2017-10

酒というもの… - 2016.03.09 Wed

巡洋艦〈最中(もなか)〉の艦長・大関タツ大佐は大酒飲みである――

 

艦長従兵は、その大関艦長が一声「酒、酒持ってきて」というとすぐに酒を用意しなければならないのでそれはそれは大変である。

酒と言っても日本酒ばかりではなく種類は焼酎、ビールにウイスキー、時にはブランデーなども所望する。しかも「酒を」というだけでどの酒を、と言わないので艦長の思っているものと違うものを持って行けばたちまち〈ゴキ〉(ご機嫌のこと)が悪くなるので従兵たちから嫌われているのも確かな話。

昨晩も艦長従兵になって間もない速水カズ上等水兵が「酒!」という艦長の声に(今日はブランデーだろう)と確信をもって、ブランデーを艦長に差し出すと大関タツ艦長は

「なんだあこれはあ!私が酒って言ったらウイスキーなんだよ、アホかあブランデーなんぞもってきおって!貴様いったい何年艦長従兵しとる?いい加減で覚えんとぶっ飛ばすぞ」

と大激怒した。

驚いて引き下がりウイスキーを用意する速水上水に、後からやってきた従兵長の鈴木一子二等兵曹ははあとため息をついて

「またか。速水上水は日が浅いから仕方がないよ。私だってなかなか艦長の考えは読めないんだから。もしかしたらわざと『違う!』って怒って、楽しんでるのかもしれないよ。それにしても艦長、ちょいと酒飲みすぎじゃないかなあ」

と言った。

速水上水は、ふっとため息をついていた。

 

その後も大関艦長は従兵嬢たちに「酒持ってこい」と命令し、持ってきたものに「違う!」と文句をつける日々が続いている。

 

そんなある日、速水上水は主計科から艦長のビールを半ダース受け取ってきた。艦長の部屋の冷蔵庫に入れながら(全く人の気も知らないで、ビールだウイスキーだっていい気なもんだよ。艦長なんてほんとのんきな母ちゃんだよなあ)と内心むかむかしていた。

「そうだ!」

速水上水は思わず声に出していた。あの嫌な艦長を一度ぎゃふんと言わしてやりたい、そうだいい方法がある…。そう思って速水上水は、冷蔵庫に入れかけたビールをすべて部屋にあった毛布にくるむとそそくさと艦長室を出て行った。

その晩、速水上水は自分の班の班長に「これ、どうぞ」と半ダースのビールを差し出した。班長の山縣二等兵曹は

「うわ、ビールじゃないか。どうしたんだこれ?」

といささかびっくりして尋ねた。しかし速水上水は泰然とほほ笑んで

「普段お世話になってますから、その印と言ったらなんですが」

と言った。大のビール好きの山縣二曹はもううれしくてニタニタしながらビールを大事にチェストに入れた。そして

「貴様、気が利くなあ。さすがだ、艦長も貴様を従兵に持って幸せだよなあ」

と言って嬉しそうに肩をゆすった。

そして速水上水は今度は艦長室の横の従兵控室に向かった。そこにはビール瓶が幾本も箱に入っている、それがいっぱいになったら主計科に持ってゆくのだがそこから六本を引き出した。そして箱の底に落ちている王冠も六個、拾った。

(あの艦長に目に物見せてやる)

速水上水は、昼間大きな薬缶に茶を沸かしたものを持ってきてあったのでそれをビール瓶に丁寧に注いだ。六本すべてに注ぎ終わると、王冠も丁寧に元のようにかぶせた。栓抜きの柄の部分でそっと叩いて新品のように工作した。

すべて終わると上水は「よしっ!」と声に出し、それらを抱えて艦長室に入り冷蔵庫を開けた。そして中に丁寧に並べた。

そうしてみるとまるで新品のビールである。

が。

(中身はお茶だよ。あの艦長どんな顔しやがるか、ああ楽しみ!)

今日酒は艦長の来るのが楽しみな速水上水であったが、今夜艦長は副長・軍医長と話をしているとかでなかなか部屋に戻ってこない。

やっと艦長が来たのは真夜中に近かった。迎え出た速水上水に

「ああ、今日はもう遅いからいいよ。すまなかったね、帰って寝なさい」

と艦長は言って、上水は拍子抜けしてしまった。艦長のものの言い方があまりにやさしかったのも意外性を増していた。

(どうしたんだろう)

とは思ったがどうせ一過性のものだと、「では、帰ります」と敬礼して居住区に帰ったのだった。

 

それから数日ほど、艦長は「酒!酒だ」と言わなかった。

鈴木二等兵曹は何か知ってはいまいかと上水は尋ねたが鈴木兵曹も「私は知らん、そういうときもあるんじゃないのか?」と言って首をひねる。

速水上水は(早く艦長がビールを飲めばいいのに)とワクワクしていたが、なかなかその時は来ない。

遂にある晩、艦長は速水上水と従兵長の鈴木二等兵曹を前に今日は静かに「ビールをお願い」と所望した。速水上水は鈴木兵曹にうなずくと冷蔵庫からビールを出した。

兵曹がそれを受け取りコップを艦長の前に置き、栓抜きで王冠を引き開けた。

「?」

鈴木兵曹は不審げな表情になった。

「変…ですね」

そう言って兵曹がビールをコップに注いだ。

兵曹は「失礼します」というとコップの中の茶色な液体の香りをかぎ、「ん!」と唸るとそれを口に含んだ。そして艦長を見て

「これ、ビールではないです、お茶です」

と叫ぶように言った。艦長がぽかんとして「お茶?」という。鈴木兵曹の顔がきっと引き締まると

「速水上水、これは何だ!」

と怒鳴った。怒鳴られて速水上水は慌てた。一瞬頭の中が真っ白になってしまった。どうしよう、つい怒りに任せてこんなことをしてしまったがよく考えればとんでもないことをしでかしてしまった、ああどうしよう…。

速水上水がその場の床に両手をついてへたりこみ、べそをかき始めたその時、艦長が笑いだした。

「艦長…?」

と鈴木兵曹がつぶやいた。艦長は笑いながら土下座状態の速水上水の前に膝をつくと

「従兵長、速水上水は私の健康を気遣ってくれたんだと思うよ?ねえそうだよねえ速水君。今まであれこれわがまま言ってすまなかった、謝ります。実は軍医長に『艦長は少しお酒が過ぎます、体に良くないから控えるように!』と言われてしまってね。今までの報いだと思うんだ、で、今日を最後のビールにしようと思ったんだが、潔くないね。これもきっと天の啓示。すっぱりやめなさいという神様のご指示だと思うよ。速水上水、ありがとう」

といって速水上水の背中をやさしくなでてやった。

「艦長、艦長ごめんなさい…」

と泣く速水上水に大関艦長はいいんだいいんだよ、ありがとうと繰り返したのだった。

鈴木兵曹は、(さすが艦長だ。速水上水のいたずらを咎めればただでは済まされなくなると思ってそうおっしゃったんだな、確かに艦長、軍医長からご注意を受けたとは聞いていたが。ああ、それにしてもどうなることかと肝を冷やしたよ~)と額の冷や汗を手の甲でぬぐった。

 

以来艦長はすっぱりと好きだった酒をやめた。従兵長たちは酔った艦長に酒持ってこいと絡まれなくて済んでよかった!と喜んだが…

「ねえ鈴木さん、このお茶はどこのお茶だ~?」

と利き酒ならぬ利き茶にハマった艦長に、これはまたこれで軽く困っているという。

今日も艦長室では「お~い、鈴木さん速水さん。お茶!」と声がしている――

 

          ・・・・・・・・・・・・・・

お酒。楽しい酒ならいいんですが絡み酒とか怒り酒は嫌ですよね。泣き上戸も困るし。

大関艦長、従兵にわがまま言ってお酒をあれこれ飲みすぎたようです。そして速水上水のいたずらも、いいタイミングだったと言っていいでしょう。

お茶のほうがずっと健康にはいいですね!

DSCN1621_20150803230721c80.jpg
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● COMMENT ●

sukunahikona さんへ

sukunahikona さんこんばんは
おお==、お見通しでしたねw。
あれもってこいだのこれ持ってこいだの、もう正直嫌でございますわっ!!
というわけでございますw。

いつもありがとうございます^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
なかなかの酒豪でらしたのですね!
なんか私の亡き父を思い出しましたw。
しかしやはり体にはよくないのでここはすっぱりおやめになるのが賢明かと…(-_-;)。タバコもほどほどになさってね♡

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
お返事遅くなってごめんなさい!
上に立つもの、こうでないといけませんね。やたらと怒鳴るだけの上役とか威張り腐るのは部下の心が離れるばかりですよね。
ほっとしていただいてよかった♡

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
お返事遅くなってごめんなさい!

酒には飲み方があるのだと思います、浴びるように飲む人が時折いますが絶対かあrダニ良くないなあと思って見ています(-_-;)。
しかし…すごい隣人がいればいたものですな(;´Д`)…酒もアル中になるほど飲めばそうなりますよといういい見本ですね。怖い怖い…

おーいお茶!おい酒だ!ビールを持ってきなさい!
この物語は全女性の恨みのこもったエピソードとお見受けしましたが

日常の些細な出来事をささやかな美談に変えてしまうところ
お見事です

若い頃はおいらの体内水分の10%ぐらいはアルコールで出来ているというぐらい飲んでいました。日本酒、ビール、ワイン、ウィスキーとりあえずメチル以外なら何でもいけると思います。
最近は寄る年波には勝てず大分弱ってきましたね。尿酸とか脂肪肝もってんだからすっぱり辞めればいいかもなのですが、酒とタバコはやめられませぬ。

こんばんは

あったかいお話ですね。
どうなるのかと心配しつつ読んでいましたが
大岡裁きのような、見事な結末。
安心しました。

酒も嗜む程度ならいいと思うのですが、
浴びるように飲むのはよくないですよね。
アル中で家族に逃げられて孤独死した
おっさんとクソジジイの隣の部屋で
自分は十年暮らしたことがあります。

声なき声さんへ


声なき声さんこんばんは!
ウイスキーというと何か私は『大人のお酒』とか「通のお酒」という感じがします。私の父も50代のころはよくウイスキーを飲んでいましたから余計そんな感じがしたのでしょうか。
マッサン効果でちょとは売り上げに貢献!かと思っていましたが若い層にはなかなか…なのでしょうか。
ここはひとつ、啓蒙運動をしなきゃいけませんね^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
「海軍俳句大会」いいですねえそれ!!誰が一番上手でしょうか^^、やってみたいです。

ド、ドリアンのお茶ですか??ドリアンというとあのキョーレツナにおいのする果物ですよね…(;´Д`)、どんな味・風味なんでしょう。怖いけど飲んでみたいw。
南方は不思議の宝庫みたいな感じで心惹かれますw、いつか行ってみたいですがあの当時のものはもうないだろうなあ…。

いよいよ花粉症発動!鼻水も絶好調です(-_-;)。くしゃみも北のミサイルをふっとばす勢いで好評発射中です^^。
オスカーさんも、どうぞお大事になさってくださいね。

ちょっとした集まりの飲み会で、ウイスキーがないと、私はがっかりします。
会社の接待の場であれば、酒の種類が何であっても関係ありませんが、プライベートで楽しむ場で、ウイスキーが用意されていないと、本当に気落ちします。
近年は、とりわけ若い人はウイスキー離れしていますので、私が失望を覚える機会も、実は少なくありません。
これも時代なのでしょう。

こんにちは。
「お~い、お茶!」(笑) 海軍俳句大会が開かれる日も近い!? お茶というとドリアンのお茶とかもあるようです。南方にいけばなんだ、これは(゜д゜)な飲み物もたくさんあるでしょうね。発酵が進みすぎたお酒とかスゴそうです……!
今日は思ったより晴れませんが、花粉はたくさん舞っていますね。鼻水がツラいです~お身体に気をつけて下さい。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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