2017-10

続・益川中佐の嫁探し 1 - 2016.04.10 Sun

呉海軍工廠の男性技術佐官・益川中佐は本気で嫁探しを焦っていた――

 

益川中佐は、先輩の山中新矢大佐の妻、山中次子中佐を見たときから(いいなあ、嫁さんって。しかも山中中佐は天女のような人だ。私も絶対天女のような嫁さんをもらいたい)と熱望していた。

そして今度、上司の江崎少将から「山中大佐のところ、どうやら双子が生まれるみたいだね。奥さんの中佐は『大和』を降りて内地に帰ってくるらしい。落ち着いたら安産祈願を兼ねて祝賀会をしたいね」と聞かされ、

「ふ、ふたご!!」

と驚き、かつ、「私もぜひ嫁さんをもらって双子を産ませたい」と熱望の度を上げた。

その益川中佐、暇を見つけては街に出ては街中を闊歩する海軍嬢たちを見て歩くのだがこれがなかなか、彼の気にいるような将兵嬢がいない。

(帯に短したすきに長し)

益川中佐は苦笑してさらに探す。

時折、(私はこのまま独身で一生を終えるのだろうか)ととても悲観的な思いにとらわれ一人深夜にがっくり来る中佐ではあった。

が、翌朝には見事に立ち直って「今日こそ私の天女を見つける」と息巻く、そんな毎日であった。

 

そしてとある午後。

彼は帰宅を急いでいた。数日前から引いた風邪がだいぶ悪くなり熱が高くなり始めていた。そのつらそうな様子を見た江崎少将が

「益川中佐、熱が高いのではないのか?」

と尋ね、「そんなことはありません、熱などありません」と必死に言った益川中佐であったが同僚の鈴木中佐に羽交い絞めにされ体温計を口に突っ込まれた。果たして結果は「三十八度九分。益川中佐これはだめだよ」ということで早退扱いとなり、

「熱が完全に下がるまで休むこと。山中大佐がお帰りになったら忙しくなる、それまでまだ間があるからゆっくり休むように」

と江崎少将からいたわりの言葉をもらって恐縮しながらの帰宅途中。

ふらつきながら歩く益川中佐、(自動車で送ってもらえばよかったかな)と後悔しながら歩いていたが自宅近くまで来たとき、地面の小さな凹みに足を取られ転倒してしまった。

「いたたた…」

とうめく中佐、あろうことか右足首をひねってしまったようだ。地面に座り込んで足首の痛みをこらえる中佐に

「どうなさいましたか?」

と女性の声がかかった。益川中佐が声のほうを見上げると一人の海軍兵曹長嬢がいて

「どうなさいましたか…?足をひねられたんですか」

と中佐の横の膝をついて「ご無礼」というと彼の右の靴を脱がせ、足首に触れた後

「ちょっと痛みますが、ご容赦」

というとぐっとその部分に力を入れた。アッ、と中佐は一瞬声を上げたが

「ああ、楽になりました。ありがとうございます」

と礼を言った。兵曹長嬢は微笑んで「とんでもないことでございます」と言ったあと相手が中佐であるのに気が付いて

「ごめんなさい、私あなた様が中佐であるのに、軽い口をきいてしまって」

と謝った。が、益川中佐は微笑み返すと

「そんなことありません。ありがとう、本当にありがとう。いやあ、私は呉海軍工廠勤務の益川と申すものですが今日早退してきたんです、ちょっと発熱してしまいましてね。ぼーっとして歩いていたのが良くなかった。それに家がもう目の前という安堵が気を緩めてしまったようです。あなたに迷惑をかけてしまいました、謝ります」

と言った。兵曹長嬢は恐縮した、そして

「中佐のご自宅はどこですか?そこまでご一緒させてください」

と申し出た。中佐は喜んで「あの家です」と指を指した。兵曹長嬢はそこまで中佐に肩を貸し、玄関にたどり着くとその扉をたたいた。

が中佐が笑って

「ここは私一人暮らしですから。ありがとう。あ、あなたのお名前を伺っていいですか?」

と言い、兵曹長嬢は

「これは申し遅れました…私は宇賀神竜子海軍兵曹長です。呉海兵団で教員をしておりますが、来月末に〈空母・飛龍〉に乗ることが決まっております」

と自己紹介した。中佐は、ほうと声を上げて

「そうだ、こんなところで立ち話もなんです、あなたにお時間があるならちょっと上がりませんか」

と言った。兵曹長は「そんな突然ではご迷惑では」と言ったが、益川中佐のふらつきが気になったので「では失礼を承知で、お布団を敷かせてください」と言って二人は家の中に入った。

 

中に入ると宇賀神兵曹長は中佐に聞いて布団を押し入れから取り出し手際よく敷くと「どうぞ」と中佐に言い部屋のふすまを閉めた。中佐が寝間着に着替えてふすまが開くと兵曹長は

「どうかお大事になさってください、お薬はございますか?」

と尋ねてくれた。中佐は熱に浮かされた赤い顔で「海軍病院で処方されたものがありますから平気です、本当にありがとう…。いつかのこのお礼はきっと。あなたが〈飛龍〉に乗る前にはきっと」と言った。

宇賀神兵曹長は軽くかぶりを振って

「そんなことよろしいのですよ。それより一日も早いご快癒を願っております」

というと、「どうぞお休みになってください」と言って中佐の家を辞した。

中佐は、宇賀神兵曹長を玄関まで見送り鍵をかけた後部屋に戻り、敷かれた布団に横になった。なんだか彼女のいい香りがしているようで、熱に浮かされつつも益川中佐はうれしさに心が温かくなった。

(もしかして、あの人が私の天女かもしれない)

熱のため涙目になった其の瞳で天井を見上げて思った中佐は、じきに襲ってきた気分の悪さに目を閉じた。

 

数日ののちすっかり回復した益川中佐は工廠の江崎少将はじめ先輩・同僚たちに休んでしまったことへの詫びを言い、少将からは「もうすっかりいいのだろうか。あまり無理をしないでほしい、この先本格的に〈松岡式防御装置〉の実戦配備をしなければいけないから、決して無理はなしにしてほしい」と言われその心にこたえようと決心した益川中佐である。

益川中佐はその日の昼休みに、建物の屋上に鈴木中佐をそっと誘い

「あの…実は私、私の天女を見つけたようなんだよね」

と告白した。鈴木中佐はびっくりして

「ええっ?益川中佐熱出しながらもすごいねえその情熱。いったいどうしてよ?」

というのでこれこれこうだと話してやった。鈴木中佐はふーんと感心しながら

「そりゃあまさに運命の人であり益川さんの天女だね。で、手当てをしてもらい家に上がってもらって布団を敷いてくれて名前も聞いたと。―で、本当にそれだけかね?」

とやや助平ったらしい笑いを浮かべて聞いた。益川中佐はえへんと咳払いをしてしかつめらしい顔になると

「助けてくれた人に何をするっていうんです?いやだねえ、俗物は。私はね、祝言のその晩までは手を出したりしませんよ。…って何を言わせるんです!」

と最後は怒ったように言った。鈴木中佐は「そりゃ悪かった、すまんすまん」と謝ってから

「じゃあ益川さん、彼女にどんどんアタックしなきゃだめだよ。この人と思う人があったら当たって砕けろの気概で臨む。これは山中大佐の弁でもあるけど、まさにその通り。だからみろよ、大佐はあんな素敵なしかも幼馴染を捕まえることができたんだからね。益川さんもがんばりや!」

と言って友を励ました。

呉海軍工廠の技術士官の中の中堅で独身はもう、益川中佐一人になっていた。年齢は山中大佐の次に高い。口さがない男性士官の中には「益川中佐は生涯独身かもしれんね、三十を超えた男を相手にしてくれる女性はそうそういないだろう」という連中もいた。

だが。

(やっとあの連中を見返せるときが来たのだ)

益川中佐の胸は期待でいっぱいになった。そして

(山中大佐、見ていてください。私はあなたに負けない女性を妻にできるかもしれません)

と遠い南の空に報告したのだった。

 

益川中佐がそんな思いで胸を膨らませているころ、呉海兵団の教員室では宇賀神兵曹長が浮かない顔でいたーー

 (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

山中大佐の部下に当たる益川中佐、彼は「お嫁さんほしい」と言ってまだ呉の街を探していたのです。そしてなんと運命の出会いをしたようですが…。

さてどうなりますか、次回をお楽しみに!

花よ咲け、益川中佐!

庭の花1
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● COMMENT ●

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
益川中佐の天女だったのでしょうか…(-_-;)。
しかしあまり急ぎすぎるとことを仕損じますよね~、どうかソフトに時間をかけてほしいものですが。

どうなりますかお楽しみに^^。

益川中佐はとうとう自分の天女を見つけたんですね。
ただいくら相手が天女のような女性でも、
いきなり相手に「双子を生んでほしい」といったら
相手もびっくりして逃げちゃわないでしょうか。

次回もまたひと波乱ありそうですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
人間て心身ともに弱っているときに親切にされると相手を好きになっちゃうんですよね~~♡
しかーし!w、益川君の場合は…(-_-;)。

どうなりますかご期待ください、もうそろそろ彼も独身から解放してあげないといけませんのでw。

今日は久々に寒かったですね、朝ごみを出しに出たとき「寒い」と思いました。結局一日風が強く寒かったです。オスカーさんもどうぞ暖かくしてお休みなさいませ^^!

おはようございます。
看病からうまれる愛! いいですね~とても期待していますが、やっぱりスムーズにはいかない…? またまた次回に期待です!
今日は昨日に比べてかなり気温が低いですね。お気をつけ下さいませ!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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