給糧艦間宮の別の顔!?〈1〉

海軍将兵嬢のあこがれの「給糧艦・間宮」だが意外な一面をいくつか持っているーー

 

その一つ…トレーラー諸島にて。

「間宮入港―っ」

と叫んだのは海軍一の大型艦、『大和』の防空指揮所で見張をする桜本トメ一等兵曹。彼女のその叫びで主計長は自らランチを繰り出して羊羹ほかの食料を買い付けに行く。そして「今日は上手くいった」とホクホクしながら帰ってくるのだ。

他の艦艇からも同じように主計科長や主計科嬢たちが買い付けにランチをこぎ出だして行く。皆口々に「間宮、ええねえ」「間宮が来てくれると艦の士気が上がっていいな、うん!」と言っては間宮をほめたたえる。

「間宮」…すばらしい給糧艦という面ばかりがクローズアップされる艦であるが実は優れた医療装備を持った艦でもあるのだーー

 

「間宮」トレーラー入港から三日目。

在トレーラー艦艇の一つ、重巡洋艦「鳥海」でちょっとした騒動が起きた。「鳥海」乗組員嬢の一人の水兵長が前々から腹痛を訴えていたが今朝になってとうとう脂汗を流し、顔色は真っ青になって「痛い…お腹が痛い」とひどく苦しみ始めたのだった。その苦しみかたは尋常ではない。

慌てた仲間が急いで医務科に担ぎ込んだが折悪しく軍医長は昨日から軍医大尉たちと上陸中で不在、「私が診よう」と言った軍医中尉だったが「いかんこりゃ私の手に負えないよ…水島の海軍診療所に連絡して運ぼう」と言ったがその診療所からは「現在手術が立て込んでいてすぐには診ることができない、『間宮』に運びなさい」との返事が来た。

「鳥海」の軍医中尉は

「『間宮』に?…ああそうか!わかった。誰か『間宮』に連絡をしてくれないか、緊急の患者がいると!」

と言って通信科に連絡、通信科から『間宮』に連絡が行き向こうの軍医長から

「急いで来い」

と返信があり、軍医中尉は患者を毛布でぐるぐる巻きにしたのをランチに乗せ、二名の看護兵曹嬢とともに『間宮』へ。

「間宮」ではもう甲板上に医務科の兵曹嬢数名が待ち構えていて、患者を背負った軍医中尉の稲本ミネを「さあこちらへ!」

と艦内にいざなった。二名の看護兵曹嬢も手術道具の入ったカバンや白衣の入ったカバンをもって後を追う。

艦内には甘い香りが漂い、看護兵曹嬢は鼻をひくつかせたが患者の痛みに耐えるうなりに我に返る。『間宮』の兵曹嬢が「こちらです」と小走りに行き、大きな扉を開いた。その奥こそ、『間宮』の別の顔<病院船>としての顔である…

「軍医長、〈鳥海〉からの急患です!」

と兵曹嬢が叫ぶと、もう一つの扉が開き手術着を着た軍医長ー中門知永子中佐―が蟹股で歩いてきて傍らのキャスター付きの寝台を指さし「ここに寝かせて」と言った。稲本ミネ軍医中尉が患者を寝かせてから

「初めまして、私は〈鳥海〉の稲本」軍医中尉ですと自己紹介を仕掛けたが中門軍医長は青息吐息の患者の腹を探っている、そして次の瞬間

「ばっかやろう、こんなんなってから持ってきやがって!虫垂炎がこじれて腹膜炎起こしてるじゃないか、こりゃ大手術になるぞ、どうすんだ貴様あ!」

と悪鬼の形相で稲本軍医中尉をにらみつけた。びっくりしている稲本中尉であったが「あの…助かりますか?」とおずおず尋ねると中門軍医長は患者を寝かせた寝台を『間宮』の看護兵曹嬢たちに奥へと押して行かせた後、稲本中尉をじっと見つめた後

「俺はな、失敗したことがないんだよ」

と言って手術室へと消えて行った。ポカーンとしている〈鳥海〉の軍医中尉、兵曹嬢たちに『間宮』の看護兵嬢が寄ってきて

「中門軍医長、オトコっぽいし口が悪いから誤解されやすいんですけど腕は確かですよ。前に、高いところから落ちてその艦の軍医たちがさじを投げた患者を中門軍医長は助けたんですから。その患者今はすっかり元気で艦隊勤務してます。なんでも中門軍医長、海軍に軍医として入ってからとある人にうんとしごかれて、それで今の技術を習得するに至ったんだそうです。なんて言ったかな…ああ、たしか『日野原』さんという方です」

と教えてくれた。

稲本軍医中尉は

「日野原さんと言えば、〈聖蘆花病院〉の経営者で今、『大和』で軍医長なさってるあの日野原さんですね!あの方の腕は確かも確か。ほう~、日野原さんに私もしごかれてみたいなあ」

と感心した。が、急に表情を引き締めると

「では、あの患者は絶対助かると思っていいんですね」

というと「間宮」の看護兵嬢は胸をそびやかすようにして

「もちろんです!中門軍医長は失敗しないので」

と言い切った。

 

それから一時間半ほどで中門軍医長が手術室から出てきて、心配顔の稲本軍医中尉達に

「危ないとこだったよ、でももう大丈夫。今度からもっと早く診察に来るよう言っとけ!」

というとさっさと歩み去って行った。

その後姿に敬礼した稲本中尉達。患者は一週間ほど『間宮』で治療を受けた後、すっかり元気になって〈鳥海〉に戻って行った。

稲本軍医中尉はそのあと中門軍医長に

「ぜひ弟子にしてください。いろいろ教えてください、私にもその素晴らしい技術の満分の一でも教えてくださいませんか」

と頼み込んだが中門軍医長、

「いたしません」

とにべもなく断ったとか。

 

そして「間宮」にはまだ別の顔があるーー

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

具合が悪い時は早く医師の診察を!というのは鉄則みたいなものですがいかんせん、兵隊さんは無理をしがち。命にかかわっては元も子もありません。

「間宮」には医療施設もあったということで、そうした設備を持てない小型艦の患者などの手術を請け負ったりしていたそうです。

さてもう一つの顔は何でしょう、ご期待ください。
(この記事よりGOOブログにも掲載しております。もしコメントを入れにくい時はGOOブログへどうぞ。タイトルは同じ『女だらけの戦艦大和・総員配置良し!』です)


「間宮」 ウィキペディアより
間宮
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横須賀の花嫁Ⅱ 加東副長の場合〈4〉解決編

その日の午前中、『武蔵』の艦長以下科長たちそして横須賀海軍軍需部の要人たちが一堂に集ったのはとある大きな旅館――

 

「ホテル」と言っても差し支えないくらいの構えの旅館に新婚の鍛冶屋航海長は目を瞠って

「すごいですねえ、さすが大型艦の副長と軍需部の部長の結婚式となるとさすがですねえ」

と感心したように言ってそばにいる塚田砲術長や村上軍医長たちがクスッと笑った。

女将に案内され、一同は控室に入る…

そしてそれから小一時間後にいよいよ挙式が始まった。挙式場に皆が座って待つ中、新郎新婦が静々と入場。その美しさに皆は息をのんだ。

新郎の瀬戸口大佐はこれ以上ない凛々しさの一種軍装。そして花嫁の加東中佐は白無垢姿も楚々として可憐である。その可憐な姿を、新郎の母親が涙を浮かべて見つめ時折うなずいているのを鍛冶屋航海長は見て

(副長良かったですね。瀬戸口大佐のお母さまのあのうれしそうなお顔、私はしっかり拝見しましたよ)

と思った。

皆の見守る中で杯ごとは終わり、列席者も杯を干す。本来は親族だけのものだが、「艦や軍需部の仲間も家族同様だから」という瀬戸口大佐のたっての申し出で杯をいただくことになったのである。

猪田艦長は満足そうな微笑みを浮かべて退出する新郎新婦を見ている。村上軍医長も林主計長も嬉しそうにほほ笑んでいる。

軍需部で瀬戸口大佐の下で働く鍛冶屋健吾中佐も、妻の実子中佐の隣に座って「よかった、ほんとうによかったね」と小さな声で話し、実子も深くうなずいた。

そのあとの披露宴では色打掛の後、なんと花嫁は洋装、ウエディングドレスをまとって皆の喝さいを受けた。鍛冶屋航海長は夫に

「副長は何をお召しになってもようお似合いですね。見てくださいあのドレス、とても副長にお似合いではないですか、素敵ですねえ」

と言ってうっとりとした表情である。

楽しい披露の会食の場もやがてお開きとなり、新郎新婦の見送りで皆は旅館の玄関を出た。

鍛冶屋夫妻は瀬戸口大佐、そして副長に

「おめでとうございます、末永いお幸せを祈ります」

と言ったあと、航海長は「ゆっくり休暇を楽しんでらしてください。艦のあれこれ、どうかご心配なきよう」と言って副長を安心させた。

副長は嬉しそうにほほ笑みながら

「ありがとう仮谷さん…じゃなかった鍛冶屋航海長。不在中迷惑をかけますがどうぞよろしく」

と言って航海長と握手を交わした。

 

旅館を出る一行の中に、新夫婦の両親たちがいてこれが仲良く話をしながら歩いていた。ふと瀬戸口の父親の嘉左ヱ門が、加東副長の父親に何か話しかけると二人は先を歩く『武蔵』の猪田艦長に小走りに歩み寄ると嘉左ヱ門が

「艦長様、今日はお忙しいところをありがとうございもした」

と言い加東副長の父が深く頭を下げた。嘉左ヱ門も頭を下げた。猪田艦長は歩をとめて二人に敬礼し

「とてもいいお式と披露宴でしたね、二人の人柄がよく表れていてよかったですよ」

と言ってほほ笑む。その微笑みをまぶしそうに受け取り父親たちは

「どうぞこれからも二人を御見捨てなく」

とあいさつし、母親たちも「どうぞよろしくお願いします」と頭を下げた。

 

そんなころ、夫婦となった二人はそれぞれ衣装を脱ぎ、風呂に入りほっと一息ついていた。

風呂から上がり今夜からを過ごす部屋に戻った浴衣姿の副長は、そこに夫となった剛三がいるのを見たとたんなぜか急に恥ずかしくなってうつむいてしまった。

剛三は優しく微笑みながら

「憲子さん、どうしたの?」

と言って近寄ってきていきなりのように彼女を抱きしめた。ハッ、と息をのんだ彼女であったが軽く息を吸って

「ごめんなさい、なんだか私、その、恥ずかしくなってしまって」

と言って剛三を見つめた。その瞳がいかにも恥ずかし気な感じで剛三はたまらなくなり

「のりさん…あなたはとてもきれいだ」

と小さく叫ぶとぐっと強く副長を抱きしめた。突然のことで「う…」と軽くうなった副長、その彼女の顔をそっと自分のほうへ向かせると剛三は

「これから先、長い人生を一緒に歩こう。いろんなことがあるだろうが、私はあなたとならどこまでも、歩いて行ける。そして私はあなたを守る…」

と言って…彼女の唇に自分のそれをそっと重ねたのだった。

 

新婚の夜は更けて行った――

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・

幸せになってほしいですね。この二人なら大丈夫そんなことでも乗り越えてゆけるでしょう。

新しい夫婦たちのこの先をどうぞ見守ってやってください。

 

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横須賀の花嫁Ⅱ 加東副長の場合〈3〉

『武蔵』副長、加東憲子中佐の結婚の日がやってきたーー

 

雲一つない日本晴れのその日の朝早くから、副長室では数名の下士官たちによって副長を花嫁姿に仕立て上げていた。ドアの前には一人の下士官嬢が「絶対に開けさせてはいけない、すべて準備が整うまで何人と言えど中に入ること能わず」との今日の「着付け長」の命によって見張に立っている。

副長が部屋に入って二時間ほどしたころ猪田艦長が「どうかね、もうできたころではないのかな」と来た時も見張の兵曹は厳しい表情で

「申し訳ありません、まだ入室の許可が出ておりません」

と断ったほどである。そのあとから「どうですかまだでしょうか」と来た鍛冶屋航海長や村上軍医長も猪田艦長が笑いながら「まだだそうだよ、絶対入れてくれないよ」と言うのを聞いて

「ほう、ずいぶん念の入ったことですね。では、その時まで待ちましょう」

と皆連れ立って艦長室へ向かった。

 

そんなころ部屋の中では加東副長がもうほとんど支度を終え、鏡の中の自分を見つめていた。

(これが、私なのですね)

髪はつややかに結い上げられ文金高島田。そして鼈甲のかんざしが差し込まれている。ほんのり白く塗られた顔、唇には紅が引かれ、副長の若さを引き立たせている。そして真っ白な角隠しにその身を包む白無垢…。

かんざしの位置を直して、「着付け長」の大役をつかさどった西村一等兵曹はほっと安どの息をついて

「加東副長、すべてご用意整いました」

と言い、ほかの下士官嬢たちは「おめでとうございます」と頭を下げた。加東副長はそっと椅子から立ち上がるとそれらの下士官嬢の前に

「どうもありがとう。こんなにきれいにしてくださった事、どれほどお礼を申しても足りません。本当にありがとう」

と感謝の意を表した。

下士官嬢たちは改めて頭を下げ「副長の末永いお幸せをお祈りいたします」と言った。嬉しそうにほほ笑んだ副長、着付け長の西村兵曹がドアを開け、見張の下士官嬢に用意が整ったことを告げ、見張の下士官嬢・原田二等兵曹は「では、猪田艦長をお呼びしてまいります」と駆けだしていった。

 

副長が下士官嬢たちと待つ部屋のドアがノックされ、一人の下士官嬢がドアを急いで開けた。外には猪田艦長以下の科長たちがいて

「どうぞ、すっかりお支度が出来ております」

と皆を中に招じ入れた。そして椅子に浅く掛けた花嫁姿の加東中佐を見るなり皆「おお…」「なんてきれいな」「美しい」と歓声を上げた。

鍛冶屋航海長は涙ぐむほど感激して副長の前に膝をつくと

「副長、おめでとうございます。なんて美しい…、瀬戸口大佐は男冥利に尽きますね。こんなにきれいで素晴らしい女性を妻にできるんですから。ああなんだかわがことのようにうれしいです」

と言ってほほ笑んだ。その頬を涙が一条流れ、航海長は慌てて手の甲でそれを拭きとった。

加東副長はその航海長を微笑みで見つめ

「ありがとう航海長。あなたもとてもきれいな花嫁さんでした、そのあなたからそういってもらえるなんて本当にうれしいことです」

と言って航海長の手をそっと取って握った。

その様子を猪田艦長は微笑みを持って見つめていたが

「さて副長、そろそろ時間だからね。甲板に上がろうじゃないか」

と言って副長はうなずいた。介添え役の甲板士官の金子少尉が一種軍装に身を包んで部屋にやってきて

「加東副長、本日はおめでとうございます」

と言って敬礼した。副長はそれに頭を下げて応え

「お世話になります。そして私の留守中よろしく願います」

というと金子少尉は(任せてください)と瞳で応えた。猪田艦長がまず部屋を出、そのあとを金子少尉に手を取られた加東副長が続きさらにそのあとを各科長たちが続いて甲板に上がる…

 

最上甲板は、前から後ろまで、そして艦橋や見張所など人がたてる所という場所に将兵嬢たちが立ち並んで加東副長が出てくるのを今や遅しと待っている。

一人の水兵嬢が

「ああ、早く見たいなあ。副長の花嫁姿。きれいだろうなあ~、いいなあ」

と言って軽く足踏みをする。その隣の水兵長嬢が

「そりゃわが『武蔵』の副長なんだからきれいに決まっているよ。そういえば『大和』の副長も艦からお嫁入りなさったと伺ったが…これから大型艦の副長は艦からお嫁に行くのが倣いになるのかな?」

と言って小首をかしげ、周囲の兵員嬢も「うーん、そうかもしれないねえ。そのほうが素敵だし」と言ってうなずく。

と、一人の士官嬢が前檣楼の扉前に立ち皆は鎮まった。ドアは士官嬢によって開かれ、まず猪田艦長が一種軍装に白手袋、短剣をつって表れそのあとを金子少尉に手を取られた花嫁姿の加東副長が現れると艦上には声にならないどよめきが起きた。

白無垢姿の加東中佐は、舷門近くへと進み向き直って一礼した。そして猪田艦長が金子少尉に代わって副長の手を取ると、二人は艦上をゆっくり一周する。

これは『大和』の副長が嫁入りの際にしたというのを聞いて猪田艦長が「それをしよう、せっかくの花嫁姿をみんなに見せてあげよう」と言って実現したもの。

二人が通るたび、将兵嬢たちの敬礼の手が次々に上がり通り過ぎれば降りる。それはまるで一場の夢のようである。そして横須賀港在泊の艦艇から祝福の発光信号が放たれる。副長はそれらにも頭を下げ、

(どうもありがとう皆さん…皆さんにも大きな幸せが来ますよう祈ります)

と心の中で返礼した。

やがて元の場所に戻った艦長と花嫁は、今度は全艦の拍手で包まれた。そして介添えが金子少尉にもう一度移り、猪田艦長の前に立った花嫁と金子少尉は深々と一礼した。猪田艦長は満面の微笑みで加東副長を見つめて

「とてもきれいです。最高の花嫁です。…末永い幸せを祈ります。金子少尉、よろしく願います。のちほど式場で逢いましょう。では気を付けて。ごきげんよう」

と言った。その艦長にもう一度二人は礼をすると、特製のラッタルを降り、用意された内火艇に乗り込んでいった。内火艇は、『武蔵』の周りを一周した後上陸場目指して穏やかな秋の海を走ってゆく。

防空指揮所でそれを見送った小椋兵曹たち見張り員は

「ああ、いいなあ副長。私も早く結婚したいなあ」

とため息をつき、「そういえばさ」と小柄な見張り員の東海林兵曹がが内緒っぽくささやき、その場の見張り員たちは「なになに?東海林兵曹なに?」と彼女の周りに集まる。

東海林兵曹はちょっと得意げな顔で

「ほら、あの『大和』の見張りの達人・オトメチャンを知ってるでしょう?あの子、許嫁がいるんだって!」

とささやき、見張嬢たちは「ええーっ、あのおぼこで有名なあの子が?ええー、まさかあ!」と叫び東海林兵曹は

「ホントもほんと。『大和』の従姉に聞いたから嘘じゃない」

と言って胸を張る。そしてその場の見張嬢たちは「はあ…いいなあ。私も誰か見合い相手探してもらおうかなあ」とつぶやくのであった。

 

加東中佐と金子少尉を乗せた内火艇は、上陸場に到着した。金子少尉は上手に中佐を内火艇から外へいざない、その場に居並んだ衛兵嬢たちの敬礼の中上陸場のもんへと歩いた。

そしてその先に、瀬戸口大佐の勤め先・横須賀軍需部からの迎えの自動車が来ていて、二人はそれに乗り込み式場へと向かった。

加東中佐の瞳はきらきらと輝き、金子少尉にはそれが嫁ぎゆく者の決意と見え、

(これが花嫁となる人というものなのだな…私はしっかり覚えておこう。自分のその日のために)

と思うのであった。

 

式場はもうすぐそこーー。

 (次回に続きます)

 

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ加東副長の挙式の日です。

『大和』の山中副長のように艦からのお嫁入りです。これ、本当に『女だらけの海軍』の倣いになっちゃうかもしれませんね。

さあ次回はいよいよ挙式と披露宴です!

 

祝典行進曲

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横須賀の花嫁Ⅱ 加東副長の場合〈2〉

瀬戸口大佐は、加東中佐の隣に座るとその片腕をつかみそして、言ったーー

 

「あなたはとてもきれいだしそして聡明な方だと私は思いますよ?そしてそれは『武蔵』の皆さんが思っていることではないでしょうか。だから猪田艦長はそうおっしゃったんだと私は思います。世辞の通用する世界ではないことはあなたが一番ご存知ではないでしょうか、だからあなたはご自分のもっと自信を持ってください。そして…もし差し支えなければあなたをそこまで追い込んでしまった原因、それがわかるなら教えてくれませんか?」

真剣な彼の瞳に、加東中佐の瞳が濡れた。ああ、この人は心底私を想ってくれているというのが中佐の心に伝わった。

そこで彼女は座りなおすと小さく咳払いをしてから

「お恥ずかしい話ではありますが」

と前置いて、以前給糧艦「多羅湖」の助平(すけひら)得露須艦長が催したいかがわしい「副長会」でのことを話した。そして助平艦長の「あなたのメーク、面白いわ。おてもやんね」という衝撃の言葉と『大和』の野村(当時)副長に「あなたとってもきれいね」と言った話をした。

瀬戸口大佐の顔が悲痛に歪み、「なんてかわいそうな」と言って次の瞬間、加東中佐は彼に抱きしめられた。瀬戸口大佐は彼女を抱きしめたままでその髪にほほを当てて

「つらい思いをなさったんですね…そんな辱めを受けてなおひどいことを言われて…傷つくなというほうが無茶です。でも加東さん、もう忘れましょうね。あなたはこれから私の妻になる人、過去の辛い思い出や言葉はすべて捨てて、私と新しい人生を歩いてゆきましょう。大丈夫、あなたはとてもきれいで聡明な女性であり海軍軍人です。それは私が保証します!私は、実は鍛冶屋くんの見合いの時あなたを見てひとめで惚れてしまったんです。あなたの美しさ、聡明さ、そして控えめでありながら感じる存在感。そんなあなたのすべてに惚れこんだのです。

きっと『武蔵』の皆さんもそう思っていることでしょう。そんな素敵な女性を妻にできる私は幸せ者です。ですからあなたもこれからは私のために笑っていてください。――いいですね、これは私との約束ですよ?」

と言った。

加東中佐は瀬戸口大佐の肩にすがると

「ありがとうございます、ありがとう…。私、もう後ろを見ません。前を見て、瀬戸口大佐と一緒にこの先の人生歩いてゆきます」

と言って思い切り泣いた。瀬戸口大佐はうなずいてさらに彼女を強く抱きしめると

「泣きなさい、思いっきり泣きなさい。そしてすっきりして笑ってくださいね」

と言ったのだった。

 

それから一週間ほどして、仮谷改め鍛冶屋実子航海長が休暇を終え『武蔵』に帰ってきた。猪田艦長そして加東副長は舷梯に鍛冶屋航海長を迎えに行き

「おかえり。休暇はいかがでしたか?」

と尋ねた。鍛冶屋航海長は嬉しそうにほほ笑み艦長と副長に敬礼してから

「長いこと勝手をして申し訳ありませんでした。…おかげさまでよい休暇をいただきました」

と言い猪田艦長は「中に入ろう、そして私の部屋で話を聞かせてほしい」と言って三人は連れ立って艦内に入った。

艦長室に入るとまもなく、艦長従兵の兵曹嬢が三人分の紅茶と菓子を持ってきてくれた。艦長は航海長の前に紅茶のカップをそっと置くと改めて

「お帰り航海長。あなたの不在中皆寂しがっていましたよ、もちろん私も」

と言って慈愛に満ちた瞳で航海長を見つめた。加東副長も

「一層綺麗になりましたね。どうですか新婚生活は」

とニコニコして話しかける。鍛冶屋航海長は頬をほのかに赤く染めて、副長を見つめ

「はい。とても楽しい日々です…今までなかったほどの。それから夫と互いの郷を訪ねあいまして両親はもちろん兄弟や親戚とも仲良くなりました」

と言った。加東副長は

「いいですねえ、うらやましい」

と言ったが猪田艦長が即座に「なに言ってるんです、加東さんだってもう間もなく花嫁さんじゃないですか」と言って三人は大きな声で笑った。

そのあと鍛冶屋航海長は

「では科長たちにご挨拶してきます。それから航海科の皆にも」

と言って艦長室を出た。艦長室のドアが静かに閉まると加東副長が

「綺麗になって…。航海長本当に幸せそうでほっとしました」

と言って猪田艦長もうなずいた。そして艦長は副長をひたと見つめると

「さあこんどはあなたの番ですよ。――そういえば加東さん、あなたこのところさらにきれいになりましたね。そして今まで以上に自信に満ち溢れている。何か…いいことがありましたね?」

と言った。加東副長は頬を真っ赤に染めた。そして

「あの…その…、先週瀬戸口大佐にお会いしたんですが、その時に」

とあの日のことを話した。恥じらいつつも彼の言葉を再現する様子に猪田艦長はほほえましさを覚えた。そして

「加東さんもいいご縁を得てよかったですね。瀬戸口大佐はとても良い人です。それは見ただけでもよくわかりました、彼はあなたを幸せにしてくれることでしょう。加東さん、大佐の想いに応えてあげてくださいね」

と言ってから「あ、余計なお世話でしたね」と付け足して笑い加東副長も笑った。

 

そしてその日からさらに二週間後。

明日はいよいよ加東副長の結婚の日である。横須賀の海は明日を祝うかのように穏やかである。初秋の横須賀に祝意が満ちているようにみえ、猪田艦長はその日防空指揮所に立って周囲を見回し、満足そうにうなずいた。

そばにいて哨戒に当たっていた見張り員の小椋兵曹は(いよいよ明日なんだなあ。加東副長いよいよお嫁入り。ああうらやましい)と思っている。明日のお輿入れに関しては、副長が以前から

「『大和』の野村副長のように『武蔵』から嫁ぎたいのです」

と要望を出していたので艦長は快諾し、内務長は「大和」に連絡をして揺れの少ないラッタルを「『大和』の野村副長の時と同じ要領で制作した。

花嫁衣装も昨日のうちに到着し、着付けや化粧のできる下士官嬢が明日はその腕を振るうこととなって居る。

乗組員嬢たちも明日のために一種軍装を寝押ししたりアイロンをかけたりと忙しい、が、おめでたいことなので笑顔が絶えない。明日、最高の状態でお輿入れさえてあげようという意気込みが全艦にみなぎった。

 

その意気込みを加東副長は感じてうれしかった。そして瀬戸口大佐の両親の顔を想った。互いの両親との顔合わせの時副長は本当は不安だったのだ。顔も知らない相手の両親に会うのが本当は怖かった。だが、実際あってみるととても気持ちの良い二人で中佐を見るなり

「なんと美しいひとでしょうか、おい剛三おまはん幸せもんぞ?こんな美しい頭のよか人を娶れるとは…よかったなあ」

と口々に言って加東中佐をほめたたえた。瀬戸口の両親は高齢であったが意気軒昂、母親のキンは中佐の手をやさしくとって

「どうか剛三をお願いいたしもす。剛三は五人兄弟の一番下で甘やかして育ててしまいもした、憲子さんにはご迷惑な息子ではございもすがどうかよろしくお願いいたしもす」

と言って平伏せんばかり、加東中佐は慌ててキンを抱き起すようにすると

「瀬戸口大佐のお母さま、私のほうこそ何もできない女です。瀬戸口大佐と瀬戸口家には迷惑な女かもしれませんが一所懸命務めます。どうかよろしくお願いいたします」

と言ってキンと父親の嘉左ヱ門の前に三つ指つくと頭を深く下げたのだった。それを見つめる瀬戸口大佐の顔は幸せそのものだったのを中佐は鮮明に覚えている。

(明日…私は瀬戸口大佐の妻になる)

加東中佐の心のうちに妻となる決意がふつふつと湧き始めた。

 

その晩は艦長の肝いりで副長の結婚祝賀会が艦長室で各科長を招いて行われた。

林主計長は「明日の晩はお祝いということで皆に赤飯を出します、といってもこれはまだ秘密ですがね」と言ってほほ笑んだ。猪田艦長も嬉しそうにほほ笑んで

「さてでは、乾杯を」

と言って立ち上がり科長たちも倣った。従兵嬢が酒を杯に注いでまわり終わると艦長が

「ここに加東中佐の末永い幸せをお祝いします。乾杯!」

と言って皆も「乾杯」と唱和し杯を干した。加東中佐は「ありがとうございます、幸せになります」と言って杯を干した。

会食が済んだ後、皆は副長室に行って衣桁にかかった花嫁衣裳を見せてもらい「いいですねえ、白無垢」「素晴らしい衣装ですね」「これは明日が楽しみです」などと言って華やいだ雰囲気になった。

皆が部屋を退出する前村上軍医長は加東副長の両手を握って

「副長おめでとうございます。末永いお幸せを心より祈っております。海軍生活と結婚生活の両立はそう難しくはありません…特にお相手が海軍の人ですからあなたの立場を解ってくれるでしょうし、あなたができる範囲のことを一所懸命になさればそれでいいんです。かくいう私も結婚生活は長い方です、最初は艦隊勤務の軍医と経理学校の教官とではどうかという向きもありましたがうまくやっていますよ。だからご心配なく。案ずるより産むがやすしですよ」

と言って握った両手を振った。

副長の瞳が感激に濡れ、「ありがとうございます軍医長。私、やってみせます」と言って微笑み軍医長は「大丈夫大丈夫。あなたなら絶対できますよ」と言ってその体をやさしく抱きしめた。

 

『武蔵』の夜は静かに更けて行った――

 

 (次回に続きます)

 

                   ・・・・・・・・・・・・・

 

不安・悩みは払しょくされました!相手の両親もいい人のようだし、何も言うことはないようです。そして加東さんも山中中佐のように『武蔵』からお嫁入りなさるようです。その模様をどうぞお楽しみに!

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横須賀の花嫁Ⅱ 加東副長の場合〈1〉

仮谷航海長の結婚式が終わり休暇に入ったあとから加東副長は忙しくなり始めたーー

 

猪田艦長は「副長の代理を立てなければと思ってね、これから加東さんは忙しくなる。その間の代理を岸本砲術長に頼もうと思うんだが、どうかな」と艦長室で加東副長に尋ねた。副長としては全く異存がないので

「岸本さんには急な話で申し訳ないのです。私は賛成ですのでよろしくお願いします」

と言い、猪田艦長は機嫌よく微笑んでうなずくと従兵嬢を呼んで「岸本砲術長を呼んできてほしい」と伝えた。ややして岸本三奈子砲術長は艦長室にやってきて副長を見ると微笑みを浮かべて

「加東副長、このたびはおめでとうございます」

とあいさつした。ありがとう岸本さん、と言った副長を見つめた後岸本砲術長に椅子を勧めた。砲術長が椅子に落ち着くと猪田艦長は

「岸本中佐。話があるんだが」

と副長代理の話を切り出した。岸本砲術長は

「私が副長の代わりを務めるなんて僭越ではないでしょうか」

とためらったが猪田艦長に

「あなたしかいないと思うんだが。それにこの話は加東さんも大賛成しているよ?」

と背中を押すがごとく言われて「それではわたくし、代理を務めさせていただきます」と言って笑みを浮かべた。

加東副長は岸本中佐の両手を取って

「どうか私の留守中よろしく願います。あなたには突然の話で驚かれたことでしょうがどうかよろしく。では早速ですが今晩にも甲板士官の金子少尉を呼んで話をしましょう」

と言った。岸本砲術長も副長の両手をしっかり握り返して「わかりました。この岸本、副長のご不在中はしっかりその任を務めさせていただきます。では今夜おうかがいします」と言って艦長室を辞して行った。

「では、艦長。私も失礼いたします」

と加東副長は言って艦長室を出ようとしたその時、猪田艦長の右手が加東副長の右手に重なった。

「?」

加東副長がやや小首をかしげて艦長を見ると艦長は椅子から立ち上がり、副長をやさしく抱きしめた。そして

「よかったね副長…幸せになりなさいね」

とささやいた。抱きしめられている副長の瞳が潤み、「…艦長」とだけ言うと副長は猪田艦長の胸にすがって静かに泣き始めた。

しばらく泣いていた副長はやがて「艦長、ありがとうございます。今までも、そしてこれからもどうかよろしくお願いいたします…」と顔を上げると微笑み、艦長も微笑み返した。そして副長は、部屋を出たーー

 

その晩、岸本砲術長と甲板士官の金子少尉との三人で副長の仕事のあれこれを話し合い、加東副長は「岸本さんは覚えが早いから何も心配ないですね、金子少尉、よく岸本中佐を助けてあげてくださいね」と言ってその晩の集まりは終わった。そして

「私は明後日しあさってと上陸で艦に居りません、早速ですがどうかよろしく願います」

と言い、岸本中佐と金子少尉は「わかりました、ご心配なく」としっかり応えた。

 

二日後。

加東副長は横須賀の街にいた。許嫁の瀬戸口大佐と会うためである。

加東副長はどうしても瀬戸口大佐に聞きたいことがあった、(それを聞いたからと言って、どうということもないのだろうけれど、でも)。

そんな思いがあった。

瀬戸口大佐とは横須賀の街の一軒の料亭で逢うことになって居る、その場所へ副長は速足で急いだ。そしてハアハアと息を切らしながら料亭の玄関に入り、出てきた女将に案内を乞うた。

瀬戸口大佐はつい先ほど来たばかりで、部屋に案内されてきた加東副長をやさしく迎えてくれた。そして店の女将に「適当に料理を願います」というと女将はうなずいた後ごゆっくりどうぞ、とほほ笑んでふすまを閉めた。

瀬戸口大佐と加東中佐は、その場に座るとまず加東中佐が三つ指ついて

「このたびはお忙しいところお時間をいただきありがとうございます」

とあいさつし、ついで瀬戸口大佐が

「あなたこそ大変にお忙しいところをありがとうございます。…いよいよ結婚の準備ですね、艦内のことや結婚準備に追われて疲れてはいませんか?」

というと加東副長はそっとかぶりを振って

「平気です。私毎日楽しくて…、艦内の様々も今までないほど楽しいんです。これはきっと」

と言ってそこで言葉を切った。瀬戸口大佐がほほ笑みながら「きっと?」と先を促す。すると加東副長はにっこりとほほ笑んで

「瀬戸口大佐と、出会えて結婚できる幸せからだと思うんです」

と言って二人は頬を赤らめた。

 

食事が運ばれてきて、二人は楽しくそれをいただいた。

食事が終わり、仲居が茶を運んできてそれを喫しながら二人はまた話し始める。ふと、加東副長は今まで気になって仕方がなかったことを切り出した。

「あの、瀬戸口大佐。私この機会に伺いたいことがございますの」

そう、何か切羽詰まったような表情で語る加東副長に瀬戸口大佐は優しく微笑みながら

「なんでしょう、何でも聞いてください」

と言って副長を見つめた。

副長は見つめられて胸がどきどきと高鳴るのを覚えつつ、すうっと息を吸うと「では申し上げます…。変なことを言う女だと思われるかもしれませんが、私の正直な思いです」と前置いてから、どうして大佐は私と結婚をしようと思われたのでしょうか、と尋ねた。そして

「私は正直、きれいでもなければ器用でもないと思っています。―いえ、そういうことを思ってはいけない、そんなことはないよと猪田艦長には言われているのですがでも、私は今まで人から綺麗だと言われたこともないし、自分を器用な人間だと思ったこともないものですから」

と言ってなんだか苦しそうな表情になってうつむいた。

するとーー

じっと加東副長を見つめていた瀬戸口大佐が、席を立つと副長の隣にそっと座った。そして彼女の片腕をつかんで言った言葉に、加東副長は大きな声を上げて泣き出したのだったーー

 (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

復帰第一作(笑)は横須賀の花嫁・加東副長編です!お待たせしましたが仮谷航海長に続いて軍艦『武蔵』のおめでたごとのお話です。

自分にあまり自信のない加東さん、婚約者の瀬戸口大佐にくすぶっていた思いをぶつけました。さてどうなりますか、次回をお楽しみに!
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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