横須賀泣き笑い 5〈解決編〉

猪田艦長に手渡された手紙を、加東副長はいぶかりながらも読んだ、そしてーー

 

「艦長これ…!」

加東副長思わず声を上げていた。猪田艦長はにっこりとほほ笑んで「そういうことですよ、加東さん」と言い、副長は信じられないといった面持ちで艦長を見つめ返した。

その手紙にはー

 

仮谷航海長の父親・太右衛門からのその一枚には、

 

〉私は加東中佐と瀬戸口大佐が顔を合わせたときのことを鮮明に覚えております。瀬戸口大佐は加東中佐を食い入るように見つめておられました。あのお顔は絶対、加東中佐にひとめぼれの顔でありました。はたしてあの後、鍛冶屋くんを通して瀬戸口大佐から『加東中佐はおひとりと伺ったが、それなら私と結婚前提に付き合ってはいただけないものでしょうか』との打診がありました。とても良いお話ですので、では手紙をお書きになられるのが良い、そうしたら私の手紙と一緒に出しますから、と申しあげました。瀬戸口大佐からはすぐに手紙をいただいたので、私の手紙と同封いたしました。瀬戸口大佐のお手紙を加東中佐にお届けくださいますように。

 

とあり、瀬戸口大佐からの手紙には

 

〉突然のお手紙を失礼いたします。先日仮谷中佐と私の部下・鍛冶屋との見合いの席に同席いたしました瀬戸口であります。いきなりこんなぶしつけな手紙を書いて加東中佐には大変失礼ではございますが私の胸の内をここに披露いたします。

はっきり申し上げます。

私と結婚を前提とした付き合いをしていただきたいのです。私はあなたよりずっと年上ですが気持ちはあなたと同じに若いつもりです。同じ海軍に籍を置く同士としてあなたと一緒に人生を歩いてゆきたいと思うのです。私の気持ちにウソ偽りなどありません、私のことを嫌いとか不快でなく、私の気持ちを汲んでいただけるならお付き合いを願いたいと思います…

 

と、加東中佐を想う気持ちが滔々とつづられている。

加東副長は、瀬戸口大佐からの手紙を胸に押し付けてぼうっとした顔つきでいる。無理もない、生まれて初めての男性からの文であるのだから。

そんな加東副長をにこやかに見つめつつ猪田艦長は

「どうですか。その方とお付き合いしてみませんか?仮谷さんのお父さんもよい話だとおっしゃってらっしゃる。お返事を書いて、一度ゆっくり瀬戸口大佐とお会いしたらいい。――で、あなたは瀬戸口大佐をどう見たのですか?」

と尋ねた。

加東副長はまだ半分夢心地のような顔のまま

「はい。最初お顔を拝見した時、素敵な方だなと思いました。でも絶対既婚者だとばかり思っておりましたから、なんだか本当なのかわからなくなってしまって」

と言って猪田艦長を見つめた。

艦長は優しく微笑んで、加東副長の右の肩にそっと手を置くと

「よかったじゃないですか。相思相愛というのかな?なかなかないことですよ。まず瀬戸口大佐にお手紙を書きなさい。そしたら大佐も喜ばれるでしょう、そして次に会う日を決めたらいいですよ」

と言って祝福した。

加東副長はうれしそうな微笑みを浮かべると「ありがとうございます、艦長」と小さな声で言った。その副長を、猪田艦長は胸に抱きしめて

「よかったね、よかった。二人で付き合いを深めてよい結果を出してくださいね」

とその耳にささやいたのだった。

 

加東副長はその晩のうちに瀬戸口大佐に宛てて手紙を書いた。

こんな私を、結婚相手として見てくれているという嬉しさを便せんいっぱいにあふれさせた。その文面はあくまで初々しい乙女のそれで、その手紙を受け取った瀬戸口大佐は感激の度を増し、

(この人は絶対、妻にしたい。いや、絶対妻とする!)

と決意したのであった。

瀬戸口大佐は、返信をしたためながら早く会う日を決めたいと心が逸って困っていた。こんな胸のときめきはもしかしたら生まれて初めてかもしれない…。そう思いながら手紙を書く瀬戸口大尉。その背中には幸せがにじみ出ていた。

今まで、見合いをして結婚の機会はあるにはあったが、正直彼の気にいる相手ではなかった。煮え切らない態度でいるうちに話は流れてしまっていた。そんなことが何度もあるうちに、結婚したいという気はありながらも縁談そのものが来なくなっていた。大佐は三十を超えていた。

「いい男なんだが、ちょっと年齢がね」

彼の上司でさえそういったのだった。

そして彼は、結婚をあきらめ始めていた。

その矢先。

部下の鍛冶屋健吾中佐の見合いの席に上司として同席することになった。なんだひとの見合いの席に出されて…と内心不満もあったがここは可愛い部下のため頑張ろうと思った大佐であった。そしていざ行ってみたら、相手の付き添いの中佐を見た瞬間、我を忘れていた。

彼女こそ、彼が求めていた女性であった。控えめでそれでいて感じる存在感。穏やかなほほ笑み。礼儀の正しさ。どれをとっても彼の理想である。

見合いの席が終わったあと、軍需部に帰った瀬戸口大佐は矢も楯もたまらず筆を執り便箋に思いを走らせた。そしてその手紙をまず、仮谷太右衛門宛に送ったのだった。

そして太右衛門から『武蔵』へ手紙を出す際、面倒をかけて悪いが同封してほしいと書き添えたのだった。太右衛門も、瀬戸口大佐の顔を見てこれは…と思っていたので喜びながら手紙を同封した。太右衛門としては見合いの始まる前に己のつまらぬ発言で加東中佐を傷つけてしまったという思いがあったからなおさらであっただろう。が、それは瀬戸口大佐は知らないことだが。

 

加東副長は、『武蔵』艦上に出て風に吹かれた。

横須賀の心地よい風が副長の頬を撫でては過ぎる。彼女は横須賀の街並みを遠望しつつ

(いよいよ私にも人生の春が来たと思っていいのですね。瀬戸口大佐、どうぞよろしくお願いします。そしていつの日か一緒の人生を歩いてゆきましょう)

と祈っている。

その足元に、『武蔵』のマスコット犬・ナナがいつの間にか来ていて、副長を見上げている。ナナは

(副長さん嬉しそう!いいことがあったのね、なんだか副長さん今までよりずっといいにおいがするもの。幸せのにおいがしてる、ずっと続いてゆく幸せのにおい)

と思った。

そして「副長さん、よかったね」と言って加東副長に飛びついた。そのナナを抱きしめて加東副長は

「ありがとうナナ。私幸せになりますからね、見ていてね」

とささやいたのだった。

さらにさわやかな初夏の風が二人を包み、泣いて始まった横須賀の生活も笑いで収まりそうである――

 

              ・・・・・・・・・・・・・

おお!

いよいよ加東副長も人生の春が来たようです!やはりこうでなくっちゃいけませんね。加東副長と仮谷航海長のダブル寿となりそうな『武蔵』でした!

 

キャンディーズ「春一番」!加東さんと仮谷さん、人生の春だ!!


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森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
季節の春に人生の春。やっぱり春はいいな、と思いますね。『武蔵』の感情にはどんな風が吹きますことでしょうか、体感したいものですね。
たとえ時代が険しかろうと新しい夢の開くのは、幸せ!『武蔵』の二人はどんな幸せ物語を紡ぎますかご期待ください。

ね「春一番」懐かしいですよね^^、あの頃の歌今聞いても新鮮なまま。そしてあの頃に自分も戻ります♪

こんにちは

<いよいよ加東副長も人生の春が来たようです>

いいですねえ、こういう流れは。
『武蔵』艦上の風は、どんなでしょうか。
どんな時代も、新しい夢が開くのは、幸せですよねえ。

春一番・・・なつかしい歌ですね。

やまびこさんへ

やまびこさんこんばんは!
ご訪問とコメントをありがとうございます。
楽しみにしてくださってうれしい限りです、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

ponch さんへ

punchさんこんばんは
加東副長もいよいよ『大和』の山中さんの後を追えそうです。
雄々しくそしてたおやかな大和をとめ、それが「女だらけの帝国海軍」将兵です!

この物語、戦没の『大和』の将兵の皆さんをせめて物語という別世界で「生かしたい」という思いで書き始めました。そして当時の世相・風俗なども取り入れて違和感のあまりないよう仕立てました。
戦前の女性には今みたいな自由もなかったですから、話の中で自由にしてほしいと思って…。

『武蔵大和』というと西武線ですね。私の家から近い駅も西武線です^^。

キャンディーズ、好きだったですね、ゆえにスーちゃんの死はとても悲しく自分の青春の終焉に思えました。

いつも興味深く・・・…

 いつも興味深く拝見しています。楽しみにしています。

加東副長にもようやく女の春到来といったところでしょうか。
仕事に恋に強く美しく生きる女だらけのメンツは、まさに日本の大和撫子の鑑だと思います。
金持ちの家の息子の嫁に養女にもらわれた、明治生まれの祖母には恋愛の自由など無かったので、女だらけのメンツみたいに自由な恋愛ができてればなと思います。
今回は大和じゃなくて武蔵の話なんですね。
武蔵と大和といえば、自分の実家の隣近所に「武蔵大和」って駅があるんですよね。
実際にはどうということもない辺鄙な場所なんですけど、
完全に名前負けしてますよね(^-^;)

キャンディーズのこの歌は小学生の頃よく聞いてましたねー。
それだけにスーちゃんの早すぎる死は残念でなりませんが。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
人生の春、とはやはり結婚なんですよねw。でも女海軍の彼女たち、結婚へのあこがれは人一倍あるんですよね~。でも加東さんも仮谷さんも収まるところへ収まりそうで何よりです。
藍川京さんのお言葉沁みてきますね。
どの時代もそれぞれ大変ですものね、そこでまじめに生きることこそ意味のある・価値のある事なんですよね。その言葉胸に生きてゆきたいと思いました。

この二人の結婚までのお話も書きますのでお楽しみに♪

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
やっとこのところあたたたかくなってきましたね。物語の中ではもっと暖かくなっていますw。

今では30過ぎの結婚は当たり前ですが昔は「ありえなーい!!」だったのですよね~、そんな時代に生まれたら女の場合なんか16,7になったら縁談があっちこっちからきて大変だったかもしれません。

『武蔵』でも結婚ラッシュの兆し。さあ『大和』の小泉さんは焦りそうですね。でもほんと、彼女は結婚の似合わない人だから…www!

Gくんさんへ

Gくんさんこんばんは!
キャンディーズというと私の小学校から中学時代を彩ってくれたグループです。スーちゃんの訃報には本当に悲しい思いをしました。
岡村孝子さんは私の20代の一番楽しかったころを彩ってくれました。今でも大好きです。

♪もうすぐ春ですね~
なんて嬉しい出来事なんでしょうか~ご縁ですね~! よかった、よかった! 作家の藍川京先生が「この大変な時代を真面目に生きているというだけで、宝石以上の美しさ、価値があるのでは。」と書いて下さったことがあるのですが、どの時代にも通じますね。本当によかった。これからはもっと輝くことでしょう。お付き合いの様子などまた知りたいです~楽しみに待ちたいです(笑)

冬の寒さを吹き飛ばす

暖かな風が吹き抜けてますね。
今でこそ三十路でも結婚するのは早いことなのですが、当時ではかなり遅い事ととらえられますからね。さて、ますます小泉さんあたりは悔し涙を流しそうですが、それも人生。むしろ彼女は自由なままの方がいいのかも?生まれる時代が早すぎたのかな?

こんばんは!

連載拝読していませんので、YouTubeだけ視聴しましたm(_ _)m。今ごろラジオによくかかる曲ですね。いまや蘭さんは、水谷夫人。好さんはお亡くなりになりました(合掌)。岡村孝子さんはいい曲、作っていますよね。自分は、「待つわ」ぐらいしか知りませんが(笑)。岡本真夜さんなんかもいいです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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