2017-09

こうしてやるっ! 3 - 2015.09.22 Tue

本郷大尉は、横須賀海軍病院の外科病棟に入院した――

 

外科の馬堀部長、辺見次長が出迎えて本郷大尉は個室に入れられた。まだ時折出血多量の後遺症からか頭がぼうっとすることもあったが、巡洋艦の軍医長たちの手厚い看護によってだいぶ良くなっては来ている。

馬堀外科部長(軍医大佐)は彼女のカルテを見て

「これは…まさに奇跡が起きたね。こんな大事故、普通では命がない。よほど強運の持ち主だね、これは何としても元の通りに治さねば!」

と驚き、カルテを辺見次長(軍医大佐)に手渡した。

辺見次長も驚いて、ベッドの上の本郷大尉を見つめ「私の妻と同じ…零戦の搭乗員」とつぶやいた。馬堀部長が

「あ、辺見君の奥さんも零戦の搭乗員をしていたんだね…この大尉とどこかで会ったりしてはいないかな?--本郷大尉は南方基地の所属か、じゃあ会ってはいないか。にしても同じ零戦乗りだ、しっかり治療して元の基地に戻してあげよう」

と言って辺見次長は頷いた。

 

本郷大尉は入院後二週間ほどはすっきりしない状態が続いたがそのあとからだんだんと治療の甲斐あって頭もすっきりし始めた。骨折した部位を何回かに分け手術する必要があったが、適応も「しっかりあります、体力もついてきていますからそろそろ始めてもいいでしょう」と、本郷大尉の担当医の花森カヨ軍医大尉は言った。

辺見大佐は花森軍医大尉の肩をそっと叩いて

「頼みます。彼女は日本にとって大事な搭乗員ですから」

と言って軍医大尉は「ハイ、必ず」と力強く答えた。

 

ある日、本郷大尉が三度目の手術を受けた後ベッドで麻酔から覚めてぼうっとしているそこに、失礼します、と声がして一人の軍医大尉が入ってきた。担当の花森大尉ではなく別の大尉。

その大尉はぼんやりと視線を天井に向けている本郷大尉の顔を見ると

「やっぱり貴様か、おい、波田野!貴様波田野だろ?覚えてない私のこと?女学校で一緒だった君塚だよ?大丈夫なのかこんな大けがして!」

と言ってその瞳を覗き込んで微笑む。

本郷大尉は「君塚…きみづか…」とつぶやいていたが「ああ!あの秀才の、医者の娘の君塚さん、きみちゃん!でもどうして私をわかったの?」とやや大きな声を上げて包帯に包まれた右手を挙げた。途端に軍医大尉の口調が変わり

「そう!覚えてくれてたんだ、うれしいなあ…。そう、わたしきみちゃん。君塚美子だよ、波田野さんえらいケガして…って、波田野さんは本郷さんに名前が変わったのね!――いやあ、私もとはここで診療してたんだけど二年ほど北辺艦隊の軍医長で行ってたの、で数日前に帰ってきて今日出勤したら急患が来てるっていうから見に来たらあなたによく似てたからまさか、って思って来たら、まあほんとに波田野さん!」

君塚軍医大尉はそういって本郷大尉が挙げた包帯の右手をそっとその両手で包み込んだ。

君塚大尉は本郷大尉の両手を掴んだままで、足で器用に椅子を引き寄せて座った。その様子をみた本郷大尉は「きみちゃん変わらないねえ」と笑った。この君塚美子という女性は昔から気取らない性格で周囲を笑わせたり和ませるのである。

本郷大尉は「きみちゃん、結婚は?」と尋ねる。同級生の二人、もう互いにいい年である。きみちゃん大尉は笑顔のままで「婿さんに来てもらったの、もう九年目。私の父がねえ、どうしても婿に来てくれなきゃダメだって聞かなくってね。相手はいいことに三男坊だったから君塚の苗字を名乗ってもらって、今君塚医院を父とやってくれてるの。――ミツちゃんのご主人はどんな方?」と聞いてきた。

途端に本郷大尉の表情が曇りきみちゃん大尉はその顔を覗き込むようにした。そして

「うまいことないのかしら?良かったら私に聞かせて、誰にも口外しない、医師には守秘義務があるから」

と言った。

本郷大尉はしばらくためらっていたがやがて思い切って旧知の仲のきみちゃん大尉に自分のこれまでを話し出していた――

 

「そう、そんなことが」

君塚大尉は、本郷大尉の告白を聞いて深いため息をついて頭を抱えるようにした。まさか、仲の良かった女学校時代にクラスメートがそんなひどい結婚をさせられ、実家とも婚家とも十年も連絡を取っていないとは。

「で。ミツちゃんはどうするつもり?」

と君塚大尉は言った。ずっとこの先も連絡を取らないでいれば、本郷ミツ大尉に人生の選択の余地はなくいつまでも意に染まない「結婚生活」を続けることとなる。それに、

「好きになった人がいるのなら、なおさらきちんとしようよ?」

そういって君塚大尉は、本郷ミツ大尉を励ました。

うん、と何か弱弱しい返事しかしない本郷大尉に、君塚大尉は「ミツちゃんはほんとにその家や旦那と縁を切る気があるの。あるんならちゃんとしなよ!自分の親に何言われたっていいじゃない、あなたの人生でしょ、自分で切り開かなきゃ?」と発破をかけられた。

ミツ大尉は自分の実家の両親が怖かった、自分から本郷家に離縁を言い渡すことなど「はしたない!人の道に外れている」と言って激怒するに決まっている。

「ミツちゃんももう、いい歳の大人じゃないの。いつまでも親に束縛されてちゃだめよ」

君塚大尉のその言葉で、本郷大尉の心は決まった。

「きみちゃんありがとう。私は勇気をもって離縁をしよと思う。そのためにも一所懸命がんばって体を直すから、きみちゃんどうかよろしくね」

本郷大尉はそういってベッドの上から微笑んだ。きみちゃん大尉も

「そうこなくちゃいけないわ、ミツちゃん。それでこそ負けず嫌いのミツちゃんですよ」

と言ってほほ笑む。

 

本郷大尉はその日のうちに花森軍医大尉に、自分の身の上をすっかり話した。そして

「これは君塚大尉にも話しました。彼女は私の女学校時代の友人なのですべて話しました。それで…どうか私がここに居ること、私がもっと良くなるまで実家にも婚家にも知らさないでほしいのです。どちらも私が南方の基地にいると思っていることでしょう、それでいいのです。もうしばらく、私がせめて歩けるようになるまで、両手がしっかり使えるようになるまで知らせないでいただきたいのです」

と必死て訴えた。

そしてそこのちょうど来合わせた君塚大尉も「花森大尉、願います」と頼み込むので花森大尉は「そういうことならそういたします。では馬堀部長や辺見次長にもお話いたしておきます」と了解してくれた。

その晩になって馬堀部長と辺見次長が本郷大尉の病室を訪れ、花森大尉からの話を「聞きましたが、本当にそれでいいのですね」と念を押しに来た。

本郷大尉は

「願います。そしてもしも万が一にも私の実家の波多野や、婚家の本郷からここに連絡があったとしても〈面会謝絶〉と言って、ここに来るのを断ってください。面会できるようになったら連絡させるとか何とかいっていただきたいのです!」

と必死で言った。辺見次長は

「わかったが…あなたはそれほど婚家も実家も嫌いなのか?」

というので本郷大尉は花森大尉に行ったのと同じ話をもう一度した。必要とあれば何度でもするつもりである。

話を聞いた馬堀部長も辺見次長もさすがに言葉を失ってしまった。辺見次長は「そんな、そんなひどい結婚があっていいものか。本郷大尉、よく今まで耐えてきましたね。早いところそんな結婚は清算しても構わないと私は思うよ。ねえ馬堀部長、部長はどうお思いです?」と憤慨しながら言った。

馬堀部長も驚いて

「十年も連絡をしないとは、相当のことだ。辺見君の言う通り清算すべきだね。あなたの人生台無しになってしまう…。わかった、本郷大尉の実家・並びに婚家からの問い合わせには面会謝絶として対応しよう。そしてそのあとは大尉の意思に任せる」

と言ってくれた。

本郷大尉はとても喜んで二人の軍医に礼を言い、その翌日から懸命に治療やリハビリに励んだ。手術はあと二回を残していた。つらい手術ではあったが本郷大尉は主治医の花森大尉や友人の君塚大尉の励ましを受けて乗り越えた。

手術が成功裡に終わると今度は本格的にリハビリに入り、担当の看護兵曹が「もう今日はそこまでです、ご無理はいけません!」と悲鳴を上げるほどに熱を入れた。

 

本郷大尉が懸命にリハビリに励んでいるころ、どこから聞きつけたのか本郷大尉の実家から横須賀海軍病院あてに手紙が舞い込んできた。

外科部長の馬堀大佐が開封して読んでみるとどうやら、ゲナハ基地の本郷大尉の上司が気を利かせたつもりで彼女の実家へ手紙を書き、そして波多野家の両親が驚いて病院に連絡をしてきたというものらしい。本郷大尉は自分の身の上の話を上司にはしなかったのが一因である、が誰もそれを責められまい。馬堀部長はペンを執ると本郷大尉は重傷のため現在面会できない状態である、今後面会可能な状態になったら改めてお知らせしますので「お待ちいただきたい」、と書いて出した。

 

その手紙を受け取った波田野家では仰天して本郷家へ連絡をし、両家は「面会がかなうようになったら病院に行ってミツと話をしましょう」と打ち合わせ、ミツの母親は八介に

「八介さん本当にごめんなさい…あの娘もう二度と勝手なことができないようにしてやりますから」

と謝り八介は

「いやあおかあさん。私が行きますから、私が行けばミツさんはちゃんと帰ってきてくれますから」

と言った。

八介の心の中に、どす黒い思惑が渦巻いているのをミツの母親も、ミツ本人も知る由もない。

 

ミツ大尉は今日も治療に専念している――

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

本郷大尉、旧友と思わぬところで会いました。本郷大尉の境遇にびっくりした君塚大尉、彼女もきっと本郷大尉の新しい人生の道を切り開く手伝いをしてくれることでしょう。

それにしても八介、何をたくらむ??


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
大変な窮地に落ちいったとき現れる人…それこそが神からの助け、天佑神助なのでしょうね。
さて本郷大尉この後どうなりますか?
あの八介がどんな痛い目に合うのか、楽しみにお待ちくださいませね^^。

本当に人として人との向き合い方って大事だなあと思います。
適当に人と付き合ったりしていると自分も適当にされてしまいますもん、大事にしなきゃなあと思います。

昨日成田に行って娘を無事迎え、ほっとしたら今日はどっと疲れました。午後ほとんど寝ていました。このところ体調が悪くあったのでいい休養ですw。
にいさまもどうぞ御身大切になさってくださいね。めまいの時はどうぞ安静に。
金木犀、あの香りが大好きです。秋は来にけり、ですね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
おお。いろんなアイディアがw!!
八介のような男、どうしてやろうかと考えています。ああがいいか、こうがいいか。
その前に彼が何を考えているのか…それを知りたいですね。
乞うご期待、です!

思いもかけない君塚さんとの再会は心強い助っ人の登場ということでしょうか。ドス黒い八介を全員で成敗する場面を心待ちにしています。
人ってこうやって助けられながら生きているんだなと思います。助けられない人はそれなりの人付き合いしかしていない人生だということかもしれませんね。徳を積む大切さを改めて思っています。

シルバーウィーク、お疲れは出ていませんか。
大分はぼちぼち金木犀が花咲きそうです。

さしずめ

離婚を認める代わりに、高額な慰謝料をふんだくる算段あたりを考えているかしらね。あとは、重傷であるならということで、夜陰に紛れて襲うのか?

軍医さん達、君塚さんの協力のもと、使い古した手でありますが、死んだふり作戦でかき回してみるのも面白いかな?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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