2017-09

こうしてやるっ!6 - 2015.10.01 Thu

八介は、桂との情事の後恐ろしい計画を語り始めた――

 

桂は「はあ、疲れたあ…ハッサンすごいんだもん」と言いながら大きく息をつきながら八介の下から言った。八介は桂から身を離して「よかったか」と言ってにやにやした。

八介は枕元に置いてあった湯呑の中の水を飲み干してから

「これから毎日いい思いをさせてやるよ。ごく近いうちに金が入るし、そしたら結婚だ」

と言った。桂は薄い布団をかぶって裸身を隠すと

「でもハッサン、まだ海軍さんと結婚しているんでしょ?」

と言って八介を見つめた。離婚をしたという話はまだ聞いていない、それなのに私と結婚とはどういうことだろう。桂は不審そうな顔つきになった。

八介は桂のそんな表情にも気が付かないのか一人で話し始める。

「あいつが出て行ってからも離婚をしなかったのは、未練とかなんとかじゃないぜ。あいつと結婚をしていればあいつに何かあったとき金が入るようにしたからだ。そうだよ保険金をかけたんだよ、死亡時に五万円。すげえだろ、その金さえあればあんな店畳んで新しい家作って別の人生始められるんだ、でな」

そう言ってから八介は周囲を見回すようなかっこをしてから

「あいつには死んでもらわなきゃダメなんだ、五万円が入らないからな。聴いた話じゃあいつは面会禁止だっていうからたぶんダメなんだろう。だがその時を待ってるほど俺は悠長じゃねえ。だから」

と言って一旦言葉を切る。

桂はゴクリと喉を鳴らして「――だから?」と尋ねた。いやな予感がひしひしとその身に寄せてきて桂は軽く気分が悪くなっている。

すると八介は言い放った――

「死んでもらうんだよ」。

 

八介はそのことについて入念な計画を練っているようだった。

桂に、

「お前は明日にでもそれとなく海軍病院に行って、建物のどこにどういう出入り口があるか、外付けの階段はあるかを見てこい。俺はあいつの実家に連絡して何とか病室を聞き出す。そしたらあとはもう、やるだけだ。安心しろ、やるのは俺がやる。でお前はそのあとはしばらく俺と一緒に居ない方がいいな、俺が連絡するまで会わねえほうがいい。首尾よく行ったらまた連絡するから、待ってろ」

と言って、八介は夜道を帰って行った。

残された桂はしばらく考えていたが、背筋が凍りつくような気味の悪さをじわじわと感じた。

桂は、八介という男がわからなくなっていたし第一怖くなっていた。八介が形だけではあっても婚姻を続けている海軍士官が大けがをして横須賀の海軍病院に入院した、と言ったときの彼の顔を思い出した。何かうれしそうな妙な顔つきだった。

たとえ、何年音沙汰なくとも妻は妻ではないのか。大体が自分たちの扱いの悪さゆえに海軍士官である妻は出奔してしまったのではないのか。

桂は以前初めて本郷の家に行って、八介の母親に会った時のことを思い出した。海軍士官である嫁を悪しざまに言い放ち座卓をたたいて悪口雑言をわめき散らす彼の母親に正直嫌悪の感を持っていた。

だが八介は「金が入ったらお母さんとは別の家を建ててそこに住もう。お前とお母さんを一緒の家には置かないから」と言って桂を安心させた。

だが。

(本当にそれをうのみにしていいんだろうか)

桂の心のうちに激しく猜疑心が湧き始めている。もしかして、妻の海軍士官を殺してしまった後私も殺されるのではないかと思った。あんなことを平気で言える人だもの、悪知恵だけはたけているに違いない。妻という人を殺害した後、罪を私に擦り付けて自分たちは高額の保険金を手にしてほくそ笑んでいるかもしれない。

ありえない話ではない。

「そんなの、いや」

桂はつぶやいた。逢ったことはないが、悪しざまに言われた海軍士官が気の毒になってきた。自分の立場に置き換えたらそんなのいたたまれない。

(私は人の道に外れたことはしたくない。ならば!)

桂は一大決心をした。

 

桂がそんな決心をしたころ、八介は自宅に帰って酒を飲んでいた。扉のない部屋から明かりが廊下にもろに漏れ出て、その明かりに母親が目を覚まして起きだしてきた。母親の本郷クマは

「まだ起きてるの?桂ちゃんのところ行ってたの?」

と尋ねた。その母親にうなずいて八介は

「もうすぐ金が入るからな、待ってろ。金が入ったらすぐここを離れるからそのつもりで用意しとけよ。ぐずぐずしてたら置いてくからな、必要なものだけ持って出るんだ、いいな」

と威張った。クマははっとした表情で部屋に入ってくると「いよいよ…やるのかね?」と低い声で言った。八介は「ああ。やる。明日か明後日、桂が病院を偵察に行くからそのあと。波田野の家にあいつの状態を聞いてから行く」と表情を変えないで言う。クマは「桂ちゃんも一緒に連れてくんだろう?あの子はあんたの」とそこまで言いかけたとき八介はそれを遮って

「連れてくわけないだろう!あいつには俺の罪をかぶせる。桂が、ミツの存在を鬱陶しく思って殺したと言えば皆納得する。それでいい。所詮あいつは遊び道具だからな…男に捨てられて生きる希望をなくしてたあいつに夢を見せてやったんだ、ありがたいと思ってほしいね」

と冷たく言い、「もう寝るから、あっちいけ」とクマを追い立てた。

 

翌日、朝早く桂は家を出た。周囲に細心の注意を払い八介の影がないか確かめて海軍病院を目指した。と言ってもその目的は八介に言われたことのためではない。

(海軍さんをあの男の魔の手から守らないと)

という思いからである。当初、八介と付き合いだしたころは正直海軍士官である妻という人の存在が疎ましかった。何年も音沙汰ないならさっさと離縁したらいいのに、何の未練があるんだろうと思っていた。が未練があったのは士官のほうではなく八介で、しかもその未練の中身はとんでもないことだったとは。

そういえばあの男は私からもいくらか金を借りて行ったままいまだに返してこない。このまますべてを私に押し付けて自分だけいい思いをしようというのだろうか。

そんなことさせない!

桂は唇をかみしめ、何度も道を変えながらひたすら歩いた。八介が後をついてきているのではないか、私の考えを見通してはいないかという恐怖に必死に耐えながら、彼女はやっと海軍病院についた。そして意を決して一息深呼吸すると、桂は海軍病院の中へと入って行った。

 

その同じ日、本郷八介は波田野家を訪れ「ミツさんの具合はどうかと思いまして。何か聞いてらっしゃいますか?」と聞いていた。

むろん波田野家では本当のことは知らされていない。事実とは違う〈本郷大尉は面会謝絶、大変危険な状態が続いている〉という話を信じていて、それをそのまま八介に伝えた。

八介は内心、ニヤリとしながらも顔には出さないで

「そうですか…ミツさん元気になれないのでしょうか」

とさも悲しそうに言った。ミツの父親は硬い表情で

「結婚したというのに何が気に入らないのか黙って消えてしまうような娘には当然の報いでしょう。八介さんももう、あんな娘に心を寄せる必要はありませんから。どうぞ離縁してやって構いません。いや、そうしてもらった方があなたのためでもある、あなたもまだ若いのだからやり直してほしいのです。もしかしたらいい人でもいらっしゃるんではないでしょうか、そうならなおさらです」

と言った。傍らに座ったミツの母も黙ったままでうなずいた。八介はいやあ、といいながらも

「申し訳ないことですが…実は。その人はどうしても僕と一緒になりたいとせっついていまして。でも僕にはミツさんがいるから、と言ってあるんですが」

とこまった風を装った。

ミツの父が「そうですか…それではその人もあなたも気の毒だ」と言い「ミツが死のうとも永らえようとも、あなたはあなたの道を歩いてください」と離婚を勧めた。

が、八介は「その話はまだ先でいいでしょう、それより私はミツさんが本当に心配です」と言ってうその涙を流して見せた。

ミツの母が、それを見てもらい泣きした。

 

桂は、病院に入ると受付に行き

「あの、あの…。ここに本郷大尉さんとおっしゃる海軍さんが入院されているとうかがいました」

と声を潜めて尋ねた。すると受付の左右に立っていた警備の兵曹嬢の顔がキッと厳しくなり受付の看護兵の一人に目くばせした。看護兵が席を立ち、警備の兵曹嬢二人が桂を挟むような格好になると

「あなたはなぜ本郷大尉を知っている?こちらに来てほしい」

と言って病院の奥へと連行していく。

桂の胸の鼓動が痛いほど高まっている――

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

八介とうとう動きを始めましたが、なんと、愛するはずの桂を利用していたとは。しかし桂も八介の本性を見抜いたようです。病院に、本郷大尉を助けるため行った桂はどうなるのでしょう。そしてあの八介は保険金を手にしてしまうのでしょうか…。

さらに緊迫の次回をお待ちください‼


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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
ここではっと気が付くか否かで頭の良しあしがわかってしまいますね。桂は頭が良い。
遊び道具にされていると悟ったか、桂!

桂と本郷大尉、会いまみえるかもしれませんよ、大尉はどう思うか…どうぞこの先をお楽しみにしていてくださいませね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
こんな悪党にいいように扱われ、下手したら殺人の罪を擦り付けられるところだった桂さん。愛人という立場ではありましたがしっかりと両目を開いて相手を見つめていました。それにしても馬鹿な八介、そんな計画をペラペラしゃべるとは。あほですね。
さあ、ミツ大尉と桂はどうなりますかお楽しみにー!

昨晩は偉い風と雨でしたが今朝になると嘘のように治まって昼間には青空も見えました。大分も青空だったのですね、やっぱり秋には抜けるような青空が一番似合いますね♡
クライマックス、じっくり考えながら文章にしてゆこうと思っています!
いつもお心ありがとうございます!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
親子して腐っていますね、本郷八介もクマも。どうしようもない人間というのはやはりどこにでもいるのですよね(;´Д`)。
そしてミツ大尉の実家もこりゃどうかなあ、という感じでこれは和解は難しいかもしれません。

それにしても大雑把な計画は絶対頓挫しますね、手痛い目に合えばいいのです。愛人の桂嬢、どうなりますか。

桂のネーミングですがふっと頭に浮かんできたものです、なんていうか本当にふうっとw。

桂さん

桂さんも、気が付いてよかった。

騙されたままでは、あまりにも腹立たしい。

桂さん、本郷さんに会えるかなあ。

本郷さんも嬉しくはないだろうけれど・・・

でも、助かって欲しい。

とことん悪党親子ですね。しかし桂さんが正常で良かった。
欲に目がくらんだ馬鹿な男が寝物語についつい喋ったことで、これから大どんでん返しが起こると思うと心躍ります。桂さんも本郷大尉同様に寸前で助けられることでしょう。正道は魔道に勝る。スキッとスカッと頼みます。

荒天は収まりましたか。大分は若干気温が高いものの抜けるような青空が空一面です。
八介親子成敗のクライマックスですが、あまり没入なさらぬようくれぐれも体調には気をつけてください。

どうしようもない親子ですね。八介の悪さに並ぶ人物はそうそういないでしょうな。だまされているとはいえ、ご実家の方も何という言いぐさかと思います。おそらくは八介の内面を知らないからなのでしょうが。

愛人に己の計画を感づかれるほどのずさんな計画。海軍嬢たちにかかれば木っ端みじんに粉砕できますが。愛人の桂さんの今後はいかに?

ふと思ったのだが、桂さんのネーミングは「愛染かつら」からでしょうか?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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