2017年07月|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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いとしごよ 呉編 3 解決編

2017.07.22(21:27) 2242

「はいもういきまないで…」という仁谷産科軍医長の声がした次の瞬間――

 

何かが、次子の足のあいだからぬるり、つるんと出てきたような感じがした。すると次子のそばで手をずっと握ってくれていた看護兵曹嬢が

「生まれました、生まれましたよお一人目が!」

と嬉しそうに次子にささやいた。と、部屋中に響き渡る産声。浜名江産科軍医大尉が紅潮した顔を次子に向けて

「女の子ですよ、お一人目!」

と言い次子は「…女の子!」と嬉しそうに言った。それから十分ほどで再び陣痛が来て二人目が産声を上げた。

仁谷軍医長が

「おお、女の子ですよ!そっくりですね、これは一卵性のお子さんですね、山中中佐おめでとうございます。お母さんになられましたよ!」

と言って、次子はその場の皆に「ありがとうございます、無事に生ませてくださって本当にありがとございます」と礼を言った。その場の皆は、山中中佐に敬礼した。

 

それぞれの産声を、分娩室の外で待機していた山中大佐、そして一矢夫婦が聞いていた。三人は顔を見合わせると

「…生まれた…?」

言い、分娩室の扉をじっと見つめた。扉の向こうで人々が忙しく立ち歩く気配がし、かすかに笑い声が聞こえてきたような気がして新矢は、

「次ちゃん…」

と小さくつぶやいた。兄夫婦が、心なしかほほを紅潮させて扉を見つめているのがわかる。

 

それから十分ほどして仁谷産科軍医長が扉をあけて出てきた。三人は椅子から立ち上がって軍医長を迎え、軍医長はにこやかな笑みで三人を等分に見つめると

「おめでとうございます。元気な双子のお嬢様です。山中中佐もお元気ですのでどうぞご安心を。まもなく処置が終わりますので中佐は病室にお戻りになります。赤ちゃんたちはもう間もなく新生児室に入りますので、入られましたらご案内いたします」

と言って、山中大佐に

「おめでとうございます」

と改めて祝意を示し、新矢大佐は「本当にありがとうございます。お世話になりました…そして退院までどうかよろしく願います」と言って軍医長に敬礼した。

仁谷産科軍医長も新矢大佐に敬礼し、その場の皆は幸せな気分に支配され微笑みあうのであった。

 

それから十分ほどが過ぎ、三人は看護兵曹嬢に

「新生児室へどうぞ」

と案内され、双子の赤ん坊の部屋へ。ガラス張りの向こうには小さなベッドがいくつも並んでいる。その三分の一ほどに新生児たちが無心に眠っている。そこに先ほどの看護兵曹嬢ともう一人の水兵長嬢が小さいベッドを押しながらやってくると、三人が居並ぶ前あたりにそのベッドを並べて置いた。

「まあ!!なんてかわいい、なんて小さいの!」

シズが感激の声を上げ、ガラスにしがみつくようにして中を見入る。その瞳が潤んでいるのがわかる。一矢が

「次ちゃんによく似ているね…、新矢にも似ているかなあ」

と言って新矢は兄を見ると「私の子供なんだから当たり前です」と言ってシズは笑った。シズは

「女の子は小さいうちお父さんによく似るようですよ、いまにだんだん新矢さんに似てきますよ」

と言い、しかし新矢はしばし考え込んだ後

「いや。嫂さん、私に似たらまずいでしょう、やはり女の子は母親に似たほうが幸せですよ。それに母親はだれあろう次ちゃんですからね、あんなにきれいな人に似なきゃ可哀想ってもんでしょう?」

と至極真面目に言って一矢は声を立てて笑った。

シズは

「はいはい、ごちそうさまです。…ねえ見て、本当に二人ともそっくりよねえ。どんな女の子になるのか、今から楽しみね」

と言って双子たちを優しいまなざしで見つめる。

赤ん坊たちを見つめる三人のもとに浜名江軍医大尉がそっとやってくると

「山中中佐、ただいま病室に戻られました。が…」

と言っていったん言葉を切った。新矢がにわかに緊張感を帯びた表情になり軍医大尉嬢を見つめると

「どうしたんですか、妻に何か起きたのですか?」

と言った。一矢とシズも不安げに浜名江を見る。浜名江軍医大尉は落ち着いてください、と前置いてから

「双子さんのお産にしては中佐は御安産でしたがいささか出血が多くありましてお疲れもあります、しばらく御面会はできませんのでご了承ください。落ち着かれましたらまたご案内します」

と言って敬礼して歩き去った。

新矢はしばし呆然とその場に立ち尽くしていたがシズに

「大丈夫よ新矢さん。軍医長たちが良いようにしてくださいますから。お産は女の戦場ですから、いろんなことが起きるんですよ。心落ち着けて待っていましょう」

と諭され、「そうですね…そうですよね。私が落ち着かないでどうする、てやつですよね。…兄さん嫂さん、もう少し一緒にいてくれますか?」と頼み込み、兄夫婦は

「もちろん、次ちゃんが部屋に戻るまでいるから」

と言って新矢を安心させた。

 

浜名江軍医大尉が再び三人の前に姿を現したのはそれから約一時間半後だった。

三人は軍医大尉の後をついて次子の病室へ向かう。

「どうぞ。しかしあまり長い時間は困ります」

浜名江軍医大尉はそういうと部屋のドアをそっと閉めていった。ベッドの中には次子がやや青ざめた顔色で横たわり、新矢は

「次ちゃん…」

と小さくささやくとベッドに寄って行った。その後ろを兄夫婦が従う。新矢はもう一度「次ちゃん、」と声をかけた。

ベッドの上の次子はその声にそっと目を開け、新矢と兄夫婦を見るとほほ笑んだ。

「ありがとう、お疲れさまでした次ちゃん」

新矢は感動と感激と少しの心配に支配された気持ちでやっとそう話しかけた。一矢もシズも「お疲れさまでした、可愛い双子の女の子だよ」と言ってほほ笑んだ。

次子は

「もう見てくださったんですね。私と新矢さん、今日から親になりました」

というと嬉しそうにほほ笑んで無理に体を起こそうとしたが新矢がその両肩をそっと押さえて

「起きちゃだめだよ。ずいぶん出血が多かったらしいからね。浜名江軍医大尉が、あまり面会も長くしてはいけないとおっしゃっていたから。もう少ししたら今日は帰るけど、また明日来るから今日はよく眠りなさい?」

と言い聞かせた。普段は無理を押し通す次子も今日はさすがに

「はい…わかりました」

とおとなしく答えた。

そして三人は名残惜し気に振り返りながら病室を後にした。新矢は

「もう一度、赤ちゃんたちを見ていきます」

と言って三人新生児室に取って返し、もう一度赤ん坊たちの顔を目に焼き付けるようにして見いった。

「明日、また来るからね」

新矢はそういってガラスの向こうのわが子たちに小さく手を振った。

その顔はもう、立派な父親の顔であった。

 

その晩になって仁谷産科軍医長が、次子の部屋に赤ん坊たちを連れてきてくれた。

小さなベッドの中にそれぞれ無心に眠るわが子たちを見て次子の瞳からは感激の涙が次々流れ落ちた。思い出すのは新矢と結婚してからこちら、妊娠が分かったときの嬉しさや悪阻の苦しさ。内地に帰って夫と落ち着いて家庭生活を送れた喜び…、

「今日からあなたたちは私と新矢さんの子供ですよ。新米の親だけど頑張りますからね、一緒に大きくなりましょう」

次子は小さな娘たちにそう、小さく呼びかけた。心なしか赤ん坊たちが微笑みを浮かべたような気がして次子も微笑みかけた。

 

その顔はもう、立派な母親のそれであったーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

やっと!生まれました。ちょっと後が大変だったようですがでももう大丈夫。新矢さんも新矢さんの兄夫婦もほっとしたところです。

さあ。これから「四人」での生活が始まります。おっとその前に在トレーラーの<大和>に報告しなくちゃね!


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