2017-09

風は海から 1 - 2016.03.12 Sat

リンガ泊地にいる二人の男性技術士官のもとに、内地から連絡が来たーー

 

「繁木君、呉の工廠から連絡が来たよ」

山中大佐はそういって、内地からの手紙を差し出した。ほう、何を言ってきたんですか?と受け取ってそれを読む繁木悟朗少佐の顔が、ちょっと複雑な色を帯びた。

江崎少将は、繁木少佐に内地帰還を命じてきた。今回の実験の結果を持って帰ってきてほしいというのがその理由の一、さらに横須賀海軍工廠との連携のためチームの数名が横須賀に行くことになるために「急ぎ帰還してほしい」というのがその内容。

そして、〈トレーラーに向かいかの地に停泊中の艦艇の様子も見てきてほしい〉というようなことが書かれていて、

「これはいったいどういうことでしょうね?正直どうでもいいことのような気がしますが」

と首をひねった繁木少佐に、山中大佐は笑顔で

「それはね、トレーラーの『大和』に行って奥さんと逢ってらっしゃいという江崎少将のお心だよ。よかったね繁木君、トレーラーに行く艦があるそうだからそれに乗せてもらって行くといいよ」

と言った。繁木少佐は思いがけないことにほほを紅潮させて喜んだ。が、

「しかし、山中大佐を差し置いて私がトレーラーに行くなどできません」

と断った。山中大佐は繁木少佐の肩にそっと手を置くと

「少将のお心を無にしてはいけないよ。私はまだここでの仕事がある…なんでもこの後広の航空工廠の士官が来るからその士官とさらに実験をせよとのことだからね。繁木君には内地での仕事が待っているし、今までよくやってくれました。だから心置きなくトレーラーに行って奥さんと逢ってらっしゃい」

と言い含めた。

繁木少佐の瞳がかすかに潤んだように大佐には見えた。果たして少佐は

「ありがとうございます…では勝手ながらそのようにさせていただきます。ありがとうございます」

と言って嬉しそうな顔つきになった。

その少佐をほほ笑みながら見た山中大佐は(さて、繁木君のあとにいったい誰が来るのだろう?私はあんまり広の工廠のほうの人を良く知らないのだが)と思っている。

 

それから四日のあと、繁木少佐はトレーラーに向かう巡洋艦に便乗して行った。大佐は「奥さんによろしく内地についたら手紙を出してほしい」と少佐と握手を交わした。繁木少佐は

「大佐の奥様にもお会いしてきたいと思います」

と言って、大佐はうなずいた。「会えたらよろしく言ってください」と言い添えて。

 

繁木少佐がトレーラーに向かって行ったそのさらに一週間後、『瑞鶴』に内地から訪問者が来た。

貝塚艦長が山中大佐の部屋を訪れて、

「大佐。内地の広海軍航空工廠から高橋中佐がいらっしゃいました。こちらにご案内してよろしいでしょうか?」

と尋ねたので大佐は「高橋中佐…、はいお願いします」と答えた。高橋中佐、という名を聞いても誰だか今ひとつピンと来ない。

少しして貝塚艦長が「高橋中佐をご案内しました」と言ってドアをノック、大佐は「ようこそ」とドアを開けてびっくり。

ドアの外、貝塚艦長の後ろに立っていたのは女性の技術士官だったのだ。しかも彼女、大佐を見るなり

「お懐かしい山中大佐!お元気そうで何よりです」

と懐かしそうに言って部屋に入ってきたではないか。なんだ誰だろう、と困った顔の大佐に貝塚艦長は「それでは私はこれで」とほほ笑むとドアを閉めて行ってしまった。

どうしたものかとその場に突っ立っている山中大佐に高橋中佐は

「お久しぶりです、大佐。広工廠の高橋美代子中佐です」

と姓名申告して敬礼した。必死に記憶をまさぐる山中大佐ではあったが返礼してから彼女の顔をよく見つめた。

「あなた、」

どこでお会いしましたっけ?と言いかけた大佐に、高橋中佐は抱きつくようにして

「覚えていてくださったんですね?二年前の約束、これで果たせましたね」

と言って、大佐ははっと思いだした、「ああ、あの時の…」。

 

高橋中佐とは、三年前に会っていた。その時彼女は横須賀の航空工廠に所属していて、呉海軍工廠への出張で大佐と初めて会ったのだった。男性士官を引き連れてやってきた高橋中佐は、さっそうとしていて呉の男性士官たちの注目の的だった。独身の士官たちは彼女の気をどうにかして引こうと必死だったが高橋中佐は全く意に介していなかった。

その彼女が、山中大佐に会った時妙に華やいで見えたのが益川中佐にはわかって、「大佐。高橋中佐は大佐に気があるんじゃないですか?ほかの士官に対する態度と大佐とは違いますよ」と耳打ちしてきたのだが大佐は「そう?そんなことないんじゃないか」と全くこちらも意に介していない。

大佐は「野村次子」の行方を必死に探していたので、ほかの女性など目のうちではなかったのだ。

 

その彼女が、今目の前にいる――

高橋中佐は嬉しそうに

「覚えていてくださったんですね、よかった」

とまるで娘のようにほほを紅く染めた。大佐は

「それで…あなたの任務は?」

と彼女の様子には全くお構いなしで尋ねた。高橋中佐はちょっと拍子抜けしたような顔になったがすぐにほほ笑んで

「例の『松岡式防除装置』、航空機にも装備するという話がありましたでしょう、その検証と実験のため来ました」

と言った。大佐は「おひとりで?」というと高橋中佐は

「いえ…同僚の男性士官が三名来ています」

と言って「それにしてもお懐かしい、山中大佐」とその腕にすがった。大佐は腕にすがられてちょっと戸惑ったが

「どこの艦に逗留なさるのですか。飛行機への実験ならやはり空母でしょうか」

と尋ねた。すると高橋中佐はにっこりとほほ笑み

「『瑞鶴』です、『瑞鶴』にお世話になりますの。――山中大佐が『瑞鶴』にいらっしゃると伺ったので、無理やりでしたが」

と言ったのだった。

ほう、そうですかとつぶやく大佐の腕をとって高橋中佐は

「大佐。飛行機を見に参りましょうよ!」

と言って歩き出す…。

はいはい、行きましょうと言って大佐は高橋中佐に引きずられるようにして部屋を出たーー

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

久々、山中大佐のお話です。繁木少佐はトレーラーに行って妻の史子航海長に会えるようです。きっと素敵な再会になるでしょう。

しかし、山中大佐には唐突な訪問者が!彼女はいったい??

DSCN1231.jpg これは赤城だ…(-_-;)
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● COMMENT ●

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
妻帯者でありその妻は身重だというのに山中大佐~~!
しかしなんだかこの大佐、やたらと女性将兵から思いをかけられるような気がしてなりませんね。
さてどうなる??

えーと、山中大佐は妻帯者ですよね。
妻が身重なのに何だか不穏な展開になってきましたね。
以前もひと悶着あったような気がするんですけど、
今回もまたひと悶着あるんでしょうか(^-^;)

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
どうも新矢さん女難の相があるらしいですね。どうしてでしょう、見た目がいいんかそれとも人当たりがいいのか??
いずれにしてもこのままじゃいいことないですね。
女だらけの海軍、もっと男性士官の身上をはっきりさせないといけませんね、事故のもとw。

またまた女難の相がw
新さんも大変ですな、既に妻帯者ということは伝わってないのでしょうかね?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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