2017-10

彼女への不審 - 2016.07.05 Tue

常夏の島、トレーラー環礁で今日も訓練に励む「女だらけの大和」であったーー

 

その日、一日の課業を終え巡検の後「煙草盆出せ」の号令一下、当直などのない兵たちはそのまま眠るものもいたし、煙草を吸うものや私用を足すものなどは寝床からはい出してきた。

今夜も夜空には細かい宝石を散らしたような星々がきらめく、その星空の下の露天甲板に来たのは桜本兵曹、長妻兵曹、高田兵曹と言った許婚もちの三人である。

「よっ、お晩でがす」とまず高田兵曹がおどけた。それに軽く噴き出して桜本兵曹と長妻兵曹が「お晩でがす」と返した。ひとしきり笑ってから桜本兵曹は

「なあ高田さん、〈お晩でがす〉言うてどんとな意味ね?」

と尋ねた。長妻兵曹が「こんばんは、言うことじゃ。高田兵曹の分隊の士官に東北の出身者がおってなけえ、ほいで高田兵曹はまねたんじゃろ」と教えてやった。

「ほう、東北じゃそがいに言うんじゃね」

と桜本兵曹は感心した。その兵曹に高田兵曹は「まあええ、座れや」と自分の横を示し三人はその場に腰を下ろした。

「で、うちは貴様らにちいと話しておきたいことがあるんじゃが、」

と長妻兵曹は言った、「貴様たちもう自分の養母やなんかには結婚の話をしてあるんじゃろうな」。

「むろんじゃ」

と桜本と高田は言った。桜本兵曹は「うちは紅林さんに結婚してほしい言われたときにもう、家には手紙を書いて出したわい。ほしたら、家からはおめでとういうて返事が来たわ」といい、高田兵曹も「うちもおかあさんに手紙を書いたらおかあさんえらい喜んでなあ。幸せにならんといけんで、言うて返事が来たわい」と言った。

長妻兵曹は「ほんならえかった」と笑みを浮かべた。そして今度は表情を引き締め桜本兵曹に向かうと「オトメチャン、あんた許嫁の詳しい話を小泉にはしちゃおらんじゃろうね」

と言った。果たしてオトメチャンはうなずくと

「前に小泉兵曹のお父さんから手紙をもろうた。なんでも純子に紅林さんのことを話したり写真を見せたりせんように、言うてきなった。じゃけえ、悪い思うが小泉にはなあも話とらん」

と言った。長妻兵曹はうなずいて「それがええ、あいつには許婚のことは話さんほうがええよ」と言った。高田兵曹もうなずいて

「ほうじゃ、うちは小泉兵曹のことがちいと気にかかっとった。ほいでも小泉の親御さんも自分の娘はわかっとってなね。なら安心しとってええわ、調子に乗ってべらべら話さん限りはね」

と言った。桜本兵曹と高田兵曹は

「なんじゃ小泉のやつさんざんな言われようじゃねえ」

と笑ったが長妻兵曹はちっとも笑わないでそれどころか表情を硬く引き締めて

「笑いごとでないで、貴様ら。うちのことはあいつにもそれほどいうとらん。実はな、うちは小泉兵曹のことでえらい恐ろしい話を聞いた」

と言って桜本と高田兵曹は「恐ろしい話言うて…どんとな話ね」とこわごわ尋ねた。すると長妻兵曹はちょっとあたりを見廻して、「もっとこっち寄れ、でかい声でする話と違うけえの」と言って二人の兵曹の肩を抱き寄せるようにした。そして

「実は小泉のやつ…」

と衝撃的な話を始めたーー

 

ーうち、こないだ入湯上陸した時同期に遭うた。こいつが実は小泉兵曹と同じ女学校の同じクラスじゃったらしゅうてね、『小泉はどがいね?まじめにやっとるかのう?』いうから、まあ真面目じゃろいうたらその同期が『長妻、貴様男ができたら絶対小泉にはその人の名前言うたり写真見せたりしたらいけんで』、言うんじゃわ。なんでね?言うたら『小泉は人の恋路を邪魔するけえの』いうんよ。どういうことじゃろ思うてよう話を聞いたらなー

 

「ええっ!」

桜本兵曹と高田兵曹の二人は同時に声を上げていた。長妻兵曹が語ったのはー

 

小泉兵曹が女学校の時。

あいつは大店のお嬢さんでしかもそこそこの容貌でもあったため男子学生からそこそこ関心を持たれていた。が、結局そこまででそれ以上の関係になることがなかった。女学校の高学年ともなると、海軍兵学校を受験したりあるいは海兵団に入ったりまたは結婚のため退学していく人も珍しくはない。

そんな中小泉の一番の友人に結婚話があり学校をやめるという噂が流れた。小泉は自分より先に嫁に行く友人がうらやましい、いやそれ以上の妬みという感情が沸き上がり、ある時その友人の結婚相手の名前と顔を、友人の手帳を盗み見て知り、友人とその相手が会うという日まで手帳から知ってその日、先回りしてその相手の前に行き、あろうことか相手を誘惑した、それだけでも大ごとなのに小泉のやつ友人の悪口を吹き込んで、あわや、破談になりかけた。それを知った小泉の親が小泉を引きずって友人と相手の人に謝って事なきを得たんだが、それ以来小泉の父親はもうそんなことをさせないよう小泉に見合いをさせようとしたが自分は一人に縛られたくないとか何とか、自分勝手なことを言って断り続けているらしい…

 

「じゃけえ、あんたらも気ぃ付けんさいや」

と長妻兵曹は二人を等分に見て言った。桜本兵曹と高田兵曹は顔色を失っていたが

「ああ…ようわかりました」

と言って黙り込んだ。

ややして桜本兵曹が

「そうか、じゃけえ小泉のお父さんはうちと紅林さんを会わすとき小泉を同席させんかったんじゃな」

と言ってやっと合点がいったような顔になった。高田兵曹は

「小泉兵曹、そがいにいやな奴だったとは知らんかったよ。しかし何で大店のお嬢さんなのにそんとにがつがつしとってかねえ」

と言って困惑したような表情になった。桜本兵曹は

「うち、小泉と海兵団から一緒で居ったが、そんとなことちいとも感じなかったが。しかし、まあなんていうたらええのかなあ、小泉はうらやましいんじゃろうけど自分がそうなれんから意地悪しとうなるんじゃな、はあ困ったもんじゃ。ほしたらうちも気ぃつけんといけん言うことかな」

とぶつぶつ言った。

高田兵曹がはっとしたように顔を上げて桜本を見ると

「オトメチャン、あんた許嫁の人からもろうた手紙をきちんとしとってか?あいつならこっそり見かねんぞ。早う言って確認せえ、―仲間を疑うんは嫌じゃが、今の話を聞いたら穏やかではおられん」

といい、二人は長妻兵曹に「ほいじゃあ、またな」というと慌てふためいて居住区に走り出していった。長妻兵曹はその後姿を見送りながら

「なーんかいやな気ぃがしてならん。あいつらに何かあるんじゃないかとそんな気がしてならん」

とつぶやいていた。

 

そんなころ、居住区では石川兵曹が、小泉兵曹の奇妙な行動を見て「小泉兵曹、そこは桜本兵曹のチェストです、なにをしとられます!」といさめた。小泉兵曹は桜本兵曹のチェストの中のものを一つ一つ出してみていたが、石川兵曹に声をかけられびくっと体を震わせ手にしたものをチェストの中に投げ込んで

「い、いやあ、まちごうたあ~、ここはうちのチェストじゃなかったわい。いや~悪い悪い」

というとそそくさと逃げるように行ってしまった。

石川兵曹は(なんか、変じゃ。これは班長に言うたほうがええな)と思い、桜本兵曹が居住区に帰ったところをつかまえて

「班長、実はー」

と先ほどの話をした。それを聞いた桜本兵曹の顔が緊張を帯び、慌ててチェストに駆け寄ると中のものを確認し始めた。

そして手ぬぐいに包んだものを開いてみて、ほっとしたように息をついた。それは紅林次郎からの手紙の束で、(えかった、これに触った形跡はない)。

オトメチャンは用心には用心を重ねんと、手ぬぐい包みをさらに巾着袋の奥に押し込んだ。

そして

(いやな話を聞いてしもうた、あがいな話を聞かなければうちは小泉を疑わんで居れたのに。しかし、なんで小泉はうちのチェストの中を見たんじゃろう?)

と暗い思いに包まれていた。

 

居住区から逃げ出した小泉兵曹は一人露天甲板で、星を移しこんで光る海のおもてを

(一人だけええ思いはさせんで。貴様はそんとなええ思いをしてええ人間と違う)

と思いつつ食い入るように見つめているのだった。

海兵団同期の間に、不協和音が響き始めているーー

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

まさかの情報が長妻兵曹から…!

高田兵曹は別分隊ですが桜本兵曹は小泉とは同じ分隊、しかも海兵団の同期の桜。

しかも小泉は不審な行動を見られてしまいました。この先彼女たちに何かがあるのかないのか?心配しながら見守っていてください!

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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
なんだか妙なことになってきました…(-_-;)。
こういう人現実にいるから厄介ですよね、扱いに困ります。
小泉さんの場合、何か満たされないものがあるようです。それを人に当たるのは良くないですねえ(-_-;)。

さあ今後どうなりますか、ご期待ください!!

いろいろ難しいですね。

現実に小泉さんのような人、います。
お嬢様でもちょっと心にグレーな部分が
あるのですね。
とってもリアルです。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは
オトメチャンと小泉兵曹…海兵団からの親友だと思っていた方も多いでしょう、事実そうだったはずですがどうもオトメチャンにいい話が出てからちょっと違うほうへ行っている感じがしますね。
人のものを勝手に見るなんて小泉さんそれは反則でしょう、と言ってやりたくなりますが…(-_-;)。

会社のチェスト、貴重品はさすがに入れられませんでしたね。ロッカー室は地下だったので、ちょくちょく見にもいけませんでしたし勢い自分のデスクのカギのかかる引き出しに入れていました。

私の会社でも盗難はありませんでしたが、同僚を疑うって本当に嫌で悲しいですよね。

小泉兵曹とは昔から無二の親友だと思ってましたが、こういうこともあるんですね。
桜本兵曹のチェストを無断で開いて見るとは、友情にヒビが入りそうですね。

昔会社勤めの頃、個人個人にロッカーが与えられてましたが、それぞれ鍵をかけておくようにと、指導されてました。
お金は当然、大事なものを入れておくような人はいませんでしたが、社員同士だからといって安心はできないんですよね。
幸い盗難などの事件はありませんでしたが、気の通った同僚でも疑ってかからなければならないなんて淋しいですよね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
続けてコメントいただきながらお返事遅くなりましたことお詫びいたします。

小泉兵曹は悪者ではないんですがなんだか特にこのところひがみ根性が出てきたようですね(;´Д`)。大店の娘で何不自由なかったのに、どこか愛に餓えているところがあります。
こういう人間が実際にいるととても厄介迷惑ですね、接触しないのが一番ではありますがこの物語の中では…さあどうあんりますか(◎_◎;)。

このところの東京の暑さには辟易です、その前はたいへん涼しくて急に暑くなっていささか体調が変です。情けないんですがこんなことで先の暑さに勝てるか?不安です。
海軍のボタンの無駄のないこと素晴らしいですね、こういう清廉さが人にも求められるような気がします。

小泉さんは心底からの悪人ではないはず。ただちょっとだけ世の中をひがみ、人をうらやむ心根が強い御仁かと。しかし厄介な人であると言えば厄介この上ない人ですね。
この人によく似たアホな人間を身近で見たことがあります。障らぬ神に祟りなしと心得て疎遠を決めていますが、はてさてこの大和の世界ではそうはいかないでしょうね。

今日の東京はとても暑かったとか。大丈夫でしたか。吸う息もまるで熱波を丸呑みにするみたいだったのではないでしょうか。夏は序の口です。くれぐれもご自愛ください。
金ボタンの輝きと海軍マークの写真。目にも鮮やかで気持ちよいです。無駄の無さこそ美の最高傑作かと思います。僕も無駄の無い生き方をせねば(笑)

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
小泉さんは人の幸せが妬ましい…そんな感じになっているようです。こういうタイプはやはりいますよね、そう、なんだかんだと『病名』をつけられてしまうような。今のように何でも≪病気≫にする風潮もどうかと思いますが(-_-;)。
このままだと単なる厄介者になってしまう小泉、いいようになればいいのですが…

「群青に沈め」を読もうと思います。伏龍のお話でしたね。特攻とはいえ、ほかの特攻とは確実に一線を画す伏龍。ほとんど実戦にはほとんど投入されないで終わったようですが事故が多く、それが本当に気の毒です。

めちゃくちゃ暑かったですね(;´Д`)、もう今からへとへとです…まだまだ続くうえに水不足と来たもんだで辟易です。オスカーさんもどうぞ御身大切にお過ごしくださいませね^^。

こんばんは。
ああ……なんか難しい展開になってきましたね。小泉さんタイプの人って今も昔もいますね。今だったらなんかへんな横文字でナントカ症候群とかナントカコンプレックスみたいな名称をつけられる気がしますが……。
彼女も大人になるにつれて何かよい変化は起こっていないのかしら? 病んデレキャラになってしまわないことを祈ります。

今日『群青に沈め』を読み終わりました。訓練中で亡くなった仲間、戦争は終わったのに全く予期しない出来事で亡くなってしまった仲間……全てが真実ではないとわかっていますが、描かれている心情はそのまま当時の彼らの気持ちではないかと思いました。すでに体験済みの仲間に詳しく女体の神秘を聞くシーンとか微笑ましくまた切なかったです。
今日は本当にアツい1日になりました! お身体に気をつけて下さいね。

ponch さんへ

ponchさんおはようございます
小泉さん、それほど仕事ができる…というほうでもないんですw。でもダメというわけでもないですという難しい立ち位置。彼女の主成分は「男好き」ですからやはり許婚を持つオトメチャンと張り合いたい気があるかもしれません。
私も恋愛なんてそれほど興味なかったし、TVの芸能人の「誰と誰がくっついた、離れた」みたいのは興味ないですが好きな人はほんと好きですよね(◎_◎;)。
エロ、確かのそっちのほうが奥は深いし、好きですよw。

昇進度合いのほうが気になるな、私も。

見たとこ小泉さんはオトメチャンよりも仕事ができそうな感じですが、仕事ができるなら色恋沙汰で人の足引っ張ることないのにね、と思いました。

恋愛にまったく興味関心のない自分には、周りが誰それとくっついてもどうでもいいやという感じですが、気になる人には気になるんですかね。
エロには結構興味あるんですけどね。
見張り員さんの描く濡れ場は結構好きです。

自分が小泉さんの立場なら誰それと誰それがくっつくかより、誰それが自分より早く昇進したかが気になります。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
いい意味でのライバル心ならいいんですがどうも小泉の場合、しっととか反発心のほうが勝っているような感じですね。小泉兵曹はもともとは大店のお嬢様なんだからもう少しおっとりしていていいはずなのに。
鷹揚に構えていればいいものを。と思いますが彼女には彼女の何か思いもあるのでしょうね。
確かに海兵団からずっと一緒のオトメチャンが先に嫁ぐかも、となると穏やかじゃないのかもしれませんね。
さあこの後どうなってくでしょうか、ご期待を!!

同期ゆえの

ライバル心とかいうのはどうしてもありますね。
オトメちゃんとは比べものにならないところのお嬢様で、
幼少期はそれなりにいい生活をしていて、家族への反発から海軍に入らなければ、
それなりの相手と家庭を持っていたとも考えられます。
一番問題なのは、小泉さん自身が自らの欠点と向き合ってないことなのですが。
周りがどんどん自分から離れていく感じがするのはさびしいものがあるし、
その辺の気持ちもわからなくはないのですが。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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