未来の花嫁たち|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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未来の花嫁たち

2016.05.06(23:55) 1091

とある日、何人かの下士官嬢たちにそれぞれの大事な人から手紙が来たーー

 

〉長妻兵曹の場合

「おーい、長妻さん。手紙が来よったで」

長妻昭子兵曹は、機銃座で居眠りしていたが平野ヒラ女少尉の声にはっと我に返って顔を上げ「はいっ!」と大声を上げて少尉のもとへ走った。

機銃指揮官の平野少尉はその平べったい顔に笑みを浮かべて「はい、お手紙。内地からだ。…ウフウフウフ!いい人からかな~なんて思ってるよ私は。あとでお話聞かせてね~」と言いながら封筒を手渡すと気味の悪い笑い声を発しながら歩み去っていった。

「なんねありゃ?」

長妻兵曹は封筒を持ったまま、平野少尉の遠ざかる背中を見つめてつぶやいた。そして封筒の裏を見るなり「あっ!」と声を上げてさっき座っていた機銃座に戻って射手席に座ると封を切った。

手紙は長妻兵曹の許嫁の毛塚浩二海軍技術少尉からのもので

>あなたが南方に行つてからだうも寂しくていけません。女々しひやつだと思われるかもわかりませんがそれでもこれが私の偽らざる思ひです。次に内地に帰へってきた時こそ祝言をあげませうね…

とあり、長妻兵曹はうれしさ・恥ずかしさ、そして喜びのないまぜになった感情が沸き上がり手紙をしっかり胸に抱いた。

(毛塚少尉、私も寂しいです。ほいでも次にお会いするときは、待ちに待った祝言じゃと思えば寂しさも半分になります。どうかその日までお元気で、うちも一層頑張りますけえ)

そう心の中で許嫁に向かって話しかけた長妻兵曹である――

 

>高田兵曹の場合

「高田兵曹、おはがきです」とはがきを届けてくれたのは高田兵曹の班の一等水兵嬢・重野である。重野一水は人のよさそうな微笑みを浮かべてそれを差し出してきた。受け取って「ありがとう、おおきに。ほうじゃ、重野一水これを上げよう」と高田兵曹は防暑服のポケットからキャラメルのひと箱を取り出した。昨夜酒保で買ったばかりの新品を「上げよう」と差し出され重野一水は驚いて手を引っ込めてしまった。

高田兵曹は「ほら、手出さんか」と笑いながら引っ込めた重野の片手をとってその手のひらにキャラメルの箱をつかませた。何度も礼を言って重野一水が去ると

「さてと。いったい誰からじゃろう?お母さんからかのう?」

と独り言ちてはがきの表面をみた。

ハッ!と高田兵曹は息をのんだ。

差出人は佐野基樹―以前グアムで久しぶりに出会った、かつての見合い相手。その時はまだ互いに結婚の意思などなかったから傷つけあうようなやり方で話を壊してしまったが、グアムで再会した時彼のほうから「結婚を考えてください」と言われていたのだった。

高田兵曹ははがきの通信面に返すと彼の几帳面な文字を追った…

>お元気でせうか?私はすこぶる元気です。大事なことがあります、今月の末に私は仕事でトレーラー島の〈小泉商店〉の工場に行きます。その時逢へませんでせうか?いろいろとお話ししたひことがたくさんあります。そして何よりあなたのお顔を見たひのです。その時が近くなりましたらまたご連絡いたします…

高田兵曹の胸が高鳴った。

(こんなにうちを思うてくれとるなんて。うれしい…うちはやっぱし佐野さんと結婚したほうが幸せになれるいう気がしてきた)

高田兵曹の胸にくすぶっていた逡巡が、この一枚のはがきで突き崩されたようである――

 

>桜本兵曹の場合

「特年兵君、あなたにお手紙ですよ~。はい受け取ったんさい」

松岡分隊長がそういって、艦橋勤務終了直前の桜本トメ一等兵曹に数通の封書とはがきを手渡した。オトメチャンは双眼鏡から離れ

「ありがとうございます、分隊長」

と礼を言って受け取り、それらを軍袴のポケットに突っ込むと双眼鏡をつかんだ。それを見て松岡分隊長は

「えらいですねえ特年兵君は。きちんと自分の置かれた状況を解っていますよ。小泉君とは大違いです、あの人は勤務中でも手紙を開いてそれに没頭していますからねえ。てかあの人に来た手紙はいったい誰からでしょうね?あの顔つきだと男からじゃあないね、もしかしたら借金取りかも。熱くなっていますねえ。借金取りから逃げる算段をしてるんでしょうな小泉君は…」

とべらべらひとしきりしゃべくったあと、艦橋に入ってきたハッシー・デ・ラ・マツコにトメキチ、ニャマトを引き連れて出て行ってしまった。

それと入れ違いに石川二等兵曹が艦橋に入ってきて

「桜本兵曹、交代です」

と声をかけた。オトメチャンは彼女のほうに向くと

「異常なし。―防空()指揮所()の様子はどがいね?」

と尋ねた。石川兵曹はオトメチャンと場所を交代して「亀井上水、酒井水兵長が入りました。異常なしです」と言って、二人は礼を交わすとオトメチャンは居住区へ降りていく。

居住区に降りたオトメチャンは、部屋には入らずラッタルの下にあぐらをかいて座り込んだ。そして軍袴のポケットから手紙とはがきの束を引っ張り出した。

そのすべてを床に並べて差出人を確認したオトメチャンの頬が緩んだ。

すべてー紅林次郎からのものであった。

彼の手紙類にはすべて書いた日付が書かれているのでオトメチャンは古い順に並べ替えてそして最初のはがきを手に取った。

>お元気でお変わりなひでせうか?私はトテモ元気です。広島も暑くなつてきましたが暑さに負けてはをられません。あなたのことを思へばこのくらいの暑さなどなんでもありません

オトメチャンは思わずかすかな声を立てて笑った。紅林がどんな顔でこれを書いたのか、想像すると楽しい。

次の手紙の封を切った。

>桜本さん。あなたに無性にあひたい。会つて話をしたひ。笑いあひたい。手をつなぎたひ。あなたの不在中に見聞きした愉快な話をしたひ。そして、あなたのやはらかな体を抱きしめたひ…

その手紙を読んだオトメチャンの頬がぱっと赤くなり、そして思わず周囲を見た。誰かいて、この手紙を覗き見られたら(恥ずかしい)と思ったからである。

しかしのぞき込むような同僚もおらず、一人だけ工作科の同期の兵曹嬢が工具箱を抱えて通りかかり

「おう桜本オトメチャン!そんとなところにぺったり座っとるとケツが冷えるで?おなごは冷えたらいけんけえの!ハハハ」

と笑って過ぎて行っただけである。

さらにもう一通を手に取るオトメチャン。

その便箋には、緊張して書かれたものか今までのものより硬くなったような字体で

>はやく祝言を挙げたひと思ひます。先日私の両親が久々に広島に来ましてその時にあなたのことをお話いたしました。この私にもいい人ができたと言ふと両親ともに大変喜んでくれました。この次あなたが内地に御帰りになられたとき、私の両親に会つていただけますでせうか?結婚の話を進めたひと思ひますので、だうかよろしくお願ひします…

とあり、オトメチャンの心臓はドキドキと痛いくらい動悸を打った。

(紅林さんのご両親に…。いつか会わんならんと思うとったが、いざそういう話が出ると緊張するわあ)

思わず防暑服の胸のあたりを片手でつかんだ。

それでも、幸せな思いに胸をかき乱されるオトメチャンである。

 

近い未来の花嫁候補たち、大事な人からの手紙やはがきにときめいている。

 

そして昼戦艦橋では、花山掌航海長と麻生中尉が話をしている。

「麻生中尉。下士官たち、春が来とってですねえ」

「は?花山さん何を言うとってなね。春どころか内地はもう夏じゃわ」

麻生中尉がそういうと花山掌航海長は鼻息も荒く麻生中尉の前に立つと

「季節の春のことを言っとるわけではないです!私が言うとるんは〈人生の春〉のことじゃわ。結構何人もがええ人からの手紙やはがきをもろうて、脂下がっとる。ほうじゃ麻生さん、あんたのオトメチャンもほうじゃわ!聞いた話じゃ内地のええ人から十通、手紙をもろうてるいうじゃないね。…はあええなあ。うちもはようええ人から手紙をもらいたいわ」

と最初は威勢良かったが最後は空気の抜けた風船のようにしぼんでしまった。

麻生中尉は

「花山さんも海軍軍人ならそんとな女々しい思いは捨てんさいな。うちは一生結婚なんぞせんで?男に縛られる人生なんぞ性に合わんけえ。一生一人で居る!じゃけえ花山さんもそのくらいの気持ちで居りんさいよ」

と息巻いた。

すると花山掌航海長の顔が歪んで泣き出した、泣きながら

「いやじゃわうち。いくらなんでも麻生さんと同じ穴に入りとうないわ…。ほうじゃそんとなことを言う奴に限ってある日突然『うち結婚することになったけえね~』かなんか言うてあっさり裏切るんじゃ、そんとな旨い話にうちは乗らん、乗りとうないわあ」

といい…麻生中尉は

「そんとなことになるんじゃろうか?もしかしてうち結婚する時が来るんじゃろうか?はあ難儀じゃなあ、うちみとうなおなごをもろうてくれる男がおるんじゃろうか?」

と頭を抱えて考え込んでしまった。

そこに入ってきた佐藤副長、二人の特務士官が頭を抱えて悩んだり泣いたりするさまを見て

(ああ、特務士官と言われる人たちには深い悩みがあるんだなあ。原因は何だろう、兵学校出身者との軋轢があるんだろうか?―うーむこれはちょっと調べねばならんな)

とこれも悩み始めている。

その佐藤副長、麻生・花山両特務士官の実際の会話を聞いたらおそらく「あほくさ」と言ってその場を後にしてしまったことだろう。知らぬが花、である。

 

未来の花嫁たち、きょうも胸に晴れの日のわが姿を思い描きつつ、軍務に励むのである――

 

               ・・・・・・・・・・・・・

未来の花嫁たち。

いいですねえ若いって、うらやましいほど清純です。彼女たちの目指すところにはきっと「山中副長」の姿があるんでしょうね…。

 

松田聖子「未来の花嫁」


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コメント
オスカーさんおはようございます
「花嫁」いい言葉ですよね^^、どんな年齢になってもこの言葉をつぶやくと、あるいは目にすると心が明るくなります。私もまだ独身時代はあこがれたものです(;'∀')。

さて「女だらけの海軍」嬢たち、まさに〉揺れ動く乙女心 ですね。
おお、「海軍きやんきやん」がそういう特集を組めばいいんだ~~!きっと増刷に注ぐ増刷でしょうw。「きゃんきゃん」が松岡に打診してそれこそ日めくりを作っちゃうかもしれませんねw。商魂たくましいな~www!
そしてこの後の彼女たちそれぞれに幸せが来るといいですね。好事魔多しとは言いますがそんなことがないよう祈ってやってください。

おかげさまで実家では数日でしたがゆっくりできました。母の愚痴を聞いたりしてw、いろいろ母も兄弟間であるようで(-_-;)。

このところの気温差が咳ぜんそくに拍車をかけているようです。結構多いですよね、咳をしてる人が…。
オスカーさんもどうぞお大事にお過ごしくださいませ、いつもありがとうございます!!
【2016/05/07 08:58】 | 見張り員 #- | [edit]
ponchさんおはようございます
恋する乙女の海軍軍人嬢。彼女たちのあこがれの先にいる山中副長、そうなりたいなあと思っています彼女たち^^。

現実には女にはいろんな枷がはめられていますね。よくよく考えてみれば昔よく言われていた「女は幼くしては親に従い嫁ぎては夫に従いおいては子に従う」というのがひそやかに生きて根を張っているような気さえします。時代によって従うものが違うだけではないかな~と思ったりしますが…真の自由な生き方なんてないのかなあ?あればいいのにな。
私の祖母も終戦間近に自分の旦那の里に疎開し、10年間苦労したのでその話を聞くたび「女は損だ」と思っていました。

聖子ちゃん懐かしいですよね~~♡
ブリッコとは言われたものの今思えばかわいかったですよね。私の高校の時のクラスメートなんてぼろくそに言ってましたがw。ほんと、最近のアイドルよりキャラは立ってるし存在感がすごくありましたよね。
あの時代なつかし~~~!
【2016/05/07 08:52】 | 見張り員 #- | [edit]
おはようございます。
「花嫁」という言葉にはいつの時代も華やかな憧れがありますね。揺れ動く乙女心がたまりません! 海軍CanCamでゼクシィみたいな特集が組まれたら即完売しそう! 松岡さまも花嫁修行用日めくりを作ったら儲かるかも?(笑)
ご実家でゆっくり出来ましたか? 日中は夏で夜には気温が下がり……咳をしたり体調の悪い人が増えました。どうぞお気をつけて。
【2016/05/07 08:34】 | オスカー #- | [edit]
勇敢な女だらけのメンツも、やはり恋する乙女なんですねー。
やっぱり若いっていいですよねぇ。
女が仕事と育児の両立は未だに高い壁が立ちはだかってますが、
女だらけのメンツには恋に仕事に充実した人生を送ってもらいたいものですね。
明治生まれでバツイチの祖母は、苦労が絶えない人生だったので殊更そう思います。

聖子ちゃん懐かしいですね~(*´∀`)
当時はぶりっことか叩かれてましたが、最近のひと山いくらのアイドルよりは、よっぽどキャラが立ってたと思います。
【2016/05/07 01:21】 | ponch #7yu2AX4I | [edit]
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