かっこよさは憧れ

一人のかっこいい飛行兵が今日も太平洋の空を飛ぶーー

 

この年の春、上等飛行兵曹に昇進したばかりの金井トラは搭乗員仲間から「かっこいい」「いけてる」零戦乗りだともっぱらの評判である。

階級の下の、予科練を出たばかりのような搭乗員たちからも「金井兵曹、かっこいいなあ。私もああなりたいわ」と言われるほど。

海軍航空隊の搭乗員の中にはその容姿や物腰から「かっこいい」と騒がれるベテラン搭乗員が多い。かつて大けがをした波田野大尉もその一人であった。

その波田野大尉に勝るとも劣らない人気の搭乗員が、金井トラ兵曹なのである。

各基地のニュースを集めて発行される〈週刊海鷲〉の中で時に特集される、「我が基地の素敵な搭乗員」の中で必ず出てくる常連の中の一人。

彼女たち搭乗員、特に零戦の搭乗員嬢はあまり女を感じさせない。かといって粗野ではない、という微妙な位置にいるものが多い。

金井兵曹はやや短めの髪をグリスで固め、機内に入るぎりぎりまで飛行帽をかぶらない。これは素敵に加工した髪を皆に見てもらいたいというのもあるが、同僚の村下兵曹によれば

「ああ、あれ!あれはかっこつけもあるけど油でべったべたでしょ、髪の毛が。その油が付く時間をぎりぎりまで短くしたいかららしいよ?だったらあんなにべたべたにしなくたっていいのにねえ~」

ということである。

確かに、訓練飛行から帰ってきて風防を開けた彼女はまず、飛行帽を取ってその中をしかめっ面で見つめていることもままある。

「格好つけるのも大変なんだねえ」

と皆は笑うがそれでも(やっぱりかっこいい、金井兵曹)と思うのである。

 

さらに金井兵曹がかっこつけている、と思うのは愛機の零戦・二一型である。彼女は二一型にこだわり「私はこれでなくちゃいやだね」と言い続けている。

それに彼女の愛機は特別な色で擬装されている。ほかの零戦にありがちな深い緑色ではなくいぶし銀の上に深い緑色を塗り、その上からさらにところどころを黒い短い線を引いてある。

「渋いなあ~、金井兵曹若いのに渋いねえ」

と感心している基地司令。副官がそばから

「そうですねえ。しかしあれでは却って敵の目に目立ちませんかねえ?確かに格好いいんですがそれだけが私気になります」

と心配そうに言う。がしかし、金井兵曹の敵機撃墜の腕前は大したもので全海軍航空隊のうちでもトップクラスである。アメリカ、イギリス空軍内では「あのへんな色のジークには気を付けて!見かけたら逃げるが勝ち」という通達さえ出ている。この手の通達が出ているのはあの〈天山の三姫〉が有名である。

金井兵曹は自身に羽が生えているかのように空を舞い、敵の後ろに食らいつき機銃弾を叩き込む。そして背後に来た敵の飛行機を察知するやすぐに反転し、その敵機の後ろに食らいつく…という離れ業を展開している。

「かっこいいんですよ~」

とは彼女の小隊の四番機の三崎博美二飛曹である。彼女も金井兵曹に心酔する一人で、夢見るような瞳でその時を語るのである。

「本当に零戦に金井兵曹の意思が乗り移ったとしか思えないんですよ、こう、スラ―ッスラーっと右に左に滑るように。あれは絶対誰もまねできませんね、断言します」

と。

 

今日も金井兵曹たちは訓練飛行を終えて基地に帰投した。

次々に着陸する零戦、そして迎える整備兵嬢たち。いつもと同じ光景だが今日はいつもと違うメンバーがいる。

健康診断のためにやってきた軍医たちで、その一人は珍しい男性の軍医少尉である。搭乗員嬢や整備兵嬢たちはこっそりと

「あの男性軍医、内科だろうかそれともまさか婦人科?」

とささやいている。しかしそんなささやきには耳も貸さず男性医官はほかの軍医嬢たちと健康診断の準備を始めている。時折、零戦から降りてくる搭乗員嬢たちをちらりと見ながら。

金井兵曹はいつものように風防を開けると、ひらりと降り立ち整備兵嬢に

「待たせたね。いつもありがとう」

と言ってにこりと笑った。その笑顔がどうにも素敵で整備兵嬢は「ああ、金井兵曹ほんとに素敵でかっこいいわあ~」ともだえる。

この瞬間が金井兵曹にとってはたまらないほどうれしくくすぐったい瞬間で(ああ!私はこの瞬間のために来ていると言っても過言ではない)とおもうほど。

金井兵曹のこの瞬間には士官クラスのファンも多く、その日の訓練にあたっていない小隊の士官嬢たちさえ

「金井兵曹、もう帰ってくるころだ!早く指揮所に行かないとみられないぞ」

と騒いで帰投時間までには指揮所に集まる。

この日も多くの手すきの隊員たちが金井兵曹の降り立つ姿を見て

「いいねえー、かっこいいなあ。私はなかなかあれができないわ」

「真似してみたけど翼の上で転んだよ」

などと姦しい。

その金井兵曹は小隊の皆と指揮所に待っていた司令の前に並び訓練の終了を通知し、そして散開。金井兵曹は皆に囲まれて歩き出した。

と。

「かっこつけてるねえ。格好だけじゃだめだよ」

という声が聞こえてきて皆は足を止めた。声の主はあの男性医官。彼は後ろを向いたまま作業の手をとめずにいる。金井兵曹に心酔している一人がずんずんと足音も荒く男性医官に近づくと

「あなた!どういう意味ですか、金井兵曹に失礼です」

といさめた。が、医官は相変わらず後ろを向いたまま「本当のことを言っただけですから。お気に障りましたらごめんなさいね」という。

遂にその場の搭乗員嬢たちが「なんだと!」といきり立ち始め、基地司令は慌てて駆け寄ろうとした。その時

「みんな喧嘩はいけない。この方の話を聞こうじゃないか」

と穏やかに言ったのはだれあろう金井兵曹。兵曹は皆をそっとかき分け前に出てくると男性医官に

「初めてのお方ですね?我が基地にようこそ。―ところであなたは私が格好だけだとおっしゃるがその根拠は何でしょう?」

と穏やかに尋ねた。医官は相変わらず後ろを向いたまま作業を続けたまま

「あなたは昔っからそうですね、格好つけてばかり。そんなところにかっこつけてなくてもいいのになあと思うことに必死で格好つけていましたよね」

と言った。なんだと、もう一遍言ってみろと小隊長の荒川中尉が声を荒らげて医官に言い、医官はそれでもこちらを向かないで

「何度でも言いましょう。金井さんはね、本当にかっこつけるんですよねー。子供のころからそうでしたよね」

と言い、荒川中尉は「失礼だと思わんのか!こっちを向け」とその肩に手をかけてこちらを向かせた。

「ひえっ!」

と声を上げたのは金井兵曹であった。皆何事かと兵曹の顔を見た。兵曹は男性軍医少尉を指さすようにして

「や、や、やだあ!しょうちゃんじゃないか!」

と叫んだ。しょうちゃんと呼ばれた男性軍医少尉はにっこりほほ笑むと

「そうです、しょうちゃんです。あなたの昔からのことをよーく知ってる小学校の同級生のしょうちゃんです」

と言って敬礼した。慌てて返礼する金井兵曹にしょうちゃん―神田庄吉海軍軍医少尉―は微笑みかけ

「『なんでしょうちゃんがここに?』とあなたは言うでしょう。まず、いろいろ話させてください。私は実家の医院を継ごうと勉強して医学校に入りました。そして学校を終えしばらく東京の大きな病院で働いて研さんを積んでいましたがある時、そこの院長から『海軍で若干名だが軍医長クラスを育成するため男性医師を募集しているそうだ、君どうかね、やってみないか』とお誘いを受け応募したんです。そしたら合格できました、合格できたのは受検した一五名のうちたったの二人。その一人が私です。で、少尉候補生として任官し三年目です。

今回は研修を兼ねてここに来ました。その時〈週刊海鷲〉と基地隊員名簿の中にあなたの名前を見つけて、子供のころからかっこいいのが大好きだったあなたが浮かんできました。で、今はどうかなと思ったら相変わらずなので…。いや変わってなくてうれしかった。そこで失礼とは思いましたがこんな風にしてしまいました。ごめんね、トっちゃん」

と言った。

わあ~、と二人を囲む皆から歓声が沸き基地司令の田上大佐は

「なんだ幼馴染だったのか、いやあどうなることかと思ったがよかったよかった!積もる話もあろうから、作業が済んだらどうぞごゆっくりなさってください」

と安どの声を上げた。

 

それから少しして二人は互いの作業を済ませた後、指揮所の前のベンチに座って話し込んでいた。子供時代の懐かしい話や、金井兵曹の海兵団入団からこちらの話、それに神田軍医少尉の詳しい話に時間を忘れた。

金井兵曹は飛行服のままで、半長靴のつま先を見つめながら「ここで会えるとは思いませんでした」と言って嬉しそうにほほ笑んだ。

神田軍医少尉もうなずいた後、急に姿勢をまっすぐに正すと「あの」と言った。金井兵曹は飛行帽を頭から取って「はい?」と言った。

神田少尉は「トっちゃん…すすすす」と妙なことを言い出し、金井兵曹は首を傾げた。柔らかい風が吹き付けて、兵曹の飛行服の襟からのぞいた白絹のマフラーを少し動かした。

「しょうちゃん…じゃなかった神田少尉、どうしました?」

と金井兵曹はそっと言葉を促した。二人の背後の指揮所の建物の中で何人かがこっそり様子をうかがっているのを二人は知らない。建物の中で数名が息を殺してこの様子を見つめている。

神田軍医少尉は意を決したように金井兵曹のほうに体を向けると、兵曹の飛行手袋の手をぎゅと握った。

建物内で見ていた数名の搭乗員仲間たちが「わっ!」と叫びかけて慌てて口を手でふさぐ。

神田軍医少尉は

「トっちゃんが、す・す・すきだ!」

と大声を出し、金井兵曹はびっくりしてベンチから落ちた。しょ、しょうちゃん?としどろもどろになる金井兵曹の前に回った神田軍医少尉は膝をつくと兵曹の手をもう一度握って

「昔っからトっちゃんが好きだった!憧れだったんです…かっこいいトっちゃんが大好きで、今またこうしてあったら尚更好きになった!」

と言った。金井兵曹の頬が真っ赤に染まり「うれしい…しょうちゃん。ありがとう」と言ったそこに建物の中でのぞき見していた搭乗員嬢、それに田上大佐まで飛び出してきて

「よかったねえ金井兵曹!神田少尉もよかったですね!」

と大騒ぎ。

 

この日は基地を上げてのお祝い騒ぎになったのは言うまでもない――

 

              ・・・・・・・・・・・・・・

かっこいいってやっぱり最高!

金井兵曹みんなのあこがれですから幼馴染の神田軍医少尉といい恋をしてさらに皆のあこがれになってほしいものです!

この話は一昨日この歌をラジオで聞いて浮かんだ話です。(松田聖子・ロックンルージュ)

昨日うちの裏にある桜が開花しました!来たぜ春!そして花粉症も全開バリバリです(泣)。
桜

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鍵コメ様へ

鍵コメ様おはようございます
うれしいことがあってよかったですね♡ お会いになってたくさんのお話の花が咲きますように。
桜も開花したというのに急な寒さに閉口です、御身大切になさってくださいませね^^。

ウダモさんへ

ウダモさんようこそ~~~!
お待ちしておりました、お元気そうで何よりです。

私を〈かっこいい〉とおっしゃっていただきうれしいです!若いころはかわいいとかきれいと言われたかったですがこの年になると〈かっこいい・クールな女〉と言われることにも喜びを感じます。かっこいい、の中にはたおやかとか慎みとかいろんな意味を持っていますがそれらすべて兼ね備えた女になってゆきたいものだと思います。

靖国神社&横須賀軍艦巡り!
最高ですね、私はまだ横須賀の軍艦クルーズは未体験なのでぜひ一回はいきたいと思うております!

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おこんばんはw

ご無沙汰してました(^^;;
もっぱら違う世界(ネットだけども)に行っておりまして、ブログ界を放置しておりましたw

ついこの前も靖国に行ってきまして、見張り員さんの事を考えながら懐かしさが込み上げてきましたよ。

…って、記事とは関係ない話でスミマセンww
見張り員さんこそが私にとってカッコいい女性ですよb
いやホントに!
息子と戦艦大和の話などをしていると、見張り員さんのように知識があったらなあ…と思う事しばしばですから。
あと、横須賀の軍艦めぐりというクルーズにも行ってきやしたw
なんだか遅ればせながら、目覚めてしまいましたよ私←

ponch さんへ

ponchさんおはようございます。
お返事遅くなってごめんなさい。

かっこいい女の人っていくつになっても憧れますね、足手まといにならない女の人ってかっこいい。
颯爽としてるって気持ちいいですよね^^。

カッコいい女いいですよねー。
女だらけのメンツみたいな颯爽とした
カッコいい女大好きです。憧れます。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
〉野暮ったい
ご自分で思ってるだけで人が見たら「かっこいい」と思われてるかもしれませんよ!

ハードムースってすごいものがありますよね、マジで針山のようになりますよね(;'∀')!
なんと…生え際の後退…う~~む、しかしそれも男性の貫禄ですよね!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
颯爽とした搭乗員嬢と宝塚の男役、どこかでシンクロしますね!

そういえば中学時代、かっこいい同性の上級生にあこがれたのを思い出しました。

さあ金井兵曹、ツンデレタイプかそれとも??
また出てくるかもしれませんので覚えておいてあげてくださいませね^^。

野暮ったいのが信条?のおいらからすれば、何ともうらやましい限り。昔はハードムースでばりばりの7:3だったのですが、そこで頭皮をいじめすぎたゆえか生え際の後退に歯止めがかかりません。老髪は死なずただ消え去るのみw

おはようございます!
読むうちに宝塚の男役さんがモデル?として出てきてしまいました(笑)
心から尊敬して憧れることが出来る存在がいるって素晴らしいことですね。支えにもなるし励みにもなるし……そういうステキな人はちゃんとステキな男性がもれなくついてくる(笑) ツンデレタイプかしら、とほほえましく読みました!
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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