2017-09

山中副長恋し 1 - 2016.04.19 Tue

山中副長が内地へと帰り、どこか寂しさの否めない「女だらけの大和」である――

 

梨賀艦長でさえ時に寂しげな表情を隠せなかったが、以前に副長職を務めてくれたことのある佐藤述子中佐が来てくれてほっとしているのも本当の話である。各科長たちも「佐藤さんが帰ってきてくれてよかった。この艦を知っているといないとでは、やはり違うからね」とほっとしている。

 

がしかし。

 

山中副長に心酔していた藤村少尉だけは全く別の感情を持っていた。彼女は、山中中佐が退艦してからこちら、まったくと言っていいほど笑わなくなっていた。常に眉間に不機嫌なしわを寄せ艦内を歩いては兵員嬢たちをしかりつけて兵員嬢たちの不興を買っている。

兵員嬢たちはそっと寄りあっては

「どうしたんじゃろう藤村少尉…今まではあがいなことでは叱らんかったのに。最近少尉は妙にご機が悪いのう」

とささやきあっている。

 

藤村少尉は、(前に大和にいたかもしれないが、『大和』は山中副長あってのものだったのに。あとからきて偉そうな顔をされたら迷惑だ)と思っていたのだ。

 

それは、佐藤副長が来て初めての巡検の時に起きた。

『大和』は大きな艦なので、巡検もなかなか大変なところかある。いくつかのコースがあって、そのコースをサイコロで決定するのだが藤村少尉がサイコロを振ろうとすると佐藤副長が押しとどめた。

「そんなことをしなくていいではないか。このコースを1から順に回ればいい。今日も明日も同じところを回るようでは意味がないではないか」

そういって佐藤副長は衛兵伍長を先頭に立たせ、衛兵伍長の彼女を促して歩き出した。

藤村少尉は怒りで顔を真っ赤にして佐藤副長の後姿をにらみつけている。それに気が付いた花山掌航海長が

「藤村少尉…こらえてつかあさい」

とささやいて、藤村少尉は歯を食いしばるような顔でうなずいた。随伴の掌長たちは何か居心地の悪いものを感じている。

巡検は一時間ほどかけて行われそして終了。衛兵伍長が艦内マイクに向かい「巡検終わり、煙草盆出せ」を通達した。

そして副長は掌長たちに明日の予定を伝え、掌長たちはそれを科長に伝えるため散会した。

藤村少尉だけはその場に立ったままこぶしを握って下を向いている。佐藤副長は彼女に気が付くと

「どうしました藤村少尉?」

と尋ねたが、藤村少尉のぎらついた瞳にぎょっとして片足を引いた。藤村少尉はその瞳を上げて副長を見つめ

「言わせていただいてよろしいでしょうか?私は山中副長と築き上げてきたやり方があるのです。何年もそのやり方で来たんです。それをあなたに、むげに否定される筋合いはありません。お気に障ったら申し訳もありませんが、それは皆―この艦の皆の総意です。わかっていただきたいのです」

というと走り去ってしまった。その場に残された佐藤副長は、茫然として夜風に吹かれていた…

 

その晩からめっきり、佐藤副長は元気がなくなってしまった。

視線を下に落とし、笑わなくなってしまった。すぐに梨賀艦長が気が付いて「どうしたね、副長?元気がないようだが」と尋ねたが佐藤副長は弱弱しい微笑みを浮かべて

「いえ何でもありません。…何でもないんです」

というだけである。それを見ていた繁木航海長が、梨賀艦長に「ちょっといいですか艦長…」とささやいて二人は第一艦橋を出て、常夏の日差しのはじける甲板に出た。

青い空にはところどころ雲が浮かび、見上げる前檣樓はまぶしく光る。その下で繁木航海長は

「梨賀艦長。お聞きになっていらっしゃらなかったんですね。実は、佐藤副長と藤村少尉、うまくいっていないようなんです」

と言って、花山掌航海長から聞いた話をした。梨賀艦長は驚いて

「まさか。あの藤村少尉が」

と言ったがはたと思い当たった。山中副長が艦を降りると聞いたとき藤村少尉は泣いて泣いて、どうしようも手の付けようがなかった、その上「私も一緒に艦を降りたい、海軍をやめたい」とさえ言った。

「まさか…」

ともう一度梨賀艦長は言った。こんなことを山中中佐が耳にしたらさぞ悲しむだろう。何とかせねば、と艦長は思い、

「分かった。報告をありがとう繁木さん。今夜早速藤村少尉を呼んで話を聞こう。そのあとで佐藤さんにも話を聞いて、必要なら二人を会わせて話も聞かねばね」

と言い繁木航海長は「どうか願います。せっかく佐藤副長が来てくださったのに、艦内に軋轢が生じては山中中佐も悲しむことでしょう。どうか良い方向に向きますように」と言って艦長に一礼した。

 

そしてその晩、巡検後。

梨賀艦長に呼び出された藤村少尉は(いったいなんだろう)といぶかりつつ艦長室を訪ねた。ノックのあと部屋の中から「どうぞ」と艦長の声、藤村少尉は「藤村少尉参りました」というとドアが開き、艦長が笑顔で迎えた。

「ようこそ。呼び立ててすまなかったね、忙しいところ申し訳ないが」

艦長はそういって、藤村少尉の肩を抱くようにして中に招じ入れた。中の椅子に少尉を座らせて、艦長は手ずから茶を淹れてくれた。

「さあ」

飲みなさい、と艦長は慈母のような優しい微笑みで少尉に茶を勧めた。ありがとうございます、と言って少尉は湯呑を手に取り、茶を口に含んだ。懐かしい日本の香りが広がって少尉のややすさんだ心がしばし和んだ。

梨賀艦長はその顔を見つめて

「で?どうですか最近。佐藤副長とは仲良くやっていますか」

と尋ねたその時、藤村少尉の顔がキッとひきつった。そして手にしていた湯呑をテーブルの上にコトンと置いた。そして梨賀艦長の顔をまっすぐに見つめると

「私…佐藤副長の下で甲板士官をやってゆくことはできません」

と言い放った。

梨賀艦長は静かに藤村少尉の顔を見つめて「どうしてかな?」と言った。すると藤村少尉の顔が悲痛に歪んでほほに涙が流れ始めたーー

 

      (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりの「女だらけの大和」でございます。山中副長去ったあとの『大和』、なんだかまた波乱が起きそうです。藤村少尉の不満を、艦長はどう見ているのでしょうか。次回をご期待ください。

 

相変わらず熊本中心に地震が収まりません。気が気でないです。もうこれ以上熊本大分、そして九州の皆さんを悩ませないで!と言いたいですね。亡くなった方へ衷心よりご冥福をお祈り申し上げるものでございます。また被災された皆さんが一日も早く、元の生活に戻れますように!!

高校時代に修学旅行で行った熊本と大分…あの懐かしい土地がひどい目に遭っていると思うと…。

 

そして私事で恐縮ですが、もうすっかり閉経したと思っていた私に今日不正出血のようなものがありました。閉経後の出血は子宮がんの可能性が大きいというので明日午後、診察を受けに参ります。まあそういう年齢だし、がんだとしても仕方がないかもしれないですね。腹をくくってまいります。

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● COMMENT ●

鍵コメ様へ

鍵コメ様こんばんは
うれしくも温かいお言葉をありがとうございます。不安な気持ちに光が差したようです。
どうしても悪いほうへと考えがちですが、あまり考えないようにしたいと思いました。たとえよくない結果が出たとしても早期発見の部類ではないかとか考えるようにしました…がやはり不安は不安です。
あなたのお心を大事に胸においてその日を待ちます。
あなたのブログにしょうもないことを描きこむかもしれませんが、どうかご容赦を!

少し眠りが浅いようで、ただでさえ春で眠いのに…昼の休憩時間思い切り昼寝しておりますww!
本当にありがとう!
あなたもどうぞお体大切になさってくださいね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
あたたかきお言葉痛み入ります。人生いろんなことがありますがまさかこんな心配をするようになるとは思いもよりませんでした、でもこれこそが人生なのでしょう。
勘が外れてくれるよう祈るだけです^^。

さて藤村さん、あまりに山中副長に心酔しすぎていました。梨賀艦長がどのように二人に話をつけるのか?お楽しみに!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

見張り員さん。文章の最後の行まで読んでいなくて気が付きませんでした。
検査の結果はまだでしょうが不安で心労も如何ばかりかと。
どうか体調の変化で済みますよう心から願い祈っています。
こんな勘だけはどうか外れて下さい!!

去る人を追い求めすぎて今の大切さを置き去りにしてしまうことままありますね。
見張り員さんの心がこもっている梨賀艦長の鮮やかな裁量がたのしみです。

ponchさんへ

ponchさんおはようございます
やっぱりあったよひと悶着…ですね(;´Д`)。女ばかりであるがしかし、彼女たちは軍人であるからその辺もいろいろ悩みの種でしょう。さてこの先上手くいくのでしょうか??まあすぐには上手くゆかないまでも時間をかけて信頼を持てるようになるしかないです。この先ご期待ください。

昨日病院に行ってきました、体癌の検査が痛くてw帰ってから夕方まで横になっていました。多少出血もありましたし。
馬鹿みたいですが気になって昨夜は夕食も食べたくありませんでした。万が一あったとしても発見が早ければ予後が良いらしいですからその点はまあ…でも結果が出るまで気になります。笑ってやってください!!

新任の佐藤さんが着任して何か起こりそうだなーと思ったら、
早速ひと波瀾ありましたね。
女だらけだと何かと難しいとは聞きますが、
新任の佐藤さんは周りと折り合いつけてやっていけるのか、
気になるとこではありますね。

不正出血はやはり怖いですよね。
検査結果が出るまで気が気ではないと思いますが、
見張り員さんの身に何事も無いことを祈ります。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
次ちゃんに次いでくそパッキンな藤村さんですので、上司が変わったハイではすべて変わってOK!―-とはいかないのですね(;´Д`)。それに柔軟に対応するのが軍人であり組織の一因なんですが…ハテどうなりますか。
佐藤副長もメンバーの変化に戸惑っているのですがさらに追い打ちをかけられているようで気の毒、艦長の腕の見せどころです!

病院に行ってきました…自分の勘ではあまりよくないかもしれないと。
でもたとえ悪い結果でも仕方がありません。受け入れるより仕方がないんですが、もし最悪の結果だとこの後のことを考えないといけないのでそれがちょっと大変かなと思います。
結果は一週間後…泣くか笑うか!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
心底慕っていた人が去ってしまうとまさに「ロス」状態になってしまうこともあるかもしれませんね。それで新しい人を…と思っても、なかなか心と行動は伴わないということもあるかもしれないですね。でも彼女たちは軍人ですからそうした私心を隠さねばならない――のですがさて、藤村少尉どうなりますか??

今日病院に行ってきました。超音波検査のあと子宮頸がん・体癌の検査をし一週間後結果を聞きに行きます。超音波では何かあるということで…もう覚悟しています。地震でいきなり命を奪われる人を想えば、もしそうでも時間の余裕はありますから。
それにしても止まない地震。いったいどうなっているんでしょう、被災地の皆さんが心配です。

新体制になれば多少の軋轢はつきものなのですが、藤村さんにしてみれば次ちゃんこそ唯一無二の「副長」であこがれの人。佐藤さんの提案が正論であったとしても、次ちゃんのやりかたを否定されたととらえてしまったのでしょう。

佐藤さんにしても久しぶりの古巣とはいえ、以前勤務した時とはメンバーも替わり正直心細いはずなのですが、立場上愚痴をこぼすわけにもいかずお悩みのことと思います。さてここで梨賀さんの腕の見せ所なのですが、どうしたもんじゃろうのう?


検査の結果は心配ですが、あれかも?これかも?と思い悩むより、なにがしかの結論が出てしまえば「何じゃ、取り越し苦労じゃったわい」なんてことも。病院に行く方が疲れてしまったりするのが本末転倒だったりして。お気をつけていってらっしゃい。

こんばんは。
慕っていた人が去り新しい人が来たからじゃあすぐ仲良くなりましょう!とはなかなかいかないですよね。気持ちはわかるしでも仕事だし…でせつなくなってしまいます。
お身体、心配ですが、検査を受けて不安な状況から抜け出すのが一番だと思うので、どうぞお気をつけてお出掛け下さい。娘さんの付き添いはありますか?
地震…自分に出来ることを自分なりに…と考えています。はやく落ち着いてほしいですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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