お腹の子供は… 2

杉田軍医少佐は、梨賀『大和』艦長そして山中『大和』副長を前に言ったーー

 

「山中中佐、中佐は双子をご懐妊ということがわかりました」

その瞬間、艦長と副長は同時に衝撃を受けていた。しかしうれしい衝撃。艦長は副長の手を取って

「よかったじゃないか、副長!おめでたいことが二倍だ。これはすぐにでも山中大佐にお知らせしないといけない」

と言って笑った。副長もほほ笑んだが何か今一つ現実ではないような顔つき。杉田少佐もほほ笑みながら

「昨日で五か月に入ったとみております。それまでどうも心音がダブって聞こえるような感じがしていて不安だったのですが今回しっかり二つの心音が確認できました、おめでとうございます、間違いなく双子さんです」

と言った。

やっと山中中佐の顔にしっかりした笑みが浮かんだ。そして両掌で自分の膨らみだした腹部を撫でながら

「双子…二つの命が私に中にいるんですね…本当に…ああ、嘘みたいです」

と言って顔を上げると艦長と軍医少佐を交互に見て最高の笑みを浮かべた。見つめられた二人は微笑み返し、副長は幸せな思いが胸に満つるのを覚えていた。

 

梨賀艦長は『大和』に急ぎ取って返すと参謀長以下の各科長を艦長室に集めた。そして満面の笑みをもって

「いい知らせだ。山中副長は双子を身ごもっている。今日、診療所の杉田軍医少佐に診察してもらって確定した」

と言って皆、わっと歓声を上げて喜んだ。日野原軍医長、山口通信長などはうっすら目に涙さえ浮かべている。休暇が明けたばかりの繁木航海長はわあっと声を上げて手をたたいている。その繁木航海長に艦長は「航海長。副長が、夫婦そろってお見舞いをありがとうと言っていましたよ」というと繁木航海長は

「もっと早くわかっていたらよかったんですが…でも素敵ですね、お祝い事が二倍になって」

と言ってほほ笑む。

そしてこの素晴らしい慶事はすぐに全艦に知らされた。

将兵嬢たちは士官も兵隊嬢も「ええかったわあ、副長。双子言うてなかなかおいそれとはお目にかかれんけえ、これは生まれたら絶対に拝見せんならんね」などと言って喜びを分かち合った。

 

さらに。

この報せは日野原軍医長からリンガにいる山中新矢大佐にも書簡で伝えられた。診療所の横井大佐が「この話は是非日野原さんから山中大佐にお知らせしてあげてください」と言って。

急ぎの書簡なので、トレーラーからリンガ方面へ行く飛行機をリレーしてもらった。トレーラーの基地から最初に飛ぶ一式陸攻の隊長嬢は日野原軍医長の手紙を大事に書類袋に入れて

「確かにお預かりいたしました。これを次の任地で機動部隊に渡します、そこからリンガの山中大佐にお渡しいたします。私がすべての責任を持ちます」

と言って軍医長に敬礼し、軍医長は「願います」と言って返礼。そして一式陸攻の編隊はトレーラーの地を離れて行ったのだった。

 

その日から二週間ほど後のリンガ泊地。

暑さにさすがにへばっていた山中大佐のもとに、『瑞鶴』艦長の貝塚艦長がやや緊張した表情で何かを手にしてやってきた。

「山中大佐、トレーラー島の『大和』の梨賀艦長からお手紙が来ております」

そういって差し出された一通の封書を、山中大佐も緊張して受け取った。(大和の艦長から?もしかして、もしかして次ちゃんに何か良くないことが起きたのだろうか?まさか!流産とか?そんな!)

山中大佐は真っ青な顔になって手紙の封を切り、中の便箋を引っ張り出した。食いつくような顔で読んでいた彼の顔が、柔和に変じたのを見守っていた貝塚艦長は見た。

山中大佐は満面の笑みで便箋から顔を上げ貝塚艦長を見て

「貝塚艦長!妻は、妻は双子を身ごもっているそうです!…ああ、なんてすごいことなんだろう。まさか双子ができるなんて」

と言い、瞳を感激に濡らした。貝塚艦長も

「それは素晴らしい。よかったですねえ山中大佐!―すぐにでもトレーラーに行きたいですね…」

と言って山中大佐を見つめた。呉の海軍工廠の江崎少将からは、まだ内地帰国の命令はない。しかし、

「このお話、おそらく『大和』から呉の工廠の江崎少将にお話が行って居ると思いますね。もう少し、ここは辛抱ですよ」

と貝塚艦長は言って彼を励ました。

 

果たして、『大和』艦長は呉海軍工廠の山中大佐の上司、江崎少将にも書簡を出していた。その書簡は山中大佐より七日のあと、少将のもとに届いた。

江崎少将は、山中次子中佐の懐妊は知っていたので『大和』艦長からの書簡に驚き

「『大和』艦長から直々の手紙とは、もしかして山中君の奥さんに何かあったのだろうか」

とこちらも大変驚愕して手紙を開いたのだった。

がしかし、うれしい内容に少将も大佐の同僚たちも大喜びとなり、「繁木少佐が間もなく帰ってくるからその報告のあと、彼も帰還させよう。もちろん、その前にトレーラーに〈視察〉に行けと言ってね」と江崎少将は言ってほほ笑んだ。

 

繁木少佐が内地に帰りその十日後には、リンガの山中大佐に江崎少将からの命令書が来た。

それには、

これまでの実験の仔細をまとめて内地に帰還せよ。ただしその前にトレーラー諸島に立ち寄り大型戦艦を見学してくるべし。日数は十日から十四日。

とあり、大佐は(トレーラーに…。これは江崎少将のお心遣いだな…ありがたい)と少将の命令書を胸に押し付けて感謝した。

 

 

そしてーそれから四日後。

山中大佐は、トレーラーに向かう〈伊号八〇〇潜水艦〉の中にいた。彼の心はもうすでにトレーラー水島にいる妻のもとに飛んでいた――

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

 

やっぱり~~!

山中次子中佐、双子をご懐妊でした。今後彼女はこのままトレーラーに残るのでしょうかそれとも内地に?

そして夫の山中大佐がもうすぐ、トレーラーの妻のもとに行きます。

感動の次回をお楽しみに^^!

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Comments 6

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
まろ兄さんにとっていろんなことのあった三月もこれで終わりますね。悲しみに翻弄された後半でしたがどうぞ時間をかけて元気を取り戻してくださいませね。

次ちゃんの双子懐妊、物語の中とはいえやはりめでたき事。この話を読んでくださったにいさま、そして多くの方に佳いことがたくさん降り注ぐことでしょう。
桜の花吹雪のように。

咳つの変わり目ですので私も体に気を付け、新しい年度を頑張ってゆきます!
お互いにとって素晴らしい四月になりますように!!ありがとうございます^^!

2016/03/31 (Thu) 22:38 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

三月も今日で終わりますね。殊のほかお世話になりました。
今月は「おごれる者久しからず」と、まさに別れを通じて体感し尽くしたようなひと月になりました。禍福はあざなえる縄の如しでした。

そんななかでツギちゃんが双子をご懐妊の報に非常に嬉しく思っています。
せめて佳きことの予感をもたらしてくれたような思いです。
お体を重々いとって見張り員さんにとっても素敵な四月でありますように。

2016/03/31 (Thu) 22:26 | EDIT | REPLY |   
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見張り員  
河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
子供は一人でもは大変ですが一気に二人となると本当に大変でしょうね、昔よく聞いた五つ子ちゃんとなったら双方の親も駆り出され大変だったと思いますね…
森上参謀長の予想と人を見る目?は確実でしたね。さすが。

次ちゃんの今後…どうしようかなあといろいろ考えています。彼女のことだから何でもこなせるでしょうがいかんせんパッキンですから…(-_-;)。

2016/03/30 (Wed) 21:37 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
〉 自分の娘が身籠ったかのような気分になってきました
うれしいご感想をいただきました!そう思ってくださるほど読み込んでいただけて本当にうれしいです。
さあ山中家、これから大変ですね。なんでも二つそろえなきゃなりませんからみんなであたふた…(;'∀')の様子が見えるようですw。

そして旦那の新矢さんがいよいよトレーラーに来ます!さてどんな再会劇になりますかご期待ください。

2016/03/30 (Wed) 21:33 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
河内山宗俊  

一人娘に手を焼くおいらにしてみれば、「大変ですなぁ」としかいえませんが。喜びはさらに倍でしょうから問題なしというところでしょうか?しかしながら森上さんの予想が見事的中。参謀長の面目躍如といえます。

次ちゃんに適任かどうかはさておき、兵学校の寄宿舎(あれば)の舎監なんかも良いのかなと、但し門限その他が厳しそうなので朝日町に繰り出せなくなる生徒からは不評でしょうね。

2016/03/30 (Wed) 07:24 | EDIT | REPLY |   
オスカー  

こんばんは。
やった~双子ちゃんだ! 自分の娘が身籠ったかのような気分になってきました(笑) 産着もおむつもふたり分用意しなくちゃとか名前を考えなくちゃとか! 赤ちゃんのことを考えると幸せな気持ちになりますね。何事もなく無事に…と祈らずにいられない~!
次回はどんな展開が……ドキドキ、ワクワクであります(≧▽≦)

2016/03/29 (Tue) 23:47 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)