帝都恋物語 2〈解決編〉

桐乃はその晩うれしくてなかなか眠れなかったーー

 

翌朝土曜日、桐乃は早くから目を覚ましていて窓の外を見つめていた。桜は今日も変わりなく咲いているようで上り初めたばかりの朝日に白く輝いている。

(今夜…ヨザクラを見に行く…昭吾さんと一緒に)

そう思うとなんだか胸がドキドキしてほほさえかっと熱くなる桐乃である。やがて午前六時を時計は指し、桐乃は台所へ立った。

 

その日、昼の休憩のために自宅へ帰ってきた昭雄と昭吾、そして千代。千代はにこにこしながら大きな風呂敷包みを桐乃に差し出し

「これ、桐乃ちゃん今夜夜桜見物に行くとき着てくれるかしら?私の昔の服で申し訳ないんだけど」

と言って風呂敷を開いた。桐乃がのぞき込むと広げられた風呂敷の中にきれいな深緑色のワンピース、そして黒い靴が出てきた。

「まあ!こんなに素敵なものを私に?」

桐乃はびっくりして千代を見つめた。千代は微笑んで「そうよ。ちょっと着てみてくれるかしら?体に合うといいんだけど」と言って桐乃は千代と自分の部屋に入っていった。

ややして昭雄と昭吾の前にワンピースを着た桐乃が出てきて昭吾たちは言葉を失ったように桐乃を見つめている。(なんてきれいな子なんだろう)と二人は思う。

千代が

「何か言ってあげて頂戴な、どう?よく似あってるでしょ?あつらえたみたいだわ、よかった。靴もちょうどいいみたいだし、よかったら着てやってくださいな」

と言って初めて男連中は「よく似合う、とっても良く似合うよ!」と言って嬉しそうに互いを見合った。桐乃は恥ずかしそうに微笑みながら千代に

「本当にいただいてよいのですか?」

と尋ね、千代は「いいのよ、気に入ってくれた?」と言って桐乃ははじけるような笑顔で「はい!ありがとうございます!」と大きな声で言った。

桐乃は嬉しそうに体を左右に大きく振って、ワンピースの裾を揺らしている…

 

そして午後三時で病院はその日の診察を終え、昭吾たちは自宅へ帰ってきた。千代は近所の自宅へと帰った。

昭雄は「今夜は少し冷えるかもしれないね、二人ともオーバーを持って行ったほうがいいかもしれない」と言って昭吾も桐乃も「はい、そうします」と言ってそれぞれ洋服ダンスからオーバーを取り出した。桐乃のオーバーはいつぞや日野原軍医長からいただいたもので桐乃は大事にしている。

(大事なものがだんだん増えて、うれしいこと!)

桐乃はそんな風に思いながら千代からもらったワンピースの上にネービーブルーのオーバーをあてて嬉しそうに一人ほほ笑む。

 

やがて春の日が西に傾くころ、昭吾と桐乃は連れ立って聖蘆花病院の裏玄関から出た。天気は良いまま陽が落ち、二人の心はいやおうなしに弾む。

昭雄が見送りに出て「ゆっくりしてらっしゃい、明日は日曜だ。二人で歩くのは初めてだろう?思い切り楽しんでくるといいよ」と言ってくれた。桐乃は昭雄に

「お夕飯は用意してありますから、おひとりで今夜はごめんなさい」

と言い昭雄はありがとう、僕のことは気にしないでと言って笑って送り出した。

 

昭吾と桐乃は隅田川目指して歩き始めた。桐乃は初めて見る風景に足取りも軽い。時折病院に通って来る顔なじみの患者と出会い、

「お二人でどちらへ?」

「夜桜を見に参ります」

などと会話を交わしながら歩く。

やがて桜並木の川べりにやってきた二人、昭吾が「家の窓から見えたのはここだよ。きれいでしょう…これが日本の桜だよ」と教えてやった。

桐乃は一本の桜の樹のもとによると、背丈ほどの高さに咲く一枝をじっと見つめた。長いこと、長いこと桐乃は桜の花を見つめていた。

やがて桐乃は昭吾を見返ると

「なんてきれいなんでしょう…私、こんなにきれいな花を見たことがありません」

と言って両手を胸の前で合わせた。昭吾が桐乃のそばに立つと

「でも、南方のトレーラにはきれいな花がたくさんあるんではないの?」

と尋ねたのへ桐乃は

「色は確かにきれいかもしれませんが、こんなに、なんていうのかしら…そう、繊細な花はないんです。私前に日本の桜の話を聞いて一度見てみたかった。それが今、叶って本当にうれしい」

と言って桜と昭吾を順に見つめてほほ笑んだ。

 

川岸を桜を見ながらぶらぶら歩く。

途中、甘酒を売る屋台があり昭吾が「飲んでみようよ」と誘って二人は熱い甘酒を飲んだ。桐乃は「おいしい!日本にはこんなにおいしいものがあるんですね」と喜んで屋台のおやじを喜ばせた。甘酒を気に入った様子の桐乃に屋台のおやじさんは

「うれしいねえ。奥さんは外国の人のようだがこの旨さを解ってくれるなんて俺は感激したよ、よかったらお二人さんもう一杯、ごちそうさせてくれないかい?ごちそうだからお代はいらねえよ」

と言って一杯ずつごちそうしてくれた。

桐乃は〈奥さん〉と言われたことが恥ずかしかったが昭吾が堂々としているのにちょっと驚きながらも屋台のおやじさんの心つくしの甘酒を味わいながら飲み干した。

そして

「どうもありがとうございました、ごちそうさま」

と厚く礼を言ってまた歩き出した。そのころには日はとっぷりと暮れて、それでも夜桜を楽しむ人たちが三々五々、そぞろ歩いている。少し冷えてきて、オーバーを持ってきてよかったと思う二人。オーバーを着こんでまた歩き出すと、冷たい風が吹き付けてきた。

「寒い」

と言った桐乃に昭吾が心配そうに「大丈夫?帰ろうか?」と尋ねたが桐乃はにっこりとほほ笑むと

「平気です。このオーバーがあるし、千代先生にいただいた服もあったかいです。もう少し歩いて桜を見ていたいです…いいですか?」

と言って昭吾を見上げた。昭吾に異存のあるはずがなく、「ではも少し」歩こうということになった。桐乃が歩いてきた道を振り返ると遠くに聖蘆花病院の姿がシルエットになって夜空に浮かび上がっている。あの大きな病院で私は働いているのだ、と思うと桐乃の胸には誇りと自信がみなぎってくるのを感じた。何か心嬉しく、桐乃は弾んだ足取りで歩く。

人通りが、絶えた。

そこにひときわ強く冷たい風がどうっと吹き付け、昭吾は思わず桐乃を抱きしめていた。

昭吾の胸に抱きしめられ、桐乃の胸がこれ以上ないほど高鳴った。吹き付ける風の中、昭吾は桐乃をしっかり抱きしめて

「桐乃ちゃん…私はあなたを初めて見たときから好きになってしまったんだ。だからこれからもずっと、ずっと好きでいたい…いいかな?」

とその耳元で囁いた。桐乃は言葉が見つからず、それでもそっとうなずくと昭吾は抱きしめる腕に力を込めて

「医学校の受験勉強は大変でも、桐乃ちゃんならできる。そして医師になったら、その時は」

といい、体を離して桐乃の瞳をじっと見つめた。桐乃も昭吾の瞳を見つめる。今度は冷たいが優しい風が吹いてきた。その風が桐乃のワンピースの裾を軽く翻す。桜の花びらが二人に降りかかった。

「その時…は?」

桐乃の唇が動くと昭吾は桐乃の両肩をしっかりつかみ言った、

「結婚してほしい」。

次の瞬間、昭吾は桐乃の唇を奪っていた。桐乃の全身を幸せが電撃のように走り抜けた。

 

帝都の夜はほのかな桜の香りとともに更けてゆくのであったーー

 

            ・・・・・・・・・・・

楽しい夜桜見物、そして唐突な求婚。しかし昭吾はもう前々から桐乃を好きになっていたのでいいタイミングだったかもしれません。そして桐乃も昭吾をひそかに愛していました。相思相愛、最高です。

この二人の今後をお楽しみに!

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ponchさんへ

ponchさんこんにちは
お返事遅れてごめんなさい!

桐乃と昭吾、恋が結実したようです!
夜桜って、昼間の桜と打って変わって別の表情を見せてくれますよね、恋する二人には最高の場所かもしれません。
花明かり、という言葉がありますが夜桜の下に行くと何かほんのり明るくていい気分になりますね^^。

No title

桐乃さんと昭吾さんの恋が実ってよかったですねー(*´∀`)
夜桜の木の下で愛を語らうふたりの、美しい光景がまぶたに浮かぶようです。
何故か昼間の桜よりも夜桜の方がキレイに見えるように思います。

鍵コメさんへ

鍵コメさんこんばんは
大変ですね、しかし絶対よい方向に向かいますよ!大丈夫、運がお強いとのことですから今回も大丈夫!
応援しておりますよ!!

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
「帝都恋物語」映画のよう、とおっしゃってくださってうれしいです^^。描きながら頭の中ではまさに映画のように登場人物が動いていました。
サクラは最高の演出者ですね。

もしこれを実写映画にするなら…配役をどうするかとか衣装は、とか、小道具は?いろいろ考えると本当に楽しいですね^^。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

こんにちは

帝都恋物語、第一話と解決編
流れとして映画のようです。

こういうシーンには桜が欠かせません。

俳優だったら誰がいいだろうか
桐乃さんの衣装は?

なあんて考えるとますます楽しくなります。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
美しいものが集まってできたようなこの桜吹雪の晩。
恋する二人にとって最高の場所、時間…♡
この先昭吾と桐乃は愛をはぐくみながら勤務に、勉学に励むことでしょう。どうぞこの先の二人をお楽しみに!

今日は昨日と打って変わって暑くなりましたね(;´Д`)、ちょっと堪えましたw。オスカーさんもどうぞ御身大切になさってくださいませね^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
思い切った行動に出ました昭吾さん!しかしそうでもしないと先に進めませんものね。初めて会った時から感じあうものがあり、しかもみんなに愛される桐乃。
あとはそう、医学校の入学試験がどうなるかでしょうね^^。きっとうまくゆくでしょう。

日野原桐乃ファンクラブ、また親衛隊はさぞがっかりするでしょうw。

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは
隅田川、桜並木。最高のシチュエーションでのデート、そして愛の告白。女性ならこの状況に一度は出会ってみたいかもですね^^。
日本の春は愛する者同士にとっても素敵な季節です。

今後のこの二人をお楽しみに^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
私の物語では桜がちょくちょく出てくるんですよねw。次ちゃんの婚礼の時のことを覚えていただいてうれしいです、あの時も春でしたね。
桐乃はもう、日本人と言ってもおかしくないほど日本に溶け込み日野原家に溶け込んでいます。人から奥さんと言われるほど落ち着いた挙措…女性として理想です。
昭吾に求婚されキスまで…♡さあ今後のこの二人、目が離せませんね、今後をお楽しみに^^。

こんにちは。
美しい景色に美しい人たち、美しい心……桜月夜、恋月夜ですね~ステキです! さすが見張り員さまです! そしてナゼか「愛染かつら」を歌いたくなるワタクシなのでした……あれは看護婦さんの話でしたね
今日は夏日になるとか、水分補給をしっかりとして下さいね。

No title

昭吾さんまずは第一歩を踏み出しましたね。相思相愛お似合いのカップル、しかも周囲は歓迎ムードということなので桐乃さんの試験の結果次第なのか?

でも、患者さんのなかの桐乃さんファンクラブ?からは大きな落胆の声が聞こえてきそうです。

No title

花あかりの花冷えの中で、愛を告白する昭吾。
隅田川の水辺に映る桜影も桐乃には最高の舞台となったでしょう。
日本の春の風情を取り込んだ心憎い演出ですね。

お二人の末永い幸せをお祈りします。

No title

見張り員さんの物語。特に晴れやかな場面に登場しているように思われる桜。ツギちゃんの素晴らしかった嫁入り道中の風景を思い出しました。
今回も春の午後から宵までの数刻の時間の美しさに桜がよくとけ込んでいますね。美しい桐乃さんの姿がなお一層映えているように感じました。
そして求婚とKiss。異国の地にありながらも周りの人に愛され、尚且つ人生の伴侶を得ようとしている桐乃さんの素晴らしい人生を楽しみに見届けたいと思っています。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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