2017-09

横須賀の花嫁・仮谷航海長 3<ほほえみ> - 2016.08.14 Sun

出席の一同は女将の案内のもと、披露宴会場に着席したーー

 

そして。

新郎新婦が会場に入場、列席の一同は「おお…」と感嘆の声を上げる。新郎は第二種軍装で、そして新婦の航海長は打掛をかけ替えてきた。そのうち掛けは深い青、まるで今まで『武蔵』が公開してきた海を思わせる青い色に白い波がしらが刺繍されその上を軍艦が行く素晴らしい打掛である。

青い色が航海長に良く似合い、一同はため息を漏らした。

軍需部部長で、間もなく『武蔵』の加東副長との挙式を控えている瀬戸口大佐は「あの色を着こなせる女性はそうそういない。いるのは二人だけ、一人は仮谷航海長そしてもう一人は私の妻になる加東憲子中佐だ」と独り言ち、隣に着席している軍需部の部下はなんだか可笑しくってそっと笑った。

ともあれ、二人が一礼して着席すると旦那が

「本日は、鍛冶屋・仮谷ご両家様にはまことにおめでとうございます」

とあいさつしたうえで、新郎の上司・瀬戸口大佐を指名して乾杯の発声を頼んだ。瀬戸口大佐は「『武蔵』艦長を差し置いて恐縮です」と、はにかみながらもそれを受け、盃を上げると両家へ祝福の言葉を述べて、新夫婦を見つめてから

「おめでとう。お二人これから人生の長い航海に出かけます。いろんなことがありましょうが二人なら乗り切れます。どうか末永くお幸せに。乾杯」

といい一同「乾杯」と唱和し杯を干した。航海長はジュースを口にし、そして新郎をそっと見た。新郎の健吾も妻となった航海長を見て互いは微笑みあった。

「美しい二人だ」

『武蔵』の猪田艦長はそういって微笑み、盃を置くと拍手した。皆がそれに倣い会場は拍手でうずまる。それを合図のように仲居たちが料理を運び込み、宴席は一層にぎやかになるのだった。

 

宴の半ばごろ、陸軍の制服も凛々しい仮谷紀美野が金屏風の前の二人の前に行くとまず鍛冶屋昭吾中佐に自己紹介した後

「実子ちゃんはとても優しい子です。どうか鍛冶屋さん、実子ちゃんをよろしくお願いします、幸せにしてやってください…。そしてね鍛冶屋さん、この子をお嫁さんにしたあなたはうんと幸せになれますよ」

と言って鍛冶屋健吾中佐はきっちり紀美野に頭を下げると

「ありがとうございます。必ず幸せにして、幸せになります!」

と宣言し三人は笑いあった。紀美野は

「私は陸軍ですがどうぞ仲良くしてやってください。今まで外地にいることが多かったのですがこんど広島の師団に赴任になることになりました、内地勤務になりましたからお会いできる機会も多くなりましょう、どうぞよろしく!」

と言って鍛冶屋健吾中佐は

「そうでしたか!ではいつか妻と一緒に広島をお訪ねさせてください」

と言った。航海長は、夫となった人と従姉が親しく話をしているのを嬉しそうに見つめている、(ああ、二人とも気が合うようでよかった、仲良くしてくださるのが一番)。

その間にも両家の親戚が行きかったり、『武蔵』の猪田艦長・加東副長に徳利を持ってゆく親戚たちで宴はさらに盛り上がる。

上手に宴席を盛り上げる客もいて、新郎新婦ばかりでなく旅館の旦那や女将、そして仲居たちも愉快に笑い本当に和やかな披露の宴となった。

長かった宴も夕刻遅くにはお開きとなり、この晩旅館で初夜を過ごす新夫婦は玄関まで列席者をお見送り。猪田艦長は

「素晴らしい披露宴でしたよ、休暇を楽しんでくださいね」

といい加東副長も「お二人お似合いです。末永くお幸せに」と言って微笑み、瀬戸口大佐がそのそばに来て「鍛冶屋くん、実子さん。お幸せに、そしてこの休暇を思い切り楽しんでください」と言って加東副長に寄り添うように立って猪田艦長は気を利かせてそっと離れた。

二人の両親は「では私たちはこれで。仲良くね」というと四人連れだって仲良く駅へと向かって行った。この休暇中新夫婦は互いの里を訪ねあうことになっていて、初めて鍛冶屋家を訪ねる航海長は楽しみであり緊張もあり、である。

そんな緊張を悟ってか鍛冶屋健吾中佐は

「実子さんのお父様と私の父は友人どうしですから、そんな緊張しなくて平気ですよ」

と安心させたのだった。

招待客が帰ってしまい、航海長は女将に花嫁衣裳を解いてもらった。髪も解いて風呂に案内されそこで一日の疲れを流した。

 

風呂を使って航海長はほっとして湯殿を出た。女将が笑顔で待っていて「では今夜のお部屋にご案内しましょう」と言ってくれたのへ航海長は

「今日はありがとうございました、お忙しいのに媒酌人の代わりまで勤めてくださいましたこと、心よりお礼申し上げます」

と深く礼を言った。女将は「そんなこといいんですよ、私たちもこんなに素敵なご夫婦をお世話させてもらって幸せですもの」とほほ笑んだ。

 

初夜の部屋は、旅館の離れ。旦那と女将が「どうぞごゆっくりなさいませ。お腹がすいたらこちらをどうぞ」と大きな木箱に握り飯をいくつも入れてあるのを置いてくれた。

さてこの新夫婦。二人っきりになるとなんだか気恥ずかしくなってしまい、向き合って座っているのに顔だけはそっぽを向いてしまっている。

健吾中佐は(これではだめだ、漢の私が彼女をリードしないといけないのに)と焦る。一方の航海長も(だめね私、何かこう気の利いたことを言えなきゃ)と焦る。

二人はやっと顔を見合わせるとぎこちなく微笑み

「に、庭を見ましょうか」

と立ち上がり庭に面した廊下へと出た。しかしすっかり日も暮れ、庭に見えるものも無くなってしまい、何気に後ろを振り返ると背後の部屋には二組の寝具が延べてある。実子ははっとしてその場から元の部屋に戻ろうとした。それより早く健吾の片手が実子の片手をつかんでいた。健吾は実子の体をしっかり抱きしめると

「私のところに嫁いできてくれてありがとう。大事にします、そしてお互い幸せになりましょうね」

とその耳元にささやいた。はい、と実子が返事をした次の瞬間、健吾は彼女を布団の敷かれた部屋の中に押し込んでいたーー

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

楽しい披露宴も終わり、いよいよ二人の生活の始まりの晩です。

ぎこちない二人ですが…うまくゆくのでしょうか。次回〈仮谷航海長編〉の解決編へと続きます。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
続けてたくさんのお言葉をありがとうございます!!

「新婚」の身となった二人。まだ夫婦という呼び方が身につかない感じはあってもこれから徐々にそれらしくなってゆくことでしょう。

この時代、険しい部分があったにしても私も生きてみたかったです。どんな生活をしただろうかとか考えると楽しいですね。
もし…ここの女将だったら。
新婚の二人が心からくつろげる一晩を提供したいですね^^.

もりんさんがここの女将さんだったら…とってもたおやかな、笑顔の優しい和服の似合う女将さんですね!

めでたしめでたしの新婚さんとあいなりました。

幸せなストーリーっていいですね。

私もこの時代に生きていたらよかったのになあ。
私がここの女将だったら、どうしただろうと考えると楽しいな。
そうですね、やっぱり握り飯の準備かなあ。

一生懸命、女将業、する自分の姿が浮かぶ・・・

ponch さんへ

ponchさんこんにちは
この世界では女軍人はたいてい白無垢で、男性は紋付き袴か軍装です。紋付き袴が多いかな、山中さんとか繁木さんは袴でしたから。

さあ次回を括目してお待ちくださいませ^^。

No title

女だらけの世界では女は白無垢ですが、男は軍装なんですね。
何だか服装の話ばかりで申し訳ありませんが、実子さんと健吾がめでたく夫婦になってよかったです。

次回楽しみにしてまーすヽ(´▽`)/

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
戦場の勇ましさも布団を目にすると…ですねw。
そして最近は相手を想う、思いやる余裕がないというのはありますね。本当に悲しいですが…時世時節というものでしょうか、しかし…ねえ(-_-;)。

はい、次回はみんな大好きあの展開でございますぞ~~ww!どうなりますやらお楽しみに。

『大和』『武蔵』の幹部クラスのおめでたごと。そしてこの波はいよいよその下の階級に及びそうです。気がかりの小泉さんは、そう…。アブナイー!!

すっとこさんへ

すっとこさんこんにちは
こんなうち掛け実際にあったら???着てみたいかもw。
打掛を広げると、青い空と海、そして白波。その上を走る軍艦…。おお。すごい構図!

とと姉ちゃんの披露宴の様子、よかったですよね~♡涙出ちゃいましたよ。

>披露宴の様子が映画のように
うれしいですね!書いた甲斐があったというものです!!

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
また出ましたこの展開!オスカーさんもお好きでしょう~私も好きよ~というわけで次回をぜひぜひお楽しみに!

挙式や披露宴の形は変われど祝う気持ちや祝われれ嬉しい気持ちは変わらないでしょうね^^。
よろこびごとを素直に喜べる人間になりたい、私もそう思います!

No title

戦場では勇ましい女戦士も、ここでは・・・。
最近ではこういう女性が少なくなりましたね。
今のご時世仕方のなきこと?なのでしょうが、
相手を思いやる余裕がないというところが、
悲しい現実なのでしょう。

さて、次回はあの展開なのですね?
楽しみでござる。

大和は航海長から副長の流れでした。ということは
いよいよ加東さんにも縁談が?
そして、嫉妬に狂う?小泉さんはますますダークサイドに?

紺碧の海の青の打ち掛けとは!
白い涙を蹴立てて進む軍艦模様!!

これは一度見てみたい。
どんなにか鮮やかな着物でしょうのう!

ちょうど“とと姉ちゃん”でも昔ながら
の披露宴があって それを観たものだか
らでしょうか

この回の披露宴の様子が 映画のように
頭に浮かんで素敵でしたぞ!

こんにちは。
オホホ、次回が楽しみな展開ですね(≧∇≦)
今はこういう披露宴や新婚さんたちは少ないのかもしれませんが、幸せにしたいとかまわりの人たちに感謝とか…そういう気持ちは変わっていないと思いたいです。いつでも他の人たちの幸せを素直に祝える、喜べる人間でありたいです!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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