2017-09

鋭き眼(まなこ) - 2015.10.25 Sun

女だらけの帝国海軍『大和』以下八隻はまずは豊後水道を目指して海上を走る――

 

瀬戸内の島々の影を見ながらの航行に、露天配置の将兵嬢たちは目を細める。機銃の長妻兵曹は、三連奏機銃の砲身にブラシを突っ込んでごしごししながら

「ええなあ、やっぱし内地の風景はええねえ。おいみんな、よう目に焼き付けとけよ、次はいつになるかわからんけえの」

と配下の兵隊嬢に声をかけた。はい、そうしますという兵隊嬢たち、手を休めないで顔だけ向けて流れゆく風景を見た。

そこへ平野ヒラ女少尉がやってきて

「頑張っとるね。機銃の手入れを怠らないでくれよ、慢心が一番いけない。勝って兜の緒を締めよというからね」

と言って皆は「ハイっ、兜の緒をしっかり締めます」とこの時は手を停め少尉に敬礼して応えた。平野少尉は満足そうにうなずいて先へ歩いて行った。

 

さて新乗艦の兵隊嬢たちはそれぞれに配置され、これまでの経験を生かして働くことになった。

そしてあの眼光鋭い水兵長は内務科電機分隊に配置された。分隊士岩井しん中尉の配下である。岩井しん分隊士は彼女を温かく迎え、分隊の皆に紹介した。

「彼女は今回新しく仲間に入った岳野(たけの)水兵長じゃ。今までは『日向』に居ってじゃ。まだまだ分からんことだらけじゃけえ、みんなよう面倒見てやってくれんさい」

そう言って整列した皆の前に岳野水兵長を押し出した。

岳野水兵長は鋭い視線を皆に向けて

「岳野カメ水兵長であります。どうぞよろしく願います」

とあいさつした。その視線に、列の中の小湊二等兵曹がそっと自分の隣の淀橋二等兵曹に

「なんじゃ、えらいきつい眼えの水兵長じゃな…まあ、『鬼の日向』から来とってじゃけえ、仕方ないか」

と囁いたが淀橋兵曹は

「言うてもコミさん、『日向』出身者ならあの桜本兵曹たちもそうよ?あん人達、あげえに厳しい眼えはしとらんじゃないね」

と言って「なんや怖いわあ。それにしてもなんであん人はあがいにうちらをじろじろ見とってんかなあ」と不審感を現した。

ともあれ岳野水兵長は、岩井分隊士からじかに指名された淀橋兵曹にくっついて『大和』での仕事をおぼることになった。

はあ、うちがあん人の指導係かとやや意気消沈している淀橋兵曹に小湊兵曹が

「大変じゃな。まあうちも助けたるから、なんぞあったら言えや」

とその肩をポンと叩いて去った。

そしてその日その時から岳野水兵長は電機分隊第三班で働くことになったのだが…。

 

眼光鋭い水兵長のうわさは、もう医務科にまで届いていた。日野原軍医長は

「さすが女だなあ、噂の走る速度の速いこと速いこと」

と笑った。するとそばにいてメスを磨いていた大きな体の遠藤二等兵曹が

「軍医長、笑いごととはちいと違うみとうですよ?」

と話しかけ、軍医長は「どういうことかな」と遠藤兵曹に体を向けた。遠藤兵曹はその大きな体を小さくして軍医長の耳元に「ちいと失礼します」と言ってから

「えらいきつい眼ぇをしとってなそうです。それが、なんやら誰ぞ探しとってなようじゃと、うちの同期がゆうてました」

と囁いた。日野原軍医長は遠藤兵曹の顔を見て

「ほう、誰を探してるのだろうね?きつい眼、と言っても元々そういう目かもしれないし…」

というと遠藤兵曹はかぶりを振って

「もともと、言う感じではなさそうじゃというてます。なんでも人を見るときだけきつい眼えで、特に兵隊たちが集団でいるところはその眼えで探るように見とってじゃ言うがです。どういうことかみなわからん言うてましたが、そんとなこと本人に聞けんですもんねえ」

というとため息をついた。

「そうか。誰か探してるんだろうが、そうだとしていったい誰をねえ。何か問題が起きてもいけない、何か誰かに関することを聞かれても軽々に答えんようにしないとね。岩井分隊士に言っておいた方がいいな」

と日野原軍医長は言って、うなずいた遠藤兵曹はメスを磨き始めた。

 

山中副長は、甲板士官の藤村少尉を伴って艦内の見回りをしている。副長は豊後水道から外洋に出るまでに、艦内のさまざまを掌握しておきたいと見回りをすることにした。

それこそ艦の上から下まで彼女たちは回った。出航直後ではあったが普段から練磨を怠らない『大和』艦内は乱れの一つもなくそれぞれ軽い訓練や装備の点検をしている。

「素晴らしい。わが艦の将兵はどこに出しても恥ずかしくない」

と副長はうれしく思った。

そしてさらに二人は艦の下へ。

途中電機分隊の分隊士・岩井中尉に出会った。中尉は几帳面な敬礼を二人にした、副長が

「ご苦労様。そういえば岩井中尉の分隊に新しく乗艦した水兵長は、どんな感じですか」

とほほ笑みながら尋ねた。岩井中尉は

「はい。『日向』に居たとあってなかなか使える人物と見受けました。が…」

とそこまで言って言いよどんだ。副長はやや首をかしげて

「どうしました、岩井さん?」

と尋ねた。言い淀む岩井中尉に藤村甲板士官が「言ってください。岩井中尉」とそっと促す。

岩井中尉は意を決したように顔を上げると

「岳野水兵長、ちいとわけありなんと違いますかのう。えらい厳しい目つきでみんなをにらみまわして、淀橋兵曹の言うには誰か探しとってじゃないかというんです。ほいでもこれはあくまでうちらの推察でしかありませんが、あの眼えはそんな目じゃと思います」

と言い切った。

山中副長は腕を組んで考え込んだ。藤村少尉も、岩井中尉と副長を交互に見詰めている。

やがて副長は組んだ腕を解くと

「わかりました岩井中尉。出航直後に大変なことでありますがよく注意して岳野水長を見てやってほしい。そしてあまり彼女を変に刺激しないよう皆に言ってやってください。そしてもしも、その差がしていると思われる人物が特定出来たら教えてください。どういうわけで探しているのかがわからない以上放ってはおけませんからね」

と言って、「わかりました、皆に周知徹底させます」と岩井中尉は二人と別れた。

藤村少尉は「またなんだか大事になりそうな予感がしますが…」と辟易したような声音で言った。その彼女に副長は

「まあこれだけの人数がいるわけだから、何もない方がおかしいよ。それでも本当に大事にはならないでほしいものですがね」

というと先を歩き出す。藤村少尉もあとをついてゆく。

 

眼光鋭い水兵長のうわさは、艦隊が三田尻沖に行きつくまでにすっかり艦内に充満していた。

航海科の面々にもその話は伝わって、夕食の場で亀井上水が「ほういやあ」と他分隊の同期から聞いた話を切り出したことで話は航海科全員に伝わった。

「なんじゃ、そげえな人が新乗艦者に居ってかね?眼光鋭い言うなら見張りに欲しいもんじゃがのう!」

と航海科見張り員たちは笑い飛ばした。が、亀井上水はそのあとの肝心部分〈誰かを探しているような目つき〉であることを聞きそびれていた。

オトメチャンは

「ほう、そげえな人が居ったんね。どこの分隊に配属じゃ聞いたかね?――え、運用科かね。フーン、ほりゃあ惜しかったね。まあでもそげえな人なら運用科でも重宝じゃろう」

と言って味噌汁をすする。小泉兵曹は

「目つきなら石場兵曹長に誰も負けんで。その水兵長がどげえな目つきでも、石場さんのあの暗黒の一重まぶたを見たら絶対ひれ伏すわ」

と言って皆は大きな声で笑った。

 

広い広い艦内、そして大人数の集う『大和』。この中で一人を探し出すのは簡単ではない。でありからこの物語もそれなりの時間を要することになる。

そして夕食後の自由時間、岳野水長はそっと居住区を出て艦の上部へと歩き始める。

 

『大和』以下の艦隊、明日朝には豊後水道に差し掛かる――

 

         ・・・・・・・・・・・・・・

目つきの鋭い水兵長―岳野カメ―はいったいどういう人なのでしょう。そして探していると思われる人は。

ドキドキを載せて艦隊は一路豊後水道へ。

次回以降をご期待ください。


豊後水道。(画像WIKIよりお借りしました)明るい海が印象的ですね。
豊後水道

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
おお~~う、安全地帯の「熱視線」、懐かしいですねえ💛

さてさてこの水兵長、いったいどういう人でどういう理由でそんな鋭い視線を放つのか??探し人は?いろいろ気になりますがこちらもちょと気の長い話になるかもしれません、ゆくりとお付き合いくださいませ^^。

今日は暑かったですね(;´Д`)、更年期障害その一w、ホットフラッシュ絶好調の私には厳しい一日でした。夜になってちょっとひんやりして小雨が降っています。
気温差が激しいですね、オスカーさんも御身大切にお過ごしくださいませね^^。

こんにちは。
タイトルをナゼか「熱き眼」と読んでしまい、安全地帯の名曲「熱視線」がアタマの中をグルグルと(^。^;)
目が悪くて目付きが鋭いというワケではないのですね。探し人はどんな人なのか、気になります。
昼間はアツく朝晩はヒンヤリの気温差がまた一段と大きくなりました。お身体に気をつけて下さいませ。

荒野鷹虎さんへ

荒野鷹虎さんこんばんは!コメントをありがとうございます^^。
相も変わらずこうして続けておりますw、今後ともよろしくお願いします!
今日は東京も肌寒い一日でした。今朝のTVで北海道に雪が降っているのを見ましたがいよいよ本格的な冬ですね。どうぞ御身大切になさってくださいね。

米海軍には女性士官が!さすが進んでるアメリカさん、さっそうとした女性士官を拝見したいですね^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
そうなんですよ、『大和』に恨みを買う人物はいないはずですが…(-_-;)。
いったいどういうことなんでしょう、お楽しみに!

オトメチャンと小泉は「日向」から転勤になってきました。鬼の日向に蛇の長門などといろんなざれ歌があったくらいきびしい内規があったそうですがだからこそ帝国海軍は強かったのかもしれませんね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
にいさまのおうちから見える別府湾に、私の『大和』が航行しています。きっと『大和』から梨賀艦長以下がにいさまに手を振っていることでしょう。
実際に昭和20年四月五日から六日にこの海を粛々と渡って行った第二艦隊、彼らはいわば「死ぬために」海を行ったのですが私の『大和』は彼らの想いを受けてこうした形で表しました。私の大和は、死ぬためではなく「明日から先を生きるため」に今日も行きます!護国神社に祀られたご祭神の中にも『大和』乗務で大分御出身の<小野純太郎>一等工作兵曹がいらっしゃると思います。小野兵曹が笑ってくださってるといいんですが、こんな変な話にしてしまって怒ってるかなあなどと心配してます。

明るい光に満ちた豊後水道、別府湾。二度と悲しい、死出の旅へ向かう艦艇を通したくないと思います。
そしていつの日か、私はこの海を目に焼き付けに行きたいと思っています。

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
お疲れさまです、お忙しい中いらしてくださいましてありがとうございます!!

オトメチャン、本当の乙女でありまた勇ましい海軍兵でもあります。その辺の落差がいい感じを醸しているかもしれませんね。
岳野カメ。新乗艦者が今後どうなるのかも見ものです。

瀬戸内の明るい海が好きです。そしてそこから先の九州の海、明るさにあふれて希望が湧きます!

見張り員さんへ!!

昨夜はお言葉をいただき大変懐かしくありがとうございました。!すごい継続の力を発揮されていますね~~!
北海道も一気に冬の気配になり、何時雪が積もるか知れません。愈々長い冬篭りの生活です。アナグマですねー。笑い)

道東では米国の軍艦が時々来ますが女性士官がいるそうですね~~。今後とも宜しく。!

大和のクルーには人の恨みを買うような御仁はいなかったような?
日向からの転属組にオトメちゃんがいたことをすっかり忘れてました。日向と言えばなく子も黙る規律の厳しい艦。もっとも程度の差こそあれ日本海軍の規律の厳しさは折り紙付きでしたね。

おお。見えますとも。高台にある我が実家のリビングの窓を開けると別府湾。
見張り員さんの大和が、梨賀さんはじめ皆さんの乗っておられる大和の姿が。そこには見張り員さんの心がしっかりと映っています。
この高台には護国神社もあります。大和の皆さんと英霊が呼応しているのも伝わってきます。
目に浮かぶこの光景を終生忘れまいぞと思っています。見張り員さん、ありがとう。

おはようございます。

ここ最近、仕事が不規則に増えて
あわただしくて、
サラリ読みしかできませんでした。

今朝、ゆっくり読ませていただきました。
オトメチャン、なんかいい感じのキャラクターですね。
さらに岳野カメさんが気になります。

瀬戸内・・・内地の風景を見るみんなの、まなざしが浮かびます。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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