恋におちて―ー巡洋艦「歯黒」の場合。2

山中大佐と繁木少佐は巡洋艦・歯黒でリンガ泊地へ向かっている――

 

そんな中で起きた、田中副長と花岡水兵長のほのかな恋心だったがこれが艦内中の将兵嬢に蔓延する事態が待っていた。

それは――。

 

出航後一週間ほどたったその日、烹炊所でそれは起きた。

その日の夕食を準備し始めた烹炊員たち、今日の夕食の献立は天ぷらである。冷蔵庫から食品を取り出してきた烹炊員の一人が班長に

「敷田班長、冷蔵庫の奥の隅っこにデカい○○(都合により伏字)が置いてありましたけど、あれどうします?ずいぶん前っからあの場所に置いてありますけどいいんですか?使っちゃわないと勿体ないですよ、あんなデカい○○」

と言った。敷田班長はちょと首をひねったが

「ああ、あれね!そうだねえずいぶん前っからあの場所にあるねえ…そうだそれなら使っちまおう。あのまま冷蔵庫の中で腐ってもらっても困るからね。ちょいと言って持ってこいや」

と言い、三人ほどが走り出して行った。

ややして戻って来た三人はふうふう言いながらそれを抱えてきた。

――大きなカボチャ。

○○=カボチャである。

オレンジ色の大きなカボチャは、三人の烹炊員上の手によって台の上にドカンとばかりに置かれた。敷田班長は

「おお~、でかいなあ。いったいいつこんなものを仕入れたんだろう?主計長ならご存知かもしれないねえ、あとでお伺いしようかな」

と言いながら包丁を取り出した。そして包丁の背でカボチャを叩いていたが

「さ、じゃあこの辺から切るか!」

というなりその刃をカボチャに入れた。が、なかなかどうして硬いカボチャには歯が立たない。

「うーん、どうしようかなあ」

と敷田班長は考えていたがはっと顔を上げると

「そうだ、逸乃城(いちのじょう)兵曹を呼んでこいや。相撲部員だからこいつをぶん投げて割ってくれるだろう」

と言ってそばにいた喜多野水兵長が「私が呼んでまいります」と走り出した…。

 

そのころ、山中大佐と繁木少佐は部屋にいて空母の飛行甲板の大きな図面を見ながら「どの辺にラケット繊維(と彼らは呼んでいる)を重点的に配置するか」を考えている。

山中大佐はふーっと息をつくと図面の中心に手をつき

「今までの瑞鶴・翔鶴の戦闘詳報を見ながらどの辺に敵機が集中的に爆弾投下したかを調べよう。そのうえで一番狙われる部分に厚く施そう。艦橋部分や待避所にも施したいからよく見ておかないとね」

と言い繁木少佐も

「そうですね…我々が机上で考えていることと実際は隔たりが大きいかもしれませんからね」

と言って手にしたエンピツを図面の上に置いた。

その言葉にうなずいた山中大佐は舷窓の前に立って外を眺めて

「空母…乗ってみるのは初めてですからなんだか楽しみなような気がします。―と言ったら不謹慎ですかね」

と言い繁木少佐は

「いや、私も実はそうなんですよ。遠くから見たことはありましたが、足を踏み入れるのは初めてですからね、ちょっとワクワクします」

と言っていたずらっぽく笑った。

大佐は「君もか…お互い役得だね。念願の空母を見ることができるなんて」と言って笑った。実はこの出張に益川中佐が来たがっていたのだ。彼も「空母が見たい、空母にラケット繊維を施したいです」とわめいていたが、江崎少将の「君は内地に残ってやってもらうことがある」の一言で黙らされた。

しかし彼の本音は別のところにあるのを山中大佐は知っていた。

まだ独身の益川中佐は「空母の将兵嬢の中にきっと素敵な人がいるはず。私も山中大佐や繁木少佐の奥様みたいな素晴らしい女性と結婚したいんです」と、大佐にはその本音を吐露していたのだ。

よこしまな考え、と言えばそこまでだが益川中佐にとっては切実な問題であった。

大佐としては、そんな部下の将来のためならと南方行きを代わってやっても良かったのだがそれを切り出す前に江崎少将が決断してしまった。

(気の毒な益川君。彼にもいい縁があるといいんだが)

と山中副長が思ったその時。

部屋の外からものすごい叫び声が響いてきた。

「な、なんだろう?」

と大佐と繁木少佐は顔を見合わせた。

さらに叫ぶ声は大きくなり、さすがに「これは異常事態」と二人の男性佐官は部屋を飛び出して声のする方へと走って行った。

大勢の将兵嬢たちが集まって騒いでいたのは烹炊所、大佐と少佐はたくさんの将兵嬢をかき分けて

「いったいどうしました、何があったんです?」

遠くへ入るとなんとそこには。

 

カボチャの化け物がいた。

 

烹炊員嬢たちももう、どうしていいのかわからないようで半分泣きながら「どうしよう、どうしようアレ。どしたらいいんでしょう」というばかり。

カボチャの化け物はまるで顔のような穴が開き、その下にはぐるぐると白い布状のものが渦巻いている、見るからに奇怪なもの。

山中大佐はそれを見つめていたがやがて

「これは…付喪神の仕業だな」

と言った。繁木少佐もうなずいて「これは、退治せざるを得ませんな」とつぶやいた。ああ、と唸った山中大佐は傍らの敷田班長に小さな声で「どこかにげんのうのようなものがありませんか?あったら貸していただきたい」と囁き、敷田班長は「運用科から借りてまいります、ここにお持ちしたらいいでしょうか」と言った。その班長に大佐は

「お手数だが最上甲板に願います。そこでこいつを退治します」

と言い、班長は駆け出して行く。

それを視界の端に見てから大佐はずいっとかぼちゃお化けのそばによると、その渦巻く布状の一番端っこをぐっとつかんだ。

かぼちゃお化けの口と思しき部分がガタガタ鳴り、大佐を脅しているように見える。

がしかし大佐はひるまずに

「おいこのぼうぶら野郎!ここを帝国海軍巡洋艦・歯黒艦内と知ってか!さっさと消えんか、消えねば退治してやるからそう思えッ!」

というなり布のような部分を引いて烹炊所から引きずり出した。キャッ、と将兵嬢たちが道を開け大佐はかぼちゃお化けを引きながら最上甲板へと向かってゆく。その後を繁木少佐が続きそのさらに後を将兵嬢たちが続く。

 

甲板上ではげんのうを借りてきた敷田班長が待っていて、山中大佐の姿を見ると走り寄ってげんのうを手渡した。

ありがとう、と班長に微笑んだ大佐は片手のかぼちゃお化けをにらみつけると思い切り気合を入れて

「うりゃっ!」

と甲板に叩き付けた。かぼちゃお化けはどの場にドン、と音を立てて転がったがすぐ体勢を立て直そうとした。繁木少佐が「そこになおれこの野郎!」と叫ぶと蹴とばした。かぼちゃお化けは体勢を立て直せずゴロンと転がった。

その瞬間を見逃さず山中大佐は

「この野郎!畜生め、ギエエエ!」

と絶叫するとかぼちゃお化けめがけてげんのうを振り下ろしたのだった。

ボゴッ!

と鈍い音がして皆がそこに見たのはめちゃくちゃに壊れたカボチャの残骸。しかもうらなりのかぼちゃらしく中身がほとんどない代物。

数瞬の間をおいて、将兵嬢たちからワーッと歓声が上がり大佐と少佐は皆に取り囲まれた。

騒ぎを聞いて駆けつけてきた白井艦長と田中副長が

「お怪我はありませんか?大丈夫でありますか」

と走って来た、その二人と大勢の将兵嬢に微笑んだ大佐は

「平気ですよ。――しかし変なものもいたものですねえ…驚きました」

と言って繁木少佐も「付喪神にしては弱かったですね。でもまあ、よかったよかった」と笑った。

烹炊員嬢たちはその場に散らばったカボチャを集めると

「これは今夜のテンプラにします」

と烹炊所に持ち帰った。

 

その天ぷらを食べながら山中大佐は

「繁木君は聞いてなかったかな奥さんから。以前『大和』でも同じようなことがあったというのを。聴いた話ではあるけど今回とそっくりなかぼちゃお化けが出たそうですよ。『大和』には陰陽師みたいな人がいるらしくってその人が退散させたと聞いてます。妻は写真を撮ったものの焦っていたせいか写っていなかったと残念がってましたよ。それにしても世の中には変なものがいますねえ」

と繁木少佐に語り、繁木少佐も

「ああ!あの話。私も妻から聞きました。なんでも上陸したとき誰かに憑いてきたとか。怖いような可笑しなような、妙な話ですよね」

と笑った。

 

二人がそんな話をしながら食事をしている同じとき、各居住区では将兵嬢たちが

「なんて素敵なんでしょうあの男性佐官のお二人!」

「ああいう男性を我々は夫にしなければ」

「まだ独身でらっしゃるのかしら?」

「だとしたら…いえ、たとえ奥様がいても私はあの方と!」

と大騒ぎである。

彼らのりりしい姿は必要以上に巡洋艦・歯黒の乗組員の恋心を燃え立たせたようである。

 

「歯黒」乗組員嬢たちの猛烈な()()攻撃(ック)が、はじまった――

   (次回に続きます)

 

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

何とかぼちゃお化けが…(;´Д`)。以前に『大和』でも出ましたがここでも!

それを退治た山中大佐と繁木少佐、図らずも「歯黒」乗組員嬢たちの心に火をつけてしまいました。付けた火は燃え上がってしまうのか…次回をお楽しみに! 
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オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
乙女たちはカボチャに異様に燃えますね=と思ったらそうか、王子様のあのブルマーに似てるからかww!納得w。
私もハロインのあのバカ騒ぎにはうんざりでした。最近は幼稚園でも子供に仮装させてパーティするらしいですよ。本来の意味が全く薄れただ大騒ぎしたりお菓子をもらうだけの行事なら無くってもいいじゃないかとさえ思ってしまいます。

「水煮牛肉」
辛いものはダメなんですが興味ありますね!これネタに使えそうww、情報提供ありがとございます、そのうち何かで出そうと思いますよ~♪

昨日の寒かったことったら(;´Д`)、麹町まで行ったんですが傘を持つ手が久々に凍えました。今日は今日とて風邪強くうまくいかないものですね。

オスカーさんもどうぞ御身大切になさってくださいね。11月もこちらこそよろしくお願いします!

こんにちは。
かぼちゃのあの形は乙女心を燃え上がらせる何かがある気がします~王子さまのちょうちんブルマーを連想するからかしら(笑) ハロウィンのバカ騒ぎにはウンザリでしたから、こういうかぼちゃの話はホッコリします!
関係ないですが「水煮牛肉」なる中華料理を見ました……ものすごく辛そうでした……誰かのお仕置きに激辛料理の話とか読んでみたいと思った私です!
昨日は寒かったですね。お身体に気をつけて、また今月もよろしくお願いいたします。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは!
昨今の食料の廃棄率はすさまじいものがあるそうですね、その反面食べ物に困り餓死する人が日本でもいるという、皮肉で矛盾だらけのこの世の中(-_-;)。
物を捨てるとき心の中で「ご苦労様、ありがとう」と語りかけて処分することにしています。<もの>だって。、人が心を込めて作ったのですから。

そして山中・繁木の両男性士官はこの先どうなるでしょう。男性から見たら本当に羨ましい状況でしょうねw。回り中女だらけよりどりみどり。
でも新婚ですからねえ~水兵嬢たちのモーションに引っかかりはしない!ーとは思うのですが。
艦長しっかりせえや、と言いたくなりますがさて。

鍵コメ様へ

鍵コメ様へ
お心乱れるようなことがおありだったのですね、ご心中お察しいたします。
しかしきっといいほうへと流れてゆくと私は思っております、まずはそれを信じてゆきましょう!
あなたの元気が私の元気です!
よい方へ向かいますように祈っております!

最近は使い捨ての世の中ですから、人知れず付喪神が生まれてるかも?食べ物はちゃんと食べること、その他のものは敬意を払って処分することで供養することが出来ます。

さて、水兵嬢のあこがれの的となってしまった新婚男性2人。ある意味おいらからすればうらやましい。しかし、一斉にアタックをかけられる前に、艦長さんあたりがおとりなしくださればよいのですが。

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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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