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「女だらけの戦艦大和」 ・ 見合い乙女無残<四>

「女だらけの戦艦大和」は朝を迎え、二人の帰艦を待っている――――

 

分隊士は、その朝早く目を覚ました。ふと横を見れば、兵曹がいない。(しまった、、、もしかして、、、)とあわてて寝巻の前を掻き合わせ、階下に降りた。そしたらなんと、台所から女主人と兵曹の笑う声が聞こえてきた。

そっと台所を見ると、見張兵曹は昨日持ってきたもんぺを着て、女主人とともに朝餉の用意をしていた。なんだか楽しそうな様子に、ちょっとだけ分隊士はほっとした。部屋に戻って、着替えることにした。

やがて、見張兵曹がそっと階段を上ってきて、部屋のふすまを開けた。分隊士は「おはよう、オトメチャン」と声をかけた。兵曹は昨晩のことがあるので、麻生分隊士を正視できず、顔を赤らめてそこに座ると「おはようございます。あの、、朝ごはんが出来ました」と両手をついてあいさつした。まるで初夜の明けた花嫁そのものである。

「ありがとう、、、じゃ、、いただくか」と分隊士は兵曹を抱きしめてから、階下に降りた。女主人は「麻生さん、あんた、いい嫁さんをもらったねえ!なんでもできるし、気がつくし。あんたにゃもったいないくらいだよ」と笑った。

麻生分隊士は「よ、、嫁さん、、、」と言ってニタついた。が、今日これから<大和>に戻ってからの事を思って少し表情を引き締めた。

 

食事の後、分隊士は部屋を片付けた。身辺整理のつもりである。それを兵曹は痛ましげに見つめた。「分隊士、、、私とかかわったばっかりに」と言った。分隊士は「気にするなって。オトメチャンと一緒に逝けるなら本望だよ」と笑った。

二人はその後、下宿を辞した。優しい女主人と別れを交わし、兵曹はちょっと悲しくなった。女主人は「しっかり麻生さんを支えてやってね、で、今度来るときは赤ちゃんを連れておいでよ」と兵曹の肩をそっと叩いた。

麻生分隊士との赤ちゃん、、、ちょっとかなり相当絶対無理ではあるが、「はい」と言って別れた。

ランチの待つ上陸場まで40分ほど。否応なく高まる緊張感。

衛兵所を通る時、「あれ?麻生分隊士と、、、見張兵曹?兵曹は5日休暇じゃないの?」と衛兵所長に言われたが「ええ、、ちょっと都合があって」とごまかした。もんぺ姿の兵曹に「そうやって二人で歩いてると、、、まさに新婚さんだねえ、ワハハ!!」と無遠慮な声を投げかける衛兵所長に一礼して見張兵曹は分隊士のあとに従った。

 

そして。

<大和>防空指揮所では、小泉兵曹に抱かれたトメキチが吠えたてている。小泉兵曹がトメキチの吠える方向を見ると、どうやら上陸場のほうだ。(二人が帰ってくるんだろうか?)と思った。

やがて舷側に接近したランチには、麻生分隊士と見張兵曹が乗っていた。軍装姿の分隊士と、もんぺ姿の兵曹が<大和>の舷梯から上がってくる。

小泉兵曹に抱きかかえられたトメキチが狂喜して、吠えまくる。

兵曹がそれを見上げて嬉しそうに「トメキチ!!」と叫んで手を振るーーー。

 

艦長、副長、森上参謀と3人そろった艦長室に、麻生分隊士と見張兵曹がいた。兵曹はもう、一種軍装に着かえ顔色は青ざめている。

麻生分隊士は昨日の出来事を洗いざらい話した。見張兵曹は自分が「不義の子供」であることを告白した。そして、見合いはこういうわけでダメにした、という具体的なことも時々言葉に詰まりながらも告白した。

兵曹は「こういう失態を犯し、また不義の子供である私が<大和>と海軍に大きな恥をかかせた罪は大きいです。私はこのままでいられるとは思っていません。自決をお許しください」と願い出た。

麻生分隊士も「今回のことは私にも大いに非があります。私も同様に」と、艦長に詰め寄った。

3人は驚いた顔で聞いていたが、やがて艦長が森上参謀を見た。参謀は、「艦長に代わって言うけどなあ、、、お前ら」

二人は「自決を許す」という言葉が発せられるのを待った。が、参謀の口からは、

「馬鹿じゃねえの?見合いなんてチョー個人的なことじゃん?その失敗で自決だなんだ言ってたら貴様ら命がいくつあっても足りねえよ?・・・不義の子?そんなことがどうしたってゆうんだよ。親の責任だろ?オトメチャンの責任じゃねえし、オトメチャンも分隊士もいてくんなきゃ困るんだよ。勝手に自決なんかしてくれちゃあえらい迷惑なんですよ」

と意外な言葉が。

艦長が口を開いた。

「副長に頼んであの後ちょっと<幕張入間>って人を調べたんだけど、このひとが納入会社の社長だとかそんなんじゃないんだよね。納入会社の下請けのさらに下請けの買い付け係みたいな役職なんだよ。きっと取り入るのがうまくって、海軍省の見張さんに今回の話を持ってったんだろうけど。 納入会社って言っても、海軍としては品物があんまりよくないし、たいして納入量もないから近々、業者から外す対象になってるんだって主計長が言ってるから気にしなくっていいよ、全然。

でねえ~、オトメチャンの5日の休暇ってのが曲者でその間、オトメチャン監禁して幕張入間にやりたい放題にさせたかったらしいよ、見張さんは。分隊士の2日ってのはオトメチャンをあきらめさせるためと、初夜を邪魔されないように軟禁するためだってよ。見合い終わってそのまんま返しちゃうと、分隊士絶対オトメチャンを迎えにくるでしょう?」

副長も「そうそう。全部計算ずく。あの幕張なんとかって奴は、なんか野心だけは人一倍あって、戦争に勝って物資がたくさん外地からくるようになったらどこかにでっかい歓楽街をつくりたかったらしいよ?そんなことおもってるなんざ、俗物だよ。そんな奴に引っかからなくってよかったよ、オトメチャン」と言った。

二人の体から、緊張感が一気に抜けて行った。全く危なかったーーー。<監禁>に<軟禁>、、、いったいどういう趣味なんだか、あの二人の本質。

緊張感が抜けるとその場にへたり込んだ。自然に涙がわいた。

「そうだったんですか。そんな奴らだったんですか」 ほっと安堵の二人。

 

艦長室を辞して、二人は艦橋に行った。みんなが集まってきて「お二人がご結婚なさったんでありますか??」とか、「お見合いはどうだったんでありますか!?」とか「お相手はどんな人だったんでありますか」とか、「お料理はうまかったでありますか?」とか口ぐちに聞いてきた。それにいちいちうなずく二人に小泉兵曹は「でもよかった。二人がいないと<大和>の航海科じゃないよね!」と言って、みんな同意した。

麻生分隊士は嬉しそうに笑い、見張兵曹もうれしそうに分隊士を見上げた。トメキチがこれもうれしそうに二人のまわりを二本足で歩いて回る。そして敬礼を誰彼にしている。

防空指揮所に明るい笑いがはじけた。

 

その晩、麻生分隊士と見張兵曹は、分隊士の部屋でお茶を飲んでいた。さっき当直を終えたばかりの兵曹の体は冷えていたので温かいお茶がうれしい。

分隊士が「しかし、昨日の今頃はえらい目に遭っていたな」とぼつりと言った。「はい、、、でも分隊士のおかげで助かりました」と兵曹は湯呑を手のひらに包みこみながら笑った。

分隊士は立ちあがると「・・・昨夜は、よかったよ・・・」と言って、兵曹をいきなり抱きしめた。

お茶が兵曹の膝にこぼれた「あちっ!!」と思わず小さく叫んだ兵曹を分隊士は抱き上げて、「これはいけない、、やけどしちゃうよ、すぐ脱がなきゃ」。

当惑する兵曹を分隊士は、ベッドに寝かせて脱がせる。

「さあ、、昨夜の続き、しようか?――下宿のおばさんに<赤ちゃん>見せたいもんなあ」とありえないことを言って笑う。

もう、<いや>と言えなくなってしまっている見張兵曹であった、ここまで来ちゃえば「いや」と言ったところで単なるたわむれにしか分隊士は取らないであろう。なぜなら昨夜兵曹は乱れる心とはいえものすごいことを言っちゃってる。あれはどう聞いても分隊士の愛を受け入れます、としか聞こえない。

でも、、、、

兵曹に取って唯一の救いは、分隊士が兵曹の<乙女の部分>に決して手を触れないということである。「それだけ」に安心して、仕方なく分隊士に身をゆだねるオトメチャンであった――――

・・・・嗚呼。

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

無事に何事もなく済みました。よかったよかった。

<幕張入間>氏の名前は、ふとショッピングモールの事が頭に浮かんで、思いつきました。なんかかっこいい悪役っぽい名前でいいかな、、と思ったんですが、ただの変態親父でした(泣)。しかも、問題にならないくらいの小物でしたね(笑)。

 

さあ、この後の分隊士と、オトメチャンの恋?の行方はいかに、、、?

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コメントの投稿

Secre

松ちゃんさんへ

こんばんは

やはり「大和」が一番安全なのです。お外はこわいです。・・かといってお外の誘惑に勝てませんし、、、どうしたものでしょうか。
まあ、、、パンツは最初っから穿いてゆかない方がいいようです(笑)。

matsuyama さんへ

こんばんは

やっと何とか決着つきました分隊士と兵曹であります。
愛も、、実ったようですし。でも「子供」はどう考えても無理無理、、、ですね。まあ、この二人ならきっと何らかの方法でハードルを越えるんでしょう。
今後も応援してやってくださいね~!

上陸不許可!

見はりんさん、こんにちは。 大和を降りる度、色んなアラ~キ~な世界が待ち受けています・・・ 大和に戻ると少し肩の力が抜けるのはなぜなんでしょうねぇ~今度陸に降りたらどんな災難が降りかかってくるのでしょうか心配です。 きっとパンツ履く暇ないですね!

NoTitle

無事問題解決してめでたしめでたしです。
それにしても麻生分隊士との愛が成就したようですね。
お嫁さんになったとはいえ、子供は無理でしょうけど(笑)。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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