2017-09

トレーラーのつぼみたち 1 - 2015.08.24 Mon

常夏のトレーラー諸島の水島には、女だらけの「軍艦武蔵」が停泊中である――

 

女だらけの武蔵はもうずいぶん長いことここに居て、訓練を重ねてきた。そして昨日まで何度も環礁の外に出て対潜・対空訓練を重ねたしふた月ほど前には重軽巡・駆逐艦など多数を引き連れて実践装備で外洋を数日間航海した。これは最近日本海軍のすきを見てその手を伸ばそうとする連合国軍への示威行動でもあった。

途中アメリカ空軍と交戦状態になったが彼女たちは女だらけの帝国海軍の敵ではなかった。さんざんに打ち負かされ、鱶のうようよいる海を青い眼の搭乗員嬢たちは生きた心地もなく漂流し、やがて日本の駆逐艦に拾い上げられた。

そんなこんなの日々を過ごしたが、やっと武蔵乗組員に休暇が許されることになった。

狂喜する乗組員嬢たちは三日ほどの休暇をもらい、順番に上陸していった。

猪田艦長は、第一艦橋にいて窓から外を見つめ

「いい天気だね。そしてみんな嬉しそうだ…久しぶりにまとまった休暇だから羽目を外さないといいんだが」

と言って、傍らにいる加東副長を見た。加東副長は猪田艦長に微笑み

「ご心配には及びません艦長。皆それぞれその辺は肝に銘じております。―それより艦長は上陸なさらないのですか?」

と尋ねた。艦長の足元でマスコット犬のナナが二人の話に聞き耳を立てているようだ。猪田艦長は身をかがめてナナのあたまをなでると

「私は上陸はしないつもりだよ。とくに陸に用もないし…私より副長。あなたが上陸しなきゃいけないよ?副長はここ一年ほどまともに休暇もとってなければ上陸もしていないでしょう?いい機会だ、上陸して鋭気を養ってきなさい」

と顔を上げて加東副長に微笑んだ。副長は

「しかし、私が上陸してしまっては」

と渋ったが艦長は「留守は古志野さんに代行してもらう、だから副長。休みなさい」と砲術長の名前を出して休暇を勧めた。

そこまで言われて断るのも角が立つ、と考えた加東副長は笑顔になって

「わかりました。では、私から古志野中佐に頼んできます」

と言って猪田艦長は頷いた。

艦橋を出る副長の後をナナがついてゆく。

 

古志野砲術長は士官室に居て、副長の申し出に快く承諾してくれた。どうやら前々から艦長とそういう話がついていたのかもしれない。

「というわけで古志野中佐、大変申し訳ないが三日だけ願います」

そう言って本当に申し訳なさそうな顔になった加東副長に古志野中佐は

「何をおっしゃいます、堂々と休暇をお取りになってください。副長は全然と言っていいほど休暇をとってらっしゃいませんもの、どうぞゆっくりなさってらしてください――、で、いつからにしますか?」

と副長の心を浮き立たせるように笑みながら話す。

そこに村上軍医長が入ってきて、

「なんだかうれしそうですねえ、何のお話です?」

と尋ねたので、古志野中佐がこれこれこうだというと村上軍医長は

「私があさってから上陸させてもらいますので、良かったらご一緒にいかがです?」

と副長を誘った。副長に依存があるはずもなく「ではお邪魔かと思いますが願います」と言ってあさってから三日の休暇をとることになった。

そしてその間代行をしてくれる古志野中佐に、副長の仕事のあれこれを教えて

「甲板士官の金子少尉によく言っておきますからご心配なく」

と言って古志野中佐を安心させる。古志野中佐は「金子少尉がいるなら私も大船に乗った気分です。彼女は素晴らしい甲板士官ですからね。さすが副長の直属です」と言って副長は何かくすぐったい気分になる。副長はそのあと甲板士官の金子少尉を副長室に呼び、

「私はあさってから休暇をもらいます…その間古志野中佐が代わりを務めてくれますからどうぞよろしく。――そして金子少尉はいつ休暇を取りますか?」

と言った。

が、金子少尉は笑って「休暇は取りません。間もなく内地に帰ると聞きましたので休暇はそれまでお預けにします」と言った。ナナが、金子少尉を見上げている。ナナは(金子さんって本当によく働くのね。ちょっとは休んだらいいのになあ…そういえば『大和』のトメキチさんはどうしてるかなあ、会いたいな)と思っている。

そんなナナの背中を、金子少尉は撫でながら微笑んでいる。副長は

「それでよいのか?金子少尉。内地に間もなく帰ると言っても、帰ってもすぐに休暇が取れるとは限らんのに?」

と心配していったが金子少尉はナナを抱き上げて

「ご心配には及びません副長。私は独り者ですしふた親ももういません…帰っても一番上の兄夫婦がいるだけで私が帰れば邪魔でしょうからね」

と言ってナナの顔にそっと自分の頬を寄せて微笑んだ。

ナナは金子少尉を見て

「金子さん…お父さんもお母さんももういないの?寂しいでしょうね」

と言った、そのナナに金子少尉は

「どっちも私の小さい時、病気で亡くなったから覚えてないよ。私は兄たちと一緒に親戚の家で大きくなったのよ。でもどうにも居づらくってね…中学終えたら兵学校に行こうって一所懸命に勉強したの。で、今があるわけよ」

と言い聞かせるようにしてまた微笑んだ。

副長は初めて聞く直属の部下の生い立ちに衝撃を受けた。が、本人の金子少尉は何事でも無いように春のような微笑みを浮かべている。

金子少尉はナナを抱いたまま加東副長を見ると

「副長、良い休暇を。お留守の間は私と古志野中佐がお預かりします」

としっかり宣言し副長は「では、願います!」と力強く言った。

 

加東副長の三日の休暇の話はほかの科長たちにも伝えられた。

みな「ほう、それは良かった!加東副長、休暇楽しんできてくださいね!」と言いわがことのように喜んでくれた。

その様子に副長は涙ぐみながら「みんなありがとう、厄介駆けますがどうぞよろしく願います、そして古志野さんを助けてやってください」と言った。

主計長も内務長も、誰もが「心配しないで、大丈夫だから」と副長を励ました。

 

休暇までの短い間、副長は古志野中佐に仕事を教え、古志野中佐も布が水を吸うように自分のものにしていき加東副長を安堵させた。

 

休暇の日、加東副長は晴れ晴れとした顔で村上軍医長と一緒に内火艇に乗り込んで上陸していった。

猪田艦長は舷門でそれを見送りながら傍らに立つ古志野砲術長と金子少尉に

「うれしそうだね、加東さん。ほらなんだか内火艇が弾んでいるように見えない?」

と言って古志野中佐と金子少尉は頷いた。

そのそばでナナが

「加藤副長さん、行ってらっしゃいー!」

と内火艇に向かって叫んでいる。

 

加東副長の目の前には青い海が広がり、久々以上にひさびさの副長の休暇が今始まった――

 

 (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・

トレーラーでの「武蔵」のお話です。

加東副長、久しぶりの休暇を村上軍医長と共に過ごします。何かが起きなければいいのですが…。次回をお楽しみに!

 

 

今日(二四日)は急に涼しくなりましたね。夜なんか風が冷たいくらいでした。一昨日あたりからちょっと体調が崩れ、めまいに喘息の(軽くはありますが)発作が出始めています。おなかの調子も良くなくて閉口です。

皆様もどうぞお体お気をつけてお過ごしくださいね、そして大きな台風が接近中です。進路上にお住いの皆さまくれぐれもご注意くださいね!


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは^^。
うれしいコメントをありがとうございます♪
私がこの物語を書くうえでいくつか肝に銘じている―ーと言っては大袈裟ですが気にかけていることは、本来日本人の持っている心根の美しさとかやさしさ、けじめや責任感…などを表現したかったのです。
にいさまがおっしゃってくださること其の儘でうれしいことこの上ありません💛

自己中心的で責任感もなく人を思いやる気持ちも無くなれば「日本」は早晩、滅んでしまうでしょう。残ったものは何か…それを思うと空恐ろしいです。
どうかみんながやさしい心で暮らせる日本になってほしいと思います。

権利を行使するからには義務を果たすこと、というそんな当たり前なことができない昨今が嘆かわしいです。

今日も東京は一日雨で寒かったです…これでまた熱くなったらと思うとぞっとしますw。
にいさまも御身大切になさってくださいませね。

ほのぼのとした空気感が武蔵のみんなの優しさと一緒になって届いてきましたよ。
国のため、家族のため、愛する人のために仕事をしている人って大きな大義があるからでしょうか、誠にもって清々しく、そして潔いですね。今の自堕落な日本人の最も近いご先祖様、先達であったなどにわかに信じられない思いです。同じ血を引いているというのに最近は嘆かわしいことばかり。
1年のうち、わずか3日間の休暇でもこんなに遠慮深いとは。権利ばかりを主張して義務を果たさぬ大うつけどもに思い知らせてやりたい気分です。

東京は気温が下がりはじめましたか。尚一層のご自愛を頼みますよ。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
おなかが悪くなるのは本当に嫌ですよね(;´Д`)。私も以前はよくこの季節おなかを壊していました、やはり暑いところから冷房が効いた部屋に入ったり急に冷たくなると…!乳酸菌飲料を飲み始めたらよくなりましたよ。
腰痛、これも嫌ですね。身の置き所がないあの痛さ。くれぐれもお大事に!

武蔵もいろんな人が居りますね、金子少尉や加東副長、そしてその副長と軍医長が一緒に上陸。となると何かが起きる!いったい何が!?--お楽しみに!

涼しくなるのはよいのですが、冷たい風に当たるとすぐ腹をこわすおいらにとっては、微妙なところ。腰痛も慢性化しているので、ちょっとこの天候はきつうございます。

金子さんの衝撃の?告白。本人が気にもとめてないようですが、兄妹とはいえ所帯持ちと同居はいろいろありますものね。

加東さんの休暇、軍医長さんもいっしょと言うことは、上陸先で腸炎が流行る?南方ですからマラリア??色街での伝染病?さあどう展開が?


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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