2017-09

横須賀泣き笑い 3 - 2016.02.23 Tue

恥ずかし気に顔を伏せていた仮谷航海長は、そっと顔を上げて相手を見たーー

 

ハッ、とかすかに息をのむ音が隣に座る加東副長の耳朶を打った。そっと見やると仮谷航海長は見合いの相手・鍛冶屋健吾中佐を見つめその頬を桜色に染めている。そして、鍛冶屋健吾中佐も航海長を見つめたままである。彼の頬も心なしか紅潮しているようだ。

加東副長はそれを見て(ああ、この二人は絶対うまくいく。決まったようなものだね。ああ、うらやましい。瀬戸口さんとおっしゃるこの大佐、かなり我々より年上のようだからもう既婚者だろう、素敵な方なのになあ。ああ、なんて縁に見放された私)と内心がっくり来ている。

鍛冶屋中佐の隣の瀬戸口剛三大佐は部下と航海長を見てほほ笑んだ。航海長の父親の太右衛門が今度は娘の経歴を語った。

そして加東副長のほうに顔を向けて

「こちらは実子の艦・『武蔵』の副長、加東憲子中佐であります。娘がどうしてもと無理を言って同席していただいとります」

と紹介した。瀬戸口大佐は「そうですか、『武蔵』の副長…」と言って副長を見たその瞬間、彼の視線は副長に釘つけになった、それを太右衛門は見逃さなかった。

が瀬戸口大佐は何事もなかったように姿勢を正すと、見合いの当事者たちが話をしやすいようにとあれこれ水を向ける。仮谷航海長と鍛冶屋健吾中佐は恥ずかし気にしながらも話を始める。

それに仮谷太右衛門・マサも少し加わった。

なんだか(私ここにいても仕方がないなあ、帰りたい)と思う副長であるが最後までここにいるのが自分の務めだと思って辛抱しようと腹をくくる。空気のような存在であらねばならぬが、ほほ笑みは絶やさない。

目立たないように、とかすかな身じろぎさえ控える副長。食事が運ばれてきたがいったい何を食べたのかもわからないほど〈添え物〉に徹していた。

 

つらい。

これほどつらい時間が今までの人生であっただろうか。

副長は思った。つらいといえば兵学校時代のカッター訓練だとか弥山の駆けのぼりなどがあったがあれは体がつらいだけの話で、かえってすがすがしささえ感じたものだ。

だが今。

この状態は精神的につらい。

何が悲しゅうてまだ独身の私が部下の見合いに付き合って、どうやらうまくいきそうな場面を直視しなきゃいけないのだろう。

私もしかしてこんな風に、部下の見合いに付き添わされて自分の見合いなんて一度もないうちに嫁ぎ遅れてしまうのだろうか。

悲しい。

加東副長は、顔では静かにほほ笑みながら心の中では泣いていた。

 

三時間ほどが過ぎ、見合いの席はお開きとなった。

その寸前に、鍛冶屋中佐は突然座布団から降りるとその場に両手をつき

「仮谷中佐、私と…私と結婚していただきたいっ」

と声をあげ、航海長はびっくりしてその口を半開きにしていた。そして太右衛門に背中をつつかれて我に返ると

「あの、その…こんな私でよろしいのでしょうか?私、家のことは何にもできないんです。いえ本当に謙遜とかじゃなくって!そんな女、あなたのような立派な方に…」

と言ってうつむいた。

が鍛冶屋中佐は顔を上げると

「そんな、家事などはだんだんできるようになります。私の仲間にも艦隊勤務の女性を妻にしている人はいます。皆うまくやっていますから実子さんも平気です、できます!だからどうかお願いします」

と言って再び平伏した。

航海長は「あのお顔を上げてください…」というと座布団から降り、片手をそっと胸に当て深呼吸をした後

「鍛冶屋中佐。こんな私ですがどうぞよろしくお願いいたします」

と言ってほほ笑んだ。その頬が桜色を増した。

瀬戸口大佐が「おめでとう。似合いのお二人ですよ。―ご両親様おめでとうございます。このことは鍛冶屋くんの親御さんにもお知らせして、式の日取りなど決めましょう」と嬉しそうに言って副長を見た。副長も

「よかった、何か今日は上手くゆく。そんな気がしておりましたからほっといたしました。仮谷さんおめでとう」

と祝った。

 

一同は旅館の玄関でそれぞれ別れた。航海長と両親はこのまま数日旅館に泊まりながらこの先のことを決め、鍛冶屋中佐は自分の親に連絡。そして二人は結婚許可願を海軍省に出すことになる。

「なに、海軍軍人どうしですからすぐ降りますよ。『武蔵』は当分横須賀にいるのでしょう?」

そう、瀬戸口大佐は加東副長に尋ねる。加東副長は

「はい。長いこと南方にいましたから艦の修繕他で内地逗留は長くなりましょう」

と言った。

「それでは」と太右衛門が口をはさんだ、「近いうちここで式を挙げられるということでしょうかな」。

航海長が

「でもお父さん、鍛冶屋中佐のご両親が鹿児島にいらっしゃるのでしょう?ここまでいらっしゃるのは大変ではないですか」

と心配そうに言うと鍛冶屋中佐は

「今は静岡に居ります。ですからすぐ来られますよ、ご心配をありがとう」

と言って優しいまなざしで航海長を見つめた。航海長の頬がまた赤く染まる。

そして鍛冶屋中佐は名残惜し気に、瀬戸口大佐とともに旅館を後にしたのだった。「またすぐ連絡をいたしますからね」と言いおいて。

 

男性士官二人の姿が遠くなったころ、加東副長は航海長の両親に

「今日はありがとうございました、たくさんごちそうになってしまって。このお礼は後日必ずいたします」

と礼を述べ、航海長には

「いいご縁があって本当に良かった。休暇中思う存分ご両親に甘えなさい。そして式のあれこれも決めないとね。ではごきげんよう」

と改めて祝意を表すと三人の礼をうけ、それに返礼してから踵を返し加東副長は歩き出した。

 

横須賀の街で用事を済ませた加東副長は、上陸場につくと衛兵所長に『武蔵』に連絡を頼み内火艇を待った。

やがてやってきた内火艇に乗り込んだ副長はいつもと違って無口であった。艇指揮の少尉は(どうなさったのだろう?どこかお体の具合でも悪いのだろうか)と心配した。

『武蔵』について副長は、艦長に帰艦の挨拶をした後自室に戻った。

バタン、とドアが閉まり後ろ手で鍵を閉めると副長の目から滂沱として涙が流れた。

よろめくようにベッドに倒れこみ

(どうして私には結婚の話がないんだろう、私どこかいけないのだろうか。何か悪い部分があるんだろうか、ああ、誰か教えて)

とベッドをたたきながら泣いた。

幸せそうな航海長と、鍛冶屋中尉の姿が目の奥から離れない。

私もあんな風に幸せそうな微笑みをだれかと交わしたい…

 

加東副長の嗚咽はそのあとも長く、続いていた――

 (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

見合いはなんと、うまくいってしまいました!!それはそれでよいのですが問題は加東副長です。見合いの席でただほほ笑むだけの添え物に徹した彼女にいいご縁はないのでしょうか。神様何とかしてあげてえ~~!

DVC00172_20160223232601997.jpg 間宮羊羹です。(画像クリックで大きくなります)
関連記事

● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
もりんさんの気がかり、二話後に明らかになりますぞ!

私も引き立て役の添え物でした。可愛くもなければきれいでもないのでそういうものなんだなと割と幼いころからあきらめていました。それにしてももりんさんのご経験はあまりにひどいし哀しい。
席を立ってしまうのも当然ですよ。でも、そんな経験を持ったもりんさんだからこそ今優しい大きな愛で人々を包めるのですよ。太ってるとかそうでないとか、顔のきれいだとかそうでないとかそんなもの人生においてどれほどのウエイトか。
最終的にはその人の性格なんですよね。

間宮羊羹。海軍兵たちの垂涎の羊羹でした。かなりでかかったらしいですよw、本物を見て食べたかったものです。
それにしてもまだまだ知らないことがたくさんあって、だから海軍の世界は面白いです!

こんばんは

わたしも、一番、気にかかるのは

お父さんは、何を感じて、何を知ったのでしょうか。

それにしても加東副長のこと、同じ気持ちで涙がでそう。
わかるのです、気持ちが。

わたしは、若い時からおデブでした。可愛い女の子の引き立て役でした。
学生時代に、山口百恵ちゃん似のモテモテの女の子の
引き立て役で、食事に行ったことがあります。
彼女と彼女にアタックする彼が、仲良くしていました。
結局、私は、途中で帰りました。
だから、加東副長をほめたい。えらい!!

間宮羊羹・・・もちろん検索して詳しく調べました。
めっちゃ、興味しんしん。
知らなかったので、勉強になりました。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
うっかり太右衛門、のようで意外と見るところは見ているな!という感じの仮谷のお父さんです。さあ、この後どうなりましょうか。お楽しみにしていてくださいませ!

そう、小泉兵曹みたいなイケイケなら加東さんも苦労しないのですが加東さん、やまとをとめですので小泉みたいなことはできないんですよね(-_-;)。
小泉兵曹、またくしゃみ…w。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
女ごころは複雑で哀しいですね。自分は一人でいいとうそぶいてみても本心はだれかと家庭を持ってみたい。さあ加東副長、いいご縁が捕まるといいですが…。

おお、グアムですか!
青い海と空、いいですねえ~。私もどこかの南方の島に行って日がな一日ぼーっとしていたいですw。もう毎日に疲れ果てました。

今夜はまたことのほか寒いですね!!オスカーさんどうぞ暖かくしてお過ごしくださいませね^^。

仮谷さんのお父様、何かを感じ取られた様子ですな。瀬戸口大佐も加東副長と同じことを気にしているのであれば、ここは一つ名誉挽回の好機。一見落ち着きがある方というのはすでに伴侶がいるように見えますから、案外Wでご婚約?さらに結婚という流れ?

加東さんに小泉兵曹の10分の1程度の積極性があれば、海軍だけとは言わず世の中の男性が放っておかないと思うのですが。お、どこからともなく小泉さんのくしゃみがw

こんにちは。
加東副長の嘆きにこちらもせつなくなってしまいます~おとめ心・女心が哀しい~早くよいご縁を!と祈らずにいられません~見張り員さま、どうかよろしくお願いしますねっ!
今日は下の子がグァムのお土産を持ってきてくれました。快晴で楽しい旅だったようです。青い空に白い砂に透き通った綺麗な海……こんなところで1週間くらいのんびりしたいですね。


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/1067-806ac037
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

横須賀泣き笑い 4 «  | BLOG TOP |  » 横須賀泣き笑い 2

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (110)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード