2017-10

トレーラーのつぼみたち 5 - 2015.09.05 Sat

三日間の休暇を終えた加東副長と村上軍医長は、「武蔵」に帰艦した――

 

二人は艦長室に猪田艦長を訪ね、休暇を無事終えた旨報告をした。猪田艦長は、加東副長の二種軍装を見てまず驚いた。

「話は聞いてはいたが、大丈夫なのかね?」

猪田艦長は副長の、切られてどす黒く変色した血の付いた二種軍装を見てびっくりしたし、それを着て帰ってきた副長にも驚いた。加東副長はご心配をおかけして「すみませんでした」と謝ったあと血染めの上着を脱いだ。そしてさも残念そうに

「おろしたてだったのに!おろしたてだったんですよ、これ…。なのに…ああもう、あの野郎め本当に腹が立つッ、あまりに腹立たしいからこのまま着て帰ってきましたよもう!」

と言った。その隣に立っていた村上軍医長はまあまあ、とその肩をやさしく叩いて

「それでもあの程度のケガだったのは不幸中の幸いですよ。おろしたての服は残念でしたが腕が動かなくなったとしたらそれこそおおごとですからね」

と慰めた。もうあの晩から何度、同じことを言って慰めたことだろう。

猪田艦長はそんな部下をやさしく見つめて

「軍医長の言う通りですよ、副長。それにしても大変なことに巻き込まれましたね…しかし悪い連中がいればいたものだね。日本人の恥さらしになっては困ります」

といった。

副長も軍医長も「その通りです。今後は民政部に頼んできました。ここの若い、いやまだ幼い娘たちを食い物にされてはいけませんからね」と言って、うなずいた猪田艦長は二人に椅子を勧めた

勧められた椅子に座ると副長は

「それであの…艦長」

とおずおずと話し出す。どうしました?と問う猪田艦長に加東副長は、上陸して初めて受けた現地の人からの親切―ータモイ一家からの――を語った。そして

「どうにかしてその恩に報いたいのです」

と言ってまっすぐに艦長を見つめた。

軍医長はその横で静かに副長を見つめ、次いで艦長を見つめた。

艦長はゆっくり立ち上がり、舷窓に寄って外を眺めた。しばらく黙っていたが、艦長はやおら踵を返して副長たちの前に立つと

「彼らの恩に報いるのは当然です。だがね副長、そのタモイ一家だけに何かをしたら、ほかの住民はどう思うだろうか。たとえそれが、何かを貸したその返礼だとしてもね。

だったらどうするか。私は今ちょっと考えていたんだが、わが「武蔵」にもほかの艦艇にもここの住民に大変な世話になったものが少なからずいると聞いています。だったら、住民の皆に返せることをしたらどうかと私は思うんですよ。たとえば、なんですがね―ー」

とそこまで言うとにっこり笑って二人を見た。

副長が「たとえば、なんでしょうか」と尋ねると艦長は

「住民たちを招いて大運動会をするんですよ、どんな競技にも自由に参加できる。でね、その時に皆にそろいのシャツを渡すんです。大人も子供もね。そうしたら一人だけにシャツを上げるという気まずさも無くなりますよ。―-と思うんですがどうでしょうか?」

と言って自分の椅子に座って二人を見た。

副長と軍医長は同時に

「素晴らしい艦長、素晴らしいお考えです!」

と大きな声を上げていた。そうだそうだ、それならえこひいきではないかと思う自分の心にも納得がいくし、ほかのトレーラー住民にも恩が返せる。

では艦長どのように致しましょうかと副長はもう、大乗り気で話を進め始める―ー。

 

猪田艦長は「武蔵」の科長・掌長のほかに在泊艦艇や航空部隊の幹部を集めてこの話を提案した。集まった人々に異論があるはずはなく、「私も世話になりました」とか「もらった恩を返さないで内地に戻れないと思っていたので幸いです」などと意見が出て、加東副長はほっとした。

 

そして「トレーラー住民と帝国海軍将兵の大運動会」の話し合いは始まった…。

場所はすぐに選定できた。ここにはひろいひろい、それこそ住民や艦艇の将兵嬢たちが集っても余りあるほどの場所がある。場所の問題は難なくクリアできた。

競技は「だいたい日本でしているのと同じようなものでいいだろう、あとここでの特色を生かせたらいいなあ、例えばヤシの実投げとか」と言ってこれはまだたくさん企画が出そうだし、ほかの艦艇の将兵からも提案をもらうこととした。

日時はまだいろいろな準備もあるから二週間後を予定した。それ以上向こうになると今度は内地に戻ったりほかの基地などに移動になる艦艇等にとって障害にならないとも限らないので、ここに今日来られなかった参加予定の艦艇の都合を聞きながらの調整になる。

 

さらに、これは一番加東副長が気になっていたことだが「参加賞」をどうするか。

これについてはトレーラー艦隊司令部の主計部が大人用と子供用のシャツを作るということで決着した。加東副長は、タモイのあの、敗れたシャツに心を痛めていたしほかの士官たちも決して裕福ではないこの地の子供たちに何か、夢を与えたいと思っていたので大賛成をみた。

「模擬店を出しませんか?」

と言ったのはトレーラー水島航空基地の副官で、彼女は防暑服の襟元を流れる汗をハンケチでそっと拭ってから

「模擬店と言っても住民からは金をとりません。その代り海軍将兵からは金をとります。材料は、間もなく<多羅湖>がここに来ると聞いていますからそこから買い付け、あとは在泊艦艇の酒保の在庫を出しましょう。それにもし、賛同が得られればここの日本人商店も出店してもらったらどうでしょうか。むろん、それらの品物はトレーラー在泊艦艇が買います」

と言って皆承諾した。

さあそれからは皆大忙し、あるものは勤務の合間を縫って各艦艇の艦長や司令などに話を詰めに行き、ある者は参加賞のシャツを必死で作り、またある者は日本人商店に赴き今回の大運動会への参加を呼びかける。そしてまたある者は町中にポスターを張り巡らした。

運動会の前の日には、タモイの家に加東副長と村上軍医長がじかに行って「明日の運動会にみんなで来てください、ぜひに!」と言ってタモイ一家は大喜び。そのほかの住民たちも明日を楽しみにしてくれているようだ。

そして<禿勝>の女将に市場の近くで出会い、女将は二人に深く頭を下げてあの日の礼を言った後

「明日の運動会、私たちの店も参加いたします。子供たちが美味しい甘味を作りますからぜひいらしてください」

と嬉しそうに言った。その傍らにはあの日の女の子――リヒナ――がいて微笑んでいる。副長と軍医長は「必ず行きます。美味しい甘味を楽しみにしていますよ」

と言ってその日は別れた。

 

さまざまな人々が大運動会のために動き、そしていよいよその日はやって来た――!

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・

なんと、加東副長の<受けた恩を返したい>という気持ちがこんなに大きく結実するとは、本人も思いもよらなかったことでしょう。

いろんな人のいろんな思いをかけて、いよいよ大運動会が始まります!次回をご期待ください。


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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
運動会、小学校時代のあのワクワク感を今でも思い出すことができます!

私の「女だらけの~」の世界、何が出てくるかわかりませんよ~~w、どうぞお楽しみに^^!

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんばんは!
季節はいよいよ秋…運動会のシーズンですね。
トレーラーは常夏ですので秋、というものはない設定ですが季節を感じたい将兵嬢たちがいます。
この運動会が住民と軍の一体感を増してくれるでしょう。そして互いを大事に思う心が育てばなおいいことです。思いやりというものはどんな時代でも、どんな国の人とでも仲を取り持ってくれるものですね。
「女だらけの大和」の世界、今のまま何事もなく過ぎてほしいです。

運動会

日本の誰でも知っている、体験している運動会が
でてくるとは、
なかなか面白い展開ですねえ。

見張り員さんの世界が、楽しみです。

日本ではスポーツの秋の季節ですね。トレーラー島もやはり秋なんでしょうか。
大運動会ともなると日頃の腕が鳴ってくるでしょうね。
日本でも町内会同士の運動会でコミュニケーションを図っておりますが、艦隊と住民にも一体感が出てくるでしょう。
そもそもはお世話になった住民に恩返しという点から始まった企画。相手を思いやる気持ちはどこの国でも共通しますよね。
優しい思いやりの気持ちがあれば、憎しみも湧いてこないし、平和な世界が保たれるものだと思います。まっ、それが理想ですけどね。
「女だらけの戦艦大和」の中だけでも平和を維持する世界であってほしいものです。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます。
運動会ならだれでも何かに参加できますし、何より思い出ですね。トレーラーの人々への恩返しには最適でしょう^^。そして!第二第三の桐乃も見出せるかもしれません。
さあどうなりますか大運動会!

素晴らしいアイデアです。トレーラーの人々にお世話になってるのは、武蔵だけではありませんし、何より思い出に残ります。何か特技を持った人物が発掘できたりして。桐乃嬢に続くダイヤの原石がたくさんいそうですね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
やはり人の上に立つものはひらめきとやさしさ、度量の大きさが必要ですね^^。それがなければ部下はついてきませんものね。

さあ次回大運動会です。まさに軍民入り乱れての大騒ぎになりそうです!
『多羅湖』は給糧艦ですが、食べ物も載せれば生活必需品も載せる将兵嬢に大人気の艦です^^。食べ物のタラコ、布のキャラコにも通じ、便利な名前です^^。

今日の東京は予報より曇ってはいましたが久々に一日、雨のない日でした。何か頭の上に覆いかぶさったものが取れたような軽快な気分でした。
しかし大分方面は気が抜けませんね!大雨、最近はくるったように降りますから要注意です!おおごとなきようお祈りいたします(お母様くれぐれもお気をつけてくださいませね)。
一雨づつ秋は深まるようですね。穏やかな秋が来ますように!

なんと素晴らしいアイデアだろう。さすが艦長たる人物は器も頭脳も優しさも余人とは異なりますね。考えが深いんですね。人種や上下の区別ない大運動会のもようが楽しみです。
多羅湖は布屋でしょうか。もしかして布の種類のキャラコと掛けているのでは??
見張り員さんのとんちと造詣の深さにも脱帽です。さすがです!!

今日の東京の天気は如何でしたか。
西日本は今夜から明日にかけて大雨とか。特に北部九州は警戒するようにとの地元テレビのニュースでお達しが流れていました。
こうやって秋が深まっていくのであれば、それもまた良しと思って過ごすことにします。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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