めぐりあい 2

岩井中尉は岳野水兵長の顔をじっと見つめて「なんであなたは…彼女を…」とつぶやいていたーー

 

すると岳野水兵長の顔が歓喜に輝いた。そして「分隊士は、見張トメをご存じなんですね!」と言ってうれしそうな顔になった。そして「どこにおるんですか。会わせてつかあさい、願います!」といった。しかし岩井分隊士は

「まあ、ちいと待って。あなたと見張兵曹…いや、今はもう〈見張〉姓ではないが…どういう関係なんだね?それをまず聞かせてほしい」

とおしとどめた。

そして「まあ、ちいと待ってくれ、この話は航海科の分隊士と分隊長にも聞いてもらわんといけん」といって二人は部屋を出た。途中行きあった松本少尉に岩井中尉は

「部屋をありがとう。ちいと航海科へ行ってくるけえ…今夜巡検後に第一砲塔前におるけえね」

と言って松本少尉は「わかりました、では今夜」と言って二人を見送った。

 

岩井中尉はまず特務士官室に麻生中尉を訪ねた。麻生中尉はちょうど第一艦橋から戻ってきたところで岩井中尉の「麻生中尉。あのちいとお時間いただけますかのう?」という言葉に笑顔で

「はいええですよ、ちょうど当直明けですけえ。で?お話とは何です?」

といった。岩井中尉は麻生中尉を部屋から押し出すようにして

「うちの岳野水兵長が、オトメチャンに会いたいいうんですよ。でも、いきなり会わしてええもんかどうか麻生さんと松岡分隊長に隠岐汽船ならんと思うてですね」

といった。麻生中尉がふと見れば、部屋の外に一人の水兵長が立っていてこちらに敬礼した。麻生中尉も返礼しながら

「ほいじゃ、松岡中尉の所へ行こう。たしかあん人は今操舵室におってじゃ」

と言って三人は操舵室へ歩き出す。とそこまでいかないうちに、ハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチそしてニャマトを引き連れた松岡修子中尉に出くわした。岳野水兵長はマツコ、トメキチそしてニャマトに度肝を抜かれたような顔をして見つめている。

松岡中尉は例によってあのラケットをブン、と一振りして

「やあ、みんな熱くなってますねえ。おやこちらの水兵長さんは私はじめてお目にかかりますねえ。私は航海科の松岡修子海軍中尉です、海軍位置の熱い女といえば私のことですからね、以後お見知りおき願いますよ」

と熱く語った。すると岳野水兵長の顔が再び歓喜の色を帯び、

「なんと、こちらがあの有名な〈松岡修子海軍中尉〉さんですか!いやあうちは感激です。〈日向〉に居ったとき酒保で日めくりを買うてきました、いつもうちはそばにおいて大事なお言葉を見とります」

と言って松岡中尉はさらにラケットを振り回し

「あなた、麻生さん!岩井さん!聞きましたか見ましたか?この水兵長さんは素晴らしい、わかってくれてますねえ~!そしてさすが〈日向〉です、酒保においてあったなんて熱くなっている証拠ですよ。我が〈大和〉の酒保にはほーんのわずかしか置いてないじゃないですか?一体どういうことですかねえ、私はいつか主計長に問いただしたいんですが…。それより私に何か、ご用ですか?」

といった。岩井中尉はオホンと咳払いを一つすると、麻生中尉に話したことをもう一度丁寧に話した。

松岡中尉は黙って聞いていたが話を聞き終わると

「じゃあ、会わせたらいい。特年兵君を呼ぼうじゃないか」

といいちょうど来合わせた亀井上水に「オトメチャンを呼んできてほしい。我々第一砲塔前にいるからそこに来るように」と言伝を頼み、四人は下へ降りてゆく。

それを亀井上水から聞いた桜本兵曹は

「はあいったいなんじゃろう?松岡分隊長に麻生文隊士、それに岩井中尉に知らない水兵長がうちにいったいどんとな御用があるんじゃろう?あの目つきのきついいう人なけえ、うちはちいと怖い気もするがまあええわ、じゃ、うちはちいと言ってくるけえね」

と首をひねってから駆け出して行った。

 

桜本兵曹は第一砲塔前に到着した、すでにそこには松岡中尉以下四人と三匹が待っていてオトメチャンは

「お待たせしてしもうて…」

と言って敬礼した。オトメチャンより先に水兵長が敬礼し、オトメチャンは自分より年上の水兵長に

「初めて見るお顔じゃが…うちは航海科の桜本トメ一等兵曹です。どうぞよろしゅう願います」

といった、その途端水兵長の顔が三度歓喜に輝いて

「なんと、やっぱし叔母様にそっくりじゃわあ」

と叫んだ。オトメチャンがはびっくりして「叔母様、言うてだれのことじゃね?」と半身を引いてしまう。

それに構わず岳野水兵長はオトメチャンの両手をしっかり握って

「叔母様、うちの叔母様のトヨさんじゃ。いやあ…初めて会う気ぃがせんわ。やっぱし従姉妹同士じゃからかのう」

と言ってうれしそうに笑った。

オトメチャンは何が何だかわからないといった表情で三人の士官の顔を見つめていると松岡中尉が「岳野さん、あなたきちんとこの人にわかるようにお話ししなさい」と言って、岳野水兵長は我に返って「ほうでした、実はうちは」とオトメチャンに語りだしたーー

 

岳野カメ水兵長の母親は、旧姓を桜本ウメと言ってオトメチャンの亡き母・トヨの上から二番目の姉である。桜本家の近くに住んでいたカメは幼いころトヨによく遊んでもらったりしたものであった。やがてトヨが見張の家に行儀見習いという格好で出て行ってからはあまり会えなかったが時に休みをもらって帰ってくると必ずカメちゃん、と言って遊びに来てくれた。が、トヨが見張洋二郎の子供を身ごもり、村から姿を消すと、カメの父でありウメの夫の岳野元次郎は「そんとなふしだらな娘の親戚じゃ思われるんは嫌じゃ。なんという娘か、あのトヨいう娘は!もうええ、わしらはこの村から出るぞ」と言って遠くへ引っ越してしまったのだった。

そしてそれからしばらく経って、ウメとカメのもとに「トヨは女の子を生んだが産後の肥立ちが悪く、遂に亡くなった」という悲報がもたらされた。

ウメもカメも悲嘆に暮れた。トヨも気の毒だったが残された赤ん坊が気の毒でたまらなかった。そしてその子がやがて父親のもとに引き取られその継母になる女性に虐待されるのも知るのであった。

「ほいで…そのあと何年かたってその子がどうしたか、桜本のおばあさんに聞いたら海軍に入ったいうてきいたもんじゃけえうちはどうしてもその子に会いとうなって、縁談蹴り倒して海軍に入ったんじゃ」

とカメは言って笑んだ。〈縁談をけり倒して〉という言葉に士官たちは声を立てて笑った。

オトメチャンは

「ほうだったんですか…。いや、桜本のおじいさんが先だって亡くなりましたがその時きゑ子伯母さんが『上の二人の姉さんたちはトヨのことを怒って家に寄り付かんようになってしもうた』いうてきいたもんじゃけえ…。ほんなら岳野水兵長のお母さんーーうちの伯母様はほんまは怒っとらんのじゃね?」

と岳野水兵長に言った。

岳野水兵長はうなずいて

「ほうよ、少なくともうちの母親は怒っとらんよ。うちのおやじが一方的に怒って、じゃけえきゑ子伯母さんはそう言ったんじゃないかのう?ま、一番上の伯母さんいうんはどうだか知らんがの。そがいなんどうでもええことじゃわ」

といった。ふとオトメチャンは「その一番上の伯母さんいう人の名字はなんといいんさるん?」と聞いてみた。岳野水兵長は「布留川じゃ。なんで?」といったがオトメチャンは「いや別に何でもないで。ただ聞きたかっただけじゃ」と言ってほほ笑む。

オトメチャンには一つの懸念があって(神林さんのお母さんがもし、うちのお母さんの姉さんだったりしたらおおごとじゃ)と思っていたがその懸念は払しょくされ、ほっとした。

岳野水兵長は、オトメチャンの顔を懐かしそうに見つめて

「ほいでもまあ、あんたもーーいや、桜本兵曹もいろいろ辛いことがありんさったのですね。ほいでももう、すべて過去のこと。これからは桜本の家の人間として、うちとも仲ようしてつかあさいね。願います!」

と言ってオトメチャンの両手をもう一度、強く握った。そして

「みんなうちの目つきがきついきついいうんがじゃ、うちはどうも普段からきつうに見えるらしい。じゃがうちは腹の中にはなあもないけえ、怖がらんでつかあさい」

その場の麻生分隊士も松岡分隊長も、そして岩井中尉もうれしそうに微笑みながら二人を見ている。麻生分隊士が

「桜本兵曹、よかったな。だんだん親戚が増えとるじゃないか、ええことじゃ。この先もずっとええことがあるよう祈っとるよ」

と優しくいってオトメチャンは「ありがとうございます」と頭を下げた。そしてひょいっと顔を上げて岳野水兵長を見ると

「二人だけの時は、敬語で話すんをやめてつかあさいね。うちにとってはカメ姉さまじゃけえ」

と言って岳野水兵長も

「ほいじゃあ、二人っきりの時はうちは思い切り姉さまぶってええね」

といいみな大きな声で笑った。

マツコトメキチニャマトも笑った。

岩井中尉が

「不思議なめぐり合わせじゃね。オトメチャンももう過去からの束縛を解かれて新しい道を踏み出した、言うことじゃろうね。これがその第一歩かもしらんね。そうね、従姉妹同士か。やっぱし似とうてじゃわ」

と言って満足げにうなずいた。

岳野カメ水兵長はこの先桜本トメ兵曹の人生において欠くべからざる存在になってゆくのである。

 

そしてグアム島着から数日後、乗組員たちに上陸が許された。

仲間たちと一緒に上陸していた高田上等兵層、楽しくタモンの街を歩いている。美しいエメラルドグリーンの海が広がり、兵曹は

(ああこの風景。お母さんにも見せてあげたい)

と思う。お母さんとは、高田の母親のことである。兵曹は呉にいる高田瑞枝を思った。(お母さん…いつかうちはお母さんを連れてここに来たい)

そう思いながら歩く兵曹たち、向こうから日本人らしい男性の一団が来るのを見て仲間の一人の浜中兵曹が

「ここには内地から大きな企業が来とってらしいけえその社員さんかもしらんね」

といった。それにうなずいたもう一人の仲間の上重兵曹が

「ほうほう!なんていうたかなあ…〈南洋新興〉とかいう会社じゃったね。東京が本社じゃなかったかのう?西の〈小泉商店〉、東の〈南洋新興〉いうたら大した財閥じゃ」

と言った。

南洋新興…とその名を、高田兵曹は胸の中でかみしめた。その会社こそ、野田の伯父の勤める会社で、かつて見合いを強要された相手もそこの社員である。

やがて日本人男性の一段と彼女たちはすれ違った。

その時――。

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

まずはPCの件、ご心配をおかけしました。どうにもならなくって結局初期化して何とかなりましたホッ、ウイルス感染かもしれないといわれて気持ち悪かったのですがそんなこともないような…。ともあれご心配をありがとうございました。女だらけの「大和」、座礁せずに済みました。
(ライブドアブログをお持ちのみなさまの記事にコメントを入れたいのですが受け付けてもらえません(泣)、私のPCのせいなのでしょうか??こちらも復旧してほしいです~~!)

 

さて思いがけないめぐりあいの一つがオトメチャンと例の目つきの鋭い水兵長。なんと彼女はオトメチャンの従姉でした。

そして高田兵曹、何かあるのかないのか??気になりますね、次回をお楽しみに!

 

タモン湾。(WIKIより拝借しました)美しい…

恋人岬からタモン湾を望む
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Secre

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
もしも敵対する相手だったら…とハラハラものでしたが従姉妹同士。しかも岳野さんオトメチャンを擁護するほうでしたから一安心ですね^^。
知らない間に…なんだかドラマチックですね。またいとこさんともなるとあまり知らないことのほうが多いかもしれませんね。そしてほんと、悪いことはできませんよね(;´・ω・)w。

「女だらけの大和」また新しいページが開きそうです、ご期待くださいませ。
そしてこんなきれいな場所で血で血を洗う凄惨な戦いがあったとはにわかには信じられませんがそれが真実だと思うとき、戦争というものの罪深さを思わざるを得ませんね。
二度とこういう素晴らしい場所を地で染めないようねがいたいものです。

どうなることかと心配していましたが従姉妹どうしでしたか。
知らない間にとっても近い関係の人が傍にいるということを僕も体験しました。
仕事で知り合って、数年が経ってまた従兄弟であることに驚きました。
人の世で悪いことなど出来ませんね。悪口も。

新たな展開が始まりそうな。南の島での出来事を楽しみにしています。
きれいな写真ですね。こんなきれいな海や空、戦をする場所ではないですね。

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!

オトメチャンに新しく親戚登場、しかもとても出会いを待て居てくれた従姉でした!彼女とのめぐり会い出会いがオトメチャンの人生を支えてゆくことにきっとなります!

そして高田兵曹はいったいどんなことになりますかこれもお楽しみに♪

やとこさPCも復旧し安心しました、やはりPCの不具合って何か気になってたまりませんものね。
またよろしくお願いします!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
従姉でした。どうしてもこういう場合は怖いことを考えてしまいますが彼女はこれからオトメチャンのよき人生の参謀格になります。
「日向」で鍛えられた岳野さんの今後をお楽しみに^^。

えっ、カメ&トメってアニメであるのですか?私は寡聞にして全然知りませんですが…どういうアニメでしょう教えてくださいませ~~!
そして高田兵曹グアムの地で一体何が起きるかこちらも目が離せませんね!

森須もりん

ああ、従姉妹同士だったのですね。

私の想像をはるかに超える展開でした。

高田兵曹、南洋新興…ああ、どういうことになるのか。
なにかあるのですね。

いつも山あり谷ありの展開でワクワクします。

とりあえずPC,よかったですね。

従姉妹でしたか、少し心配していましたがよかったよかった。哨戒任務中のオトメちゃんの眼光が鋭いことは容易に想像が付きますが普段は優しげ、対して岳野さんは普段から鋭いということでしょうか。ぜひ航海科にコンバートと行きたいところですが、運用科で岳野さんが眼光鋭く管理する。事務処理能力も高いようですし、何より「日向」で鍛え上げられてますからね。

ところでカメ&トメという流れは、どうしてもとある公共放送のとあるアニメからか?というふうに想像するのですが。

もう一人の名字変更組、高田さんには何が降りかかるのか?波乱の予感ですよ。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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