2017-10

守りたいもの 2 - 2016.01.17 Sun

増添兵曹は、長妻兵曹と対峙するような格好になって「言うてみんか?」と問い詰めていた――

 

「何をそげえに悩んどってか、言うてみんか?-ただ、その返答いかんによっては許さんで」

増添兵曹はそう、厳しい言い方をして正面から長妻兵曹をにらみつけた。長妻の野郎、許嫁ができて命が惜しゅうなったに違いない、とんでもないおなごじゃ。威勢のええこと言っとるが本音は絶対そこじゃ。そう、増添兵曹は確信していた。

「早う言え。いわんか!」

増添兵曹はいらいらして怒鳴り長妻兵曹の事業服の肩をどんと突いた。よろけた長妻兵曹ははあー、と大きくため息をつくと

「はっきり言うで。うちはさっき言うたとおり許嫁がおるけえ命が惜しいなんぞこれっぽっちも思うとらん、毛塚さんとはその辺をよう話しおうて何があってもそれは天命じゃと潔くあきらめようと言うたんじゃ。で、うちが悩んどるように見えたんはな」

とそこまで言うと増添兵曹が

「だからなんじゃ!貴様の話は前置きが長うていけん。もっと簡潔に話さんか」

とまた怒鳴る。長妻兵曹はちょっと嫌な顔をして

「簡潔に話せるものとそうでないもんがあるんじゃ、気の短いおなごじゃな貴様も…。まあええ。貴様の知りたがっとることを言うたるわ、ほりゃな、うちのあの趣味。ヤシの実落としに関することじゃ」

と言ったので増添兵曹はハトが豆鉄砲を食らったような顔になった。

「はあ!?ヤシの実落としね?貴様この期に及んで何言うとってんかね?気は確かか?」

先ほどまでの威勢の良さはすっ飛んで、増添兵曹は急速にしぼんだ。その戦友を見て長妻兵曹は

「久しぶりにここに帰ってきたがまだ上陸が出来とらん、じゃけえうちはヤシの実取りのおじさんとサルのジロのことが気になってならんのじゃ。ジロは元気じゃろうか、おじさんは変わりのうておるじゃろうか…いろいろ考えとったら頭が変になってきそうなんじゃ」

と言った。その顔にはそこはかとなく寂しさがにじんでいて増添兵曹は(こいつ、本当にヤシの実落としのおじさんたちが好きなんだな)と思った。

「そうだったんか、すまん。うちが邪推しておった。あん人たちは貴様にとってトレーラーの家族みとうなものなんじゃな。うちは忘れとったよ、ほんまにすまん」

増添兵曹は素直に謝った。すると長妻兵曹は笑って

「わかってくれたらええんよ。それにうち、ヤシの木を見たらもう矢も盾もたまらん、ジロと競争しとうなってしもうて。じゃけえ何か悩んどるように見えたんかも知らんな」

と言った。そして急に顔を引き締めると

「それより今は作戦の無事遂行を願うて、訓練訓練。さあ、みんなを集めんと」

と言って増添兵曹の肩をパンパンと叩いた。

 

翌日皆が緊張感をもって訓練、整備に励む中、山中副長は一時退艦のため支度を整えて甲板上にやってきた。副長従兵の二等兵曹が荷物をもって控えている。

梨賀艦長、森上参謀長、それに各科科長たちが居並ぶ前に二種軍装で身を固めた副長は立った。副長の顔色は相変わらずさえない。そして今日は艦をいったん降りるということでなおさらさえない。その副長をいたわるまなざしで艦長は見つめ

「副長、戦闘が終わるまでの間だ。診療所で待っていてほしい、そして決して無理をしないでほしい。我々はまた元気に戻ってくる、だからその日を待っていてください」

と言って、副長はその瞳にいっぱいの涙をためてうなずいた。そして

「ご武運を…お祈りいたします」

と言って敬礼した。科長たちも一斉に敬礼をし、副長は彼女たちを見てうなずきやがて手を下ろした。甲板士官の藤村少尉が

「副長、内火(ラン)()の用意ができました。-ご一緒できないのが残念ですが、すべて終わりましたら私がお迎えに参ります」

と言って副長は微笑み

「大変な迷惑をかけてしまいますがどうかあとをよろしく。黒多さんを助けてやってくださいね、そして迎えの日を待っています」

と言ってもう一度皆に一礼すると藤村少尉の先導で舷梯を降りる。この舷梯はいつか副長の結婚の日に使ったもので今回も活躍、幅も広く揺れもないように作られているので身重の副長が使うにもってこいのものである。

副長は内火艇に乗り込み、内火艇は『大和』を静かに離れる。副長は内火艇の後部から『大和』を見上げた。忙しい中からも副長を見送りたいと艦上に出てきた兵隊嬢たちから「副長、副長!」「ご心配なく!」「お元気で」と声が上がり帽子が降られるのが見えた。

「ありがとう、みんな」

副長はそっと皆に向かって両手を合わせた。(どうか今度の作戦が成功裡に終わり、皆一人も欠けることなく戻れますように)との思いを込めて。

その後ろから副長従兵が「副長、揺れますからお座り願います」と声をかけ、副長は従った。内火艇は上陸場目指して明るい青い海の上を快調に滑ってゆく。

ふと周囲を見回した副長は

「あら。あれは〈瑞鶴〉ではないですか?」

と従兵嬢に尋ねた。従兵嬢は「はい、今度の作戦はあらゆる角度から攻撃するべく航空隊や潜水艦部隊も集結しています。〈翔鶴〉も来ております」と答えた。

副長は「そうですか。きっとうまくいきます」と答えて(「瑞鶴」が来ている…もしかしたら新矢さんも来てはいないかしら、ああそうなら会いたい。会って新矢さんのお顔を見たい)とひそかに思った。そしてきっと繁木少佐も来ているだろう、なら航海長も戦闘前に会えるといい、きっと発奮材料になるだろうからと思っていた。

 

しかし。

二人の男性佐官はトレーラーには来てはいなかった。

二人は「松岡式防御兵器」の実験装備中に作戦発動を受け、いったん艦を下ろされてリンガに停泊の巡洋艦に居を移していた。二人とも出来たら空母に乗ってトレーラーに行って妻に会いたかった。繁木少佐は作戦に出かける妻を激励したかったし山中大佐は悪阻に苦しむ妻をねぎらいたかった。

が、リンガ艦隊司令部から「お二人にはここに残って他艦の様子も見ていただきたい、せっかく工作艦も来ているのだから」と言われ残ることとなり二隻の空母を見送ったのだった。

空母の艦長たちは「戻ってきたら実験の続きを願います」と言って出て行った。〈翔鶴〉には飛行甲板の日の丸部分に、〈瑞鶴〉にも同部分と機銃座を覆うように網状の「松岡式防御装置」を施してあったがいかんせん実験段階なので不安はあった。

が、山中大佐は「大丈夫だ、自信を持とうじゃないか。実験段階とはいえ我々の技術の粋を集めてあるんだから。繁木君そんな心配顔しないで」と言って胸を張った。

がその反面(トレーラーに行きたかった)と歯噛みする思いの彼ではあった。

 

副長は上陸桟橋を出ると診療所から迎えの自動車に従兵嬢とともに乗り込んだ。真っ青な顔いろの副長を従兵嬢は「大丈夫ですか?」と気遣った。その彼女に副長は「平気です、ごめんなさい心配させてしまって」と言って弱弱しい微笑みを見せた。

村岡軍医大尉が

「ゆっくり参りますからね、途中で我慢できなくなったらご遠慮なく」

と言って自動車は動き始める。軍医大尉はやや時間をかけて揺れないように気を使いながら自動車を診療所まで運転した。自動車が診療所に到着すると玄関には横井院長と数名の看護婦が出迎えていて、

「ようこそトレーラー海軍診療所へ。ご気分はいかがですか、さあ早速ですが病室へまいりましょう」

と副長を取り囲むようにして病室へと案内し、従兵嬢は荷物を看護婦の一人に手渡すと「では私はこれで。副長をよろしくお願いいたします」と言って帰ろうとした。その後姿に副長が

「ここまでありがとう、あなたの武運を祈ります」

と声をかけ、振り返った従兵嬢はしっかり敬礼して応えた。

副長は静かな一室に案内され、主治医になる杉山軍医少佐を紹介された。杉山少佐は穏やかな中年の女性医師で、互いに自己紹介のあと

「悪阻は病気ではないとは言いますがつらいですよね、赤ちゃんからの大事なサインですからつらい間はゆったりと過ごしてください。そして何か異常があったりしたらすぐに知らせてください」

と言って副長を寝間着に着替えさせベッドに寝かせた。

「ありがとうございます、どうぞよろしくお願いいたします」

副長はそういって、杉山少佐は微笑むと「ゆっくりおやすみなさい、それが今は一番のあなたのお仕事です」と言って一礼するとそっと部屋を出て行った。

(なんだか、お母さんみたいなお方だ)

副長はそう思うと何か急速に心の中に安ど感が満ちるのを感じ、目を閉じて吐き気をこらえた。

 

梨賀艦長はトレーラー艦隊司令部に赴き作戦の打ち合わせを行った。

潜水艦の夜間の偵察、そして夜間攻撃を行い朝方にかけて航空部隊が一気に空襲をかけ埋め立てされた飛行場をせん滅するというのがその概要である。

『大和』そして「比叡」、「金剛」が主に砲撃を行う。梨賀艦長は黒多砲術長を伴って「比叡」を訪れ、「比叡」「金剛」それぞれの艦長と砲術長と話し合いを持った。そして

「明後日、トレーラー環礁近海において砲撃訓練を行いましょう」

ということに決定。梨賀艦長は帰艦後、艦内スピーカーでこれを総員に通達。艦内に「いよいよその時が来るんじゃな」と緊張がみなぎった。

ハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチそしてニャマトに関しては「訓練とはいえ実戦さながらになる。そしてすぐにも出撃になるであろう、彼らに何かあってはいけない」との参謀長の意見からこれも戦闘が終わるまで一時退艦となり、急いで仕立てられたランチに乗せられ涙ながらにトレーラー艦隊司令部へと移送されていった。

それを防空指揮所で見送る桜本兵曹の瞳にもあふれんばかりの涙がたたえられ、

「トメキチ、ハシビロ、ニャマト…ちいとの辛抱じゃ。まっとってつかあさいな」

とつぶやいた。

オトメチャンの事業服の胸に、幾つぶかの涙が転げ落ちたーー

    (次回に続きます)

    

             ・・・・・・・・・・

いよいよ風雲急を告げてきました、砲撃作戦。どうか上首尾に行って連合国軍が作った飛行場をせん滅してほしいものです。

副長はいよいよ退艦してゆき、マツコトメキチニャマトも降りてゆきました。いやがうえにも高まる戦闘への緊張感です。

さあどうなりますかこの後をご期待ください。

 

私の好きな漫画「この世界の片隅に」がいよいよ今年、全国公開になります!戦中の広島・呉を舞台にした物語。主人公すずのけなげな頑張りが心を打ちます。


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
高揚する精神!しかしその反面でつらい別れもあります、戦闘が終わるまでとはいえ同じ釜の飯を食う仲間との別れはつらいです。そしてマツコトメキチニャマトたちも今回はいったん退艦…早く敵を撃滅して帰りたい『大和』の子たちです。
副長もやがて元気になることでしょう、夫との再会もあるかもしれません!皆がほほ笑んでいられる世界がきっときます。

今日も今日とて寒かったことったら(;´Д`)、冷蔵庫の中のようです。なんだかどこもえらく荒れていていったいどうしたこっちゃ?とやや気味の悪い気さえしてきました。正月三が日のあのあたたかさからどうも変ですね、何事もありませんよう祈ります。
にいさまご一家もどうぞ御身大切になさってくださいね^^。

いよいよの感が強くなってきましたね。
きっと皆が無事であるに決まっていますが、それぞれの別れのシーンはつらいです。
ハレの日に一役かった舷梯も今回ばかりは、大和と副長の両者を引き裂くようなカタチになって。
もしかしたら至近距離まで居たかもしれない夫婦。それも夢まぼろしのような望み。トメキチやハシビロ、ニャマトたちともしばしの離れ離れに緊迫の度合いが高まるばかりです。

みんなの篤い思いが通じて副長も元気になることでしょう。そして立派な子どもを生むことでしょう。それぞれにとって「武運」の弥増すことを祈っています。

寒さは如何ですか。冬らしさを通り越して冬の台風みたいな荒れ模様にびっくりしています。くれぐれも御身お大事に。

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
まったく本当にならありえないことをまことしやかに文章にする楽しみを今味わっておりますw!

さあ。連合国軍の作った環礁の飛行場、どこかで聞いたことがあるようなものですがこれを砲撃してぶっ壊してしまおうというんですから勇ましい。そうでもしなきゃ帝国の安全が守れないならやるぞ、と意気健康な彼女たちです!

しかし、新婚の彼はリンガに置いてきぼり。
世の中甘くないという見本のようなものですがここは海軍軍人の端くれ、ぐっとこらえねばなりません(泣)。さあ次回どうなってゆきますかご期待ください!

ああ、帝国軍人!

連合軍の動きも、察知して、事態は動いていますね。

(トレーラーに行きたかった)と歯噛みする思いの彼ではあった。

ここに、軍人と、人としてのギャップがありますねえ。
ああ、つらい。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます。
力強いコメントをありがとうございます!
帝国海軍の粋を集めた艦艇と乗員ですから、こりゃもうまさに大船に乗った気分で平気でしょうw。気を楽にして次回をお待ちくださいw。

次ちゃんとしては自分が一時的にでも退艦した後の大和が気になってたまらないのですがそれこそ案ずるより産むがやすし、で頼れる部下がたくさんいますんで、どんな敵が来ても鎧袖一触でございますね^^。

帝国海軍のそうそうたる艦隊、さらには百戦錬磨のクルーもそろっておりますから、万に一つの間違いはないと思います。パッキン次ちゃんの真面目すぎる性格からして、緊急の措置とはいえ大和を離れることは、大変つらいことだと思います。が、オトメちゃんはじめ、優秀な部下に恵まれた大和に勝てるものなどないのさ。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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