2017-10

トレーラーのつぼみたち 6 - 2015.09.08 Tue

運動会前日、海軍設営隊まで駆り出して会場の設営が行われた――

 

今回の運動会の全体を取り仕切る指揮官を「武蔵」の猪田艦長が勤めることになり、会場を猪田艦長は「運動会実行委員会」と作ったプログラムを手に、「あの部分はこう、この部分はこう」と指示しながら歩き回る。加東副長が「艦長、お疲れになりませんか?次官の航空隊司令にちょっとの間代わってもらったらいかがですか」と猪田艦長の体を気遣ったが艦長は微笑んで

「平気ですよ。私が言いだしたことですから最後まで責任を取るのが指揮官としての務めです。それより加東さんも無理をしないようにね」

と却って加東副長を気遣った。熱いトレーラーの日差しの下、皆汗だくになって肌着一枚で作業をしている。その姿が猪田艦長には神々しく見える。

会場のぐるりを天幕は立ち並び、その下ではもう海軍主計科嬢たちが明日の準備を始めている。カレーライスや甘煮(肉じゃが)などの<海軍料理>を煮込んでいるのだ。何せ今までないほどの大人数のための、しかもトレーラーの住民たちに振舞う料理であるから普段艦で作るよりも緊張感を持っているのが遠目にもわかる。

地面の石やごみを拾って一か所に集める水兵嬢たちや景品を袋詰めする兵曹嬢たち、それから救護所を設える各艦の医務科の兵曹嬢や士官嬢たち…皆楽しそうにウキウキしているのが猪田艦長には感じられた。

「トレーラのみんなも喜んでくれるといいね」

そう言って加東副長をみた。副長も猪田艦長を見て「はい。きっと喜んでくれることでしょう」と笑みを浮かべた。その脳裏にはタモイの笑顔が浮かんでいる。

トラック競技用のラインを引いている兵曹長、その向こうではフィールドを耕しているような特務士官がいて艦長は「あれは?」とそっと指さして副長に尋ねた。副長は「あの部分は参加者―ー子供たちですが―ー全員で宝探しをするため品物を埋めるんです。そのためあの部分を柔らかくしておくんです。で、競技中はあの上に蓆(むしろ)をかけておきます」と言って一人でうなずいている。

艦長はプログラムを見直して

「ああ、これね。なかなかいい企画だったね。――で、その品物は何なのかな?」

というと副長はなお嬉しそうに笑みを浮かべて

「帳面と、鉛筆です。トレーラーの子供は帳面や鉛筆をなかなか買えないと聞きましたので」

と言った。

それは良い考えです、と猪田艦長が言ったとき向こうから潜水艦部隊の主計長と『多羅湖』主計長が猪田艦長を見つけて走ってきた――

 

その夜は二〇名ほどの不寝番が交代で見張にあたり、会場の周囲にはかがり火が焚かれいやがおうにも気分が盛り上がる。

トレーラー水島の住民たちも「アシタ、ウンドウカイを海軍さんがシテクレルって!タノシミネ」とワクワクして待っているようだ。<禿勝>の女将も明日のため子供たちと一緒に甘味作りの下準備に忙しい。

甘味はリヒナが中心となって作って、女将は「リヒナちゃんなかなかいい考えね!果物を練りこんでおせんべいを作るなんてすばらしいわ」と感心しきり。リヒナはうれしそうに笑いながら

「私ダケジャナイ。みんなでカンガエタことね。アシタみんながヨロコンデくれたらイイナ」

と言ってその場の八人ほどの子供たちは顔を見合わせて笑いあう。女将は「きっとみんな喜んでくれますよ」と言って作業を進める。あの旦那との間に子供のなかった女将は、(こんなにいい子供たち、きっと私の子供替わりなのね)と思って皆をいとおしげに見つめた――

 

さあ、夜が明ければ大運動会の朝。

この日も朝から上天気で皆ウキウキとした足取りで会場に向かう。途中海軍嬢たちが道案内をしたりして住民を会場にいざなった。

大きな会場にたくさんの住民と海軍嬢たちが集まり、「大運動会指揮官」猪田敏代「武蔵」艦長の

「今日はいい天気になりました!おてんとうさまに感謝して、さあみなさん思い切り楽しんでください」

と短い言葉の後、大運動会指揮次官の剣持航空隊司令が諸注意を簡単に告げ、住民への通訳は語学堪能なトレーラー陸戦隊の岡田・イオン・克代海軍上等兵曹が行った。

花火が打ちあがりいよいよ競技開始。

だれがどの競技に何度出てもよし、ということで盛り上がるトレーラー住民たち。彼らは大喜びでプログラム一番の百メートル競走に群がった。

老若男女がそれぞれ走り、見物席からは笑いが起こったり拍手が起きたりとにぎやかである。猪田艦長もほかの実行委員会の面々も拍手をしたり声援を送るのに忙しい。

会場内を見回っていた「武蔵」の村上軍医長はタモイ一家に出会い「どうだね、楽しいかい?」と尋ねると一家は嬉しそうに

「タノシイ!村上サン、アリガト」

と言って頭を下げた。軍医長は「礼なんぞ言われる筋はないよ」と素知らぬ態を装ったがタモイ一家はわかっていた。(村上さんとカトウサン…あの日のコト気にシテルネ)と。そしてあの晩自転車を返しに来た加東副長が何か言いたそうな顔をしてこちらを見ていたのをタモイの父親は見ていた。日本人は恩を大切にする国民と聞いていた彼は(ソンナコトいいのに。出せるモノガ出す。これ当たり前。デモほんと、日本の人、アリガタイネ)と感激に身を浸す。

そして彼らはタモイ一家だけに何か礼をしたらほかの住民に悪いと思って今回の運動会を企画したのだと悟り(コウいうとこ、我々もミナラワナイトネ)と思っている。

村上軍医長は

「模擬店もあるから腹が減ったら行ってごらん?いろいろなものがあるそうだよ」

と言って、さっそくタモイが模擬店に行こうとしたが母親が「タモイ…お金ナイネ」と押しとどめたのへ軍医長は

「お金はいらないんだよ。今日は海軍主催のお祭り、みんなはそんな心配なしに楽しむ日だからね」

と言ってタモイの母親はほっとしたように微笑み、タモイは模擬店へ走り出す。

そんな彼を村上軍医長は嬉しそうに目を細めて見つめた。

 

さてプログラムは進み、ヤシの実投げやら自転車遅乗り競走、瓶つり競争、二人三脚、スプーンレースと続く。会場は笑いと拍手の止み間がない。そしてその間に参加者たちは模擬店で食べ物や飲み物を手にしてさらに気分は盛り上がる。

こうした娯楽のなかった住民たちはもう夢ごごちで「イイネエ、こういう催し!今度はワタシタチガ考えて海軍さんをショウタイしよう」と話し合う住民たちもいる。

模擬店はどこも大盛況で、各艦艇の主計科のカレーライス・甘煮など押すな押すなの大騒ぎ。<禿勝>のフルーツを練りこんだおせんべいも好評で、女将も子供たちも大忙し。だがとてもうれしそうに働く姿を、加東副長は遠くから見て「よかった」と思うのであった。

 

住民・海軍将兵嬢たち入り乱れての運動会は昼食前のプログラム、海軍将兵嬢による<棒倒し>。これは特に兵学校出身者の血を沸かせ、激烈な戦いになりトレーラー住民の大歓声を受けた。実行委員会の面々もこれには参加し、猪田艦長は先頭を切って棒によじ登り続いて登った加東副長と共に棒を倒して

「イサマシイ!日本の海軍さん、イサマシイネ!」

とヒロインになった。

 

昼食は握り飯がふるまわれ、皆思い思いの場所で食べそして軽く昼寝をした。トレーラーは暑いので、昼から二時間ほど午睡の時間を取ったのである。これは各艦の軍医長たちの意見で、「日射病などになってはいけないし、少し休めば午後のプログラムも元気が出よう」とのことで採用された。

その間に水兵嬢たちが午後一番のプログラム、<宝探し>の品物をフィールドに埋めておく。帳面とエンピツをセットにしたもので(きっと子供たち喜んでくれる)と思いながら。

そして、皆は静かな午睡の時間に入って行ったのであった。

 

見張兵も、あまりの心地よさにうとうととしてしまうほどの風の気持ちよさ。

しかし、皆が眠っているこの間にとんでもないものが入り込んできてしまったのをーー誰も気が付くことがなかったーー

    (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・

始まりました運動会!模擬店が出て盛況のようです。そして競技に群がる人々が多くって、これは催し甲斐のあることです。

それにしてもいったい何が入り込んできてしまったのでしょうか、危険なものでしょうか…次回をご期待ください!


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● COMMENT ●

鍵コメMさんへ

鍵コメMさんこんばんは!
ご心配をありがとうございます!!
うちのあたりは浸水などの危険はありません(が、店の中に雨漏りが(;´Д`))。ほとんど一日雨で時折目の前が白くなるくらいの降り方でした。
今はだいぶ止んでいますがさっきまで雷が鳴っていました。
もう雨はうんざりです、晴れた空が見たいです。

本当にありがとうございます!!

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
かつて、日本軍が占領した土地で現地民が歓迎の踊りを踊って海軍兵たちがそれを笑顔で見ている、という映像を見たことがあります。きっと探したら素敵な交流があったという記録が出てくると思います。
軍民別なく一緒に午睡、これは一つの理想の形かもしれません。これこそ本当の平和の形ですね。
しかしいったい何が入り込んでくるのか!!??ドキドキしながらお待ちくださいませね^^。

東京は今日一日大雨でした、夕方に少し止み間がありましたがまたこれから降ってきそうです。そちらも天気は良くないんですね…そろそろからりと晴れた秋の空を見たいものですね。
まろ兄様もどうぞご自愛くださいませね💛

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
女だらけの帝国海軍出血大サービスです。普段いろいろお世話になってる現地の人たちのためですので痛くもない!!
そして次回いったい何が起きますでしょうか?ご期待ください^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
この物語を読み込んでらっしゃいますねえw。
そうですね、だいたい闖入者と言えばあの人でしょう^^、そして何が起きるのか!?楽しみにしててくださいませね~~♪

穏やかですね。軍民ひとつになってみんなが生き生きしています。
きっと……、もしかしたら……、大東亜戦争の時も南の島でこうやって日本軍と島の人々の優しい交流があったのかもしれませんね。
午前の部が終わって昼食を済ませ、心地よい風に吹かれながら午睡。何て平和なんだろう。人間はみなひとつだなぁなんて思ってしまいました。
しかしとんでもないものが入り込んでくるとは。ひと騒動ですね。

東京の天候は如何ですか。雨か曇りばかりで快晴に恵まれないのは大分も同じようです。
こんな不順な日々。どうかご自愛専一にね。

順調な

運動会。

これは、かなり奮発した運動会で、喜ばれたようですね、

え、次の展開は・・・

入り込んでくると言えば、おいらにはあの方しか思い浮かばない。ラシガエ島のあの方wこういうお祭り騒ぎには必ずといって良いほど来てますよねwあとは未発見の珍獣がでてくるのか?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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