2017-09

トレーラーのつぼみたち 4 - 2015.09.03 Thu

「いったい何の騒ぎだ!」と部屋のふすまを開けて廊下に出た加東副長と村上軍医長は、そこに信じられないものを見た――

 

廊下の奥から叫びながら走ってきたのは女の子、しかもこのトレーラーの子でまだ幼さの残る子である。その子が着ているものを破かれ泣き叫びながらこちらに来る。そしてその後ろから追いかけてくる人相の悪い男性二人…。

二人の士官は泣きながら助けを求めて走ってきた女の子を抱きかかえると

「何をしている!貴様ら」

と大声で怒鳴りつけた。するとその中の一人がにやにやしながら

「何をしようと良いじゃないですか、海軍さん。その子は今夜我々が買ったんだ。何をしようと勝手でしょう」

と言って女の子を掴もうと手を伸ばしてきた。軍医長は素早く女の子を自分の後ろに隠して

「ほう。ここの店はいつからそういう店になったのだろうね?私は知らなかったが…」

とわざととぼけた表情で言った。するともう一人の顔に傷のある男が

「知らなきゃ教えてあげましょう、海軍さん。ここはね、ちょっと料金に上乗せすると女の子と遊ばしてくれるんですよ」

と言っていやらしい笑いをした。副長は、おかみを振り返って

「そうなのですか?そんなサービスを提供しているんですか、あなたの店は?」

というと女将は体を震わして

「ちがいます!そんなこと、そんなひどいことしておりません!――誓って申し上げます!」

と叫ぶ。

すると男たちのさらに後ろから恰幅のいい和服の男が現れた。これこそ女将の旦那という男である。旦那は不機嫌そうに海軍嬢二人と女将をにらむと

「だからどうだというんだ。こんな店、こうでもしなきゃ誰も来やしねえじゃねえか。この馬鹿女が」

と怒鳴りつけた。顔に傷のある男が女の子に「さあ、こっちこい。かわいがってやるからよ」と言い、軍医長の後ろに隠れた女の子は軍医長の服をしっかりつかんで「イヤ…怖い。イキタクナイ」と言って泣いた。副長はその子にやさしい視線を向けて

「大丈夫、あんな連中には渡さないから安心しなさい」

と言ってから男どもに顔を向けると

「あんたがた、恥ずかしいと思いなさいよ?こんなまだ幼い女の子が夜伽ですか?あきれてものが言えませんね。大人の男だったらしかるべき場所で大人の女性を相手にしたら如何ですかね?――恥を知れ!」

と最後は大喝した。

すると男の一人が

「じゃあ、その子の代わりに海軍さん、あなたが今夜相手をしてくれますかねえ。エッヘヘ」

と笑い傷の男が加東副長の腕を掴んで引っ張った。その手が副長の胸に触れた。

「痴れ者!」

鋭い副長の叫びと共に、傷の男は宙を舞った。そして、ドウと音を立ててその場に背中から落ちた。痛さに呻く傷の男を見たもうひとりと、和服の旦那が「この野郎、やりやがったな」というなり副長につかみかかってきた。今度は村上軍医長にもつかみかかり、その場で乱闘が始まる。

女の子はその場でガタガタ震えていたが、その騒ぎにほかの座敷から「なんだなんだ」「いったい何の騒ぎだ」と海軍嬢たちが出てき始めた。

女の子はその中の一人に話して、話しかけられた海軍嬢――艦攻の搭乗員であったが――は仲間を振り返り

「こんな話を黙ってみてられるか!おい、助太刀だ助太刀だ」

と言って乱闘の輪に加わる。和服の旦那は「なんだ貴様ら大勢で卑怯だぞ」と言ったが搭乗員嬢が「何抜かす!卑怯なのはそっちのほうだ。まだこんな幼い子に手を出そうなんぞおてんとうさまと我々帝国海軍が許さんッ」と叫び背負い投げ。別の男は兵曹嬢に思い切りど突き飛ばされて、ふすまを突き破って部屋の真ん中まで吹っ飛んだ。

と、先ほど叩きつけられていた傷の男が懐から短刀をだし、鞘を払った。女の子がはっと息をのんだ。

別の搭乗員嬢が「危ない!刃物を持っているぞ」と叫んだ。傷の男は加東副長めがけ短刀を横に払った。もう一人と男と格闘中だった副長の右の腕を短刀は裂いて、白の二種軍装の腕が赤く染まった。

「!!」

加東副長は腕を見た後男を見た。そしてもう一度腕を見た。真っ赤な血が、二種軍装の腕を段々に染めてゆく。と、副長の頬がかっと紅潮した。

「きっさまあーー!」

ものすごい声が、副長から発せられた。副長は傷の男を、その足で蹴り飛ばすとあおむけにひっくり返った男から短刀をもぎ取って真っ青になっている女将に手渡した。そして

「貴様のせいでおろしたての二種軍装が台無しだ!どうしてくれる、ああ?どうしてくれるんだ?畜生め、この野郎てめえ!」

と悔しさと痛さのためか半泣きになりながら罵り、傷の男に馬乗りになって顔を殴打する。何度も何度も。

どのくらい経ったか、村上軍医長が「もういいんじゃない、加東さん」と副長の肩をたたいて気が付けば傷の男ももう一人の男も、和服の旦那も気絶寸前である。

そして副長の腕からはまだ少し血が流れている。

「イタイデショ…これドウゾ」

という声に副長が顔を上げるとあの女の子が包帯を持ってきて副長に差し出している。加東副長は改めて自分の腕を見て「ああ…本当にこれ、おろしたてだったのに。悔しい」と言って泣き出した。どうやら切られた痛さより、おろしたての服を切られて血まみれになったほうがよほど悔しいようだ。

女の子がそんな副長のそばに立つと、血にぬれた軍装のボタンをそっとはずしはじめ「手当、シナイト。痛い?ナカナイデ?」と言って副長の涙をその小さな手で拭いた。

「ありがとう…」

副長はそういうともう片方の手で女の子を抱きしめた。そして「怖い思いをさせてしまってごめんね。でももう大丈夫だよ、あなたをいじめる奴はやっつけたから」と言って女の子を安心させた。

 

やがて通報により憲兵が数名やってきてこの三人の男を連行していった。憲兵中尉は加東副長のケガを見て「病院にご案内しましょう」と言ってくれたが軍医長が「いや、これなら私が診ますから大丈夫です。お心ありがとうございます」と言って憲兵中尉は

「おお、軍医長殿でありましたか!それは心強い。――それにしても危ないところだったようですね。この料亭、最近こういう良くない噂があってどうしたものかと思っていた矢先でした。証拠がないので踏み込めずにいたんですが…。それにしても海軍さんは勇ましいですなあ」

と言って笑顔になった。

副長は「それほどでも」と言って助太刀してくれた海軍下士官嬢たちを振り返った。三人の下士官嬢は副長と軍医長に敬礼して

「『空母白鵬』航空隊・蛇原兵曹長、鬼川一等飛行兵曹、龍神一等飛行兵曹であります!フィリッピンへの移動途中こちらで休養しております」

と申告した。副長は「そうでしたか、ごたごたに巻き込んでしまって申し訳もない。この責任は私にありますから『白鵬』艦長には私から連絡をしておきます」と言った。

恐縮する搭乗員嬢たちに「一緒に飲みなおさないか?」と誘い、五人は新しく部屋を借りて飲むことにした。

副長は軍医長に傷を見てもらったが出血の割には大きなけがではなく皆ほっとした。女将が「私の夫のせいだから」とたくさんの酒や料理をあの女の子と一緒に持ってきた。

女将は皆に酒を注ぎながら「本当に申し訳ありません…私の監督不行き届きです。うちで働いてくれる子にいったいあの人はなんていうことをしていたんでしょう。日本人として恥ずかしい。――私、店をたたもうかと思います」と言って着物の袖で涙をそっと拭いた。

副長はちょっと考えていたが「まあ、旦那の事情聴取の後でゆっくり考えたらいいでしょう。早まってはいけません。それにしてもあの旦那というかた、どういうかたです?」と言って女将を見た。

女将は涙ぐみながら身の上を話し出した、それによれば女将は、父親からトレーラーで店を出すようにと言われ、トレーラーに渡りここで商売を始めた。自分は妾腹の子供だから内地を離れねばならないのかと悲しかったがそれでも懸命に働き、貧しいトレーラーの子供たちを雇いわが子のようにして一緒に頑張った。が、そのうちあの旦那という男が客として来るようになり、ある晩無理やり犯された。それから男は夫気取りでこの店に居座り女将も籍こそ入れてはいないが夫として仕えるようになった。

が、

「あんな男だとは。女の子たちにもしものことがあったら私どうしたら…」

女将は唇をかんだ。村上軍医長が

「その辺はしっかり調べる必要がありますな。万が一妊娠などしていたらそれこそ大変ですから」

と言って一同不安げな表情になった。

蛇原兵曹長がその場にいる女の子に気が付いて手招きし、何やら話しかけている。しばらく話していた二人であったがやがて蛇原兵曹長は「えっ!」と小さく叫んでから皆に向かい

「この子に聞いてみましたが、…その、この子の言うのと女将さんのお話はちょっと違っています。この子は、女将さんは私たちをいつも助けてくれた、夜になると女将さんは私たち女の子を旦那の知らない家にそっとゆかせ、店には男性従業員を置いたそうで…あの二人の粗暴な男が『女を出せ』というと女将さんは…ご自分を差し出したのだと。男性従業員が泣きながら話してくれたと言っています」

と言って絶句した。

「女将…」

村上軍医長も加東副長も言葉を失ったように女将の顔を見つめている。

女将は

「いえ…私、私はいいんです。私はもしかしたら私の知らないところで女の子たちをいいようにしているのではないかと思っていたんです。いやな噂を耳にしたこともありましたし」

と言った。

この子は今夜たまたま、隠れ家に行くのが遅くなって運悪くあの男どもにつかまってしまったのだという。そしてあの良くない噂はあの男どもが故意に流していたらしいと皆は察した。「そうすればそっち目当ての男性客がこっそりくるとでも思ったのでしょう、そして金をふんだくるつもりだったのでしょう」と龍神兵曹が言って皆は納得した。

 

その晩遅く宿に帰った副長と軍医長は

「いろんな人間がいるものですね。タモイ一家のような穢れない清らかな気持ちのいい人たち。そして反対に自分の欲に忠実な連中。そしてあの女将のように預かった子供たちを守るために自分の身を挺する女性。

まだまだ固いつぼみの子供たち。

それを守ってやるのは我々の務めですよね。つぼみがきれいに花を咲かせるために、我々は悪いものから彼らを守ってやらねばいけませんね。日本のつぼみたちもトレーラーのつぼみたちも。いつか大輪の花を咲かせてやらねば。桐乃ちゃんに続くつぼみたち。大事にしてやりましょう」

と話したのだった。

 

後日、あの男どもは内地に送還されることになりあの旦那という男は女将と絶縁した。なんでも「あの女には鬼か蛇のような海軍兵が付いていて恐ろしい。よくあの時命があったもんだ」と震えたと言う。確かに副長と軍医長も怖かったが、一番怖かったのは「空母白鵬」のあの下士官兵嬢――そう、いつぞや鱶を徹底的に叩きのめしたあの三姫――のようだった。

 

そんなこともあったが、休暇を楽しんだ副長は「武蔵」に帰ると艦長室に猪田艦長を訪ね、気になっていたことを語り始めた――

   (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

意外な結末ではありましたが、とんでもないことにはならなくってよかったです。加東副長のケガも思ったほどではないようで何より。そして悪者どもは痛い目に合って、これは大変いい薬になったことでしょう。さて、加東副長の、猪田艦長への話とはいったい?

次回をお楽しみに!


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
名前だけでも縮み上がってしまいそうな三姫の助太刀でしたw。
しかしこういう嫌な奴っていますよね。いつの間にか自分がその場に居座って大きな顔をしてるやつ!

最近にいさまのおっしゃるような人間が増えましたね。人は生きてゆくうえで礼儀と己が立場をわきまえて生きねばならないというのに、それがわからないのかわかろうとしないのか、要するにバカな人間が。
>痛いところを突かれると気も狂わんばかりに騒ぎ立てる。
これが一番、腹が立ちますね!何なんだよって言いたくなる。
そういう人間の醜さも表現してゆきたいと思います。

そして悪旦那がいなくなった後の料亭<禿勝>の今後もご期待くださいませ!

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
>映画を見てる感じ
うれしいですね!書いている甲斐があるというものです!!

みんなが無事でよかった、まあ副長のケガはありましたがおおごとでなくってほっとしましたね^^。

ワルは内地で刑務所行きですね、結構悪いことやっていたので。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
彼女たちが本気を出していたらまさに命の危機でしたw。悪党、命冥加な奴!!

加東副長のおろしたて軍装、休暇のために用意したものだったのでしょう、なのに~~(泣)という感じで気持ちはわかりますがケガの痛みはどうなった??という感じですね。
そして艦長に何を提言するのでしょう…こちらも気になります。

それにしても大型艦の副長は結構怖いですね。山中副長も実は怖いです。

蛇、鬼、龍とはまた勇ましい。
しかし人の弱みに付け込むどころか、いつのまにやら乗っ取り気分だった嫌な旦那。
みんなのお蔭で退治が出来て良かったですね。
これで女将さんの慈愛に満ち溢れた店に戻ることでしょう。

馬鹿な人間がこの世にもおります。
自分の立場もわきまえずに無礼千万。礼儀も何もあったものではない。
そんな人間に限って痛いところを突かれると気も狂わんばかりに騒ぎ立てる。
この店の頭の悪い旦那の姿を想像して、今の世の中を見渡すことができました。

映画を

みてる感じですね。

とにかく、無事でよかったです。

ワルは内地送還なのですね、よかった。

知らぬとはいえ

フカ狩り3人衆に向かっていくとは、命知らずとしかw

加東さん、おろしたての一張羅を切られてしまったのですから、怒り心頭に発するのはわかりますが、ケガに気づかぬほどとは凄まじい。しかし、久々の休暇がとんでもないことになってしまいましたね。そのかわりトラックに生活する人々の現状を知り、艦長に報告されるようですので、素晴らしい提案がなされることと思われます。村上さんがいらっしゃるので、ケガの処置については万全でしょうし。

大和・武蔵両艦の副長は、敵に回すといろいろな意味で恐ろしいと改めて実感。山中さんは最近は幾分丸くなられましたが。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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