2017-10

山中副長恋し 4〈解決編〉 - 2016.05.01 Sun

「私の思いのたけをお話しします。失礼がありましたら、平にご容赦を」と藤村少尉は言ったーー

 

佐藤副長は怖いものでも見るような眼で、藤村少尉を見つめる。そして梨賀艦長は黙って二人を見つめている。

藤村少尉は防暑服の半ズボンの膝の上に手を置いて、それを見つめながら

「私は…山中副長が大好きなんです。初めて『大和』に来たときから、私は大好きでした」

と告白した。佐藤副長がじっと彼女を見つめる。藤村少尉は膝に置いている手を見つめたまま続けた。

「最初、山中…当時は野村さんでしたから当時のご苗字で呼ばせていただきますが…野村副長の下に入ったときは確かに怖い人かなと思いました。それは感情的になって怖いとかいうんじゃなくって任務に厳しくしっかりなさるという意味での怖い、でして。しばらくの間は良く叱られました、叱られたというとこれまた語弊がありますが、注意を受けたというべきでしょうか。巡検の際や普段の行動など、甲板士官として恥ずかしくないようにと私を教育なさってくれたのです。二年三年たつうちに、野村副長はだんだん私を御認めになってくださり、そのころには私の意見も聞いてくださるようになり、『それは良い。早速採用してみたい』と言ってくださることもたびたびありました。そして私は野村副長が大好きになってゆきました。もう副長なしでは生きてゆけない、そんな風にさえ思えるほどに…。そして野村副長といろいろと考え、作り上げてきた艦内の風紀に関することなど、私の大事なものなんです。

そんな風にして野村副長と私で築き上げてきた艦内の様々を、再任とはいえ佐藤副長に頭ごなしに否定されたのが我慢なりませんでした。伺うところ佐藤中佐が『大和』にいらしたのは一年半ほどだと。しかし野村副長はそれ以上の年月をここでお過ごしになって、私と仕事をしてくださったんです…それを」

とそこまで言うと藤村少尉は顔を両手で覆って泣き始めた。

佐藤副長は、じっと彼女を見つめていたがその視線を下に落とし、自分の二種軍装の膝のあたりを見るともなく見つめていた。

そして

「藤村少尉の言いたい事、わかりました」

と静かに言った。佐藤副長は

「私は先ほど、自分の今までを考えてみました。確かに私は、『大和』には一年半しかいませんでした。でも『大和』にいたんだという自負がありました。だから大和を降りて学校勤務になってからもその自負が誇りというよりおごりになっていたのかもしれません。私はあの弩級艦『大和』にいて副長を務めた人間だ、こんな学校勤務なんかしてる人間じゃないんだ、というような。

そして山中―いえ、私も野村と呼ばせていただきますー、野村と私は海兵同期でライバルでしたから、その野村の居て副長を務めた艦をもう一度自分の色に染め変えたいと思ったのです。私は私なりに艦内に残る彼女の気配が我慢ならなかった。ですから、藤村少尉にとってはとんでもないと思うようなことを平気でやってしまったのです。そのうえ何の罪もない、私と仲良くしようと近寄ってきてくれた大きな鳥を、私は蹴り殺してしまいました。これはもう絶対弁解できません、無益な折衝をするものがこの艦にいてはいけません。私をこの艦からおろすよう、海軍省に通告してください。そして私はどんな沙汰でも受けます、海軍をやめろと言われたら辞めます。私のような人間、海軍にいてはいけないのです…」

そう、佐藤副長は言うと膝の上に置いた手をぐっと握りしめた。その上にぼたぼたと大粒の涙が落ちた。

その時、艦長室のドアをほとほとと叩く音がして、艦長は「どうぞ」と声をかけた。

ドアがガチャリと音を立てて開いた。

開いたドアの向こうにはハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチ、そしてニャマトが立っていた。艦長は彼らに微笑みかけ、入りなさいと手招きした。三匹はそっと部屋に入るとうつむいたままの佐藤副長のそばに立った。気配に気が付いて顔を上げた佐藤副長はマツコの顔を見るなり

「大きな鳥さん!あなた…無事だったのですね」

と大きな声を上げ、藤村少尉もびっくりして顔を上げた。

佐藤副長は、マツコの前に膝をつくとその体を抱きしめた。そしてごめんねごめんなさいと言って泣いた。すると松子がその大きなくちばしで、佐藤副長の頭をやさしく挟んだ。そしてさらに大きな舌で彼女の頭を舐めた。

それを見た梨賀艦長が「佐藤中佐」と声をかけた、

「佐藤中佐。これはハシビロの許しと愛情のしるしですよ。あなたはハシビロに許されたんです」。

ハシビロがくちばしから佐藤副長の頭を離し、副長はハシビロの顔を改めて見つめた。そしてその顔を両手で挟み、

「本当にごめんなさいね。私あなたを殺してしまうところでした」

と言ったのへマツコが

「もういいの、もういいのよ佐藤中佐。これからはもっとお互いに心を開いて仲良くやりましょうよ」

といい、トメキチも「僕も佐藤中佐と仲良くしたいの。だからよろしくね」と飛びつきニャマトも「ニャニャニャ、ニャマート!」と叫んで佐藤副長の防暑服をよじ登る。

藤村少尉の顔に微笑みが浮かび、

「よかったですね佐藤副長。ハシビロたちは副長を認めてくれていますよ…」

と言った。佐藤副長は藤村少尉の顔をじっと見つめた。藤村少尉は面はゆげな表情になって副長を見つめ返すと

「佐藤副長。今までのこと謝ります。失礼なことを申し上げてしまいました。許せないとお思いならこの場で私を殴ってくだすって結構です。その代り、どうか今後は仲たがいなどなしに一つ艦の仲間としてよろしく願います」

といい、佐藤副長も

「ありがとう、私こそあなたに謝ります。あなたの、野村さんへの思いを一方的に踏みにじってしまったこと謝ります。私のほうこそ今後よろしく願います」

と言って二人は立ち上がると握手を交わした。

梨賀艦長が拍手しながら立ち上がり、二人の肩をつかむと

「これでいいんだね、お互いにもう禍根は残っていないんだね」

と確認し、二人が力強くうなずいたのを見てほほ笑んだ。そして

「では二人に私から一つ仕事を上げよう。これまで藤村少尉がしてきた艦内の様々、そしてそれ以前に佐藤中佐がしてきたことを突き合わせてみなさい。そしてどうしてもこれは外せないというものをピックアップして二人で話し合い、本当に外せないのかそうでないのか考えなさい。そして二人で艦内を見回って課題があればそれを改良するために話し合いなさい。二人の広い視野で見て、この『大和』をさらに素晴らしい、海軍期待の弩級艦にふさわしいものにしていってほしい。どうか、願います」

と言って、二人の肩をやさしく叩いたのだった。

それを見ていたハッシー・デ・ラ・マツコ、トメキチ、ニャマトもうれしそうに手をたたきマツコが

「あたしたちにできることなら何でも協力するわよ、何でも言ってちょうだい」

と二人に大きなくちばしを広げて見せた。

 

その日の日暮前、藤村少尉は露天甲板に一人立って遠い日本の方角の空を見つめていた。

(山中中佐、やっと佐藤中佐と和解できました。今後は佐藤中佐を信じて付いてゆきます。どうかご心配なさらないでください)

そう思ってほほ笑む少尉であった。が艦内に入る寸前、空を振り返って

「それでも山中中佐…私は、わたしはあなたが大好きです。それはずっと変わりません」

と声に出して言ってから、急ぎ足で艦内に取って返したのだった。

 

そしてその晩から、佐藤中佐は巡検の際最初に藤村少尉が言った通り、巡検のコースをサイコロで決めたのだった。

佐藤副長はサイコロを手の中でコロコロと転がしながら

「順番どおりでは将兵嬢たちが気を緩ませるからね、こうして昨日も今日も同じコースかもしれないと思うと緊張感があっていいね。さすが野村さん考えたねえ!藤村少尉、ほかにもいいアイディアがあったらどんどん言ってほしい!」

と上機嫌であった。

 

副長と甲板士官の感情のこじれは、これですっかり修復されたようである。そしてそれに伴って将兵嬢たちの佐藤副長への嫌がらせも自然消滅して行ったのだった。

麻生分隊士は

航海科(うち)から佐藤副長におかしな真似をしたもんはおらんかったじゃろうな?心当たりのあるもんは後でうちとこへ来い。ええな!」

と一同をにらみまわしたが桜本兵曹に「分隊士、うちらはそげえな心の狭い人間じゃありません。じゃけえそんとに怖い顔をせんでつかあさい。せっかく(・・・・)()ええ(・・・)()が台無しですけん」と言われ、

「そうかぁ?そんならええんじゃが。ええな、今後も人に意地悪したらいけんで、そげえなことをしたらうちの鉄拳、お見舞いするけん覚悟しいや」

と嬉しそうにニヤつきつつ言った。

それを遠くから見ていた松岡分隊長、

「ああもう麻生さんはいけませんねえ。どうもあの人は特年兵君に何か言われるたびにニヤニヤデレデレして。困った人たちじゃないか、もっと熱くなってほしいねえ」

と言って、横に立つマツコに「熱くなってるじゃないの十分。それがあの二人なんだからいいのよもう、いい加減わかりなさいよ」と説教されている。

 

「山中ロス」に端を発したようなこの事件も無事に収まり、事の行方を心配していた科長たちそして森上参謀長も梨賀艦長からの話にほっと胸をなでおろし、参謀長など

「では今夜巡検後私は佐藤にふんどし一つで艦内を歩く爽快感を教えてやろう」

と言って艦長に「バカなことやらないでッ」とどつかれたのだった――

        

          ・・・・・・・・・・・・・

緊張感が走りましたがお互い何とか冷静になれたようです。

折り合いをつけるというのは難しいようですが互いが一歩、引くだけでも十分なようです。そこから新しい未来も見えてくるでしょう。

しかし参謀長、つまらないことを教えないでください。佐藤副長が逃げてしまっては困りますから。

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● COMMENT ●

鍵コメ様へ

鍵コメ様こんばんは
なんと…大変なことになってしまったのですね。
どうかご無事で、と祈るばかりです。

記事を待っております。ショックな中ですがどうぞ御身大切になさってくださいませね。

ponchさんへ

ponchさんこんばんは!
何とか収まりました、しかも円満解決です。ぶん殴りあいなんぞになったら帝国海軍軍人の名折れですものね、何とか折り合いつけてくれてよかったよかったw。
この話を書いているときは悶々としている最中でしたし、結果が良かったのが話に反映されちゃいましたw。

>どんな女偉丈夫も動物と子供には勝てないということでしょうか
それはあるかもしれませんね、動物と子供の無邪気さには勝てませんね(-_-;)。

お互い健康には本当に気を付けていきましょうね。元気で長生きしなきゃ損ですもの。無病息災というのは難しいですが何かあったら即受診をしましょうね^^。
ponchさんには今回の件でお励ましをいただいてとてもうれしかったですよ♡

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
お返事遅くなってごめんなさい。今夜実家から戻りました!

話し合いって実は難しいですよね。そう簡単ではないですがそこは女の帝国海軍さんですので理性的にw。
今後この佐藤・藤村コンビはいい相棒になれるはずです^^。どうぞご期待ください。

梨賀と森上、海兵時代から相変わらずですw。同期ってこんなものなのでしょうね、そうだ褌一丁の先駆者?は長妻兵曹でしたね。彼女すっかりおとなしくなってしまいましたがあと一回くらいははっちゃけてほしいですねw。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

一時期はどうなることかと思いましたが、どうにか丸く収まったようでよかったですね。
佐藤さんと藤波さんの和解が、見張り員さんの検査結果が異常なしだったのと、
またしても重なってしまいました(何度も済みませんね)
どんな名優も動物と子供には勝てないと聞きますが、
この場合はどんな女偉丈夫も動物と子供には勝てないということでしょうか。

やはり何事においても健康な身体が資本だと思いますので、
見張り員さんには末長く元気でいてほしいです。
こないだは励まして頂いて本当にありがとうございました(^-^)v

話し合いというのもなかなか難しいですよ、更にこじれる事もありますから。
さすがは帝国海軍嬢ということですな。藤村さん、佐藤さんは案外名コンビになりそうです。今回の事件は2人の殻を破る良いきっかけかも。
最後の梨賀さん森上さんの掛け合いも同期ならではのものです。ふんどし一丁といえば、おいらの中ではヤシの木マスター長妻さんですなwww

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは
許し。
とても難しいですよね、「許し」と「あきらめ」を混同している向きもあるようですがまったく違うものだと思います。許しはその相手を受け入れることで、これ本当に難しいです。とすると「あきらめ」は放置ということでしょうか?
私もなかなかその領域に達しません(-_-;)。
でももう少し年齢を重ねたらもしかしから??
ハッシー・デ・ラ・マツコ、『大和』に来た頃はふてぶてしくて文句ばかり言っていましたがいつのまにか将兵嬢たちの心に感化されて柔軟に、そして優しくなりました。
私はにいさまから教わることが多いですよ、こちらこそよろしくお願いいたします。

風薫る五月…ですが熊本大分の被災地はそれどころではないですね。厳しい現実がそこにはあります。東日本大震災の時はやたらと『絆』という言葉が飛び交っていましたが結局一時的なセンチメンタリズムに終わったような気がしています。そうでないというならなぜ今に至るまで「福島の産品には放射能云々」が言われるのか?
もっと根本的な部分での絆が求められますね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
対人関係においてはまず話し合いですね、話すことで互いがわかることってよくあることです。最初嫌な奴だなあと思っていた人が話してみれば実は自分と趣味が合ったりしていい友人になることもありますものね。
『大和』の人間たちは私の理想の人間が多いです。彼女たちが汚わいに満ちた世の中をちょっとでも浄化してくれたらと思うのです^^。
しかし話し合いが通じないのが国家間の軋轢で、これは本当に困ったものだと思います。どこぞの御国はもうちょっと人の話を聞けや!と言いたくなりますね(-_-;)。

今日から5日までやっと休めます。千葉に行ってまいります!オスカーさんもよい時間をお過ごしくださいませね^^。

よい結末になりましたね。
許し、とても難しいことですが大切なことですね。しかし許すという気持ちも大きな勇気がなければできません。人生のさまざまを味わい、経てきた経験あればこそかもと。
そうなるとマツコさんも大和で見違えるくらいに成長しているということでしょうか。それもこれも大和の人たちの優しさや厳しさあればこそですね。
僕は許しの心、まだ未完成。ゆえに大和のみなさんからこれからも教えてもらわなきゃ。どうぞよろしくお願いします。

五月になりましたね。四月に起きた不幸な出来事、まだまだ尾を引いています。これからが人間としての知恵と力の見せどころであると思っています。
どうか東日本大震災の時のように一時的な流行り、時流の「絆」で済ませないことを願っています。心が継続できる日本人であってもらいたいです。

おはようございます。
話し合いというか会話って大事ですね。会って話す、話してお互いの気持ちを通わせる……まぁ相手に人の話を聴く気持ちがあるかどうかが問題ではありますが(-o-;)大和の皆さんは根はとても素直で可愛らしい方々ばかりなので、本当によかったです。ますます仲良く楽しく勤務に励んでほしいです。
見張り員さまもゆっくり休んで、癒しの時間を楽しんで下さいませ。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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