2017-10

守りたいもの 1 - 2016.01.15 Fri

女だらけの戦艦大和はその身をトレーラー水島泊地に浮かべているーー

 

このところ平穏だった中部太平洋ではあったが昨日通信科の山口通信長が「ゲタマ環礁で連合国軍が何やらしているようです…どうも環礁を埋め立てて飛行場を作る算段をしているようです」という衝撃的な情報をもたらした。

この情報はまだ内地の聯合艦隊司令部も海軍省もしっかりはつかんでいないようで、

「その情報はだれが」最初につかんだか、という梨賀艦長の問いに山口通信長は

「中谷少尉と三山少尉です。三山少尉は盲腸炎の手術後、中谷少尉を手伝ってほとんど養生もしないで通信機にかじりついていました。彼女たち普段からそうして連合国軍の動向を探ってくれていました。今回も『何かおかしいです、どうもざわざわしています』と言って深夜から早朝まで通信機にかじりついていて得た情報です」

と答えて梨賀艦長は

「そんな無茶をして。三山少尉の体は大丈夫なのか?」

と心配をした。山口通信長は困ったような表情で艦長を見て「本人口では大丈夫だと言っていますが、中谷少尉にそっと尋ねたらこっそり手術跡を押さえてうめいているときがあるんだそうです。大ごとになる前にもう一度軍医長に診せたほうがいいと思っております」と言った。

 

そんな話をしたばかりだと思っていた数日後。聯合艦隊司令部より〈ゲタマ環礁で連合国軍が埋め立て作業を始めている。作業船多数いる模様、埋め立ては八分ほど進んでいる。出来上がれば多数の飛行機の離発着が可能となり帝国への脅威となりうる、ゆえにトレーラーおよびその周辺に停泊中の戦艦・巡洋艦・駆逐艦・潜水艦および機動部隊はゲタマ環礁へ出撃し、埋め立て中の飛行場を砲撃すべし〉との命令が来た。

トレーラーからは大和・矢作ほか8隻の軍艦が参加することとなった。そしてリンガ泊地に停泊中の『瑞鶴』『翔鶴』ほか艦艇多数が大和ほかに合流すべくトレーラーに向けて出航を始めた。

 

「なあ、聞いたか。戦闘があるらしいんじゃと」

機銃の長妻兵曹がそういって機銃の砲身をブラシでごしごししながら増添兵曹を見た。増添兵曹もうなずいて

「うちも聞いたわ。なんでもどこぞにアメちゃんが飛行場を作っとる言うてなねえ。えらいこっちゃで。そがいなもん作られて出来上がった日にゃ、日本はおちおち枕を高うして寝てもおられん。今度もうちら、気張って連中をふっとばさんといけんのう」

とまじめな顔つきになった。そして

「向こうさんも大事な場所を守るためなけえ、必死でかかってくるんと違うか。今回は今まで以上にふんどしを締めなおしてかからんと、いのちの保証はないで?」

と言い添えた。わかっとる、わかっとると長妻兵曹は急に暗い瞳をしてつぶやいてブラシを砲身から引き抜いた。黒いカスが散らばった。そのカスを「掃除しとけ」と辻本上水に言いつけて長妻兵曹はふーっとため息をついた。

増添兵曹はふと、戦友の顔を見て「長妻さん、どうしたんじゃ?アンタ顔色悪いのう?」と言ったが長妻兵曹は慌てて笑顔を作ると

「何言うとってかね?うちは元気じゃ、顔色悪いなんかあり得んわ。ハハハ」

と笑い、ブラシをそばにいた一等水兵上に手渡すと、どこかへ歩いて行ってしまった。見送る増添兵曹は(いや、ありゃ変じゃわ。いつもなら『かかってこいやー』とか『メタメタにしたるわ』とかいうおなごが今回妙に沈んどる。どうしたわけじゃろうか)

と不審に思った。

 

それから一週間ほどたってトレーラー水島周辺に、リンガ泊地から『瑞鶴』『翔鶴』ほかの艦艇が集結した。トレーラーに入ってからは無線封鎖を行い、艦艇同士は発行信号や手旗信号、あるいは旗旒信号で伝達しあう。

山中副長は病室にいたがさすがに艦の内外の喧騒に気が付いていて、日野原軍医長が回診に来た際

「何か起きたのですか?なんだか外が騒がしいですが」

と尋ねた。艦長から「副長に知らせると絶対無理をして起きてしまうでしょう、だから知らせないでいただきたい。そして出撃の際に副長をどうするか、考えましょう」と言われていた軍医長は、トレーラー水島の海軍診療所の横田大佐とひそかに話をつけ、出撃前に副長を艦からいったん降ろし、診療所にその身を移すことに決定していた。

副長にそう問われた日野原軍医長は、顔色の全く優れない副長に

「後ほどお話しします。-それよりご気分はいかがです?食事は全くとれないようですが、水分はしっかりとってくださいね」

と言った。副長は

「わかりました。食事がとれないのがつらいです、水を飲んでもすぐ戻ってしまって…軍医長、私がこんなことではお腹の子供にさわりがあるんじゃないかと心配なんですが」

ととても不安げに言う。その副長に軍医長は微笑んで

「戻ってもいいんですよ。体の中に取り込むことが大事です、だから食事も少しでいいから取ってくださいね。大丈夫、副長が食べられなくても赤ちゃんにさわりなどありませんから。それよりあれこれ思い悩むほうがよくないですよ」

と言ってやった。

ほっとしたようにほほ笑む副長の血圧や体温を測ったあと「ではまた、のちほど」と言って軍医長は部屋を出て行った。ドアが閉まり、副長は目を閉じた。いいようのない気分の悪さが支配したわが身をいとうように。

 

防空指揮所では麻生中尉が配置の見張り員たちを集めて

「まもなく大きな作戦が始まるようじゃ。皆気を引き締めてかかれ。本日ただいまから出撃前日まで訓練に訓練を重ねるけえ、しっかりやれ」

とげきを飛ばした。集まった見張り員たちはほほを紅潮させて「はいっ!」と返事をして即座に自分の配置の双眼鏡についた。

 

医務科・山中副長の病室では――

「というわけだ。副長、今回の作戦には当然だがあなたを連れて行くわけにはいかない。ここの海軍診療所とは話が付いている、明日にもいったん艦を降り診療所に入院すべし。これは艦長命令である」

と、梨賀艦長が重々しく山中副長に一時退艦の命令をした。

同席していた日野原軍医長・黒多砲術長・山口通信長に繁木航海長が副長を見つめてそっとうなずいた。副長はベッドの上に座って、その瞳には涙が浮かんでいた。

黒多砲術長はその副長の姿を見るに忍びなく、そっと横を向いてしまった。砲術長には副長の気持ちが痛いほどわかっている、(お降りになりたくなどないのだ、副長はご自分の任務を果たしたいだけなのだ…でももう、副長のおからだは副長おひとりのものではないということもお分かりだから、だからなおさらお辛いのだろう)と。

繁木航海長も、涙を浮かべて副長を見つめている。同じ既婚者同士、腹を割って話をしてきて気持ちは十分通じ合っている。(おめでたいことだけど、軍人としてはこうなるといささか寂しい。いや、副長にしてみれば取り残されたようなお気持ちなのだろう)と繁木航海長は思って胸の奥を刺されるような切なさが心を支配している。

そしてもしかしたらこの副長の気持ちはいずれ航海長自身も経験することになるかもしれない、そう思ってなお、切なさが深まる航海長である。

日野原軍医長が声を励まして

「副長。一時退艦と言っても今回の戦闘が済んだらまた、お戻りいただくのですからね。ですから悲しまないでください。そりゃ、できるなら一緒に行きたいです。副長はこの艦になくてはならぬお人ですから。でも戦闘をしに行く艦にお乗せするわけにはいかないこと、それは副長が良くお判りでしょう。ですからどうか心と体をゆっくりお安めになって待っていてください、お願いします」

と言った。山口通信長が

「山中さん、今が一番大事な時ですよ。ですから、ね?」

と励ました。副長がやがて顔を上げて涙にぬれた瞳で皆を見つめた。梨賀艦長が優しく見つめる。

副長は小さく息を吸うと

「皆さん…どうかよろしくお願いいたします。ご一緒できない寂しさがありますが、私は私に与えられた使命を果たさねばなりません。皆さまにはご迷惑ですがどうぞよろしくお願いいたします…ご武運をお祈りいたします」

と覚悟を決めて言い、皆は「ありがとう。しっかりやってきます」と言って一同礼をして散会となった。

そのあと日野原軍医長が

「明日の朝〇六〇〇と少し早いですが迎えが参ります。明日から訓練に入りますのでね…。今日中にお支度をしますので持って行かれるものなどお言いつけくださいね」

と言って副長は「この忙しい時に、申し訳ありません。持ってゆくものは後で私が鞄に詰めます。今日はそれほど気分が悪くないので平気です」と言って、軍医長は「そうですか、では一人兵を手伝わせますので、のちほど」というと副長をベッドに寝かせた。

 

昼飯のあと、増添兵曹は機銃座に一人、悄然として座っている長妻兵曹を見つけ寄って行った。どうしたね長妻さん、と声をかけながら。

長妻兵曹はうつろな瞳を増添兵曹に向けて、ああ、どうしたね?と言った。増添兵曹は

「どうしたね、じゃないわい。どうしたんは貴様のほうじゃ、ぼんやりしくさって。何をそんとに考え込んどってかね。――もしかして貴様」

というと厳しい顔をして長妻兵曹の一方の肩をぐっとつかんだ。長妻兵曹は肩をつかまれながら

「もしかして、なんじゃね?」

と言った。増添兵曹は

「貴様、この期に及んで命が惜しゅうなったんと違うか?」

と問い詰めるような口調で言った。長妻兵曹が「命が…惜しゅうなった?なんでうちがそげえな」と言いかけるのを遮って増添兵曹は

「貴様、許嫁がおるいうとってよな。ほいじゃけ命が惜しゅうてならんのじゃないかとうちは思うたんじゃ。ええか!戦うおなごはそんとな女々しい思いは捨てろ!もっと毅然と潔く居れ!ええか長妻」

と怒鳴った。

すると長妻兵曹が「へ?何を言うとってかね?許嫁がなんじゃて?」とぽかんとして問い返してきた。増添兵曹は

「じゃ、じゃけえ言うとる…貴様が許嫁に心残して、ほいで戦に行くんをためらっとるんじゃなかろうかって…」

というと長妻兵曹はあほか、と吐き捨てるように言ってから

「ええか増添さん。うちも許嫁の毛塚さんも海軍に籍を置く人間じゃ。海軍軍人じゃ、それが戦に出るンに相手に未練残して行かれんなんぞそがいなん海軍軍人の風上にも置かれんじゃろうが。うちと毛塚さんは互いにもしも戦いに行くようなときは潔く戦って散るときはきれいに散ろうと約束したんじゃ。じゃけえ貴様の思うようなことをうちは悩んどらんで!」

と一気に言い放った。

増添兵曹はやや気勢をそがれたが

「ほんなら貴様は何をあがいに悩んどったんじゃ。聞いてやるけえ言うてみんか。思うてること吐き出したら気ぃが楽になるで?」

と言ってやった。長妻兵曹は大きく深呼吸をすると、告白したーー

 

          ・・・・・・・・・・・

戦闘の気配が濃厚になりました。アメリカ軍は環礁に飛行場を作っている様子、これはたいへん!(どこかで聞いたような話ではありますが)これを阻止しないと帝国の安寧はあり得ない、というわけでたくさんの軍艦や飛行機が参加する大掛かりな作戦になりそうです。

で、長妻兵曹はいったい何を悩んでいたのでしょう。次回をお楽しみに。

 

さて今日は私のおすすめ商品のご紹介をいたしましょう。

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● COMMENT ●

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます。
まあ機能の雪の重かったことったら。夜遅くに見たら雨だったし(しかもどえらい雨でした)この分なら…と思っていたのが甘かった、目が覚めたら一面銀世界。雪かきをしたんですがそれがまた雨の中。全身びしょぬれになりました、風邪ひきそうw。
これがセンター試験当日や成人式当日でなくてよかったようなもので。

なんと。河内山さんの守りたいものは髪の毛ですか…うーん…切実なものを感じます。大事にしたいものです、髪は長い友達、ってCMがありましたが。女にとってもある程度の年齢になると守りたくなりますよ、抜け毛多くなるし。
お互いそっちの防衛も頑張らんとね^^。

うちらの方はとりあえず雪は回避、その代わりものすごい雨音で目覚めましたが。毎年センター試験の時期は天候が悪うございます。

おいらにとって守りたいものは、娘ではなく日に日に抜けていく髪の毛でありますw

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
どこかで聞いたことのあるようなお話ですがもう冗談では済まないですね。中国の海洋進出、いや侵略はきわどいところまで来ていると私は思っています。アメリカがたいへん警戒しております、一触即発の事態が起きるようであっては困りますがしかし、このまま見ているだけというのもどういうものか。
台湾も沖縄も食われてしまうということだけはないように願いたいですね。沖縄県知事しっかりせえやと発破かけたいですがあの人ははっきり言ってダメでしょう。
そしてわれらが女だらけの大和、珍しく戦闘のお話し。
出てゆく人と残る人の間の心の通い合い。守ること、守られること。どちらも大事で同じだけの比重がありますね。そして新しい命を守る副長と仲間たち。この先どうなりますか、ご期待ください!

明日は東京大雪だとか(;´Д`)、本当にやめてと言いたいです。ご子息風邪など召しませんようにと願っております、雪が降れば通学もたいへんになるかもしれませんし、どうぞお気をつけてとお伝えください。
そしていつもご心配をありがとうございます、私も気を付けますね^^。

こんにちは。
岩礁を埋め立てて飛行場。何やら身近な出来事がわが国の南の彼方でも。
侵略って嫌ですね。中国は地続きの周辺をどんどん我が物に。辛うじて海に隔てられている台湾は何とか無事です。でもそのうちに台湾と沖縄をかすめ取るんじゃないかと心配です。あの沖縄県知事が辞めない限り一寸先は闇の沖縄かもしれませんね。

珍しや。戦闘の話題。何ごともないように解決できたら良いですが。
そんな緊迫したなかにあっても副長に対する皆さんの優しさ。そして「今一番大切なこと」と、専心することに覚悟を決めた副長の思い。多くの人たちから守られながらの人の命の誕生の重さを感じています。

寒くなりそうですね。帰京したばかりの息子も「東京の寒さは半端じゃない」とさっそく唸っておりました。
見張り員さんもくれぐれも風邪など引かないようお大事に。そして体を慈しんで下さい。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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