吉報 〈よきしらせ〉 2 〈解決編〉

山中大佐は、手紙を手に握るなり大きな声を上げて艦首のほうへと走り出していった――

 

貝塚たけよ艦長はびっくりして「山中大佐、どうなさいましたか!」と叫んでそのあとを走って追いかけた。山中大佐は艦首に立つとその場で飛び跳ね

「やった…やったやった…待っていましたよこの日この時を!――やったーー!」

とさらに大声で叫んだ。艦橋付近にいた搭乗員や整備兵、艦橋で双眼鏡をのぞいていた見張の兵曹たちも驚いてそちらを見つめた。

貝塚たけよ艦長は彼の後ろに立って息を弾ませつつ「ど、どうなさったのですか山中大佐」と尋ねた。すると山中大佐は満面の笑みでもって振り返ると

「貝塚さん、私父親になるんですよ。ええ、子供ができたというんですよ妻に。もう私はうれしくってたまらないんです…」

と言って次子中佐からの手紙をいとおしそうな瞳で見つめた。

「そうだったのですか、それはおめでとうございます。ご出産はいつごろになりますか?」

貝塚たけよ艦長もうれしそうに尋ねた。山中大佐は

「来年の二月だそうです、ああ待ちきれませんなあ」

と言って体をゆすって笑った。

そのころには騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた搭乗員嬢や整備員嬢たちが二人の周りを取り囲み、

「山中大佐、おめでとうございます」

と口々に言って祝った。その一つ一つにうなずいて大佐は「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。

 

その晩、山中大佐は部屋に戻るとペンをとり、呉の海軍工廠の上司・江崎少将に手紙をしたためた。媒酌人を務めてくれた江崎少将夫妻に知らせたかった。次子中佐は夫の職場へ僭越な手紙を書いたりはしないのでそこは自分の仕事と、大佐はうれしさを抑えきれない心のままペンを走らせた。

手紙を書き終え、明日の仕事の準備を終えると大佐はふうっと息をついた。

そして次ちゃんを想った。

(会いたい…次ちゃんは今も悪阻に苦しんでいるのだろうか、どうにかして励ましたい)

しかし任務を放り出して勝手にトレーラーに行くわけにはいかない。大佐は苛立たしい気持ちにかられたが、夕食前に河合軍医長から

「悪阻がひどくてらっしゃるのですか…それは大変ですね。つわりのひどい時期は何をするにも億劫でにおいにも敏感になりますし、横になっているだけで精一杯というときもあるようです。五か月ほどになるまではそれはちょっと辛いですねえ」

と気遣われていた。

大佐は、だとしたら今は次ちゃんはそっとしておくのが良策だと思った。会いたい気持ちは募るが、(ここは我慢のしどころかもしれない、私がバタバタしたら次ちゃんとお腹の子供は落ち着かないかもしれない、それでは困る。うむっ、我慢だ)と腹に力を入れて耐えることにした。

(その代わりと言ってはなんだけど)、手紙はちょくちょく出そうと思った。いろいろな話を書けば気も紛れるかもしれない。そう大佐は思った。

大佐は、椅子から立ち上がると舷窓をそっと開け、外を見た。満天の星が彼を祝福するかのように瞬いている。

大佐は

(生まれる子供は男の子だろうか、女の子だろうか。男の子ならやはり私のように技術者になってほしいし、女の子なら次ちゃんのようにしっかりした海軍士官になってほしいなあ。どんな顔をしているだろうか、私に似てるだろうかそれとも次ちゃんだろうか)

と想像した。

楽しい想像は尽きることがなく、大佐はベッドの中に入って夢の中でもあれこれと想像していた。

 

それから一週間後。広島県呉市の山中大佐夫妻の留守宅。

今この家には山中大佐の兄夫婦が来ている。いつまで留守になるかわからない家を気遣ってくれた兄夫婦、ちょうど仕事も転勤の願いが受け入れられ、佐世保から越してきたのだった。

そして兄夫婦は自分たちの家を探すべく、休みの日はあちこち歩く日々である。そんなある日、郵便配達がちょうど出かけようとしていた山中一矢に一通の手紙を手渡した。

「ごくろうさま…誰からだ?」

と裏を返した一矢、次の瞬間慌てて家へ取って返すと「おい、シズ!シズ、次ちゃんから手紙だ」と大声で呼ばわった。その声に台所で片付け物をしていた妻のシズは

「どうしました!?いったい何が?」

とすっ飛んできた。そのシズに一矢は封筒を手渡し、やや震える声で

「次ちゃんから手紙が来た。…何か良くないことでもあったのだろうか?気になる、早く開けてみろ」

という、シズも夫のその様子に不安になって急いで鋏を持ってくると封を切った。

「早く読め…何と書いてある?」

そういってせかす夫に「まあ少しお待ちになって」と言いながら文面を読むシズの顔がぱあっと明るくなった、そして

「あなた。分隊長、いえ、次ちゃんが」

とそこまで言って言葉が途絶えた。一矢は「どうした!何が起きたんだ」というと妻の手から手紙を取ると読み始め、

「おお!次ちゃんついに」

と言ってこれも絶句した。そしてそのあと二人は感涙に濡れた瞳を見かわして声もなくうなずき合ったのだった。

そしてシズは

「さあ忙しくなりますね、次ちゃんの東京のご両親ともご相談して準備をしなきゃいけないわね…次ちゃんご両親にもお手紙を出してるでしょうからそのうちご連絡しなきゃ」

というと家の中に駆け込んでいった。

一矢は一人で「そうかそうか、よかったなあ」とうなずいていたがはっと顔を上げると「いかん、遅刻だ!」と叫ぶなり一散に坂道を駆け下りて行ったのだった。

 

その同じ日の昼過ぎ、東京の野村家でも次ちゃんからの手紙を受け取っていた。受け取ったのは母親のカヨで「あら、次ちゃんからだわ」とかすかに眉を顰めるとその封筒を夫の建造のもとへと持って行った。

「お父さん、次ちゃんから手紙が来ましたよ」

建造も何か不審げな表情でそれを受け取って表書きを見つめる。

今まで娘の次子から手紙をほとんどもらったことのない建造とカヨは嫌な予感がしていた。

(もしかして、夫婦の間に何かあったのかしら。それとも勤務中に何かが起きたとか…ああいやだわ)

そう思いつつカヨは建造が手紙の封を切る手元を見つめる。

建造は

「どうせあいつのことだ、新矢さんのあれが気に入らんだことのこれが好かんだことの、泣き言ばかり言ってきてるんだろう!あんないいご縁をあいつは何だと思ってるんだまったく」

とまだ読みもしないうちから決めつけて一人怒っている。

カヨが

「いいからお父さん。早く読んでくださいよ」

とせっつくのへ、まあ待てと言いながら建造は便箋を開き読み始める。と、

「かあさん!次子のやつ…」

というと便箋をカヨの手に押し付けた。はあ、どうなさいましたそんな悪いことが?と言いながらそれを読むカヨも

「まあまあ!次ちゃん」

と声を上げていた。建造がほっとしたように

「赤ん坊が…。はあ、よかった。俺はまた次子のやつわがまま言って新矢さんを困らしてるんじゃないかと思って」

というとうれしそうに笑った。

カヨも

「よかったですねえ、次ちゃんは忙しい子だから子供はずっと後になってしまうんじゃないかとか作らないんじゃないかとか思っていましたけど、よかったですね。出産は来年二月の予定、ですって!忙しくなるわ。――そうだわ、シズさんとも連絡を取って今後をどうするか、決めないとね」

とこれまたうれしそうである。

 

さらに。呉の海軍工廠・〈松岡式防御装置〉研究チームでは江崎少将が山中大佐からの手紙の内容を皆に告げ、大喜びをした。江崎少将は帰宅してから妻・キヌにその知らせを告げるとキヌはああやっぱりとほほ笑んで手をあわせ

「私確信していたんですよ。出航前にお二人がいらしたとき何かこう、赤ちゃんの気配みたいなものがしてたのですよ。本当に良かった、山中大佐もそれぞれのおうちの方もお喜びでしょうね」

と言った。

 

山中一矢、そして野村建造、江崎少将は同時につぶやいていた――「吉報(よきしらせ)来る!」と。

 

内地はいよいよ夏の気配が濃くなって来はじめた。まるで義妹、そして娘の懐妊を祝うかのように。

そしてリンガの海では妻の懐妊の無事を心より祈る山中大佐の姿があったーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

 

吉報が駆け抜けました。さあ忙しくなりそうな内地の家族たち、この先どんなことが待っているでしょうか。次ちゃんの体調はまだ安定しませんがこの先どうなりますか、お楽しみに。

 

今日娘と九段の「昭和館」を見学後、久々の「靖国参拝」をしてまいりました。ここ二、三年ほどあまり外に出たくない心境が続いていましたが今日久しぶりに楽しい思いをいたしました。

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Secre

ponch さんへ

ponchさんこんばんは!
本当にいつの時代も子供が生まれることは最大の慶事ですね。次ちゃんも懐妊で解任にならなくって本当に良かったですがまだまだつらそうです…(;´Д`)。

元旦に靖国神社に参拝なさったんですね、よいことをなさいました。私も以前は元日に行ってましたが最近は日にちがずれてしまっております。
私もまずは日本の安寧を祈ります。それから家族の安寧を。なんか靖国神社では変な願い事はできませんよねw。

おめでたというくらいですから、いつの時代も子供ができるのは喜ばしいことですよね。
日々大きくなるお腹を抱えながらの船上勤務は大変かと思いますが、懐妊で解任なんてことにならなくてよかったです。

見張り員さんも靖国参拝行ったんですね。自分も元旦靖国神社に初詣に行きました。願い事はいつも護国です。英霊に私利私欲を願うとバチが当たりそうなので。

荒野鷹虎さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは!
ご無沙汰してしまってごめんなさい。
それにしても大きな地震だったようですね、余震がないように祈るばかりです。どうぞお気をつけてくださいますよう。

この物語も今年で7年目に入ります、いつまで続くか??私のライフワークみたいなものなのでまだまだ続きますw。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。

海軍航空隊にいらしたお兄様、今の日本をどうご覧になってらっしゃるでしょうか。おうかがいしたいと思う昨今です…

見張り員さんへ!!♪

さっそくのおみまいたいへんありがとうございます!
日ごろのご無沙汰にもかかわらずうれしく懐かしく思いました。!
すごいですねー。このタイトルで継続される見張員様の継続性には感服いたします。
未だ余震の危険性があるようで安心は出来ません。
海軍航空隊の次兄を思うと戦争法案の撤廃を望むものでsございます。!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
もしかしたら本当はとっても個人的なことかもしれない懐妊ですが軍艦に乗っていて一家をなしているような彼女たちにはわがことの喜びであるようです。
いや、なんでも個人的という言葉でくくってしまう昨今の世の中のほうがずっとうら寂しく恐ろしいようにも感じます。
皆で喜ぶべき懐妊、そしてだんだん大きくなるお腹に子供を産むという喜びも大きくなっていくのでしょうね。皆で心待ちにしている次ちゃんの出産、この先をお楽しみに^^。

このところの新成人のひどさには言葉がありません。あんなことをして何の得があるのか、自分で自分を貶めているのに気が付かないのでしょうか?情けないです。


最近の寒さ、これが本来のだと思っても正月中に慣れ切ったあのあたたかさ…。にいさまもどうぞお体大事にお過ごしくださいませ^^。

夫婦の喜びが一家の喜びや仲間たちに至るまでの大きな喜びに変じていくさまが美しく書かれていますね。懐妊というのはことほど、多くの人々までをもに幸せにしてくれる人生の大仕事なのですね。
待ち望まれて生まれてくる子どもは本当に幸せです。そして母親となる人も。
時代が変わろうとも、世情が変化しようとも、新しい母子とその取り巻きの人々の喜びは不変であってもらいたいですね。
たとえ戦時中の出産であっても、今よりも当時の日本の方がよほど人々の心が豊かであったことはまぎれもないみたいです。平和ボケしまくった先の新成人の姿を見て益々その感を強めています。
ツギちゃん夫婦と大きくなっていくお腹のこれからを愉しみにしています。

寒さに負けずにお過ごし下さいね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
河内山さんもなかなかいいご主人だと私は思うのですが…?
しかし、細やかな心配りは妻の側からすれば「こうあってほしい」という新矢さんですね。

2月入籍12月出産…授かり婚と断言はできないまでも「早いなあ」と言われるかもしれませんね。でもまあいいじゃないか、そんなの誤差のうち^^。
12月生まれなら私の二人の娘と同じですね!

新さんのような気のつく旦那でないおいらは、たぶんいてもたってもいられないでしょうね。一部の友人からは授かり婚なのかと疑われたぐらいのせっかちですので、少しは新さんを見習わなくては。

2月に入籍して、12月に娘が生まれ出りゃあ当然の成り行きなのですがWWW

オスカーさんへ


オスカーさんおはようございます^^
うれしさはそのすそ野を広げてみんなが幸せになりますね。そしてその中心の人の人柄も大事ですね。

今日は朝から雨模様でとても寒いですね、オスカーさんにはどうぞお風邪など召しませんように。お互い元気な一週間でありますように!
いつもありがとう♡

おはようございます。
嬉しい出来事は本人たちだけでなくまわりもみんな笑顔にしてくれますね。ふたりの人柄の良さがあらわれています。朝からとっても幸せな気持ちになりました。ありがとうございます!
今日は曇り空、夜は冷えますし……お身体に気をつけて下さいませ。よい1週間になりますように。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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