2017-10

サクラサク! 続きの話。 - 2016.07.24 Sun

大輪の桜の咲いた吉報は、南方トレーラー環礁の『大和』にももたらされたーー

 

ある日の午後、医務科の兵曹が手紙の束を抱えてやってきた。畑軍医大尉がそれを見て「おお、今回もまたたくさんの内地からの便りだねえ。いいねえ故郷の便りって。封を開けたりはがきを見ると懐かしい家のにおいがしてくるじゃないか、ねえ~」と言ってほほ笑み、兵曹も「はい。うちの場合は母の漬物のにおいがします」と言って笑った。畑軍医大尉はいいねえいいねえ、と言いながら入室(入院と同義)中の患者のための点滴を用意する。

そして兵曹は日野原軍医長を薬品棚の前に見つけると「軍医長、お手紙です」と言って一通の分厚い封筒を手渡した。

「おおありがとう。さてさて今回はだれから」だろう、と言いかけた軍医長の声がはたと止まった。兵曹は不思議そうな顔で軍医長を見た、軍医長は我に返って「実家からだよ。何かあったのかな」とやや不安げな表情になったがその場で封を切った。

便箋を開いて読んでいた軍医長の顔が晴れ晴れとしたものになり、そばで心配げに見守っていた兵曹に

「覚えてるかなあなた、ここトレーラーから内地に行った女の子、桐乃のこと」

と言った、兵曹はすぐ「覚えております。確か、あのあと軍医長のご養女になられたとうかがいましたが」と答えると軍医長はさらにうれしそうにうなずいて

「そう、あの桐乃がね」

と言ったところで急に声が止まり涙が流れだし、兵曹はびっくりして「なにがあったのですか、軍医長!」と切羽詰まったような声を出し、それを聞きつけて医務室にいた畑軍医大尉他数名が寄ってきた。

畑大尉が、「どうなさいました軍医長」と言ってその背中にそっと手を当てた。ほかの衛生兵嬢たちも心配そうに見つめている。

やっと軍医長は涙をふき、「いやいやごめんね」というと一息大きく呼吸すると微笑み

「桐乃が、桐乃がね。帝都医大に合格したんだよ」

と言って皆はわあっと歓声を上げた。畑大尉が

「帝都医大というと医大の中でも難関中の難関ではないですか。すばらしいですねえ桐乃さん、さすが軍医長が見いだされただけの逸材だ、きっとこの先素晴らしい医師になられるでしょう。わたしなんぞ足元にも及ばないような」

と言ってこれもうれしそうに笑った。

衛生兵嬢たちも「おめでとうございます軍医長!」「桐乃さん、一所けん命頑張るお人じゃったけえ本当にえかったですね」などと言って祝福した。

軍医長はそれに一つ一つうなずいて「ありがとう、ありがとう。今度内地に帰ったら桐乃に逢って伝えておくからね」と言った。

 

日野原軍医長は晴れやかな心で最上甲板に出た。常夏のトレーラーの日差しは暑いが今日の軍医長には心地よく感じる。

内地は桜が盛りなのだろう、その中で入学式を迎える桐乃の姿を軍医長は思い浮かべた。艦上を、海を渡ってきた涼風が通り過ぎ軍医長の白衣の裾を翻した。軍医長の胸には、初めて桐乃に出会った日からこちらが鮮明に思い出されていた。(彼女が今あるのは、診療所の横井さんあってのものだ。横井さんの人を見る目は素晴らしい、そうだ彼女にも教えてあげねば)

そう思う軍医長に背後から声がかかった、振り向けばそこには山中副長がハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチ、そしてニャマトを従えて立っていた。

「軍医長。お話伺いましたよ。桐乃さん良かったですね、おめでとうございます。私も彼女は気になっていたのでほっとしました」

と副長は言って軍医長の右横に並んで海を見つめた。軍医長の左横にはマツコたちが並び、

「聞いた?軍医長さんの娘さんイダイとかいう大変なところに入ったんですってよ」

「イダイ…それはきっと偉大な人が入れるところね。だとしたら僕たちは無理ねえ」

「ギャマト…」

と話している。軍医長が笑いながら

「イダイというのはね、医者になるための学校だよ。桐乃は医者になるんだよ」

と言ってマツコの通称・アホ毛を指先でそっと撫でた。

「御医者様…!」

マツコたちはさらに驚いて互いに顔を見合わせた。そして「やっぱり軍医長さんの娘さんだもん、頭がいいはずよね」とうなずきあう。

山中副長は

「最初逢った時、この子が内地に置くのかと思うと心配でしたが杞憂でしたね。軍医長のご家族様の愛情あってこそです。きっと彼女いい医師になりますよ」

と言って、膝のあたりをさすった。

日野原軍医長はありがとう、と言ってから

「副長最近膝をさすりますね?痛いのですか」

と尋ねると副長は

「いいえ、痛いのではないんです。内地を出るちょっと前、体調が良くなくなってからこの辺りが寒いというのか…ぞくりとするときがあるのです」

と答え、軍医長は何か思い当たったような顔になったが「そうでしたか、血行が良くないのかもしれませんね。よくそのあたりをさすっておいてください。悪いものではないと思いますから。そのうち一度診せていただくようになるかもしれませんよ」と何か含みのある言い方をした。

副長はそれに気が付かないで「ありがとうございます。その時はよろしく願います」というと「あ、主計科に行く時間ですので失礼します」というと去ろうとした、その副長に軍医長は

「副長。いつぞや桐乃にハンカチをいただきましたよね」

と言って副長は少し考えて「あ、あの時の汕頭のですか」と言った、軍医長は深くうなずいて

「桐乃は大変喜んでいました、あんな綺麗なハンカチを持ったことがないと。あの子たちのハンカチは古いタオルを四角に切ったものでしたから。副長ありがとうございました」

と言って敬礼し、副長も

「喜んでいただけて良かったです。そうだ今度は合格祝い・入学祝をお送りしたいですね。何が良いか考えましょう」

と言って礼をして歩き去っていった。

軍医長はマツコたちにそっと「副長。もしかしたらもしかするかもしれないよ」というとフフフと笑いながら艦首のほうへと歩いて行った。

マツコがその金色の瞳を青い空に向けて考え込んでいたが「…そうか、そうなのね。あんたたちもしかしたら桐乃さんに続いておめでたごとがあるかもよ」とトメキチニャマトに言い、トメキチニャマトは

「ねえなんのこと?マツコサン教えて」「ニャマト、ニャマート」

とマツコにまとわりついた。

しかしマツコは笑いながら「今は教えない」というだけ。

 

そんな動物たちの小さな騒ぎを後ろに聞きながら日野原軍医長は遠い内地の桐乃に心をはせていた。

(桐乃、しっかり勉強してよい医師になりなさい。あなたなら絶対できる。そしていつか、…昭吾と一緒に聖蘆花病院をもっと大きく世界の病院にしてほしい。そうすることがもしかしたら桐乃、あなたに与えられた使命かもしれない。そして病気に悩むこのトレーラーの人々にも大きな恩恵となる日が来るだろう。その時まで頑張れ桐乃)

軍医長は吹き付けてきた海風にその思いを託すかのように大きく背伸びをすると深呼吸をした。

海風は軍医長をやさしく取り巻き、そして吹き去っていった――

 

             ・・・・・・・・・・・・・

前回のお話の続きでした。時系列が少しずれていますので山中副長の登場に驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。この話は副長のおめでた発覚少し前のことです。

日野原軍医長の気がかりだった桐乃の受験もうまくいって、肩の荷が下りた軍医長でした。

 

「祝典行進曲」今上陛下のご成婚の際に作曲された行進曲です。作曲・團伊久磨氏。

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんおはようございます
シーボルトの娘というと楠本イネさんですね!産科医として名をはせた方ですね、イネさんのようになれるか桐乃。がんばれ桐乃!

さて今日は都知事選挙。早速行ってまいりました、だれがなるのかその時までドキドキものですw。
今日も暑そうですね(;´Д`)、御身大切にお過ごしくださいませ。

桐乃さん、頑張って欲しいなあ。

全く、筋道は違いますが
シーベルトの娘を思い出しました。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
そうなんです今回のお話はちょっと時系列をずらしてみました。ですので山中副長が出てきて「あれ?」と思われたことでしょう。

桐乃、いつかきっと昭吾と…♡
まだまだ先の長い話ではありますがどうぞお楽しみに^^。

ああ、『やさしさに包まれたなら』!いい歌ですよね、それを張り付ければよかったかなw。

時系列でいうと桐乃さんが医大に合格したのは、次ちゃんの懐妊が発覚する前だったんですね。
そうゆう意味では二重におめでたい慶事だったのだなと思いました。
これで桐乃さんと昭吾が結婚して、子供ができれば桐乃さんも二重におめでたになりますね。

何故かユーミンの歌の優しさに包まれたならというフレーズが頭に浮かんでしまいました(^q^)

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
桐乃が昭吾の妻になったとしてもこの一家には嫁姑問題はないでしょうね^^、軍医長はねちねちしてないし桐乃は非の打ち所がないし。理想ですね^^。

トレーラーに凱旋。
あるかもしれませんよ。かなり先にはなりますが、きっと…。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
桐始結花。きれいですね、七十二候の一なんですね。
桐。日本のいろんなところにさりげなくあるそのささやかさが好きです。

二三年前に千葉モノレールに乗ったとき車体に書かれていたかわいい絵は「俺妹」だったのだな、と今わかりました!(遅いわいw)
そのアニメには千葉モノレールが出てくるんですか、しかも桐乃ちゃんが出てくるとなると一度診なきゃいけないかもw。

どうか桐乃を応援してやってくださいませ^^。

内地からの吉報が軍医長に。
この一家には、嫁姑問題なんてなさそうですね。将来的にはトレーラーに凱旋なんてことも?

こんばんは。
昨日コメントを書いた後、スーパーのチラシを見たら『桐始結花・きりはじめてはなをむすぶ』とありました。七十二候のひとつですね。ちょうど桐乃ちゃんの話だったし、言葉もピッタリではないかと思いました。また会津には『桐の博物館』(http://kirihaku.com/)があるそうです。知らなかった!
千葉モノレールが出てくるアニメに(原作はラノベ)『俺の妹がこんなに可愛いはずがない』(わけがない、だったかな?)略して『俺妹(おれいも)』の妹が桐乃ちゃんでしたわ(笑)
子どもの成長を見守るように桐乃ちゃんをこれからも応援しますね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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