2017-05

いなりずし 2 解決編 - 2017.05.21 Sun

海軍嬢姉妹は、長姉の作った稲荷ずしの包みを抱え、母親の入院中の病院へ向かったーー

 

皆川やちよ中尉は傍らを歩くみちよ兵曹に

「こうしてお使いみたいに物を言付かって歩くってのは子供のころ以来だねえ」

と語りかけるとみちよも

「そうですねえ。あの頃どっちが荷物をもつかで喧嘩をしたものですが」

と言って下を向くとくすくす笑った。やちよ中尉も「そうだったね。いつも私が『姉ちゃんが持つんだ』と言って威張ったけど途中で腕が疲れると『みちよ持ってみる?』かなんか言ってね」というと包みを抱え直して笑った。

姉妹は懐かしい話をしながら病院への道を歩く。

 

母親の入院する病院は小高い丘の上にある。かつてちょっとした小山だったところを切り崩して造成した場所であるからその途中の坂道はちょっとした森のようでもある。その森の中に病院への小道が続いている。この近在の人々はここを<病院坂>と呼んでいる。

そしてここは夏は強い日差しを遮り、冬は冷たい風を通しにくいようになっているので人々の散歩道にもなっている場所である。

二人の海軍嬢は、その<病院坂>に差し掛かった。この日はやや冷たい風が吹いてはいたが坂を上がってゆくと木々がその風を遮り寒さはほとんど感じない。

二人は母親の待つ病院を目指してひたすら歩いた。

 

どのくらい歩いたか…不意に妹のみちよ兵曹が「あれ?」と声を上げた。どうした、とやちよ中尉が振り向くとみちよ兵曹はあたりをきょろきょろしながら

「この道…、さっき通ったよね?」

という。やちよは

「さっき通った?そんなことはないだろう、同じような樹が生えて同じような道だからそう思ったんだろう。そんなことよりさあ歩いた歩いた」

と言って歯牙にもかけないがみちよ兵曹は

「そんなことない!だって私さっきあの木を見ましたもん…ならいいですよ、目印つけますからね」

と憤慨して手近の枝に落ちていた枯れたつるを絡ませた。

「こうしとけばわかるでしょうよ。同じ道歩いたって」

そして二人はまた歩いたが再びみちよ兵曹が

「やっぱり!」

と声を上げ指さすところを見れば先ほど枝に枯れたつるをひっかけた樹があるではないか。

「なんだ…これどういうことだ」

さすがにやちよ中尉は気味が悪くなり背筋が寒くなってきた。気温のせいだけではないらしいその寒気にやちよ中尉は妹の兵曹の背中をそっと叩いて

「物の怪のせいかもしらんぞ、目を閉じて突っ走ろう。そしたらちゃんとした道に出るかもしれないからな、いいか行くぞ。しっかり足あげて走らないと転ぶからな」

といい右手で荷物を抱え直し目を閉じ、左手で妹の兵曹の手をしっかりつかむと走り出した。

 

どのくらい走ったか。

やちよ中尉は走るのをやめ目を開けた。目の前には病院の正門があって幾人かが出入りしているのが見える。

やちよ中尉は妹兵曹の手を離し

「…着いたようだ」

といった。みちよ兵曹も目を開け

「あ、ほんとだ」

といい「あれはいったい何だったんだろうねえ?」と言いながらも姉の後をついて病院内に入る。病棟受付で母の名前を言うと一人の看護婦が病室に案内してくれた。

母親の病室は南向きの日当たりのよい二人部屋。

案内してくれた看護婦に礼を言い、二人の海軍嬢は入り口で

「皆川やちよ海軍中尉、皆川みちよ海軍上等兵曹入ります!」

と申告し、中からの「はいどうぞ」という母の声にドアを開けた。正面向かって右側のベッドに母はいた。

「おかあさん!」

と二人は駆け寄りたかったが同室の女性患者に遠慮してしかつめらしく近寄って、左のベッドの年配の女性患者に敬礼した。

「御休みのところお邪魔いたします…私たちはこの皆川キワの二女と三女のやちよとみちよであります。母がお世話になっております」

そういって年配の女性に自己紹介するとその女性患者―川島―は微笑んで

「川島と申します。お母さまのお見舞いお疲れ様でございます、さあどうぞごゆっくりなさってください」

と手近の椅子を示した。

キワも自分のベッドの横の椅子を「さあ」と指さし、二人はそれに従った。

海軍嬢たちは自分たちの近況を面白おかしく話して聞かせ、キワも川島も笑いながら聴き入った。そしてみちよが

「あ、忘れていました。はたよ姉さんから言付かってきたものが」

といなりずしの包みを手に取ったが「あれ?」と不思議そうな顔でやちよ中尉を見て、やちよは「どうした?」と言って包みを自分の手に受け取ったがこれも一瞬妙な顔つきになり、慌てて風呂敷を開いて箱のふたを取った。

「あっ!」

二人の海軍嬢の口から同時に小さく叫びが出て、キワはびっくりして二人の娘の顔を見た。川島も乗り出して覗き込んだがーー

箱の中にきっちり入っているはずの稲荷寿司は半分ちかく消えていたのだ。

「いったい誰が…持ってくる時にはきっちり端から端まで入っていたのに!」

みちよ兵曹がそれを指さして言うと川島が

「御二方、途中で道に迷ったようにおっしゃっておられましたねえ」

といった。やちよ中尉が

「はい。病院坂を上がってしばらくしたら同じところをずっと歩いていました。ですから目を閉じて走ってきました」

と応えると果たして川島は

「やっぱりいるんですねえ!お二方、それはキツネの仕業ですよ。病院坂の森の中にいたずら狐がいましてね、それが好物の稲荷ずしを持ってくる人を化かすんですよ。私も話には聞いたことがありますが実際見たのは初めてですねえ」

と感に堪えたように言った。

「き、狐ですか!」

二人の海軍嬢は同時に声を上げ、次の瞬間その場の皆は大きな声を立てて笑っていた。なんだかとても愉快で仕方がなかった。

稲荷ずしをせしめてほくほく顔の狐の様子が目に浮かびどうにも可笑しくてたまらなかった。

その可笑しさのまま、海軍嬢たちはいなりずしをキワと川島に勧め、二人の患者は稲荷ずしを「稲荷神社のお使い様のおさがりをありがたく」いただいたのだった。

 

その話を聞いたはたよは腹を抱えて笑い

「私も聞いたことはあったけどはじめてよ!いやあ、そんなことってあるのねえ!」

といい、その夫で裁判所に勤める広一も

「ほう、それは貴重な経験をしましたね!私もしてみたいものです」

と笑った。

その晩はそんな話でひとしきり盛り上がった皆川家である。

そしてそれから数日ののち、キワは無事病院を退院することとなり迎えに来たはたよ・やちよ・みちよとともに家路についたのであった。

病院坂の森の中でやちよ中尉は

(病院坂の狐くん、私の母親は元気になって帰れます。今度来るときもっとたくさん稲荷ずしを持ってきてあげようね)

と心の中から呼びかけた。

少し向こうの木の影に狐の姿が見えたような、そんな気のする冬の昼前のことであったーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

狐に化かされた海軍嬢。でも愉快に笑えたので良かったですね。母親も元気になっていうことなし。きっと狐も稲荷ずしをおいしく食べたことでしょう。

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いなりずし 1 - 2017.05.15 Mon

皆川やちよ海軍中尉は艦が横須賀に着くととある場所に連絡を入れたーー

 

連絡を入れたのは妹の皆川みちよ海軍上等兵曹が教員を務める海軍通信学校で、みちよは姉からの電話に

「姉さんお久しぶりです。…はい、ねえさん休暇はどのくらいいつから取れますか?…ああそうですかではそのころまた連絡ください。はい。…お母さんのお見舞い行きましょう。ええあと少しで退院できるとは聞いていますよ、だいぶいいようですから。はいではまた」

そう話して電話を切った。

二人の母親は千葉県の病院に入院中であったが病も癒え、近々退院の運びとなっていた。やちよは北方からの任務を終え母の顔を見るべく妹を誘って病院に見舞いに行こうというものであった。

やちよは母の入院する病院の場所を知らなかったためみちよに手紙を出し、みちよは「それならねえさんが帰還したら連絡ください、私と一緒に行けばよいから」と相成ったのである。

やちよ中尉は久しぶりに妹や母に逢える喜びに浸りながら、艦内での任務を一所懸命こなしてその日に備えるーー

 

休暇の前日に、やちよ中尉は妹に連絡を入れた通り省線横須賀駅で待ち合わせした。

「姉さん!」との声のしたほうに向くと妹のみちよ兵曹がこちらに向かって走ってくるところだった。その妹のもとに駆け寄って姉妹は敬礼を交わした。そして互いに

「久しぶりだねえ」「お久しぶりです」

と言い合って肩をたたきあう。二人はやってきた汽車に乗り込むとまずやちよ中尉が

「千葉までか。長いねえ」

とぼやいた。二人の実家は千葉である。実家には今、二人の姉のはたよが婿を取って住まっている。「はたよ姉さんに逢うのは結婚式の時以来だから二年ぶりか。家のあたりは変わっていないだろうかなあ」

二人はそんなたわいもないことを話しながら汽車に揺られていく。

 

汽車は千葉駅に到着し、二人の海軍嬢はホームに降り立つと深呼吸した。懐かしいふるさとの空気が二人の肺を満たし、姉妹は顔を見合わせてほほ笑みあった。そしてやちよ中尉は

「さあ、まずは家に行こうじゃないか。はたよねえさんに逢いたいし。義兄さんは今夜じゃないと会えないかな」

と言って改札にと歩き出す。そのあとをみちよ兵曹が慌てて付いてゆく。

 

実家への道は楽しいもので、二人は思い出を語り合いながら歩いた。懐かしい駄菓子屋の女主人に会ったり、小学校時代の同級生に出くわしたりうれしいハプニングの連続であった。

そんなわけで普通に歩けば駅から家まで450分もあれば十分な道のりを二人は一時間半、いやに時間ほどかけて歩いてきた。

やがて数件の家の立ち並ぶ中に彼女たちの実家が見え、みちよ兵曹はもうたまらずに「ねえさーん、はたよ姉さんー」と声を上げると懐かしい実家目指して走り出し、やちよ中尉は

「なんだそんなにあわてなくったって」

と笑いながらもこれもまた「ねえさーん!」と声を上げると走り出していた。

<皆川>と、亡き父の達筆で書かれた表札のかかった門をくぐると玄関の扉が開いて中から長姉の傍よが笑顔で出てきた。

やちよとみちよはその場に直立不動の姿勢をとると海軍式の敬礼をし

「皆川やちよ海軍中尉、および皆川みちよ海軍上等兵曹ただいま実家に帰還いたしました!三日ほどお世話になります」

というと三人は声を立てて笑った。はたよも海軍式敬礼をまねて

「おかえりなさい。お疲れさまでした、さあ上がってちょうだい」

と言ってうれしくてたまらないように微笑んだ。

靴をきちんと三和土にそろえ、居間に入る海軍嬢の妹二人を感心したように見たはたよは

「あなたたち立派になって。二年前よりずっと立派よ、それにお行儀も尚更良くなりましたね。子供のころよく靴をそろえろ!ってお父さんに怒鳴られてたの、覚えてる?」

と言って笑い、台所へ茶の用意に行く。

みちよ兵曹は

「いやだなあねえさん。もうそんな昔のこと忘れてくださいよ」

と恥ずかしげに言い、やちよ中尉は仏壇に線香をあげる。亡き父の写真の飾られた仏壇に、やちよは手を合わせそれが済むと「みちよも拝みなさい」と促した。

はたよが

「さあ、手は洗って?お茶をどうぞ」

と声をかけ、二人は居間の座卓の前に正座する。はたよが

「楽にしなさいよ、自分の家なんだから」

と気遣い海軍嬢たちはでは失礼して、と胡坐をかいた。

「で、母さんの具合は」

とやちよ中尉は改めて姉に尋ねた。みちよから聞いてはいたが一番母のそばにいる姉から聞きたかった。姉は

「診ていただくのが遅かったけど運がよかったのよ、母さん我慢強すぎるでしょう?お腹が痛いっていうのをずっと隠していたのよ。でもあんまり顔色が悪いから私も診ていただくついでに母さんを病院に連れて行ったの、そしたら盲腸だっていうじゃない。母さんはそんなの病気のうちに入らないとか言ってたけどお医者様に叱られて、すぐ入院して翌日手術。ちょっと年が年だから起きられるまでに四日かかったけどでももう元気元気。入院中はじっとしていてって言ってもちょこちょこ動き回ってるわよ」

というとおかしそうに笑った。

みちよ兵曹は

「ちょっと待って?『私も診ていただくついでに』ってねえさんもどこか悪いの?」

と片手を上げて姉を制するようにして尋ねる。やちよ中尉も

「そうだよ、ねえさんもどこか悪いんじゃないの?だとしたら起きてていいのかしら?我慢しないで寝ていてよ」

と心配そうに姉を見つめる。

するとはたよ姉はウフフっと小さく微笑むと妹二人の顔を順番に見つめると言った、

「私はほんとに病気じゃないのよ。あのね…あなたたち来年の夏までに<おばさん>になるのよ」。

「ひえええ~」

「うわー、ねえさんやったねえ」

やちよとみちよはのけぞって叫びそしてうれしそうに笑った。はたよ姉は妊娠のごく初期、悪阻も軽そうで妹たちは安どして祝福した。

 

はたよの心つくしの昼食を食べた後

「ではねえさん。私たち母さんを見舞ってきます」

とやちよ中尉が言うとはたよ姉は「あ、じゃあこれを持って行ってくれるかしら」と台所に立ち、なにやら風呂敷包みを持って戻ってきた。そして

「母さんの大好物。お稲荷さん。食べたいって聞かないのよ、お願いね。気を付けていってらっしゃい」

とそれを手渡した。

その包みをもって二人の海軍嬢たちは実家の玄関を出て「では行ってまいります」と病院に向かって歩き出したのだった――

  (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

母の見舞い。いくつになっても母親は気になりますね。まして遠く離れて暮らしていれば尚更です。二人の海軍嬢姉妹、ねえさんから母親の好物を手土産を言付かってさあお出かけです!

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辞令拝受 - 2017.05.09 Tue

益川敏也海軍技術中佐は心の傷を隠しながら、呉海軍工廠の職場に向かっていた――

 

前日の辛い、いや、人を馬鹿にしきった見合いの席をけって上司の山中新矢大佐の家に向かいそこで思い切り泣いた益川中佐は自宅に帰った後も一晩泣いた。大の男が泣くというのは女々しいことではないかと思ったが憧れの山中次子中佐も大変心を痛め、夫の新矢大佐に言伝として

「さぞお辛いことでしょう。そんなときはどうぞ存分に泣いてください。思い切り泣いたらすべて忘れましょう、新しい一歩を踏み出しましょう」

という言葉ももらっていた。

益川中佐は(奥様はやはり天女だ…ああ、でもあんな柴らしい女性はきっとこの世にはほかにもう居るまい。いいんだわたしはもう生涯独りでいよう。これ以上傷つけられて馬鹿にされ嗤われるのは金輪際ごめんだから。そっと、心の中だけで奥様を想わせていただこう、それだけで私は幸せだから)とすっかりあきらめてしまっていた。

 

「松岡式防御兵器」研究室の室長、江崎少将は山中大佐から益川中佐のひどい見合いの話を聞いて卒倒せんばかりに驚愕した。

「まさか、そんなひどい話があっていいのだろうか」

江崎少将は山中大佐がそっと語った話にそういって絶句した。益川中佐が気の毒で可哀想でならなかった。益川中佐は気のいい中年男性で、嫌みのないところが皆に好かれる。そして何より、結婚願望が人一倍強いのを少将は知りすぎるほど知っている。そして山中大佐の妻の次子にあこがれを持っているのも。

「どうして彼はいつもそんなひどい目に合うんだろうか、本当にひどい話だ」

江崎少将はそういって、窓外の風景を見つめた。もう間もなく新年を迎えるこの呉の街、次の年こそ彼に素晴らしい話が来るようにと祈らずにはいられなかった少将である。

 

そしてこの年も残すところあと一週間というとき、益川中佐は江崎少将に呼び出された。

いったいなんだろうか、何か不手際をして仕舞ったのだろうかと緊張の面持ちで江崎少将の部屋を訪ねた益川中佐に江崎少将は微笑みながら椅子を勧め、彼は腰半分だけ椅子に掛け、緊張を隠さぬまま少将と向き合った。

その中佐に江崎少将は

「はっきり言おう、実は」

と切り出し、益川中佐は顔面蒼白になって「…まさか、クビですか」と小さなかすれた声で言い、江崎少将は「は!」と大きな素っ頓狂な声を出してしまった。が次の瞬間大きな声で笑いだし今度は益川中佐のほうが度肝を抜かれた。

江崎少将は大笑いを何とか収めると

「いやいや、そんな物騒な話じゃないんだ。実はね、君に南方に行ってほしいんだよ。そう、出張だ。ちょっと長い出張になるとは思うのだが」

と言って急にしかつめらしい顔になると椅子から立ち上がり

「辞令。益川敏也海軍技術中佐、昭和○○年一月十日をもってトレーラー海軍基地への出張を命ず」とお言い机の上の辞令の書類を手渡し益川中佐、少しだけほっとした。

しかし、

「トレーラー、とおっしゃいますがあの環礁のどのあたりでしょうか?」

と不安げに尋ねる。江崎少将は

「水島だよ。トレーラー水島停泊中の<大和>にしばらく行って『松岡式兵器』の装備実験をしてほしいんだ。むろんほかにも数名を一緒に行かせるから大丈夫だ、…どうだろう、行ってくれるだろうか」

と優しく言い、益川中佐は

「はい!参ります。<大和>に参ります」

としっかり返事をした。

少将の部屋を出た益川中佐は、その足で山中大佐を訪ねた。大佐はいくつかの艦艇の大きな図面を広げて考え込んでいるところだったが彼の訪いに

「どうしたね益川君、ずいぶん息が弾んでるじゃないか」

と問うと中佐は

「いま江崎少将から南方への出張の辞令をいただいてきました。トレーラー停泊中の<大和>へまいります」

と嬉しそうに報告した。ほう、<大和>へ?とこれも嬉しそうに言う山中大佐にうなずいて益川中佐は

「はい。<大和>へです。大佐の奥様のいらした<大和>へ行くのかと思うとうれしいようなそれでいて緊張するような不思議な気分ですがしっかりやってまいります。出発は年明け十日ごろだと聞いています。でも、…」

とそこまで言うと言葉を不意に切った。どうした、と尋ねる山中新矢大佐に益川中佐は

「お子様方のお誕生をじかにお祝いできないのが残念です」

といい山中大佐は「生まれたらすぐ知らせよう、写真も撮れたら送るから」と言ってなんだか照れくさげに二人は笑みあった。

 

その話を海軍病院産科病棟で聞いた山中次子は

「そうでしたか、でもきっといい気分転換にもなることでしょう。トレーラーのあの太陽の下にいれば嫌な思い出なんか消えてしまいましょう。よかったと思います。そして、いい出会いがあればなおさら、いいですね」

とほほ笑み新矢はベッドの端っこにそっと腰掛けると妻の肩を抱き寄せ

「益川君が、子供たちの誕生にここにいられないのは残念だといって悔しがっていたよ。いったい父親はどっちだろうね」

と言って愉快そうに笑った。次子もほほ笑んだ。そして

「いつも益川さんには心配していただいて、うれしいですね」

といい新矢も「ああ、うれしいことだよね」と言い彼は妻をそっと抱きしめた。

 

そんなころ、益川中佐は自宅で長期出張の支度をはじめていた。大きなトランクに衣類やらなにやら詰め込んで

(さあいざ来い出張!トレーラーがどんなところだか今ひとつわからないが私はそこで必死に勤め上げるぞ。今までの私におさらばするつもりで、がんばるぞ)

と意気込んでいた。

 

この年も、間もなく大みそかになろうとする寒い晩のことであったーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

益川中佐、辞令がおりました。

なんと南方、トレーラーは<大和>への出張。しかも長期…となると何やらいい予感もしてきますね。この先の彼の多幸を祈りましょう!

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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