2017-10

フラワーシャワー 1 - 2016.01.28 Thu

ナニサ諸島の飛行場砲撃作戦は大成功に終わったーー

 

各艦艇はトレーラーに戻り、通常業務につくもの、元の基地に帰るものなどそれぞれであった。その中で『瑞鶴』の貝塚艦長はリンガへ帰る前日の朝、トレーラー海軍診療所に山中次子中佐を見舞った。貝塚艦長は横井院長に案内され山中中佐の病室に向かった。病室のドアを院長がノックすると「どうぞ」と声がして、横井院長はドアを開けて「山中中佐、ご気分はいかがですか?-お客さまですよ」と声をかけた。

その日の中佐は、顔色は相変わらずよくないものの気分はいつもよりは良かったようでベッドの上に起き上がって本を読んでいたようだ。まあ、どなたでしょうと本を閉じた中佐に横井院長は

「ご紹介します、こちら空母『瑞鶴』の貝塚たけよ艦長です」

と貝塚艦長を紹介。山中中佐は「まあ、貝塚大佐!」と声を上げると掛け布団をはぐってベッドから降り立った。貝塚艦長は

「あ。いやそのままで結構ですよ…。山中中佐、こうしてお会いするのは初めてですね。空母『瑞鶴』艦長・貝塚たけよ海軍大佐です。このたびはご懐妊の由、おめでとうございます。どうぞお体いたわって、丈夫な御子のご出産をお祈りいたします」

とあいさつ。中佐はこのような姿で失礼いたします、と言ってから

「ありがとうございます。山中次子海軍中佐でございます。『瑞鶴』では夫の山中新矢海軍技術大佐がお世話になっております。しばらくはご厄介になると思いますがどうぞよろしくお願いいたします」

と頭を下げた。

貝塚艦長は「さあ、どうぞベッドに」と中佐の肩を抱くようにしてベッドに座らせた。申し訳ございません大佐、と山中中佐は恐縮した。中佐にとって、貝塚艦長は海軍兵学校では数期上の先輩である。その先輩に丁寧に扱ってもらって中佐は大変恐縮した。

中佐がベッドの上に落ち着くと横井院長は「ではごゆっくり」と部屋を出て行った。その院長に礼をした貝塚艦長、ドアが閉まると中佐に向いて

「今回の戦闘では、山中大佐・繁木少佐の施された『松岡式防御装置』がたいへんに功を奏したんですよ。飛行甲板の日の丸部分や、狙われやすい機銃座に装置を施していただいたんですが、すごいですねえ。『翔鶴』飛行甲板に投弾された敵の爆弾が、あの装置に当たって思いっきり跳ね返って、敵は自分の爆弾で撃墜されたんですからね…いやはや素晴らしい装置です」

と、戦闘中に見たあれこれを中佐に語った。

中佐はその詳細な〈戦闘報告〉にうなずいてみたり質問したりして時のたつのを忘れた、ついでに気分の悪さも忘れた。

 

話し出して二時間もたったころ、貝塚艦長は「今回…ご主人の山中大佐をこちらにお連れ出来なくて申し訳なかったです。リンガ司令部が残るようにと言ってきかないのですよ、ほかに見てほしい艦もあると言って」と謝った。

山中副長は「そうでしたか、夫も海軍工廠の技術者ですから、それは覚悟の上だと思います。そのうちきっと」と言って言葉を切って下を向いた。貝塚艦長は言葉を引き継いで

「そうです、遠からずきっと大佐はこちらにいらっしゃることでしょう。その日を楽しみに待っていてくださいね」

と言い、山中副長は嬉しそうにほほ笑んだ。

 

そんなころ『大和』では皆が飛行場砲撃作戦についてあれこれと思い出話に興じている。

長妻兵曹は

「すごかったのう、あの主砲の大音響。艦の中に居っても腹にこたえるようじゃったな。じゃけえ、砲撃食ろうた飛行場はたまらんかったじゃろうね」

とうなって腕を組んだ。増添兵曹も

「ほうじゃねえ。それに「金剛」「比叡」の主砲を食ろうてはいかにアメちゃんと言えどたまったmンじゃなかったろうねえ」

と言って二人はウフフとうれしそうに笑った。

主砲射撃指揮所では井江田大尉、邑田大尉が小さな反省会を持っていた。「ちいと弾着がずれとったような気イするが?」「ああ、もうちいと手前に弾着するはずじゃったが。射撃の練度をもっと上げんといかんな」

などと言ってこちらも腕を組む。

 

この戦いは、内地で報道された。

〈向かふ所敵なし!帝国海軍大勝利。大型戦艦大砲撃ス〉

という見出しで大々的に報道されラジオでも軍艦行進曲もにぎにぎしく、敵の埋め立て飛行場を砲撃し占拠したということが報道された。

アナウンサーのやや興奮した声が、梨賀艦長の留守宅の、山中副長の東京の両親の家の、森上参謀長の親兄弟の、…多くの乗り組み将兵の留守宅のラジオのスピーカーを震わせた。さらに東京築地の聖蘆花病院では新聞を前にして日野原軍医長の夫、息子の昭吾、そして桐乃が三人手を取り合って喜んでいる。

そしてグアムの南洋新興支店では、高田兵曹に求婚している佐野がラジオをつかむようにして

「やった…やったぞ!高田さんよくやりました!」

と泣かんばかり。

広島の小泉商店では社長の孝太郎とその妻のエイがラジオに聞き耳を立てていたが大型戦艦が砲撃して大勝利というのを聞いて二人手を取り合って飛び跳ねて喜んだ。エイは「純子さんやったねえ、えらいわあ。今度お帰りになったらお土産話を聞きたいですわあ」と涙ぐんで喜ぶ。

そして同じく小泉商店の社員たちも大喜びした。中でも紅林次郎は皆から

「紅林さん、ええのうー!紅林さんの許嫁さんは大手柄じゃ」

と言われ、頬を真っ赤に染めている。

増添兵曹の実家では、畑仕事中に隣家の主婦が新聞を振りながら走ってきて、庸一が「なんじゃね、そげえに大ごとがあったんかね?」というと主婦は

「増添さんがたの要子ちゃん、大きなフネに乗っ取りんさってじゃろ。そのフネがな」

と新聞を差し出して言いかけたところで「なにー!要子になんぞあったんかー」と庸一が大きな声を出し、新聞をわしづかみにした。何事ね?と言いながら妻のさつきと、兵曹の母・やゑが寄ってきた。庸一は震えながら「要子になんぞあったらしい…今新聞読むけえ心して聞けえや」と言って、やゑとさつきは(まさか、要子ちゃんが)と不吉な思いに胸が塞がったが

庸一が「ええと…今次作戦において帝国海軍は大勝利を収めたり。大型戦艦の決死的砲撃により敵飛行場は壊滅セリ…じゃと!ああえかった~、うちゃあ要子になんぞあったんか思うて気が気じゃなかったわい」と言って涙を腕でぐいと拭いた。

やゑとさつきも「要子ちゃんがそげえな大手柄を立てて」と言って二人抱き合うようにして感涙にむせんだ。

呉の海軍工廠では総員大喜びだったが分けても、山中大佐・繁木少佐の所属の部署ではわがことのように皆大喜び。江崎少将も「それは良かった…。山中中佐は戦闘に参加できなかっただろうが、この勝利は副長としての中佐の存在あってのものだ。彼女は素晴らしい副長だ、その彼女を妻にした山中君は男冥利に尽きるだろう。それに繁木君の航海長の奥様の働きもあってのことだ。航海長の操舵がしっかりしていてこその艦である。航海長がしっかりしている艦は絶対だよ…二人とも、本当に良かった」と語った。

長妻兵曹の許嫁の毛塚少尉は「昭子さん無事だったんですね、ああよかった!―早く会いたい」と遠い南の海に思いをはせる。

 

さらに、桜本兵曹の祖母・伯父・伯母たちもこの嬉しい話を聞いて

「えかったねえ、トメちゃん。あの子がおるけえ『大和』は安泰なんじゃと分隊長さんが言うとった。きっとトヨも洋二郎さんもよろこんどってじゃろうねえ」

と言って仏壇に手を合わせた、「おじいさん。トメちゃんがお手柄ですよ」と祈りながら。

そしてー自分たちでは「もうあん家とは縁を切った、切られたけえ」と言っている松本少尉、麻生分隊士の実家でもこの報道を聞いて家族たちが

「無事じゃったんじゃね。…最近手紙の一つも来なんだが、便りのないのはええ便りいう言葉通りじゃね。あの子、がんばっとってなね」

とそっと手を合わせているのだった。

 

リンガ泊地の山中大佐・繁木少佐のもとへも大勝利の報せは届き、大佐は

「繁木君、大勝利だそうだ。よかった…むろん皆無事。繁木君の奥さんも大活躍だったね。ああ、よかったよかった。それに『瑞鶴』『翔鶴』もあの装置で無事だったというし、もう言うことないね。実験段階ではあったけど大きな収穫があったよ」

と言って繁木少佐も

「どうなることかとハラハラしておりましたが上首尾だったのですね、本当に良かったです。山中中佐もお喜びでしょうね」

と言って嬉しそうだ。

二人はリンガの青い海と空をすがすがしい思いで見つめた。その先には…二人の愛しい妻がいる。

 

山中副長は、貝塚艦長を見送ったあと診療所の庭に出た。久しぶりの外の空気に、副長の心は弾んだ。自分の体の奥に芽生えて息づいている小さな命に、目に映るものを話しかけながら。

と、彼女の上に何やら飛んできたものがある。なんだろう?とよく目を凝らしてみれば、

「あ、あの時の蝙蝠さんがた?」

そう、以前旧姓・野田兵曹がトレーラーで捕まえ、『大和』艦内の自分のチェストの中で飼っていて大ごとになってのち、トレーラーに返したあの蝙蝠三羽。

その蝙蝠が家族らしい蝙蝠を数匹ずつ引き連れて副長の頭上にやってきたのだ。

じっと見上げていると蝙蝠たちはあの時に礼を言うかのように副長の頭上を舞った後、何かを落としてきた。

副長の周囲に落ちたそれはきれいな花々。

蝙蝠は、副長の結婚と懐妊そして今回の『大和』たちの勝利を知ったのだろうか。祝いのフラワーシャワーである。副長はそれをいくつか拾い上げると

「ありがとうー、どうもありがとうー!あなたたちも元気で幸せにねー」

と叫んて片手を大きく振った。蝙蝠たちはそれにこたえるかのようにしばらくの間大きな円を描いていたがやがて一列になってどこかへ飛び去って行った。

 

それからしばらくして『大和』艦上でもこの蝙蝠たちの姿が。

報せを受けた艦長参謀長ほか科長たちのほかに、高田兵曹も急いで駆け上がってきた。懐かしいあの子たち、痛い目にあわせてしまって本当にすまなかった、ひとめ会って謝りたい。

高田兵曹は甲板に上がると上空を見つめた。飛んでいるのは間違いない、あの子たち。しかも家族を連れている。

「おーい、みんなあ。うちじゃ、うちじゃ覚えとってかね?うちはもう、野田じゃないで。うちは高田という名前になって生まれ変わったんよー」

高田兵曹は少し離れた場所に艦長たちがいるのも気が付かないか、大きな声で蝙蝠に叫んだ。

「あん時はすまんかったのう。ひどい目ぇに合わせてしもうてすまんかった!許してくれえ」

高田兵曹の声が涙に歪んだ。艦長たちがこちらを見つめている。

「すまんかった…」

そういって涙を流す兵曹、すると蝙蝠たちが高田兵曹の上に集合すると…ここでも花を落としたのだった。兵曹はその花を手に受けた。きれいな南洋の花々。

兵曹は蝙蝠たちを見上げると

「ありがとう!ありがとう…」

と言って泣いた。蝙蝠たちは、今度はうんと高く昇ってゆくと『大和』の上で何度も何度も大きく円を描いて飛んだあと、もう一度高田兵曹の上で一回りすると、島の奥目指して飛び去って行ったのだった。

 

蝙蝠たちはかつて自分たちが暮らした『大和』のことを、飼い主だった高田兵曹が新しい人生を歩みはじめたことを、危機を救ってくれた山中副長のおめでたごとを、それぞれ悟って祝福に来たのだろう。

それを目撃していた多くの乗組員たちの心に、さわやかな風の吹きぬけた午後であった――

 

            ・・・・・・・・・・・・・

戦い済んで、その後でございました。

どこの留守宅も、職場もこの勝利の報道に喜びほっとしたことでしょう。そして肉親の縁はそう簡単には断ち切れません。便りがないのを寂しく思いながら、勝利の報にほっと胸を撫でおろしている松本・麻生両特務士官の実家の人々です。

次回はマツコたちです、お楽しみに。

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
貝塚艦長のさりげない思いやりですね^^。しかも自身の艦に乗っている人ですし、本当なら一緒に来たかった大佐の活躍を報告してくれたわけです^^。
次ちゃんにとっては何よりの見舞いです、そして『大和』ほかの艦艇に乗る将兵嬢の家族たちの喜びが沸きあがっております!

フラワーシャワーを使った話を書いてみたかったので、喜んでいただけて本望です^^!

貝塚艦長はきっとツギちゃんにご主人の活躍を直に報告にみえたのでしょうね。
身重でツワリの激しいツギちゃんにとって何よりのお見舞いであったに相違ありません。
そして日本中に居る縁のある人々の喜びと身内の誉れの渦。心地よいです。

何もかもを祝福しているかのようなフラワーシャワー。なんて素敵なんだろう。
見張り員さんの優しさが伝わってくる心憎い演出ですね。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは!
この物語も長くなってきたので、途中から読み始めてくださった方には「?」の展開もありますね。
というわけで次回、登場人物をきちんとご紹介いたしますので待っていてくださいませ^^。
ちなみにマツコは鳥。トメキチは小犬。ニャマトは子猫です。

実は女だらけの戦艦大和は途中から読み始めたので、
登場人物のことをまだ全部把握しきれてないのですが、
ニャマトマツコトメキチは、犬猫なんでしょうか鳥なんでしょうか。
少なくとも犬猫や人間に翼はついてないと思うのですが。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
松本少尉も麻生中尉も結構激しい仲たがいをした家族があります。本人たちはもう絶縁と思っていますが家族は…そうではないんですよね。実は、ひそかに気にしてるんですよね…。

蝙蝠たちのフラワーシャワー、なかなか素敵なことをする子たちでした^^。

勝利の後の一コマですね。いくら仲違いをしても常に気にかけているのが、家族というものなのでしょう。コウモリ達も粋なことをたしますね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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