再会の時 4〈解決編〉

この上ない熟睡した一同であったが翌朝の目ざめは早かったーー

 

桃恵が目を覚まし朝餉の用意に起きたのはまだ〇五三〇(午前五時半)。いつも桃恵は何があってもこの時間には起きている。夫の智一の出勤時間が早い時もあるのでこの時間には朝餉の支度を始めるのである。

味噌汁を作っていると

「おはよう…」

とすでに二種軍装に身を包んだ北野中尉が声をかけてきた。振り返り「北野中尉、おはようございます…ごめんなさい起こしてしまいましたか?どうぞごゆっくりお休みになってくださいませ」とあいさつした桃恵に北野中尉は

「いやいや…我々も習い性でね。どうもこういう時間には目が覚めてしまうんだね。…しかし桃さん、あいかわらず仕事が早いなあ」

と言って感心した。

桃恵は「そんなことないです、やっと最近慣れてきたところです」と恥ずかしげに言う、そこに智一大尉が起きてきて

「北野さんおはようございます。もっとゆっくり休んでいてください、お疲れでしょう」

といった。北野中尉は敬礼して智一大尉に

「昨晩は失礼いたしました!おかげさまでよく眠れました、ありがとうございます」

といった。智一大尉は微笑んで

「それはよかった。皆さん休暇はいつまでですか?」

と尋ねた。北野中尉は「はい、われわれは五日後までであります」と答えた。すると智一大尉は

「ではほかにご用事がないならここにいてくださいませんか?ご実家にお帰りになるとかおありなら仕方がないですが、そうでないならぜひ」

と言って北野中尉は「それではご迷惑ではないでしょうか?」といったが智一大尉は

「三年ぶりの再会ではないですか、せっかくいらしてくださったんです。居心地悪くないならぜひそうしていただきたいのです。私も『武蔵』の皆さんともっとお話がしたいと思っておりますし」

と言って、桃恵も「主人もこう申しておりますから他に何もないならぜひ」といった。

そこにすでに起きていた橋野・本川・剣持の三兵曹に秋川兵曹長がやってきて

「三浦大尉、本当は我々もそうしたかったのであります。お言葉に甘えてよろしいでしょうか」

と言って北野中尉は「おい、貴様たち図々しいぞ」といさめたが、智一大尉が笑って

「是非に!どうぞここで今までのお疲れを取っていってください。遠慮なしにご自分の家だと思ってくださいね」

と言ってくれたので北野中尉は「では大変申し訳ないことですが」と五日後まで三浦宅でやっかいになることにした。

 

さあそれを聞いて喜んだのは継代で、彼女は目が覚めたら隣の部屋がすっかりきれいに片付いていたのを見てびっくり仰天。

「かいぐんのおきゃくさまがいない!」

と泣きわめきながら飛んできた。しかし居間に飛び込んだ継代の目に入ってきたのは「おはよう、つぐちゃん」とほほ笑みかける〈かいぐんのお客さま〉たちであった。

ほっとした継代は一層泣き出して一番そばにいた剣持兵曹の胸に飛び込んでいった。その継代を抱きしめて剣持兵曹は

「驚いちゃったね、ごめんね。海軍さんたちは朝早く起きるんだよ…大丈夫、継代ちゃんのお父様から私たちの御休みの間ここにいていいですよとお許しをいただきましたから、もう少しだけ泊めて下さるかしら?」

というと継代はやっと大泣きを収めて

「はい。泊まってくだしゃい」

と言って泣き笑いの顔になった。桃恵が「よかったわね継代。さあ、涙を拭いて皆様のお食事の支度をいっしょにして頂戴ね」と言って機嫌を直した継代はハイ、というと台所へ。

それを見つめていた秋川兵曹長が感に堪えたように

「かわいいなあ~。いいなあ、私も早く子供がほしいなあ」

といったので皆は一斉に秋川兵曹長を見た。北野中尉が「秋川兵曹長、あなただれかいい人が居るの!?」と尋ねれば本川兵曹が

「いつの間にいい人おつくりになったんです?全然私たちには教えてくれなかったじゃないですか。お式はいつです?」

とにじり寄る。智一大尉が「ほう、そんないいお話が?」とこれも興味津々の様子だし橋野兵曹剣持兵曹も「聞きたい聞きたいです!」とせっつく。

慌てた秋川兵曹長、両手を顔の前で左右に振って

「違う違う、そんな話ありませんよ…ただあまりに継代ちゃんが可愛くっていいなあと思っただけで…。エヘン、私には許嫁なぞ居りませんっ!」

と言い切った。北野中尉は

「なんだ。てっきりエンゲ(婚約者のこと)がいるんだと思ったのに。ざーんねん」

と言って笑い、兵曹嬢たちはそっと(先に嫁がせてなるものか)と闘志を燃やしている。

そこに桃恵が「お待たせしました」と大きなお盆に茶碗や皿を載せて持ってきて、兵曹嬢たちは「私がやるから桃恵は座ってて!」と先を争うようにそれを手に取り、あるいは台所へ行く…

 

その日から五人は交代で継代を外へ連れ出して遊ばせたり、桃恵と家の中のことをしたり買い出しに行ったりと〈娑婆の空気〉を堪能した。継代の喜びは大きなもので北野中尉と裏山に行って走り回ったり、秋川兵曹長と歌を歌ったり、橋野・本川・剣持の三兵曹と海岸に行って遊んだりと楽しい日を過ごした。そして晩には智一大尉と様々な話をした。

また桃恵もそれぞれから『武蔵』の話を聞いたり、買い物に行ってみたりおいしいおやつを作って食べたりと普段とは違う生活を送れた。

桃恵の手つくりの汁粉を食べようとしていたある午後、北野中尉は今まで気が付かなかったが居間の一番いい場所に

「あれ…」

と指さしたのが、桃恵が妊娠で退艦した後送った医務科の皆の集合写真と、猪田艦長が贈った、子供の名を彫り込んだヤシの実。

「こんなに大事にしてくれてたなんて」

北野中尉の瞳が潤んだ。あの時皆で艦長・副長しそして『武蔵』のマスコット犬・ナナも一緒に撮影した集合写真。桃恵の無事な出産を祈って送った写真。そして艦長が出産祝いにと贈った大きなヤシの実、(艦長。みんな…桃恵の奴まるで家宝みたいにして置いてますよ)と心の中で皆に叫んだ。

するとその心を見抜いたわけでもないだろうが桃恵が

「これはわが三浦家の家宝です。大事な大事なもの。これはずっと、我が家の宝として伝えてゆきます」

といったのだ。

「桃さん…」

北野中尉は感激の涙を抑えることができなかった。

 

楽しい日はあっという間に過ぎ去り、明日は帰艦の日。なんだか朝から元気のない継代の気分を盛り立てようと橋野兵曹があれこれと声をかけては笑わせている。

そして北野中尉は朝飯が済み、智一大尉を送り出した後部下たちを集めると

「明日はいよいよ帰艦である。名残惜しいが仕方がない。だがまだ『武蔵』は当分の間ここにいるからまたそのうち会いに来れるだろう。で、お世話になった三浦家に我々は掃除をしてご恩を返そうではないか。桃恵はあの通り身重であるし小さな子供もいる身、そして大尉もお忙しいおからだであるから普段手の回らない部分を中心にやろうではないか」

と提案し皆は大賛成。

早速屋根の樋の掃除やら庭の草むしりやら果ては三浦宅とその左右の家のどぶまでさらって、ありとあらゆる場所を徹底的に掃除し、あるいは修理もし、家は午後までにすっかりきれいになった。

桃恵は「こんなにしていただいて、申し訳ありません」と恐縮したが北野中尉は

「なんの。こんなことは当たり前だよ、長い間厄介になりましたね…大尉もさぞご迷惑だったと思いますが、本当にありがとう。今日大尉がお帰りになったら改めてお礼申し上げます」

と言って桃恵に頭を下げた。

桃恵は慌てて北野中尉の両腕に手をかけてそっと起こすと

「私のほうこそありがとうございました。そしてまたいらしてください、今度こそゆっくりなさっていただきたいです」

と言って感謝した。

 

その日は陽のあるうちに帰宅した智一大尉は桃恵から話を聞くと五人の『武蔵』乗員の前に両手をついて

「ありがとうございました。せっかくの休暇の最後の日を我が家の掃除に充ててくださるとは…申し訳なく思います。そして『武蔵』の横須賀停泊は長くなると伺っておりますのでどうぞその間はご遠慮なくいらしてくださいますようにお願いいたします。そして今夜はどうぞおくつろぎを」

と言って皆は「大尉、どうぞお手を…!」と慌てた。ゆっくり頭を上げた大尉は妻の桃恵を振り返ると

「今夜は夕食の支度はいいよ。喜木中佐が話を聞いてね、仕出しを手配してくださったからね」

と言ってほほ笑んだ。桃恵は「まあ…中佐にはいつもお心遣いをいただいて」と感激した。智一大尉の上司・喜木キリ中佐は二人の結婚からこちら、何かと二人を気にかけてくれているありがたい上司。

五人もたいへん感激しかつ、恐縮した。

 

その晩は喜木中佐が手配してくれた仕出しの料理が食卓をにぎわせ、皆は楽しく過ごせた。継代はなんだか寂しそうではあったが秋川兵曹長の

「『武蔵』はまだいますからね。またそのうち遊びに来ます、だからつぐちゃんいい子でいてくださいね。そして明日の朝は泣かないでお別れしましょう」

という言葉にうなずいて

「つぐは、泣かないです。また来てね、あきかわさん」

と言って笑った。

 

その夜は継代は「かいぐんのお客さまと一緒に寝る!」と言ってきかなかった。桃恵も智一も「お疲れになるからいけません」といったが、北野中尉以下が

「全く平気です、いや、われわれもつぐちゃんと一緒に眠りたいですから」

と言って六人でごろ寝状態になったのだった。

 

翌朝まだ薄暗いうちに五人は帰艦することになった。智一大尉も「一緒に行きます」と言って。桃恵のそばには継代が赤い着物を着てみんなのお見送り。

継代は少し目を赤くしていたが昨日の約束の通り泣き出しはしなかった。桃恵に促され

「かいぐんのお客さま、気を付けてお帰りくだしゃい…。また来てくだしゃい」

と言って頭を下げた。

北野中尉が継代を抱きしめて「またお邪魔させてもらいますからね。その日まで元気でお父様お母さまの言うことをしっかり聞いていい子でいてください。では、またね」と言って秋川兵曹、それに橋野・本川・剣持の三兵曹たちもかわるがわる継代を抱きしめ別れを言った。

そして

「桃さん、いろいろありがとう。疲れさせてしまったんじゃないかと心配だ、体を大事にしてください。そしてまた会いましょう」

と中尉は言って五人は一斉に敬礼。三浦大尉そして桃恵も返礼し、三浦大尉と一緒に五人の『武蔵』医務科の面々は名残惜し気に官舎を後にしたのだった。

(こちらこそありがとう、また会いましょうね。絶対ね)

そう思いながら後ろ姿に手を振る桃恵と継代に、新しい朝の日が当たり始めているーー

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・・・

懐かしき友との再会は楽しいうちにお開きとなりました。また会える、また会いましょう。

『武蔵』の逗留は長くなりますから絶対また会えます。つぐちゃんとの「また会おうね」の約束を果たさないといけませんものね。

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
もてなすってむつかしいですよね。でも実際むつかしく考えることはないのかもしれないと思いました、コツは多分…迎えられた人の身になること!ーかな?と。
みんなでお客様のことだけを思って精一杯のできることをする、それがもてなしの一つかなと思いますね。

五人の海軍将兵が、この家でした様々は継ちゃんの一生の宝になることでしょう。人様の家に厄介になったら、それがたとえどんなに親しい間柄であってもそれなりのことをして返す、立つ鳥跡を濁さずの言葉もありますから彼女たちはそれをしたのです。

東京は寒くなってきました。どうもこのところ体調がよくありませんがきっと、急激な気温の変化のせいだと思います。
いつもお心にかけていただいてありがとうございます、にいさまもどうぞ御身大切にお過ごしくださいませ^^。

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
継ちゃんの言葉を書くにあたって、昔のことを書いた本など少し紐解きました。昔は親にも敬語を使っていたようなのでその辺を継ちゃんにも言わせてみました。

>髪は、おかっぱかなあ。
そうなんです。まさにおかっぱ。後頭部を刈り上げた感じの。私の母たちが幼き頃していたおかっぱです^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
本当にこんな聞き分けがよくかわいい子がいたら、絶対自分の子にほしくなっちゃうこと請け合いですねw。
私も適当母親で、旦那に、子供が小さかったころには「ダメなお母さん」と一刀両断されました(-_-;)…まあそれでもぐれないで大きくなっただけいいか!と思っております(;´・ω・)。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
懐かしい、『セーラー服と機関銃』!あの歌声が時折よみがえりますが、自分が幼かったころ考えても一緒になって遊んでくれた大人はいい思い出として残っていますね。
まさに『友達』です。そして「かいぐんのお客さま」が次回にはいいお友達としてつぐちゃんのまえに現れることでしょう!

ご体調いかがですか?私は…あかん~~(;´Д`)ですw。

もてなしの神髄ですね。決して押しつけがましくなく、家族全員で心あたたまる接遇につとめる。
お客を招くというのはその家のあり方のすべてが出るような思いがします。改めて良い勉強になりました。
5人の海軍さんがひとつ屋根の下の家の中で家事を手伝ったり継ちゃんと遊んだり。あたたかい雰囲気、離れ難い優しさが何とも言えません。
継ちゃんにとっては生涯の思い出になったはずです。

東京は寒くないですか。風邪引かぬようくれぐれも御身大切に願います。

こんばんは

かいぐんのおきゃくさま

泊まってくだしゃい

昔の子供が、律儀に話すような雰囲気がでていますね。
髪は、おかっぱかなあ。

こんなにしっかりしてかわいい女の子なら、誰でも娘に欲しいです。ご両親の育て方が良いのでしょうね。おいらのような適当親父のところには、がさつな娘になってしまうのも因果応報ですね。

♪さよならは別れの言葉じゃなくて 再び会うまでの遠い約束~
薬師丸ひろ子ちゃんの歌声が聞こえてくるような……。子どもにとって遊んでくれる大人ってもうスゴく大切なお友だち!ですよね。次回からはお客さまではなくお友だちとしてまた楽しい時間を過ごして欲しいです。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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