女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

心をつなぐもの

某海軍航空隊基地のある島では、搭乗員嬢たちは現地の人々に大人気である――

 

搭乗員の彼女たちが街を歩けば「ハーイ、パイロット!」「ニホンのパイロット、きれいね~」などと声をかけられることは日常茶飯事。

搭乗員嬢たちはやや恥ずかしげにそれにそっと手を挙げて応えるのが通例になって居る。

以下はそんなある日のちょっとしたお話し。

 

〈隠れた才能〉

その日の夕刻間近、零戦搭乗員の早川少尉以下数名は新飛行場の見学を終えて中型トラックの荷台に揺られて基地に帰る途中であった。皆、「新しい飛行場が早くできるとよいな」とか「すると、ほかの航空隊が入ってくるのでしょうかねえ?」などとおしゃべりが続いている。

その時、トラックのエンジン音がぶすぶすとおかしな音を立てて、やがてトラックは止まってしまった。早川少尉は

「どうしたの?ガス欠か?」

と荷台から運転席に乗り出して尋ねると運転席の整備兵曹たち二人が

「ガス欠ではないんですがエンジンがおかしくなってしまったようです…申し訳ありません、今調べます」

と言って車を降りた。

少尉は荷台の搭乗員嬢たちに「――だそうだよ。ちょっと時間がかかるかもしれない」と言ってから自分も荷台から降りて兵曹たちに「何か手伝えるかな」と言ってエンジン部分の点検を始める。

しかし思いのほか時間がかかり、まだ直らないうちに日が沈んでしまった。懐中電灯の細い光の中懸命に作業は続いたがはかどらない。

「こんなところで足止めとは…司令に連絡が取れればいいのだが」

早川少尉が心底困ってしまった時。

道の向こうに自動車のヘッドライトがギラリと光りこちらへ向かってくるのがうかがえた。整備兵曹嬢の一人、米倉兵曹が「おーい、おーい!止まってくれえ」と両手を振り大声を出した。果たして向こうから来た自動車は彼女たちの前で止まってくれた。

その中から降りてきたのは現地の男性で、この地の知事である。知事は

「ドウシマシタ?日本の海軍サン?」

と言って、兵曹たちから話を聞くと「ソレハいけません…私ノウチニキテクダサイ。自動車ナオセル息子イルネ、電話モアリマス。さあ行きましょう」と言って彼の自動車の後ろに綱をつけそれで海軍の中型トラックを引っ張ってくれた。

一行は知事の家に着いた、すると中から大勢の家族が飛び出してきて

「サアどうぞ!いらっしゃいませ!」

と言って皆を家の中へと招じ入れてくれた。飛行服姿の搭乗員たち、それに三種軍装の整備兵嬢たちも下へもおかないもてなしようで彼女たちは恐縮してしまった。

知事が一人の若い男性を連れてきて、「コレ私のムスコ。自動車ナオセル。チョトだけ待っていてホシイネ」と言って息子は笑顔で一礼すると外へ出て行く。

その間に、早川少尉は電話を借りて基地へ連絡。基地司令に訳を話し、司令は「直り次第帰隊しなさい。直らない時はまた連絡して。いずれにしても彼らには丁寧に礼を言って」と言い、電話を切った。

その間に家族たちはごちそうをもってきて

「サアどうぞ!召し上がれ」

と一行に勧める。いただきますと言っていいものか皆が戸惑っていると知事は早川少尉の背中をそっと叩いて

「ワタシタチとあなたたち、今日友達ニナレタネ。その印ダカラ食べてほしいデス」

と言って知事手ずからとりわけの皿を皆にそれぞれ手渡し、勧めた。彼の妻や娘息子たちも「ドウゾどうぞ」と勧めるので

「ではいただこう、せっかくの気持ちを無にしてはいけない」

ということで皆「いただきます!」と大皿に盛られた料理に手を伸ばした。美味いおいしいと嬉しそうな搭乗員嬢たちに家族や知事も嬉しそうである。

やがて楽しい会食が一段落つくころ、知事が立ち上がると部屋の中に鎮座しているピアノを弾き始めた。すばらしい、玄人はだしのピアノの音に皆はうっとりと聞きほれた。知事の娘の一人が搭乗員の一人・河野一飛曹に

「オトウサン、気分がいい時ピアノ弾きマス」

と教えてくれた。うれしいことですね、と、河野一飛曹が言うとその横に座っていた畑田上飛曹もうなずいた。しばし素晴らしいピアノの音に酔っていた一同は、弾き終えた知事に拍手した。

「素晴らしい、素晴らしい演奏です知事!」

口々に言う搭乗員たちに嬉しそうにほほ笑みながら知事は

「デハ、パイロットの皆さんモぜひ一曲」

と言ってピアノに手を差し伸べる。下士官嬢たちははっと身を固くした。彼女たちはピアノを見たことがありこそすれ、弾いたことなどない。

どうしよう…

下士官嬢たちの間に困惑が広がった其の時。

「では私が。下手ですがご容赦」

と立ち上がったのはだれあろう早川少尉。皆は「早川少尉ピアノを弾けるんだろうか」「そんな話聞いたことないわ…ああ恥かかなきゃいいけど」などとコッソリささやく。

早川少尉はピアノの前の椅子に腰かけると、飛行服の袖を少しまくり上げ鍵盤の上に軽く両手を乗せた。皆が固唾をのむ――と少尉の両手が滑らかに動き出し素晴らしい曲を奏で始めた。搭乗員嬢・整備兵嬢たちはびっくりして少尉を見つめ、知事一家はまるで祈りをささげるときのような格好で両手を胸の前に組んで聴き入っている。

そして弾き終えた少尉に皆は「ブラボー!」「早川少尉素晴らしい」と喝さい。少尉は恥ずかし気に椅子から立って「いやいや…とんでもない!学生時代ちょっとかじっただけの下手の横好きってやつです。お耳汚ししてしまって」と言った。ドアの前には知事の息子が立っていてこれも拍手して「ブラーボー!」と叫ぶように言っている。

そして彼は「自動車ナオリマシタ…時間かかってゴメンナサイ」と言った。彼は整備の米倉兵曹・庄司兵曹とともにもう一度外の自動車のところへ行き直した部分の説明をして整備兵曹嬢を感動させた。

一同は知事一家に丁重に礼を言い、早川少尉が「改めてお礼に参ります。知事、素晴らしいピアノをありがとうございました」というと知事は笑って

「御礼ナンカいいね、直ってヨカッタネ。そしてハヤカワサンのピアノ、素晴らしかった!マタ来てヒイテください」

と言い、皆は知事と固く握手をした。早川少尉のピアノという隠された才能は、ひそかにこの地の人々の間に流れていた「日本の搭乗員は場を盛り上げることが苦手」という風評を一掃するのに役立ったのだった。

 

〈祈りの歌〉

別の日。

新飛行場建設も緒についてきたある朝、建設現場を視察に行った基地司令一行。

しかし兵舎の建て方に一部不具合が見つかってしまった。それが現地作業員と海軍設営隊の間で悶着になり基地司令の加藤伊月大佐は収めるのに苦労する羽目に陥ってしまった。

司令に付き従う士官・下士官嬢たちも困惑してその激しいやり取りを見つめるばかりである。加藤司令があれこれ折衷案を考え出そうとしたが作業員も設営隊員もなかなか聞く耳を持ってはくれない。

このままでは無事飛行場を開くことができないのではないか…皆のあいだに不安が広がった。それでも昼食を取ろうということになり、皆押し黙ったまま車座になって昼飯を食べる。普段陽気な現地人作業員も今日は固い表情で黙々と食べ、海軍側もむっつりとしている。

食べ終わっても互いに目を交わしあうこともない。

いやな空気が流れているその時。

一人の下士官嬢―小西兵曹―がふっと歌いだした歌に、現地作業員たちは顔を上げた。そして腰を上げ、彼女の周りに座り込むと一緒にその歌を歌い始めた。

「なんだ?どうしたんだろう?」

加藤司令はこの展開に驚いて隣の中尉を見つめたが中尉も訳が分からないと言った顔である。

小西兵曹が歌ったのは讃美歌である。その歌に作業員たちは反応したのだった。そして彼らは

「ゴメンナサイ、私たち間違ってマシタ。許してクダサイ」

と言って海軍側に謝り、それに驚いた海軍側も「いや。こちらも悪かった。高圧的にものを言ってしまって申し訳ありませんでした」と謝る。

加藤司令は突然の和解に驚いて小西兵曹に

「どうしたことだろう、兵曹何か魔法を使ったのかね」

と尋ねたが小西兵曹はこともなげに

「魔法ではありませんよ。私、実はクリスチャンでして、時々ふっと賛美歌を歌うときがあるんです。今日たまたまうたった讃美歌が彼らの好きな歌だったようです。で、彼らは『この歌を歌えるなら信用に足る』と思ってくれたらしいですよ」

と言った。そうかそれは良かった、と加藤司令は言い皆を見た。今までずっと仲良くやってきたのであるから和解できないはずもなく、もう皆はにこやかに冷たい茶を飲み交わしてほほ笑みあっている。

兵舎も、もうじき出来上がるだろう。

加藤司令は爽やかな気持ちになって、現地作業員の一人が持ってきてくれた冷たい茶を飲みほした。

 

そして今日も、街中では「ハーイ、海軍サン!」「パイロットのミナサン、素敵ネエ!」と現地の人たちに声をかけられ笑顔で応える海軍搭乗員たちであったーー

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・

何かで読んだ話をモチーフにして創作しました。

国や言葉は違っても、真心があれば伝わるし喧嘩も収まる。それにちょっとした小道具があればなおさらでしょうか。

皆晴れやかにいられるのが一番ですね。


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親友 ベストフレンド

小泉兵曹は、あの事件の後艦に戻った晩、桜本兵曹・長妻兵曹・高田兵曹そして石川兵曹に集まってもらったーー

 

「呼び立ててすまんかったですが…うち」

と星明かりの最上甲板、二番主砲そばで、小泉兵曹は神妙な顔で切り出した。四人の兵曹たちはやや戸惑ったような表情で小泉兵曹を見つめた。その視線を受け止めて小泉兵曹は続けた、

「皆さんに謝りたい。ほいでオトメチャンにはうちの本当の気持ちを話したいんじゃ。皆さんにはその証人になってほしいんです」。

小泉兵曹は甲板に両手をついて平伏すると

「石川兵曹、うちは兵曹を何度もぶん殴ってしもうた。それもうちの勝手な思いからじゃ。ほんまにすまんことをしました。どうか許してつかあさい。ほいでオトメチャン、石川兵曹から聞いた思うがうちはオトメチャンのチェストをひっかきまわした…ほうじゃ、もうわかっとりんさるじゃろうがうちはオトメチャンの許嫁のことが知りたかった。ほいであがいな卑怯な真似をしたんじゃ。どうか許してほしい…。ほいで長妻兵曹、高田兵曹にはそのせいで余計な心配をさせてしもうたと後で聞きました…うち、みんなの許嫁のことを知りとうて…なんていやしい真似をしたんじゃろうと今は思うてます。本当にすみませんごめんなさい」

と言って泣き出す。

高田兵曹が腕を組んで小泉の前に足を肩幅に開いて立ち

「そんとなこといきなり信用できるかい。貴様は信用ならんけえな!貴様のどこを信用したらええんね?うちは信用せんで」

と厳しい語調で言った。小泉兵曹は平伏したまま泣いて

「ほりゃあ高田兵曹の言うことが当たり前じゃ、うちはもう誰からも信用されんでも仕方のない女じゃ。ほいでも、これがうちのほんまの気持ちですけえ、どうか聞いてつかあさい」

と言った。

石川兵曹が小さな声で「どうします?聴くだけなら聞いてやってもええん違いますか?」と言った。長妻兵曹は黙ったままであるが桜本兵曹は小泉兵曹の前に膝をついてその肩にそっと手を置くと

「うちは話を聞くけえ、泣かんと言いんさいな?」

とそっとささやくように言った。小泉兵曹は「ありがとうオトメチャン」と言い、桜本兵曹に引き起こされて座りなおすと

「うち、うちもみんなみとうに許婚とかええ人がほしかったんじゃ。でもうちは一人に絞るんはどうもできんで、見世の男を両てんびんにかけては悩んで勤務をおろそかにしてしもうた。ほいでだんだんオトメチャンが憎いいうたら厳しい言いかたじゃが、その…」

と言って言い淀んだ。桜本兵曹な静かな瞳で「なんでもええ。思うたとおりのことを言うてくれたらそれでええ。今更隠さんでほしい」と促した。小泉兵曹はためらっていたが顔を上げるとまっすぐオトメチャンを見つめ

「うちより劣った生まれのくせに、うちより幸せになるなん許せん。じゃけえ邪魔してやろうおもうたんじゃ」

と言ったあと「本当にすまん、申し訳ない」と言って再び号泣し始めた。

長妻兵曹・高田兵曹石川兵曹があっけにとられて小泉兵曹を見つめている。高田兵曹が

「貴様、ええ気になりよってからに!人がどんな生まれであっても幸せになる権利はあろうが!それを貴様が邪魔する権利なん、どこにもないで!この…大店の娘じゃ言うて、ええ気になりよってからに!」

といきり立ち、小泉兵曹につかみかかろうとしたのを長妻兵曹が後ろから抱きかかえるようにして止めた。

小泉兵曹はしゃくりあげながら

「高田兵曹の言う通りです、うちはええ気になっとりました…。でもうちが貶めていたオトメチャンがうちを早う留置所から出してやってほしいいうて上陸のたびに艦隊司令部に来ていたいうことや何より、大雨の中玄関先で泥だらけになりながら土下座して泣いているオトメチャンを見たとき、うちはなんて阿呆な人間なんじゃろうと今までしてきたこと考えたことを後悔しました…。オトメチャンはうちを本気で思うてああしてくれている。そのオトメチャンにうちはなんて仕打ちをしてきたんじゃろうと思うたらもう恥ずかしいやら悲しいやら…うちは正直死にたくなりました。じゃがうちは生きてオトメチャンに恩返しをせんといけん、そう思い返しました…」

と語った。

高田兵曹は

「貴様の思いは本物じゃ思うてええんじゃな?もし嘘偽りだったら今度こそ承知せんで!」

と怒鳴るように言った。それに小泉兵曹はうなずいて

「小山田司令と約束しました。…今度戦友を裏切って勤務怠慢なことをしたときは、内地に送還して軍法会議にかけられても一切文句は言わん、申し開きはせんと。ほいで、今回のことでうちの昇進は同期の皆よりずっと遅れることも承知しました。それはうちのせいですけえもう誰も恨んだりしません。うちは自分の生き方をも一度見直して生き直します。嘘偽りはありません、ほんまですけえどうか信じてつかあさい」

と言って頭を下げた。ひたいが甲板に着いた。

桜本兵曹は「わかったで、小泉」というともう一度小泉兵曹を抱き起すようにしてからその顔をまっすぐ見つめ

「うちはあんたを信用する。今までのことはもう水に流す。じゃけえ…」

というと小泉をかき抱いて

「どうか、どうかもうあがいな思いはさせんでね。願います」

というと声を上げて泣き出したのだった。小泉兵曹と桜本兵曹は抱き合ったままそこで泣いていた。

長妻兵曹は高田・石川の両兵曹を見返って

「改心したとみてええかな。高田兵曹、どがいです?石川兵曹は小泉兵曹を許してええんか?」

と言い高田兵曹は頬をそっと掻くと

「ああいわれたら信用せんわけにいかんじゃろ?信用したるわい。なあ小泉、これからは何があってもオトメチャンをしっかり守ってやらんといけんで?それが貴様の罪滅ぼしなけえの。ええな」

と言い、小泉が泣きながら「はい、そうします。必ず」と言ってうなずくのを見て「ほんならうち、行くわい。またな」と言って歩き去って行った。長妻兵曹と石川兵曹も「これからまたよろしゅうにな」「うちも見ずに流しますけえ、よろしく願います」と声をかけ、そして去って行った。

 

甲板には二人だけになった。

泣き止んだ二人はその場に座って夜空を見上げている。今夜は月がないので星明りがいっそう強く感じる晩である。

小泉兵曹は桜本兵曹に視線を移すと

「うちら長い付き合いなねえ」

と言ってほほ笑んだ。桜本兵曹もほほ笑み返して「ほうじゃのう。海兵団以来じゃけえ、はあ何年になろうかねえ」と言った。小泉は「二人でよう、悪いことをしたもんじゃな」と言ってくすくす笑った。桜本兵曹は

「ほうよ。覚えとる?航海学校に居ったころ、暗室での訓練の時」

というと二人は声を立てて笑った。小泉兵曹は笑いすぎて涙をこぼしながら

「暗い部屋で夜間見張の訓練じゃったねえ、皆同じところを見とるんなけえ双眼鏡は皆同じ方向むいとらんといけんいうんに、うちとオトメチャン居眠りこいてしもうて双眼鏡がそっぽ向いとって…教官に『居眠りしとるんはだれじゃ!?』言うて怒鳴られて大目玉くろうたねえ」

と言ってさらに二人は笑った。

笑い収まると小泉兵曹はまじめな顔になり

「オトメチャン、うちはオトメチャンを守るで。じゃけえ大船に乗った気で居りんさい」

といきなり言った。急になんね?と言ったオトメチャンに小泉兵曹はまじめな顔のまま

「うちはオトメチャンに対してひどい思いを持ったこともあるがそれはオトメチャンのことがうらやましい反面もあったんじゃ。うちはオトメチャンみとうに綺麗でもないし見張が上手でもない。おぼこでも無いけえの…。じゃけえ言うてはいけんことを言うて思うてオトメチャンを貶めて悦に入って居ったあほじゃ。じゃがそのアホも心を入れ替えてまともになる、じゃけえオトメチャンを困らすような人間が出たらうちが懲らしめるけえね。安心しとり」

と言った。

桜本兵曹は小泉兵曹の顔を見つめ

「―ありがとう小泉さん。うちはあんたみとうな友達を持って幸せじゃわ。うちは…もう過ぎたことはいいとうないが…今度の件で大事な友達を失うてしまうんじゃないかと悲しかった。でももうそんとな心配ものうなって、うちはうれしい。うちも小泉を守りたい。小泉を虐めるもんがおったらうちがただじゃ置かんで」

と言って、小泉兵曹は

「ほうじゃわ、オトメチャンのあの〈秘技〉をくらわされたら誰でもかなわんわい。こわ~」

と以前<エガチャン>なる男にオトメチャンが食らわせた〈電気あんま〉の話を持ち出し、二人はまた笑った。

二人の笑いは星空をどこまでも駆けあがって行った。

 

その様子を二番主砲砲塔上でそっと見守っていた棗主計大尉はふっと息をついて空を見上げると

「親友…。ベストフレンド、ですね」

と独り言ち、二人の影に微笑みかけたーー

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹の本音でした。

目覚めた小泉兵曹は大事なオトメチャンを守る、と宣言しました。危うかった二人の友情も修復されました。

この後、小泉兵曹はオトメチャンのために細やかな心配りをすることになります。そしてある人たちと…おっとこの先は内緒w。

 

次回をお楽しみに!

 

キロロ「ベストフレンド」


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各種講義開催中!

艦内では各配置の指揮官などによる「講義」が行われる場合がたびたびあるーー

 

今日は機銃の平野ヒラ女少尉の肝いりで、機銃員ー特にまだ経験の浅い兵隊嬢ーたちを集めて講義が開かれている。今日のトレーラー水島は曇りの天気なので日差しもそれほど強くないので露天甲板に集まった皆は海からの風に吹かれて気分よく平野少尉の講義を受ける。

少尉の補助に長妻兵曹と増添兵曹がしかつめらしい顔でそばに立ち、給弾箱を素早く装填して見せたり射手席・旋回手席に座って平野少尉の号令に合わせて機銃発射の様子を再現し、一等水兵嬢たちは

「下士官ともなると動きが素早いのうー。うちらまだまだじゃねえ、早うああならんといけんわい」

と言って二人の動きに見入っている。

平野少尉はそれを見て満足げにうなずいた後おもむろに機銃砲身に手をかけ、いつもの「エッチな」たとえを持ち出し、水兵嬢たちの度肝を抜く。

曰く、

「機銃も長時間発射すれば砲身が赤くなり熱を帯びて曲がってしまうことがある。そうだな?長妻兵曹、増添兵曹?」

それに二人は(ほれきたで!少尉のあのしょうもないたとえ話)と顔を見合わせてにやっとする。二人は「はい、ぐったりしてしまいます」と答える。平野少尉はうんうん、とうなずいて

「撃って撃ちまくって、撃ちおわった後はさすがの砲身もぐったりだ、これをどう考える?」

というと、ここぞとばかりに長妻・増添は声を張り上げて

「ハイーッ、〈イッちゃう〉のであります!」

と言うのである。

水兵嬢たちはどういう顔をしていいのかわからずあいまいな笑みを浮かべて「…はあ、ほうですか」というだけである。

その様子を離れた場所の機銃座から見ていた辻本上水は「まーた始まりよった、平野少尉とあの二人のしょうもないスケベえなたとえ話。まあ、機銃の連中は一階はあの話を聞かなきゃ一人前とは言えんもんなあ」と独り言ちながら砲身にブラシを入れてごしごししている。

 

また、前檣楼トップの防空指揮所では今日は気象班の数名が天辰中尉の「雲の流れの見極め方」講義を受けている。

天辰中尉は「つまりこのトレーラーにおいては特に南から天気が急変する場合が多く、南から黒雲が沸いた場合長時間大雨が降ったり雷が鳴る場合が多い。スコールの場合とは雲の形状が違うので要注意である。ではあの雲をあなたはどう見る?」などと言って長い棒で上空を指しながら話をする。

指し示された雲を双眼鏡で検分した兵曹長は

「うーん…。あの程度ですと、風の方向を含めて水島には降雨無し、だと思います」

と答え、天辰中尉は「よい答えです。あなたの予報、当たりますよ。あの雲の流れだとここには降りません、そもそも今日は安定した曇天ですから。この曇天の原因はー」とさらに話を続け、気象班の皆は指揮所をぐるぐる回って全天を観察。そのあと

「では前甲板に行って気象ゾンデを見ます、―お邪魔しました」

と言って一行は指揮所を後にしていった。

その様子を見ていた酒井水兵長は

「気象班、結構大変な配置じゃねえ。うちはぼんやりじゃけえ、務まらんわい。―いうてここもぼんやりじゃ務まらんわねえ」

とひとり呟いてくすくす笑っている。

 

そして第一主砲前では麻生分隊士と桜本兵曹、そして復帰なった小泉兵曹が各配置の見張担当を集めて講義の真っ最中である。

今回は分隊士中心の講座で、桜本と小泉は仲良くその手伝いをしている。分隊士の

「この艦影は何だ。わかるもの?」

という声に小泉兵曹は素早く一枚の厚紙を皆に提示する。そこにはある艦のシルエットが黒く浮き出ている。

ハイハイ、ハイと手がいくつも上がる中分隊士は「ではそこの彼女」と言われた水兵嬢は自信満々で

「我が帝国海軍の〈高雄〉であります」

と言って分隊士は「その通り。前檣楼部分に特徴がある」と言ってレクチャーする。ついで「これがわかるもの」と言って今度は桜本兵曹が掲げた紙に書かれたのは飛行機の機影である。これもすぐに手が上がり「アベンジャーです」「正解!」

そして「ではこれは何だ」と出されたのは何やら不思議な形の影である。数瞬皆がざわめき誰かが「うーん…あ、伊号800潜水艦でしょうか」と言ったが麻生分隊士は笑って

「残念。これは〈トレーラー水島〉の島影である。島の形を覚えておくのも見張としては大事なことであるからトレーラー環礁及び西太平洋の要所要所の島の形を印刷したものを配布する。いずれ試験を行いたいと思うからしっかり覚えておくように。しかし艦影や敵機に関してはそれぞれよくわかっているようで何より、安心した。ではこれにて散開」

と言って皆はそれぞれの場所に帰ってゆく。

その後姿を見送りながら小泉兵曹は、前とは違って何かつきものが落ちたようなさっぱりした表情で資料をかたずけながら

「思い出しますのう、昔うちらが麻生分隊士のこの講義を受けたときのこと」

と言ってオトメチャンを見て笑った。オトメチャンも「ああ、あれなあ。あんときはみんなで笑うたもんじゃ」と言って思い出し笑いをした。

麻生分隊士が「ハテ?そがいに面白いこと、あったかいな?」と首を傾げた。小泉兵曹が

「分隊士が『この艦影を解るもの!』いうて出した艦影にうちが自信満々で手ぇあげて、分隊士が『小泉上水、言うてみい』言われたんへうちが立ち上がって『こげえなもん解らんで見張り員は務まりません、答えは〈オバマ級戦艦〉であります!』いうたら分隊士真っ赤になって怒って『貴様偉そうに言うな、アホンダラ!不正解、これは帝国海軍の〈長門〉じゃ。もう一遍顔洗うて出直して来い』言われたんをうち、そのまんま受け取って『はいでは顔を洗うてきます』言うてすたすた行ってしもうて…。みんな最初はポカーンとしてそのあと大笑いでしたなあ」

と思い出話を披露し、麻生分隊士も「ああ、あの時のことか!ありゃ正直参ったで?とんでもないおなごが『大和』に乗ってきよった、思うて」と言って三人は笑った。

 

その晩、巡検後…

ひそかにとある場所―第一主砲砲塔の上―で秘密の講義が開かれようとしていた。出席者は数名、桜本兵曹に他分隊の三名の水兵長そしてなぜか航海士の樽美酒少尉である。桜本兵曹は「樽美酒少尉、この集まりはいったいなんでありましょうかのう?誰がうちらを集めたんでしょう」と少尉に尋ね、三人の水兵長たちも不安そうに少尉を見つめた。樽美酒少尉は首をかしげて

「私もよくわからないのよ、ただ『集まってほしい』って伝言が来ただけだから」

と言ってこれも不安そうに皆を見回した。曇りで月の出ない夜、なんか不気味さが増してくる。

と、誰かが砲塔の上にラッタルを使って登ってくる音がし一同緊張した。「誰じゃろう」と小さくオトメチャンが言った途端、

「皆さまお待たせしました~」

と聞き覚えのある声が。はっとしたオトメチャンが見上げたその人こそ…

棗佐和子主計特務大尉、であった。皆が一斉に立ち上がり敬礼するのへ棗大尉は満面の笑みで手にした紙の束をかかえなおし、「そんなのいいから座ってちょうだい?楽~に座ってほしいの。話の内容が内容だから正座してると疲れちゃうわよ」と言ってその場に胡坐をかいて皆も倣う。

樽美酒少尉が「これはどういう集まりでしょうか、何か…主計関係の集まりだとしたら、私たちちょっと畑違いではないかと思うのですが」というのへ棗大尉は

「あら!やーだ、主計の関係じゃないわよう、ここにお集まりの皆さまはいわゆる<おぼこちゃん>でしょう~?だから私おぼこちゃんのための性教育講座を開設いたしました!というわけで、ハイこの資料を見て頂戴」

と分厚い資料を皆に手渡し、<おぼこちゃん>たちにとってはそれはそれは恥ずかしい講座は始まったのであった。しかもこの講義、「来週も致しますからね、この資料はなくさないように。―ええか絶対出席せえや!バックレたら草の根分けても探し出すで、ええなあ!」と恫喝され、さぼることなど不可能なのであった。

桜本兵曹、(ひやあ、こがいな恥ずかしい講義うちよう受けんわ…ほいでも出席せんとなにされるかわからんけえ出るしかないなあ)と困り切っているーー

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・

よく、飛行兵たちが機影や艦影を識別する訓練をしていたという話は聞きますが、果たしてほかの部署ではどうだったか??でもこんなのがあったらと思って書いてみました。

棗大尉の性教育講座はちょっと聞いてみたいかな、ウフフ。彼女のことですから過激な内容だったかもしれませんね、オトメチャンや樽美酒少尉の恥ずかしがる顔が浮かぶようです…。


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乙女の涙 2〈解決編〉

トレーラー水島に、珍しく大雨が降り出したーー

 

雨が降り出す数分前に診療所に帰り着いた繁木航海長と杉山少佐は、迎え出た看護兵曹嬢から「おかえりなさいませ。『大和』から梨賀大佐と森上大佐がお越しです」と聞かされ、応接室に入った。

二人が入ると梨賀・森上両大佐は立ち上がって「お久しぶりです。杉山少佐、このたびまたお世話になりまして…。繁木さん元気そうで安心しましたよ」とほほ笑んで迎えた。

杉山少佐は繁木航海長をソファに座らせ自分もその横にそっと座ると

「いやいや…おめでたの方を御二方も迎えることができてうれしいですよ。産科医師冥利に尽きるというものです」

と言って嬉しそうに笑った。航海長も

「杉山少佐には大変良くしていただいて、快適に過ごしております。なんだか本当のお母さんみたいで、安心できるんです」

と言って少佐を見てほほ笑む。それは良かった、と梨賀艦長が言いそれを合図のように軍医少佐は「私はちょっと外しますがどうぞごゆっくりなさってください。…ああ、大事なことが後になってしまいましたが繁木大尉は妊娠の経過は至極順調です。悪阻も中程度の強さで日によっては強弱ありますが、比較的安定しています。食事はあまりとれないようですが健康状態は良好です。今は好きなものを召し上がっていいですよ、食べられないことを気に病まないようにして気を楽に。そして…内地への帰還の時期ですが、今月中にはお帰りになれると思います」と説明した。そして少佐は部屋を出て行き入れ替わりに二人の看護兵曹嬢が紅茶と菓子を持って入ってきた。

三人は礼を言って受け取ると香りのよい紅茶と西洋菓子をいただいた。航海長も「今日は気分が良いです」と言って嬉しそうである。

窓の外が暗くなり、大粒の雨がガラス窓をたたき始めた。

ふと繁木航海長が艦長と参謀長の顔を等分に見て

「そ言えば艦長。私先ほど散歩の途中オトメチャンを艦隊司令部のところで見たんですが…どうして彼女があんな場所にいるんでしょうか」

と言った。艦長は噂話として<桜本兵曹は、小泉兵曹の釈放を願いに上陸のたびに司令部に行っているらしい>という話を耳にしていた。

が、その話を今繁木大尉にすべきではない。

梨賀艦長は「まさか、なんでオトメチャンが司令部に行くんです?それはね繁木さん、見間違いってやつですよ」とこともなげに笑って言ってのけた。森上参謀長も「そうだね、彼女が司令部に行く理由がないよ」といい、航海長も

「そうですよね、私の見間違いですね。ちらっと眼にしただけだから似てる人をオトメチャンと思っちゃったんでしょうね、やだわ私ったら、こんなおっちょこちょいなら赤ちゃんもおっちょこちょいになっちゃうかもしれませんね」

と言って笑った。

 

外は雨が激しい。

普段のスコールとは違う降り方である。『大和』の天辰中尉は「低気圧ですね。珍しいですがたまにこういうことがあるんですね。いつまで降るかって?そうですねえこの分だとあと三時間は降るかもしれませんよ」と言って将兵嬢たちは「やった!浴びるぞ」と言って裸で露天甲板に飛び出して行く。

将兵嬢たちは滝のような雨を浴びながら「ああ、ええわあ…。なんて気持ちええんじゃろう」と恍惚の表情を浮かべている。中にはオスタップを持ち出してきて雨水をためる兵隊嬢の姿もちらほら。

 

その同時刻。

桜本兵曹は艦隊司令部の玄関前の地面に両手をついてこうべを垂れ、激しい雨に打たれていた。雨は彼女の全身を容赦なく濡らし叩く。雨で跳ねた土が彼女の軍装を汚していく。オトメチャンの涙は、雨に流される。

衛兵嬢は困ってしまって自分も雨に濡れながら桜本兵曹の傍らに膝をついて

「あなた。どうやっても無駄です。司令にはお会いできませんし小泉兵曹にも会わせることはできません。こんなことをしていたら風邪をひいてしまいますよ、さあ早くお帰りなさい?」

と言ってその肩をゆすった。

が、桜本兵曹は

「どうか、どうか小泉に会わせてつかあさいー!」

と下を向いたまま泣いて叫ぶだけである。衛兵嬢はなすすべなく、玄関内に引っ込むと同僚の兵曹嬢に

「気の毒な…。ああして上陸した日には必ず来て『小泉を出してやってくれ』『わるいにんげんではないから』って土下座して頼むんだよ。なんだか気の毒で見てられないわ」

と言って悲痛な表情で外を見つめた。その服の裾からは雨水がぼたぼたと滴り落ちている。

そこに

「どうしたね、何かあったのか」

と小山田司令がやってきて、衛兵の兵曹嬢は訳を話した。すると司令は「ああ、あの子か!」と声を上げ衛兵嬢は「ご存じだったのですか司令」とびっくりしたように言った。うなずいた司令は、桜本兵曹がこの二週間ほどたびたび姿を見せて、衛兵嬢に帰るように言われるとしばしのあいだ悄然としてその場に立ち尽くしていたその姿を見ていたのだった。

そして今日…

司令はうんうんとうなずくとふいに踵を返してもと来た廊下を歩いて行った。そして小泉兵曹の入っている部屋の鍵を、見張の兵隊嬢に開けさせた。

「小泉兵曹、ちょっと来なさい」

司令にじかに声をかけられ、小泉兵曹は全身に警戒感を漂わした。見張当番の兵嬢が小泉兵曹の腰に素早くなわをくくった。縄の端を当番兵嬢が持ち、引きずられるように小泉は司令の後をついてゆく。

夕方のように暗くなった廊下、窓をたたく激しい雨に小泉兵曹は(えらい雨じゃな…ほうじゃ、この大雨なら水浴びを皆してしとるころじゃろうな)と思った。

そしてその脳裏によみがえったのは、『大和』に初乗務して初めてトレーラーに来たときの「スコール浴び方用意」で当時まだ上等水兵だった桜本と大はしゃぎして石鹸まみれになった思い出。

「…オトメチャン…」

小泉の唇がかすかに動いた。やがて司令は玄関先を見通せる窓の前に小泉を立たせた。そして

「見てごらん」

と外を指さした。激しい雨の中に、誰かがうつ伏しているように見え小泉兵曹は窓に顔を張り付けるようにしてそれに見入った。

はっ、と息をのむ音がして次の瞬間小泉兵曹は

「お、オトメチャン…!」

と小さく叫んでいた。そして両手を窓ガラスに当ててどんどんと叩いたがその手を小山田司令はそっとつかんで止めさせた。司令は雨の流れるガラス窓の外を見つめたまま

「あの兵曹は小泉兵曹がここに来てから上陸のたびにああして玄関の前で『小泉兵曹を出してやってください』『小泉兵曹は悪い人間ではない、どうか出してやってください』と懇願していたんだよ。私に会わせてほしい、小泉兵曹にひとめでいい合わせてほしいと言ってね。貴重な上陸の時間を割いてだ。そして今日もこの雨の中ああして雨に打たれている。――どうだね、小泉君。あなたのことを想って雨に打たれ泣いている人のことを想ったら、もういい加減なことをしていいとは思わないでしょう?どうか、改心してきちんと軍務に励んでほしいと思うんだが…」

とつぶやくように言った。小泉兵曹は雨水の流れるガラス窓にすがると「オトメチャン…オトメチャン…うちがあほじゃった…オトメチャン」とうめくように言って、絞り出すような声で泣き始めた。司令は、床に頽れて泣く小泉兵曹の肩に手を置くと

「いい友達がいるのに、もったいないよ。大事にしなさい。あの子の思いにきちんと応えなさい。今までのこときちんと反省し、元に戻りなさい。いいね?」

と優しく諭した。小泉兵曹は泣きながら「はい、わかりました。うち、まちごうてました。自分の思い通りに人生行かんからって、上手いこといっとる桜本をねたんだりして、ほいでひねくれて軍務をおろそかにしたりして…。その上うちは、口先だけうまいこと言うたらみんなが騙されてうちを解放してくれる思うて…うちは本当に悪党です。ほいでもうち本当に反省しました。本当に…艦のみんなにすまん事をしてしまいました…」と司令の足にすがるようにして言った。

小山田司令は厳しい顔を作って小泉兵曹の前にしゃがみその肩をしっかりつかむと

「信じていいのだな?もしまた同じことをしたときは…わかっておろうね」

といい、小泉兵曹は「もう決して致しません」と宣言した。

その外では、まだ桜本兵曹が涙にくれながら土下座を続けているーー

 

それから数日ののち、『大和』艦長宛てにトレーラー艦隊司令小山田イツ少将から小泉兵曹を釈放するという旨の知らせが届いた。艦長は急いで上陸し小山田司令と逢った。

司令は、小泉兵曹が本心から今回のことを悔やんで改心したことを報告し「今後同様の事件を起こしたときは軍法会議に掛けられても不服を言わない」旨を誓約したと言った。

そして

「小泉兵曹を改心させたのは桜本という兵曹のおかげですな。桜本兵曹は上陸のたびここで小泉を許してほしいと地面に顔をこすりつけんばかりにしていましたからね。あの大雨の日、泥に汚れながら土下座している桜本兵曹を見てさすがの小泉兵曹も心を動かされたのですね。あれを見聞きして改心しなかったらそれは本当の〈悪党〉ですよ」

と小泉兵曹の言葉をちょっとだけ借りて言い、梨賀艦長は「やはり…あの噂は本当だったのですね」とうなずいた。

 

さらにその三日後、小泉兵曹は司令部の一室から解放されて『大和』に帰艦してきた。

最上甲板で出迎えたのは桜本兵曹他の配置のものたちで、桜本兵曹は周囲の目も気にしないで「小泉兵曹!」と叫んで抱きついてきた。小泉兵曹もオトメチャンを抱きしめ、

「すまんかった、本当にすまんことをした…ごめんなあオトメチャン、うちはオトメチャンにえらい心労をかけてしもうた…。ほいでほかのみんなはうちを許してくれるじゃろうか」

と言って泣いた。

オトメチャンも泣きながら

「もうええ、もうええんよ。みんなも小泉の帰りを待っとってなけえ、誰ももう怒っとらんで?じゃけえまた仲ようやろうな…小泉」

と言って二人は涙にぬれた顔を見合わせてほほ笑みあった。それを見ていた分隊長、分隊士ほかの瞳もいつしか濡れていた。

 

乙女たちの涙は、くすんだ心の埃をすっかり洗い流してすがすがしいトレーラーの海と空の色を映し出していた――

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうなることかと思った小泉兵曹の事件も、オトメチャンの行動で無事終息しました。この上はもう、決しておかしなことをしないで仲良くやってほしいものです。

さて次回は??
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乙女の涙 1

小泉兵曹は今も艦隊司令部の建物の中に<監禁>されているーー

 

兵曹は鉄格子の中からトレーラーの青空を見上げてはため息をついていた。もう今日でいったい何日ここにいるのだろうか、数えてみるともう二週間ほどになるだろうか。

先週の司令との面談では「兵曹はまだ恨み言を言っているらしいな。それに我々を舐め切ったようなことも言っていたそうではないか。その心根を直さない限り艦には戻れない、ここからは出られない。あるいは内地に送還して除隊という処分になるぞ」と言われて驚愕した兵曹であった。

兵曹の、独り言は司令部の見張当番に聞かれていて、当番の兵曹はその発言を危険なものとみなして司令に報告したのだった。

(すべて筒抜けだったか…)

小泉兵曹は自分の間抜けさに嫌気がさしてきた。そして(あんなこと言うんじゃなかった、きっと司令たちはうちの心の中まで見通してるに違いない…、うちはもう参った。本当に反省するけえもうここから出たい)と本気で思うに至った。食事は艦にいた時とは比較にならないほど粗末だし、風呂にもまだ二回しか入っていない。布団も薄くてなんだか痒い。もう本当にここは御免だ。

小泉兵曹は部屋の鉄製のドアの鉄格子にすがると

「出してつかあさい!うち、うち本当に反省しましたけえお願いです、出してつかあさいー」

見張の兵曹はドアにはめ込まれた鉄格子のあいだから顔を見せると小泉をにらみつけて

「貴様、そんなことばっかり言って何度も同じこと繰り返してきたらしいじゃないか。そんなやつの言うことどうして信用できる?ふざけるのもいい加減にしろ、貴様はな、もう海軍にいられない人間なんだ。覚悟しておけ、そのうち内地送還だ」

と吐き捨てるとドアを蹴飛ばして去って行ってしまった。小泉兵曹は「そんな、そんな!お願いです、うち本当に心を入れ替えましたけえ、お願いです、どうか願います」と泣きながら叫んでいた…

同じころ、司令部の玄関では衛兵嬢が困り顔で一人の訪問者と向き合っていた。衛兵は「そういわれても…出来ないのです。司令の許可がいるのです。何度来られても同じです」と言って、訪問者は肩を落として帰って行ったのだった。

 

その訪問者は桜本トメ一等兵曹で、彼女は旧知の仲の小泉兵曹が艦を下ろされた後彼女の身柄がトレーラー艦隊司令部に預けられているのを知った。そしてその待遇を佐奈田少佐から聞いて衝撃を受けたのだった。

「そんな、そがあな目ぇに小泉はおうとるんですか…そんな、まさか」

オトメチャンは呆然として突っ立ったままだったが佐奈田航海長はその肩をやさしく叩くと「仕方がないんだよ、あなたにも分かるでしょう?小泉兵曹は秩序を乱した、だから艦隊司令部預かりとなったんだ。この後も改心がなければ内地に送還されるかもしれない。あとは…彼女次第だね」と言ったのだった。

それを聞いた後からオトメチャンは上陸のたびに艦隊司令部を尋ね、門の前にたつ衛兵嬢に「小泉兵曹がここに居ると伺いました、どうか会わせてつかあさい。小泉はそげえな悪い人間と違います、きっと何かの間違いです、はように出してやってつかあさい」と頼んでいたのだった。

が、艦隊司令の許しもなく建物に入れることもできず衛兵嬢はオトメチャンを門前払いするしか方法がなかった。

「申し訳ない、本当に申し訳ないが入れるわけにはいかないのです…。どうかわかってください。小泉兵曹の件は今はまだお話するわけにいきませんので。ごめんなさい」

衛兵嬢はそう、すまなそうに言って、背中を向けて悄然と去ってゆくオトメチャンに向かいそっと敬礼した。

衛兵嬢は(あの小泉とかいう兵曹、こんなに思ってくれる友達がいるというのになんてやつなんだろう。男にうつつを抜かして軍務をなおざりにして、恥ずかしいと思わないのだろうか。あの綺麗な兵曹が気の毒だ)と思って去ってゆくオトメチャンの背中を見つめていた。

 

上陸のたびに尋ねてくる桜本兵曹の話は、やがて司令の知るところとなった。トレーラー艦隊司令の小山田イツ少将は副官の本川知美大佐を呼んで

「『大和』の下士官が、たびたびここを訪ねてくるようだが?」

と言った。本川副官ははい、とうなずいてから

「小泉兵曹が収監されてからまもなくです。どうも上陸のたびにここにきているようです。なんでも小泉兵曹とは海兵団の同期だとか」

と言った。

ほう、上陸のたびに?と副官を見つめた小山田司令に、本川副官は

「そうです。そして衛兵に『小泉兵曹に合わせてほしい、あいつはそんな悪い人間じゃない、早く出してやってほしい』と懇願するんだそうです」

と言ってかすかにうつむいた。そして

「そんな風に思ってくれる人間がいるのに、あいつはどうしてああなんでしょうね。本当に反省してるとは私には思えないんですが」

と衛兵嬢と同じ感想を言ってため息をついた。

小山田司令は

「全くだね。…しかしこのところ小泉兵曹の態度が少し変わってきたと当番の下士官が言っていたね」

と副官を見ると副官はうなずいて

「はい、ずいぶん泣いて『申し訳ない、申し訳ない』と言っているようですが…しかし!信用してはなりません。『大和』副長の話によればもう先からそんなことを言っては覆されているようですから」

と最後は厳しく言った。

小山田司令もうなずきながら

「そうか…。ここを出たい一心で、嘘偽りを言うということも考えられるからね。もうしばらく様子を見てみないと判断尽きかねる。しかし、厄介なものもいればいたものだ。『大和』艦長もさぞお困りだろう」

といい、二人はそれきり沈黙してしまった。

 

それから数日後、佐奈田少佐に新しい辞令が発せられた。それは

「佐奈田ヨウ海軍少佐 ○月×日付にて『大和』乗務を任ズ」。

これまでは繁木航海長の代理として乗務で、当座の航海長であったがこれで正式に『大和の航海長』として仲間に加わることとなった。

松岡中尉がこの話を航海科の皆に伝え、皆は「えかったねえ、佐奈田航海長!せっかく仲ようなったんじゃけえ、居ていただきたいわい。これで繁木航海長もご安心じゃろうね」と喜び合った。

その繁木航海長は、身重となり悪阻の体をトレーラー海軍診療所の一室で休めている。

繁木航海長は、気分の比較的良い日には杉山産科少佐とともに診療所やその周辺を軽く散歩することもあった。

杉山少佐は

「山中中佐は本当にひどい悪阻でしたからこうして散歩もできませんでしたが、繁木大尉は中佐よりはやや軽いとお見受けしました。…つらくなったら帰りますから、遠慮なく言ってくださいね」

と言い微笑んだ。

繁木航海長よりじっと年上の杉山少佐を(お母さんみたいだ)とうれしく感じた繁木航海長は

「ありがとうございます、今日はとても気分が良いんです。もう悪阻は終わったんじゃないかと思うほどです」

と言ってほほ笑み返した。

杉山少佐は「たとえ明日、またきつくなっても心の中では楽しいことを考えていてくださいね、そうしたらつらさの半分になりましょうから」と言って航海長の背にやさしく手を当てた。

二人はもう少し歩いて、トレーラ艦隊司令部の前まで来ていた。

司令部を右手に見ながらその前を通り過ぎようとしていた繁木航海長はふと、立ち止まった。

どうしました繁木大尉、と問う杉山少佐に

「いえ…。なんでもありません」

とほほ笑む繁木航海長。その航海長に杉山少佐は「そろそろ戻りましょうか、なんだか雲行きが怪しくなってきましたよ。降られると体を冷やしますから、戻りましょう」と言って空を指した。

南の空に黒い雲がわいて徐々に広がりつつある。

繁木航海長は「どっと来そうですね。では戻りましょう」と言って、二人は踵を返したが繁木航海長は

(あれは…オトメチャンではなかったのか知ら?なんで艦隊司令部に彼女が?

と不審に思っているーー

 (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹その後です。

本当に改心したのか?と疑念を持たれている小泉兵曹、ちょっとかわいそうな気もしますが彼女の身から出た錆でしょう。

そして佐奈田少佐は正式に『大和』乗務になりこれで安心のみんなです。

そして身重の繁木航海長、オトメチャンを見た…??


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