2017-10

横須賀泣き笑い 1 - 2016.02.17 Wed

「女だらけの戦艦武蔵」は久々の内地を満喫していた――

 

各分隊の将兵嬢たちは、それぞれの配置の仕事や訓練の合間に上陸、あるいは一週間から十日ほどの休暇をもらって嬉しそうに艦を降りてそれぞれの目的の場所へと散ってゆく。

甲板で、きょう最後のランチを見送った加東憲子副長は大きなため息をついた。甲板士官の金子ナミ少尉が

「どうなさいました副長?どこかお悪いのではないですか、すぐに軍医長にお見せしないと」

と言ったのへ副長はやや力なく微笑むと

「いやいや…平気です。どこも悪くはないですからご心配なく金子少尉。気にかけてくれてありがとう」

と言って「では後で」というと小走りに去って行ってしまった。金子少尉は当番兵嬢が持ってきた上陸札の入った箱を「ありがとう」と受け取ると(副長、なんだか変だなあ)といぶかりながら歩き出した。

艦橋への扉を開けたとき中から猪田艦長が出てきて金子少尉ははっと敬礼して道を開けた。

金子少尉に微笑みながら猪田艦長は外に出てまぶし気に目を細め、

「内地はやっぱりいいですね。日差しでさえ優しいですね…トレーラーもいいんですがあの日差しはきつすぎて。やはり我々日本が一番ですね」

と金子少尉に言うと空を見上げた。

金子少尉も「その通りでございます、艦長」と答えた。

視線を金子少尉に戻して猪田艦長は

「どうしました?金子少尉、何か気にかかることでもあるのですか」

と静かに尋ねた。金子少尉ははい、と言ってから

「加東副長のお元気がないんです。なにか、こうため息ばかり吐かれて、普段とは違うんです。なんだか気になってしまって」

と答えた。すると猪田艦長は小さく「ああ!あのことか」とつぶやいた。それを聞き逃さず金子少尉は猪田艦長を見つめた。

艦長は

「あなたは甲板士官で副長とは懇意の仲ですから言いますが、これはだれにも言ってはいけないよ。いいね?」

と念を押してから

「副長はね…」

と話し出したーー

 

加東副長は、羨みを感じていたのだ。

誰に?というなら『大和』の山中副長にである。山中副長と加東副長は海軍兵学校では二期違うだけである。山中副長が上ではあるが年齢は同じという関係で仲が良い。しかもお互いに海軍期待の弩級戦艦の副長ということで尚更である。お互い、軍務に一所懸命で色恋など縁がない、と言っていたはずなのに。

なのに。

山中副長は結婚をしたという、しかも相手は幼馴染。そしてさらに噂によれば、彼女はおめでたらしい。加東副長は悲嘆にくれた。なんで、なんで私を差し置いてあの人は結婚しちゃったんだろう、悲しい。

そんな思いで日々を暮らしてきた、ゆえに何か悲しげでため息ばかり吐いているのである。

加東副長のそんな思いはすぐに猪田艦長の知るところとなった、内地に帰ってすぐの晩猪田艦長は自室に加東副長を招き

「どうです?一緒に紅茶でも飲みましょう」

と手ずから紅茶と菓子をふるまってくれたのだ。その際、どうも副長の様子がおかしいと指摘され、加東副長は涙ながらに「野村さんに先を越されたのがどうにも悲しいのです」と告白したのだ。猪田艦長、正直言って笑いたかったがかわいい部下、それも副長の悲しみを笑い飛ばすこともできず「生む」と腕を組んで考え込んだ。

ややして艦長は

「ねえ加東さん、こればかりはご縁なんだよ。ご縁。こちらがどんなに望んだとしても縁がなければ相手は来ない。でも縁があればおのずとつながる。それが縁談とか結婚というものではないかな?あなたが焦る気持ちはよくわかる、『大和』の野村さん…今は山中さんだが…と、あなたが同い年ならなおさらだね。でも焦ってみたところでどうしようもない。早いからいいご縁、遅いからそうでないなんてことは絶対ないし、第一あなたまだ若いからそんな焦ることはないよ。焦って、後になってしまった、と思うのは嫌でしょう?そうだ〈待てば海路の日和あり〉といういい言葉があったよね。その通り、心落ち着けて待っていなさい」

と副長の瞳の奥を見つめ、噛んで含めるように諄々と説いた。副長の瞳が涙でぬれ、やがて「分かりました艦長。――ありがとうございます、ごめんなさいこんな私事で艦長のお心煩わせてしまって」と謝った。その副長の肩をやさしく叩いて猪田艦長は

「気持ちはよくわかりますよ、でもね結婚は競争ではないんですから。大丈夫、加東さんならきっといいご縁がありますから」

とほほ笑んだのだった。

 

いいご縁が、あるのだろうか?

そんな思いが、加東副長の様子をどことなく元気なさげに見せていたのだろう。

金子少尉は、艦長から話を聞いて合点した。そうだったのですか、それはお辛いことでしょうと少尉は言って

「このこと私一人の胸にしまっておきます、他言は致しません」

と艦長に固く約束した。

猪田艦長は深くうなずいて少尉の肩をやさしく叩くと艦首のほうへと歩いて行った…

 

そんな折。

仮谷航海長の両親が突然、「横須賀に行くから会ってほしい」と手紙をよこしてきた。航海長は首をひねりながら

「今までそんなことはなかったのに、どうした風の吹き回しでしょうねえ?会ってくれと言ったって私だって忙しいというのに」

とぶうぶう文句を言った。加東副長は

「ずっと長いことあっていなかったんでしょう?仮谷さん会ってきたらいいのに、そうだあなた休暇を今までほとんどとっていないんだからこの際まとめて取ってみたらいい。ご両親だって遠方からいらっしゃるんだから一週間でも十日でもいいじゃない?特に急ぎの用事もないし、あったとしても皆であなたの不在中は何とかできますから。ね、ご両親に手紙を書きなさいよ」

と勧めた。

仮谷航海長は渋っていたが、副長の勧めを受け入れて「ではいつ頃がいいか」と話し合いをし、航海科員や各科長そして艦長の決裁を受けて来月月初めから十日ほど休暇をとることにした。

「いったいどんな用事なんだろう」

と不審がる航海長に副長は

「どんな用事もこんな用事も、娘に会うのに理由がいるかね?」

と言って笑った。

猪田艦長も

「ご両親が。それはいい、作戦もない時だからゆっくりお会いしておいで?航海長は本当に長いことまともに休暇を取ってないんだから、ひと月でもいいくらいだよ」

と賛成してくれた。

 

そして仮谷航海長は両親に宛てて、〈来月月初めに休暇をいただけることに相成りました。詳しひことはまた後程手紙にて〉と手紙を書いた。

そして休暇の一週間前に再び両親から手紙が来て〈横須賀の『漁火亭』という旅館に来ている。休暇に入る日に港で待つ〉という内容であった。

「なんだ、旅館で会えばいいのに」

と笑い飛ばした航海長、休暇に入る日に副長も用事があって上陸するので「では私も航海長のご両親にちょっとだけ会ってご挨拶をしよう」と言う。

航海長は

「そうしたら昼飯でも一緒にいかがですか?」

と言って副長は「お邪魔じゃなければね、せっかくの親子水入らずなんだから」と言ってほほ笑んだ。

 

その日は、もう間もなくである――

 (次回に続きます)  

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『武蔵』のお話です。

加東副長、『大和』副長の結婚に相当ショックを受けていたようですが優しい猪田艦長の言葉に立ち直っているようですね。

そして仮谷航海長の親が久々に会いに横須賀に。何か騒動の予感?がするようなしないような?…次回をお楽しみに!

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● COMMENT ●

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
やはりそこは女性ですもの~~という彼女たちの声が聞こえてきそうです。
勇ましく雄々しい海軍軍人の彼女たちですが中身はやっぱり女なのです^^!

最前線でバリバリ戦ってる女だらけのメンツでも、結婚は気になるものなんですね。
ちょっと意外だなと思いました。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
人はだれにも羨みとか嫉妬の感情はありますがそれが高じて人の道を踏み外しては元も子もないですよね。特に女の場合〈結婚〉は大変な嫉妬の渦巻く場面でもありますから怖いですぞw。
しかし海軍軍人の加東さんですから馬鹿な真似はしないと思うのですが、さあどうなりますか??
そして仮谷さんの両親はどんなつもりで来たのかこれもお楽しみに^^。
実は大変などんでん返しがあります…^^。

上戸彩の結婚に嫉妬して常軌を逸してしまったベッキーを思い出しました。
しかし加東副長は帝国海軍の優秀な女性。一時的な気持ちの動揺であってもらいたいですね。
とは言うもののやはり心穏やかではないのも事実。さて行く末が気になるところです。

そしてもうひと方。両親が会いたいという報せとセッティングの場所。
これはもうお見合いしかないのではと。
物語も徐々に春めいてきたと思ってよいのでしょうか(笑)

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
花嫁レースとでもいいましょうか…加東さん先を越されて悔しいですが、ここはぐっとこらえねばねw。なんといってもこれはご縁ですからね(-_-;)。
やはり「女」なのですよね。

横須賀、以前行ったことがありますが好きな街の一つです。また行ってみたいと切に思うものであります!

こんにちは

ご縁というのは、いつの時代も、同じですね。

加東さんの気持ち、わかります。
勇ましい仕事をしていても、それとは別の人間模様。

さて、横須賀では・・・
横須賀というロケーションが、高揚しますねえ。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
お元気でしたか?お忙しいとお見受けしております、どうぞお大事にお過ごしくださいませね^^。

「横須賀ストーリー」!いい歌でしたよね^^、あんなふうな素敵な世界を描きだしたいと思いながらどうも私が書くとみょーな世界になりますねw。ともあれ『武蔵』の若い人々の縁談。どうなりますやらご期待ください!

ほんとに風さえなきゃいいのにと思いますね、日差しは本当に春を思わせます。遠くないんだなあ~とうれしくなります。

お互い二月を元気で過ごしましょうね♡

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
きっと…見合いでしょう(;´Д`)。本当に見合いだとして仮谷さんはどうするのでしょう、そのまま結婚かはたまた縁談けり倒すか。そして加東さん、野村中佐の結婚でがっくり来てまたこれでがっくとくると、ちとまずいかも。
さてどうなりますかお楽しみに。

こんばんは。
なんでしょう、いろいろ気になることばかり! 見張り員さまの紡ぐ『横須賀ストーリー』は百恵ちゃんの歌のようにきっとドラマチックになるに違いない!と勝手にドキドキしています(笑)
風がないと陽射しは春のおだやかさがありますね。お互い身体に気をつけて2月後半をのりきりましょう~!

両親が早めに会うように急ぐことと言えば、いきなりお見合いのパターン?
そうなると加東さんはどのような位置づけになるのでしょうか?

大和でも航海長、副長の順で結婚でしたけど、加東さんの今の心持ちを考えると複雑?ですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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