トレーラーのつぼみたち 3

「武蔵」加東副長と村上軍医長は、タモイ一家からの心尽くしの弁当を食べたあと昼寝をした――

 

どのくらい眠ったのだろうか、軍医長は木漏れ日の下で目が覚めた。ふと横に顔を向けると加東副長がそれはそれは幸せそうな顔で眠っている。副長の顔にも木漏れ日はきらめき、彼女の顔はこの上なく美しく見えた。

軍医長は(副長、お疲れなんだろう)と思って彼女を起こさないように起き上がるのをやめた。

普段、艦内の繁多な業務をこなす副長の、大事な休息の時なのだ。村上軍医長はそっと仰向けになると大きな木を見上げた。キラキラと、葉の合間から日が差し込んで宝石を見ているようである。

暫くの間、軍医長は目を閉じて涼やかな風に吹かれてまどろんだ。

そのうち、軍医長の横の副長が寝返りを打った気配がして軍医長は目を開けた。横には、副長が目を覚ましていて、軍医長を見ると微笑んだ。そして

「とてもよく眠れました…村上軍医長、ここに連れてきてくださってありがとう」

と言ってほほ笑んだ。軍医長は副長のほうへ向きなおり上半身を起こすと

「いえいえ…気に入っていただけたようで嬉しいです。私もよく眠れました。こんな素敵な自然の中で昼寝なんてそうそうできないことですからね」

と言った。副長は「本当に」というとそっと体を起こした。軍医長も

「いい経験でしたね」

と笑った。

副長は、タモイがサンドイッチを包んできた大きな布を丁寧に畳んで懐に収めた。そして軍医長にタモイへの礼のことを話そうかと思ったが(まだ早いかな。いきなりすぎるかな)と思い返し言うのは控えた。あとで艦に戻ってから艦長たちにも相談した方がいいのではないかと考えたのだった。

 

二人は、丘の上で日か落ちるのを見た後自転車に乗って町へと降りて行った。夜風は二人の頬をやさしく撫で自転車は軽快に町中目指して走る。

軍医長は前を向いたまま

「休暇中の宿は取ってありますからご安心を。自転車を返したら飯を食いに行きましょう」

と言い、副長は「ありがとうございます軍医長」と言って左の手で軍医長の軍袴のバンドをしっかりつかみ右の手で軍帽の庇を掴んだ。彼女の表情が少し必死だったのは、坂道の最後の曲りで、振り落とされそうだったから。

町の大通りに出ると店店の明かりはまるで夢のように揺らめき行き交う人々さえも夢の中のように風景の中に揺蕩って、軍医長も副長も幼き日の鎮守様の縁日を思い出していた。そしてその夢のような風景の中をゆく海軍将兵嬢たちが自転車の二人に敬礼するのへ、来た時と同じように返礼しながら副長は(なんか、変な風景)と思ってそっと忍び笑った。

やがて自転車はタモイの家につき、二人は自転車を降りた。そしてサドルを手のひらで拭いて軍医長は、まだ開いている店の奥へ声をかけた。

タモイの一家、父親に母親、そしてタモイが出てきた。軍医長と副長は今日の礼を丁寧に言った。タモイの父親は

「オレイなんてトンデモナイこと。喜んでイタダケたのがイチバンね。アア、よかた!妻もツクタ甲斐がアリマシタ」

と言い、タモイの母親ははにかんだような笑顔を二人に向けた。タモイは嬉しそうに皆を見まわしている。

副長は「このお礼は必ず。本当にありがとうございました」というと懐から布を取り出し、妻に渡した。「とてもおいしかったですよ。ありがとうございました」

そう言って妻の手をしっかり握ってほほ笑む副長に妻も微笑み返し「ヨカタ!アリガト」と言った。

 

副長と軍医長はタモイの家を辞し、軍医長のよく使うという料亭<禿勝>に向かう。途中で何人もの兵隊嬢と敬礼を交わし「いい加減疲れるねえ」と笑いあった二人である。

料亭の玄関を入ると女将が迎えてくれ「村上大佐、お久しぶりです」とあいさつした。軍医長は副長を紹介し、二人は座敷に通される。

座卓の前に置かれた座布団に座りながら加東副長は

「いい店ですね…まるで内地の料亭そのものですね」

と感心していったのへ軍医長は声を少し落として内地某所でそこそこ有名な料亭の名を上げ

「ここの女将はそこの大旦那の妾腹の子だそうですよ。で、大旦那が本妻に気を遣って顔を合わせなくて済むこちらに店を持たせたというわけらしい。大変な金額の金を持たせてこの店を作らせたらしいですがね。まさに豪著というべきですねえ」

と言い副長は目を丸くして聞いている。その副長に「そしてね、副長」とちょっと湿った声で軍医長は言った、「この店で桐乃は働いていたんですよ…あの小さな体で大きなものを持たされて、夜遅くまで」。

副長は「桐乃ちゃんが、ここで…」とつぶやいた。桐乃が、とある料亭から「武蔵」と「大和」の軍医長から声をかけられそして看護婦の道を進んだというのは聞いていたが細かいところまではさすがに知らなかった。

初めて聞く話、副長は詳しい話をせがんだ。

 

料理がすべて並んだ頃、軍医長は桐乃の話を副長にしてやった。副長は

「そうだったのですか、桐乃も苦労をしてきたんですね。そして今日のタモイ、彼もこの先幸せになってほしいものです」

と真剣な表情で言った。加東副長は桐乃には一目しかあっていないが彼女の瞳を見てその賢さには気が付いていた。

副長は、勧められて箸を取って「ああした優秀な人材はまだまだこのトレーラーにはいるはずでしょうから、見出してやりたいですね。そして生活の苦労から解放してやりたい」と言った。

村上軍医長も「その通りです。彼らすべてが美味しいものを食べ、綺麗な服を着て電気の通る家に住むようになれたらどんなにいいでしょうね。そうしてやりたい、そのためにも我々頑張らないといけませんね」と言って副長は真剣なまなざしを軍医長に向けてうなずいた。

 

今日の<禿勝>には海軍将兵嬢以外の客も来ているようだ。男の大声が廊下の奥から響いてきて軍医長も加東副長も少し顔をしかめた。

副長が

「誰でしょうね、あの品のない声の男たち。―そうかここは海軍専用ではないから一般の客も入るんですね」

と言って徳利を軍医長に差し出した。それを杯で受けながら村上軍医長は「今まであんな大声を出す客は来てなかったが…しばらく来ないうちに客層が変わったのかな?酒を飲むなら静かにしてほしいね、若い士官連中の芋ほりを思い出します」と言った。

本当に、と副長が言ったときふすまがそっと開いて女将が料理の追加を持って入ってきた。村上軍医長は「なんだ今日はずいぶんにぎやかな客が来てるじゃないか?珍しいねえあの手の客が来るなんて」

と女将に話しかけた。すると女将の表情が曇り

「ここひと月ふた月で来るようになったんですが…実は…私の夫の友人とかで、断れなくて」

と言って刺身の皿を二人の前に並べた。並べ終えると女将は声を潜めて「あまり、素性のよくない人のようで私も怖いんです」と言ってそっと背後を振り返る。

聞けば傍若無人にふるまうことも多く「海軍さんにもご迷惑をかけております、申し訳のないことでございます」と女将は言った。

副長は

「そうか…それはちょっと困ったことだがあまり我々が口を出すのも」

どうだろうか、と言いかけたその時。

男たちの声が入って行った廊下の奥の方から凄まじい女性の――いやまだ幼さの十分残る女の子の――叫び声が響いてその場の三人はぎょっとして身を固くした。

そしてすぐに廊下を走ってくるいくつかの足音、そして女の子の泣き叫ぶ声が混じった。

副長と軍医長は「なんだ、何の騒ぎだ!」と立ち上がり部屋のふすまを開いた。

そこに二人が見たものは―ー!

  (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

「武蔵」副長と軍医長の心安らかな休暇。タモイ一家の心尽くしも受けて気持ちがよかったようです。

しかし、料亭で何が起きたというのでしょうか?次回を緊張しながらお待ちくださいませ!!


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Secre

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
第二、第三の桐乃が出そうなトレーラーです!

恩義の廃れた今の日本において大事なことを思い出してほしくこの話を書いてみました。大事なことはちょっとした心遣いなんですが、それすら今はしたがらない。おかしな世の中になったものです(;´Д`)。

そして―ー出ました粗暴な男!!どんな悪さをしてどう成敗されるのか楽しみですねえ~w。ぎたぎたにしてやりましょうね♪


ここ一週間ほどの東京の気温は異常です。まるで9月下旬の気温です。湿度はそれなりに高いのでちょっと嫌な気候です。
そちらは雨が降っていますか?どうぞ御身大切になさってください。

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
ご訪問ありがとうございます^^。

女の子が一つの軍艦に乗って艦長が男性でほかも男性、というのは漫画で読んだことがあります。私のはほとんど女性なのでちょっと珍しいかもしれませんね。
またぜひいらしてくださいませ♪

第二の桐乃になりそうなタモイでしょうか。わずかな心遣いでも決して粗雑に受け取らない彼女たちの素晴らしさ。恩義を忘れないことって大切ですね。それも確かな地位や名誉のある立場だからできるのかもしれませんが。
そんな彼女たちの目の前に現れた粗暴な男。どのような成敗をするのか楽しみです。
東京は随分と気温が下がっている由。くれぐれも十分な体調管理をなさって下さい。

おはようございます

女性というのが、初めての発想(私にとって)で、ユニークですね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
いつの時代にもいるこういう手合いですが…なんだか穏やかではありません、いったい何が生きるのかそして二人だけで解決できるのか???
ご期待くださいませ!

まあ、素行の悪い男どもというのは想像がつきます。軍人さんとはいえ女性ですから、これからどのようになさるのか?フカ狩り3人衆、その他大勢がいれば安心なのですが。
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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