言って機関科兵曹嬢の一人―堤兵曹―は「ありゃ!ええ人と逢うんかね?」と言って高田兵曹は頬を染めてうなずいた。

もう一人、石丸兵曹は「ええねえー、ほんなら夜はじゃませんように静かに帰って来んといけんねー」と言って三人は笑った。

その晩は三人で楽しく語り合い、翌日の午前中高田兵曹が出かける前堤兵曹は「高田さんはどこの部屋を使うんかね?教えてといてくれんかね、もしもかちあったら気まずいけえね。高田さんの家なけえ、ええ部屋とってや」と笑って言ったので「ほうじゃね、ほんなら…」と高田兵曹は海側の二階の一室を「ほんならうちはここを使うわ」と決めた。

そのあと高田兵曹は、佐野との約束の場所へと歩き出した。

約束の場所は、まだトレーラーをよく知らない佐野でもわかるようにと、「水島大通り」のレストラン、<ニッポン>にした。高田兵曹は佐野より早く着いて待っている必要があるので急ぎ足になって<ニッポン>に急いだ。

 

<ニッポン>に着くとまだ佐野は来ていなく、高田兵曹は「あとから一人来ますけえ。出来たら静かに食事のできる場所を願います」と言ってウエイターは快く奥まった場所を案内してくれた。ほかからの視線を遮る大きな衝立があり、個室のような雰囲気を醸していて兵曹は気に入った。

高田兵曹は衝立のそばに立って、佐野の訪いを待った。

ほどなく、佐野がレストランのドアを開けて入ってきた。すぐに高田兵曹は

「佐野さん。こちらです!」

と声をかけ、佐野は「高田さん!」と嬉しそうな笑顔でこちらに大股に歩み寄ってきた。

「佐野さん…!」

高田兵曹の顔にも喜びがあふれたーー  

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

横須賀『武蔵』の後はトレーラー『大和』のお話です。高田兵曹のお相手・佐野基樹さんがトレーラーにやってきました。いろいろあった高田兵曹にいよいよ幸せが舞い降りてきます…次回をお楽しみに!
『南洋新興』は実在の<南洋興発>をモデルにしました。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
おお、『南洋興発』を調べてくださったんですね!総合商社というにはあまりにも壮大な会社だったんですよね~。
その『南洋興発』をモデルにした『南洋新興』ですw。
佐野さん、その会社のグアム支店長だから結構やり手です。

早速に「南洋興発」調べました。

わたし、知りませんでした。
興味しんしん。


なるほど、この背景がわかって
ストーリーがなおいっそうリアルです。
「海の満鉄」「北の満鉄 南の南興」といわれていたのですね。
佐野基樹さんのバックもわかり、面白い。

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
高田兵曹の恋、きっと!!

『大和』艦内だけでなく一般に艦艇内では特に下っ端の兵隊さんはほとんど風呂に入れませんでした。入れたとしても海水風呂でべたべただったそうです。上がり湯に真水いっぱい盛られるのでそれで海水を洗い流す。その時引き換えにコインのようなものを持って担当の兵曹などに渡すんですがコインを亡くしたりするともらえないのだそうです。
ゆえに「入湯上陸」は待ち遠しかったと聞いています。

ブログのテンプレ、これがやっぱり一番好きだわ~~というわけで直しましたw。

高田さんの恋も実るといいですね。
ところで大和の艦内ではシャワー浴びれないんじゃないんでしょうか。
その一点がどうしても気になってしまいました。
愛の嵐って原案は嵐が丘ですよね。両方ともラブストーリーだったように
思いますが、愛の嵐の方がよりドロドロな展開だったように思います。

ブログのスタイル、以前のスタイルに戻りましたね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
高田兵曹のような人なら海の俱楽部で話の分かる良い女主人になれるかもしれませんね、なんせここに来るまで壮絶な人生を送ってきたんですからね…
さて、愛しの佐野さんとの逢瀬はどうなりますか?おたのしみに!

私も南方の島に一軒家を持ちたいですね^^、ずっとそこに定住しちゃうかもしれませんw。

あの台風、ドえらい雨でした(-_-;)。しかしうちのあたりはまだいい方で、道路が冠水したところは目も当てられないですね(◎_◎;)。どうも昨今台風さえも常識はずれで困ったものです。亡くなった人もいて気の毒なことだと思っております。

暑さはまだまだ続きそうですか?どうぞくれぐれも御身大切になさってくださいませ!

海の倶楽部の女将もよいかもしれませんね。
いろいろとあった人だったので人の世の酸いも甘いも十分に噛みしめているはずです。
とは言いながらも好きな人に会える喜びと逸る気持ちは誰しも同じ。素敵な逢瀬になりますように。
しかし家一軒をもらえるなどうらやましい限りです。

ひどい雨だったと聞きました。大変でしたね。お見舞い申します。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
困った台風でしたね(-_-;)。そちらは避難とかありませんでしたか?愛の嵐ならいいのですが本物の嵐はもう結構です(◎_◎;)。
高田兵曹、俱楽部の女支配人ってかっこいいですね。この先の彼女にどうぞご期待ください。
スコール、と言っていいのかなあ。もう20何年も前にハワイに行ったとき突然雨が降り出し「これがSQUALLなのかなあ」と思いましたがその時期ハワイは雨季だったとかで厳密にいえばSQUALLではないかもしれませんね。
ああ本物のSQUALLを経験したい~~。

現実世界は見るに堪えません。ほんまに嘆かわしい世の中です。どうにかならんかいなと腹立たしいですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
待ち合わせ…あの人の姿…そんなシチュエーション、もう昔のことになりました。高田兵曹のこれから、どんなになりますかお楽しみに♡
「愛の嵐」てありましたね!確か私、会社の休憩室で見たような記憶がありますが・・・・違うかなあ?愛の嵐は歓迎ですが台風は嫌ですね(;´Д`)。オスカーさんのおうちのほうは停電しませんでしたか?この先も気を付けないといけませんね(-_-;)。
蒸し暑いですね、オスカーさんも御身大切になさってくださいませね。

本物の嵐は御免蒙るが、こちらは楽しみですな。

高田さん、除隊後は倶楽部の女支配人、悪くないかも?
何せいろいろな苦難を乗り越えてきた方です。これぐらい人生経験が豊富でなくては、つとまりませんものね。
実際スコールは体験したことがありません(パスポート持ってないもんw)
沖縄で体験した雨が何となく参考に出来る程度のものでして。

物語の中では最近お幸せな話が続いてますが、
現実世界ではろくな話がありませんね。
英霊たちでなくとも嘆かわしいとしかいいようがありません。

こんにちは。
待ち合わせ前のドキドキワクワクした感じ、待ち人の姿を見た時の喜び、う~ん、初々しくていいですね! とても幸せな気持ちになります。
メロドラマの『愛の嵐』が大好きだったワタクシ、この物語も絶対好きになります(笑)
昨日の台風はすごかったですね。まだまだ落ち着かない天気が続きそうですが、お身体に気をつけて下さいませ。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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