2017-10

魅せられて二兎を追う 4 - 2016.05.30 Mon

桜本兵曹不在の晩、また騒動が起きたーー

 

その晩の防空指揮所の当直は左舷石川兵曹、右舷亀井上水であったが時間になっても亀井上水が現れないのに石川兵曹が腹を立てた。彼女は第一艦橋につながる伝声管に

「亀井上水当直時間を過ぎても来ませんッ!」

と怒鳴ったのだ。ちょうどその時第一艦橋にいたのは繁木航海長でその尋常ならざる大声に航海長はびっくりして指揮所に上がってきた。そして怒り心頭で足踏み鳴らして怒る石川兵曹の話を聞いた繁木航海長は

「航海科亀井上水を探せ」

と怒鳴り、やがて亀井上水が麻生分隊士に引き立てられて第一艦橋に引きずられてきた。松岡分隊長もついてきている。麻生分隊士は床に投げ出すようにして亀井上水を航海長の前に出した。その後ろには石川兵曹がいて大変怒っている。

繁木航海長は亀井上水に

「亀井上水、なぜ当直時間を厳守しない?」

と厳しい声で詰問した。亀井上水は当惑したような表情で

「今は作戦中でも無いけえ、そんとに厳密にせんでもええ。そういわれました」

と言った。松岡中尉の目がきらり光って「誰が?誰がそんなことを言いました?」ときつい語調で言った。手にしたラケットを持ち替えて、ぶん殴りそうな気配がする。さすがに亀井上水もびくっと身を引き締めると

「だ、誰が…誰が言うたか…その…あの」

としどろもどろになった。その様子を見ていた石川兵曹が亀井を見据えて

「貴様の班長じゃろう?小泉兵曹じゃろうが、うちは知っとるで」

と冷たい声音で言った。亀井の瞳がたじろいだように泳いで松岡中尉、麻生分隊士は「やはりそうか」と言った。繁木航海長も話を聞いていたので

「亀井上水、小泉兵曹がそういったのだな」

と腕を組み怖い顔で問うた。亀井上水は航海長に問い詰められて観念したか、

「はい。小泉兵曹、最近なんぞぼーとしてらして、当直時間にうちと一緒になってもあとからきんさることが多くなったんです。ほいでも班長がそがいなことでは思うてうちも一応班長に注意したんじゃが、班長『今は作戦もなきゃ敵も居らんけえそんとに必死にやらんでもええよ。きっと上の人たちもそうおもっとりんさるけえ亀井もちいと楽にしたらええ』言ったがです。じゃけえうち、班長がそげえに言うならええか思うて」

と言って最後のほうはうつむいた。

「あほか、いくらなんでもそんとな嘘を信じるなん、亀井貴様もおかしいで?」

麻生分隊士は怒りをあらわにした。松岡分隊長が

「小泉君はいけないねえ、それでもって亀井君を注意した石川兵曹を殴ったりして。石川兵曹あなたとんでもない目に遭いましたねえ…よし!航海長も麻生さんも小泉さんが明日帰艦したらどういうことかしっかり確かめましょうや」

と言って麻生分隊士は

「分隊長。桜本兵曹が小泉兵曹の妙なわけを探りに行っとります。彼女も明日には戻りますけえその話を聞いてからにしませんか?そのほうが対処しやすい思いますが」

と言って繁木航海長はうなずいた。そして「桜本兵曹の話を聞いたうえで小泉兵曹を詰問しなければね、そして必要とあれば副長にもお話申しあげねば」と言った。麻生分隊士の顔が緊張で引き締まった、副長に話が行けばもしかしたら自分が監督不行き届きで副長から何らかの処罰を与えられる可能性もあるからだ。

それを悟った松岡分隊長が

「大丈夫だよ麻生さん。あなたに累が及ばないように私も頑張るからね、心配しないで」

と言って分隊士は感激した。繁木航海長が

「すべては明日ということだね。―亀井上水、あなた今日今この時からその気持ち態度を改めないと退艦ということもあるからな。その辺しっかり考えるように、いいな」

と亀井上水に厳しく言い亀井はすっかりしなだれて「…はいわかりました」と言って一礼するとその場を出た。

 

翌朝早く、桜本兵曹と長妻兵曹は上陸桟橋で迎えのランチを待っていた。

他の艦の下士官兵たちも集まりだしていてにぎやかである。長妻兵曹が小さな声で

「小泉のやつ早う来んと間に合わんで…大丈夫かあいつ」

と心配したが桜本兵曹の「来た!」と小さな叫びに、「わかっとろう?昨夜のことは決して言うんじゃないで」と念を押し桜本兵曹は

「わかっとる。心配せんでええよ」

と言って、近づいてきた小泉兵曹に「ありゃ、小泉兵曹。ここで逢うとはねえ」と何気なく話しかけた。しかし、小泉兵曹の表情は決して柔らかくはない。

じろりと桜本兵曹を見てフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた。そして「話かけんない、このええかっこしいのおぼこ娘が」とつぶやいた。それを長妻兵曹は聞き逃さず

「なんじゃと貴様、まだこないだのこと根に持っとってか?ええ加減にせえや」

とうなった。桜本兵曹が周囲を慮って「長妻兵曹、ええですけえ」と言って押しとどめたが長妻兵曹は怖い顔で小泉をにらんで

「今は収めたるがな。あとでちいと顔貸せえや」

というとこれも「フン!」とそっぽを向いた。その二人の狭間で(はあ…もうこがいなんいやじゃわ)とため息つくオトメチャンである。

オトメチャンこそいい迷惑であった、まさか小泉兵曹のあんな痴態を見せられるとは思ってもいなかった。話には聞いていて、いくらおぼこちゃんと呼ばれる自分でもそれなりにそっちの知識もついていたと思っていたが…(甘かった)。

アッチの世界はとんでもなく奥が深いものだとオトメチャンは思い知って(これはほんまに棗大尉に教えを請わないけんかも知らんなあ)と思い始めている。

そんなオトメチャンの思いを載せて、やがてやってきたランチはまっすぐに『大和』へと青い海を走り出す――

 

帰艦したオトメチャンを待ち構えていたのは繁木航海長、松岡分隊長、麻生分隊士そして石川兵曹である。この四人はオトメチャンが帰艦してくるとすぐにその身を航海長の部屋に押し込んだ。

驚くオトメチャンに、三人の士官嬢と一人の下士官嬢は急き込んで小泉の怠惰で不機嫌の原因を尋ねた。そこでオトメチャンは昨晩の恥ずかしいことを語った。さすがに四人もほほを赤らめたが「それで、その行為のどこに原因があると思うんだね?」という繁木航海長の言葉に桜本兵曹はややうつむき加減でちょっとの間考えた後、口を開いたーー

 

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・

また騒動の起きていた『大和』艦内。亀井上水の言い訳は到底許されるものではないはずなのに、小泉兵曹はいったい何を考えていたのでしょう…次回明らかになるその理由とは!

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● COMMENT ●

ponchさんへ

ponchさんこんばんは

小泉兵曹なんだか悪びれることがないのが忌々しいw。
開き直りに見えますね、さてその真意は?これから彼女の本意が見えてくると思いますのでどうぞお楽しみに~♡
女だらけの悲しさか、どうもあれこれ多すぎますね(-_-;)。

オトメチャン、ふたまたかけてた小泉兵曹から決定的なひとこといわれちゃいましたねー(^-^;)
何だかやましいことは何にもしてないオトメチャンよりも、小泉兵曹の方が居丈高に見えますけど、開き直ってるんですかねー。
何だか大和艦内ではいざこざが絶えない気もしますが、今回はどーなっちゃうんですかねー(^-^;)

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
いろんな上司と部下の関係がありますが、小泉さんあなたこれはいけませんね~と松岡中尉みたいな口調になっちゃいました。
二人してダラダラしていたらいざというとき困るだろうが?とどつきたくなります。けじめが大事さ、小泉君!と言ってやってくださいませ。

オトメチャンはあの恥ずかしいのぞき見体験を話すのでしょうか、そして彼女は何を言うのでしょう。小泉のやつはどうなりますかご期待くださいませね^^。

子は親の鏡、部下は上司の鏡ですな。
部下に厳しく自分に甘いのも考え物ですが、同じようにだらけさせるのはいただけない。
かくいうおいらも、そんなに立派なモノじゃないがw
既婚者の繁木さんまでもが顔を赤らめる所業とはいかに?オトメちゃんの結論は?はたして小泉さんの運命は?数々の問題児を更生して来た大和もお手上げなのかw

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
棗大尉はだめですかwwww!確かに棗大尉は過激ですからね~、さらにオトメチャンの心の傷?を広げちゃうかもしれませんね。
オトメチャンが見たものは…おぞましいものでございますぞw。
次回をお楽しみに♡

sukunahikona さんへ

sukunahikonaさんこんばんは
まさに!!テンポレ迷走中でございます(;´Д`)…
たまに変えると気分も変わりますが私のようにしょっちゅう変えていると読んでくださる方が混乱しますね。

小泉兵曹、変態ですなw。
大店のお嬢さんでありながらどうしてこうなんだか(-_-;)…誰に似たんだろうか???

こんばんは。
オトメちゃん、棗さんに頼るのはダメ~! 自分で地道に経験をつんでほしいです(笑) しかし…一体何を見てしまったのでしょう……次回が楽しみでありコワイです((((;゜Д゜)))

今も昔も小泉さんは変態でしたのね
テンプレート、迷走中
おらももうそろそろ変えてみようかな


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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