朝日町異聞 1

女だらけの『大和』はそろそろ抜錨の時が近づいていた――

 

残り少ない内地を、休暇をもらって過す者もいればしばらく遊べないからと上陸して朝日町で遊びまくる者もいる。

季節はもう初夏となり、皆の軍装も白の二種軍装に代わっていた。

 

「椿兵曹、今日はどこへ行くがです?」

『大和』機関科の椿於二矢子(つばき おにやこ)上等兵曹は上陸のランチの中で、同じ機関科の米山タマ一等兵曹に尋ねられた。椿兵曹は吹き付ける風に軍帽を取られまいとその庇をしっかりつかみながら

「私、今日から三日休暇をもらいました。ですから実家に行って親に顔を見せてきます。当分帰れませんからね、それにこのところずっと、実家に帰っていませんでしたけえね」

と丁寧な言葉遣いで言った。

米山兵曹は「ほうでしたか…ほいじゃあお気をつけて行ってらしてつかあさいね」と言った。椿兵曹は(米山兵曹、自分がどこに行くか聞いてほしいのだな)と直感し

「ほいで、米山兵曹はどこへ行くんかね?ご実家は遠いんかね?」

と聞いてやった。すると案の定、米山一曹の顔がうれしげにほころんで

「ハイ。うちも三日休暇をもらいましたが実家は遠いし、もう兄が家を継いどってですけえ行きにくうて。じゃけえ実家には今回は帰りません、下宿に行ってから…ウフフ、十三丁目(あさひちょう)に行きます。うちの馴染みが待っとってですけえね。ウフフ」

と言って肩をゆすった。

ああ、そうねと椿兵曹は言った。米山一曹は

「椿兵曹は、行かんのですか?馴染みの男くらい居るでしょう?」

と言って体を寄せてくる。椿上曹は

「うちには居らん。うちはそがいなところに行ったことがないけえ、馴染みもおらん」

と前を見たままで言った。米山兵曹は

「なんと、行ったことがないと!ほんなら今度内地に帰ってきたらご案内しますけえ楽しみにしとってつかあさいな。ええ男がいますからきっと、椿兵曹の気にいるもんが居りますよ!」

と言って、椿兵曹は困ったような顔で

「うちはええけえ。まあ人のことはええから、米山さん楽しんできんさいな」

と言ってやった。米山兵曹は「ハイ、存分に楽しんできますけえね。いつか椿兵曹も…ね」と言ってもう目の前に接近してきた上陸桟橋を見つめた。

 

上陸のランチは桟橋に接岸し、それぞれ順々に降り立って衛兵所を敬礼でもって通過してゆく。

椿於二矢子上等兵曹、米山タマ一等兵曹もそこを通り過ぎ

「じゃあ、米山さん。気ぃ付けてな」

「ハイ、椿兵曹もお気をつけて」

と声を掛け合って左右に分かれた。

米山兵曹は駆け足になって、下宿へと急いだ。下宿へ行って溜まっていた部屋代を支払ったら掃除をしてから朝日町へ繰り出す予定である。久々に、あの(ひと)と思い切りいいことしよう。米山兵曹の心は弾んだ。そして下宿に駆け込むと下宿の主人にあいさつし、畳に箒をかけた。そしてぞうきんを固く絞ったので端から端まできれいに拭いた。今度はいつ帰れるかわからない、今回もそれほど帰れなかった部屋に詫びを入れるような気持ちでいた。

「さてと」

と米山兵曹は掃除を終えると手をパン!とたたいてから朝日町に繰り出す準備を始めた。まずは二種軍装の埃を丁寧に払った。ボタンを一つ一つ丁寧に布で拭いて、階級章がひん曲がっているのを直した。そしてはたと思い当たったことがあり…それもした。

そして彼女は背筋をピンと伸ばして、意気揚々と朝日町に向け歩いて行ったのだった。

 

途中、『大和』の仲間の一人に出会い「米さんどこの見世に行くんじゃね?」と聞かれ、どこどこの見世じゃ、と答えると

「ああ!ほいじゃあうちも一緒じゃ、一緒に行こうや」

と言って二人は肩を並べて歩き出す。そしていよいよ朝日町に入ると大勢の兵隊嬢たちがいて米山兵曹は気がせいた。

「タカさん急ごうや。えらいこみあっとるで」

そう友人に声をかけ、二人は駆け足で目当ての見世に飛び込んだ。

米山兵曹の馴染みの男性は彼女の顔を見ると喜んで彼女の手を引いて部屋に連れて行った。タカさんと呼ばれた友人は女将に案内されて奥へと入る。互いに「じゃ、あとでな」と軽く手を振って別れた。

 

「米山さん、ようおいで下さいました。待ってましたよ」

と男性――見世での名前を鼓――は言って座布団に兵曹をいざなって座らせた。二種軍装の上着を脱がせ、それを部屋の隅に綺麗に畳んでおいた、その上に軍帽を置いて。そして「おなかすいてませんか?今料理を運ばせます」と彼はふすまを開けて外に何やら言ってからふすまを締めた。そして「――逢いたかった。逢いたかったですよ米山さん」と囁くなり彼女の頬を両手でそっと挟むと口づけた。

久しぶりの感触に、米山兵曹は自分の体の奥から何か―ー耐え難い感情が湧き上がるのを覚えていた。然し物には順序があるからぐっとこらえる。

やがて料理が運ばれて、米山兵曹は鼓くんから「さあ、召し上がれ」と盃に酒を注がれた。あまり酒が強くない米山兵曹は「そのくらいで。でないと私、眠ってしまいますけえの」と言ってほほ笑んだ。鼓くんも微笑むと「では、このくらいに」と徳利を傍らに置いた。

米山兵曹は空腹だったので、出された料理をすべて食べた。そしてふううと息をついていると鼓くんが日本茶を淹れてくれた。酒の苦手な米山兵曹にはありがたいもてなしである。

茶を喫し終えると鼓くんは「もっとお茶を如何ですか」と聞いたが米山兵曹は「いや、もうたくさんいただきましたけえ。ありがとう、とてもおいしいお茶でした」と感謝した。すると鼓くんはいきなりのように彼女を抱き上げ、次の間に続くふすまを開け放った。

なまめかしい布団が敷かれていて米山兵曹の胸はときめいた。

いよいよ。

久しぶりの〈あの時〉が始まるのであった。

 

ふすまを閉め、部屋の中に明かりと言えば今まで食事をしていた部屋から漏れこむ明かりだけ。二人はことに及ぶ部屋に明かりをつけるのは好かないため、こうして薄暗い中でまぐわうのである。隣の部屋はそのままにしておけば二人がことを終え寝静まったころに手すきの男性がそっと片づけてくれる。

「タマさん」

鼓くんはそう熱く囁くと、米山兵曹の襦袢のボタンをはずし始めた。

そしてその熱い手が、兵曹の軍袴を脱がせたとき――鼓くんは「…タマさん?」と何か不審げな、そして悲しげな表情と声になったのである――

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・

連休はいかがお過ごしでしたか?私は千葉で過ごしていました。

さて『大和』に話が戻ってきましたがその第一弾がこれです(;´Д`)。朝日町と言えば言うまでもないあの場所です。

米山兵曹、馴染みの鼓くんとの楽しい時間が始まるところですが、どうした?鼓くん??

次回をワクワクしながらお待ちくださいませね^^。

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matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
さあいったい何があった??というわけでドキドキの展開が…!


連休は千葉の実家に行ってきました。母の心臓の状態があまりよくないようで心配でしたし、買いたいものがあるというので一緒に見に行ってきました。
あの暑かった夏がうそのように秋の風が吹いていました。
海からの風が吹いて、ちょっと珍しいことですがとても海のにおいがしていました。
「女だらけの~」の構想をちょっと考えました。
本当に考えている作業は楽しいですね^^。

さあ『大和』はトレーラーへと向かいます。今後をご期待くださいませ。

楽しい一夜になるはずが、どうしたんでしょう。
軍袴の下に何かを発見、ですかね。

連休は千葉でお過ごしでしたか。
千葉も秋の様相が押し寄せてきているでしょうね。
戦艦大和の構想もじっくりと考えられましたか。
小説ってこの構想を練るときが楽しいんですよね。
都会の喧騒から離れ、頭を切り替えて大和を盛り上げてくださいね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
肝心な場面で一体鼓くんに何が…??緊迫感いや増しますね~、しかし私のことですからきっと絶対くだらないwことになるのでしょうw。

身辺を普段からきれいにしておくというのは大事ですね。『大和』の彼女たちはなかなか下宿に帰れないので、帰り次第溜まっていた下宿代を支払い、掃除をします。何といっても「お借りしている」ものですから…。

そして米山さんの楽しみの夜はほんとどうなりますか、お楽しみに!

さてというところでどうした鼓くん!!
もしかしたら激務がたたってタマさんの体に異変が!?
何やらが起きそうな気配がしてきましたね。

しかし昔の女性は立派でしたね。内地に着いたらまず片付けを先に済ます。
下宿代の支払いと掃除。身ぎれいにしてから気持ちを切り替えるって大切ですね。
せっかくの楽しみに水が差されなければよいのですが。

森須もりんさんへ

森須もりんさんおはようございます
椿於二矢子、この名前もどう当て字をしたらいいかとか考えて作りましたw。

さあそして米山さんはどうなるのでしょう。ドキドキしながら次を待っていてくださいね^^。
軍手、これをして仕事をすると何か気分がピシッとしますよ!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます

この話…ちょっと衝撃(笑撃??)な展開になりますw。

女だらけの『大和』もいよいよトレーラーに向けて抜錨、あっちのさまざまもきれいにして出かけたいものですが、さあどうなりますかご期待を!

こんにちは

つばき おにやこさんで、まず笑ってしまいました。

どきどきします。

この軍手、いいですね。

ことに及ぶにあたり悲しげということは、月一ですかな?だとすればこのあとの展開は?
内地にもあと1週間あまりでしょうから、今回はお預けというのも切ない感じですが。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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