2016-09

青空 3 - 2016.09.30 Fri

「実はね軍医長、山口さんはーー」と梨賀艦長は話し始めたーー

 

うなだれた山口通信長をやさしい瞳で見つめながら梨賀艦長は言った、

「広島のお姑様が今月初めに亡くなられたのだそうだ。数日前ご主人から手紙が来て知ったんだそうだ」。

日野原軍医長ははっとして山口通信長を見た。通信長は山口家に後妻として嫁入ったが、姑との折り合いは非常に悪くいつも上陸して帰るたびに虐められて泣いて帰還してくることたびたびだった。ただ救いは夫と先妻の残した男の子であった。夫という人はとても通信長を喜んで迎えてくれ何かにつけ「博さん博さん」と大事にしてくれたし息子も「おかあさん。おかあさん」と大変なついてくれまるで実の親子もさもありなんというほどである。通信長は家族に精一杯の愛情を注ぎ、亡き先妻の仏前にも朝夕の拝礼をかかさない。困ったことがあれば仏壇の前で時を忘れるほどに先妻の写真に語りかけていた。

そんな夫婦、親子の仲の良さが姑にはさらに気に入らなかったのか通信長が帰宅するたびにひどい嫌味を言ったりすれ違いざまに蹴とばすなどのいじめをしていた。

(山口さん、何度泣いたことだろう)

日野原軍医長は正直なところ、(これで通信長の気も晴れるのではないか)と思ってしまった。そう思ってしまうほど、嫁と姑の中は最悪だったからだ。

「通信長…」

軍医長は声をかけると通信長は顔を上げた。そして涙をハラハラとこぼすと

「私…私はなんて悪い嫁だったんだろうと思うと…姑にも夫にも悪うて悪うて、申し訳のうてならんのです」

と言った。軍医長は「あなたが悪い嫁だって?どうしてです、そんなことはないでしょうに」というと通信長は

「私、夫からの手紙を読んで姑が亡くなった、と読んだとき正直なことを言うたらほっとしてしもうたんです。もうあの家に帰ってももういじめられんですむ、思うて…」

と言ってから身を絞るようにして泣いた。涙がぼたぼたと半袴の腿のあたりに落ちて色を変えた。軍医長は通信長の前にしゃがむようにすると

「そんなの、誰も責められないでしょう。事実あなたはお姑さんという人にずいぶん虐められてつらい思いをしてきたのですからそう思ったとしても誰もあなたを責めることなどできませんよ?そう思ったとしても…私は当たり前と思いますが?」

と言って通信長の両手をつかんだ。

すると通信長は激しく頭を振り、

「姑は…その死に際に言うたんだそうです…」

と絞り出すような声で言った。

 

――通信長の夫の手紙によると、姑は先々月の末に胸の痛みを訴えて倒れた。通信長の夫の忠彦は開業医である、すぐに診るとどうも心臓の発作のようでたちの良くないものであると彼は見た。大きな病院に入れようとしたが姑は「どこへも行かん、行きとうない。うちはここで死にたい」と言ってきかなかったという。孫の捷彦は、「おばあちゃんはお母さんをいつも悪う言うて意地悪しとってなけえ、罰が当たったんじゃ。ええ気味じゃ」と言ってそっぽを向いてしまった。忠彦が「それはお父さんにもようわかる、がなあ、捷彦がそんとなことを言うたと知ったらお母さんは悲しむで?そんとなこと、もう言うたらいけんで」とそっとたしなめた。捷彦は唇をかんだ、今まで、自分が物心ついたときから慈しんでくれている山口博子という「母」が、意地悪な祖母に虐めぬかれている事実に彼は本当に心痛め、そして祖母を憎んでさえいた。が、考えてみると母は、どんなにひどい目にあわされても決して反論も口ごたえもせず黙って下を向いていた。勝彦が「おかあさん、何か言うてやったらええのに。俺はあがいなおばあさんは嫌いじゃ」というと通信長は「そんとなこと言うたらいけんよ?おばあさまは私ができの悪い嫁じゃけえああしていろいろ教えてくれとりんさるんよ。ほりゃあ、言葉はきついがの。ほいでも私はいろいろ勉強させてもろうとると思ってますよ。じゃけえカッちゃん、おばあさんのことを嫌うたりしてはいけんよね」と優しくいさめたということがあった。

姑は先月の初め、再度大きな発作を起こして忠彦は「もういけんな…覚悟せんといけんで、捷彦」と言ってその日の昼頃老いた母が休む部屋に尋ねてゆくと、彼女は息も苦しそうにしている。自分の診療所には大した薬もないので苦痛を長引かせるのもかわいそうに思い「おかあさん、県病院に行こうや。私の知り合いがおってなけえ心配せんと行ったらええ。そのほうが早う治るで」と言ったが彼女は首をかすかに横に振った。

そして布団の横に並んだ息子と孫を見つめるとその瞳に涙をあふれさせた。

掛け布団の中から母は、やせ細った手をそっと伸ばしてきたので忠彦はそれをそっと握った。

「なに?お父さんおばあちゃんがなんぞ言うとる」

捷彦が言って「なんね、おばあちゃん」と耳を寄せると、流れる涙もそのままに彼女は

「ひろさんに、言うとくれ」

と言った。捷彦が表情を硬くして「お母さんになにを言いたいんじゃね」と言うのへ、

「すまんかった、すまんことをしたと、謝ってほしいんよ」

と捷彦の祖母は言った。えっ、と勝彦は祖母の顔を改めて見つめた。祖母は、目を閉じてふうっと息を吐いてから再び目を開けると孫と息子を見つめて

「ひろさんがここに嫁に来てからずっと、うちはひろさんを虐めてきた。言ってはいけんこともずいぶん言うてしもうた」

と言って息を吸った。忠彦と捷彦はただ、彼女を見つめるだけである。忠彦を見上げて母親は

「こないだな、美与がうちの夢枕に立ったんじゃ」

と言った。美与とは忠彦の亡くなった先妻であり捷彦の産みの母親である。美与が?と言う忠彦に母親はうんとうなずいてから「美与がなあ、言うんよ。おかあさんどうして博子さんをあがいに虐めるんですか、言うてねえ。ほりゃあ怖い顔をしてうちを叱るんじゃ。博子さんは国のために戦うてその上うちの残した子供を大事に育ててくれんさる、その上旦那様とも仲ようしてくれてうちはほんとにうれしい。じゃが、お母さんがひろさんを虐めるけえうちは心やすらかになれんのよ、言うてねえ…。えらい叱られてしもうた」と言った。

「母さん」と忠彦が言って絶句した。母親は少しつらそうな表情になって目を閉じたがすぐに目を開くと

「うちは美与に言われるまで自分のしたことがわからんかった。ひろさんがどんなにつらい思いをしとったかを解ろうとせんかった。ひろさんはうちを恨んどろうなあ…じゃけえうちは地獄に落ちる。それは仕方のないことじゃ思うよ。ひろさんを虐めてきた罰じゃ。ほいじゃけえ罪滅ぼしいうたら変かも知らんがうちは死んだらひろさんを守ってやろう思うんじゃ。どがいな敵が来ても、大きな嵐が来てもひろさんと、ひろさんの乗った海軍のフネを守って無事に内地に帰ってきてもらうんじゃ。それが、うちの罪滅ぼしじゃ」

母親はとぎれとぎれではあったがそういうと苦しそうにうなって目を閉じた。忠彦は母親の手をしっかり握った。捷彦は呆然と祖母の顔を見つめたままである。

その晩、とうとう姑は息を引き取るのだがその直前彼女は「ひろさん、ひろさんよー」と通信長を呼ぶと微笑みを浮かべてふーっと息をついた。それが通信長の姑のさいごであったーー

 

「おかあさんはうちに『すまんことした』言うてくれたのに、うちはおかあさんが亡くなったいうんを聞いて一瞬ほっとしてしもうた。うちは悪い嫁なんじゃ。地獄に落ちるんはうちのほうじゃ!」

通信長はそう叫んで号泣した。おかあさんすみませんごめんなさい、と言って泣きながら身もだえた。艦長、副長が痛ましげに見つめる中、軍医長が通信長の両肩をしっかりつかんだ。そして

「もう泣きなさんな…よかったね、お姑さんはあなたに今までしてきた仕打ちを心から悔いて亡くなったのですよ。自分を悪い嫁だの地獄に落ちるのだの言ったらお姑さんが悲しみますよ?あなたは十分、お姑さんに仕えつくしてきたのです、それがわかったからこそすまないことをしたと謝ってくれたんです。あなたはあなたを誇ってくださいね。

――先妻の美与さんも見てらしたんですねえ、だからお姑さんの夢枕に立っていさめてくださったんでしょう。山口さん、あなたの人徳ですよ。亡き人からそこまでかばってもらえるなんて稀有な存在ですよ。

…これからはお姑さん、そして先妻の美与さんのご供養をしっかりして山口の家をますます盛り立てていきなさい。それが、お姑さんと美与さんの思いにこたえる唯一の道です」

そういって諭すと、次の瞬間通信長を思い切り抱きしめた。抱きしめられて通信長はもう一度、軍医長の胸にすがって大泣きしたのだった。

その通信長の脳裏に浮かんできたのはなぜか、広島のあの自宅の上に広がる、雲一つない青空であったーー。

 

「通信長の様子がおかしかったのはそういうわけだったのですね」

通信長の部屋から出て、日野原軍医長は梨賀艦長と佐藤副長にそう言った。軍医長は「嫁と姑…むつかしいものですがでも、本意が通信長に伝わって本当に良かった」とほっとした表情になったがはっと我に返ると

「忘れていました艦長!繁木航海長、ご懐妊です」

と告げて、艦長は「なんと!今度か繁木さんが。そうかそうか…しかしそうなると訓練には連れて行けないんじゃないかね?具合はどうなのでしょう?」と喜んだり心配したり。

軍医長は

「繁木さんも悪阻が強そうです。彼女少し前から気分が悪かったはずですね。でも我慢してきたんでしょうね、それが今日一気に出たという感じです。訓練は無理だと思います。彼女も早期に内地に返すようになりそうですよ」

と言って副長は「となると…訓練中はだれか航海長の代理を立てないと」と言って考え込み「なんだか航海科は良きにつけ悪しきにつけ配置変更が多くなりそうですね」と言った。

艦長が「航海科に何かほかに問題が?」と尋ね、副長は「申し訳ありません、言いそびれてしまって」と小泉兵曹の一件を話し

「小泉兵曹は班長の任を一時解きます。職務怠慢な班長を置くわけにいきませんから」

といい艦長は「小泉兵曹が…。そうかわかった、小泉兵曹に関する件はあなたと松岡中尉・麻生中尉に任せる」と言って「では明日も早いからこれで」と三人はそれぞれの部屋に分かれて行ったのだった。

そして翌日、小泉兵曹は麻生分隊士に呼ばれて出頭したのだがそこで彼女にとっては衝撃的な話を聞かされた。

「小泉兵曹、今日から貴様の右舷の班長の任を解く。貴様は指揮所後部に移れ。これは分隊長命令である」

小泉兵曹の頭に、まるで何かで殴られたような激しい衝撃が走った。

「なんで、うちが…」

呆然と立ち尽くす小泉兵曹の肩をそっと叩いて麻生分隊士がその場を去ったのもわからないほどにその衝撃はすさまじかったーー

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

山口通信長の姑が亡くなりました。さんざ、通信長を虐めた姑でしたがその死に際し、改心したようです。どうして気が付くのがこんなに遅くなって…と思いますが人というものは案外そんなものかもしれません。でも通信長の頭上を覆っていた暗雲は綺麗に晴れ、青空が広がり始めました。

繁木航海長も実は念願のご懐妊。しかし航海長不在になるのか?

小泉兵曹は配置換えを告げられこの後どうなるのでしょう、ご期待ください。

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青空 2 - 2016.09.28 Wed

オトメチャンは、その様子を信じられないものを見る思いで見つめていた――

 

酒井上水が分隊長と分隊士を呼びに走って行って間もなく、オトメチャンは繁木航海長が胡坐のまま壁にもたれてうたたねをしているのを見た。普段、繁木航海長はそんなことをする人ではなかったのでオトメチャンはとても驚いた。そして傍らの石川兵曹をそっとつついて

「なあ。繁木航海長が居眠りをしとりんさる。こげえなこといままでなかったよね?」

とささやいた。石川兵曹も小声で「はい…。きっと航海長お疲れなんじゃ思います。いろいろ問題が起きますけえ、ほっとする間もないんでしょう」と答えた。

そうかそういうこともあるなあとオトメチャンが思った時廊下をかけてくる足音がして松岡分隊長、麻生分隊士が駆け込んできた。その騒々しい足音に繁木航海長は目を覚ましたか、ぼんやりとした視線を上げて駆け込んできた二人を見た。

そしてはっと目を見開くと

「ああ、二人とも。ご苦労です、いや実はね」

と立ち上がって事の顛末を話し出した。

麻生分隊士が「またか。小泉兵曹は何を考えとってんかね」と苦虫をかみつぶしたような顔になり、松岡分隊長も

「小泉さんは最近勤務も怠慢だと聞いてますよ。そんなことでこの訓練がうまくいくか心配ですよ私は。熱くなってないな…そうだ、この訓練中小泉さんを配置から外しましょうよ」

と唐突に提案をしてきた。

繁木航海長が「配置換えねえ…松岡中尉そうは言うがいったいどこに替えるつもり?」と尋ねたのへ松岡中尉は

「そうですね、指揮所の後部で見張ってもらいましょう。で、その間の班長は石場兵曹長に代わってもらいましょう。石場ちゃんの配置には谷垣さんが行ってちょうだい。面倒かけますがこういう事態なもんでまあよろしくね」

とサラッと答えてしまった。

繁木航海長は「まあ致し方ない。のちほど副長にお話しておきます…」と言って部屋を出ようとしたとき廊下から別の居住区から何やら食べ物のにおいが漂ってきた。

と、

「ぐふっ…。をええええ!」

と繁木航海長がいきなりおう吐し始めた。驚いたのはその場の皆で松岡分隊長に麻生分隊士、それに桜本兵曹たちが駆け寄って

「しっかりしてください!」「航海長!」「誰か、早う日野原軍医長を呼ばんか」

と騒ぎになった。松岡分隊長と麻生分隊士は航海長の両方の肩をそれぞれ担いで

「医務科に行ってくる!」

と言って、真っ青な顔いろになってぐったりしている繁木航海長を日野原軍医長のもとへ連れて行ったのだった。

 

そんな騒ぎが起きているころ、梨賀艦長は自室で佐藤副長と向き合っていた。

「--というわけで山口通信長の様子がどうもおかしい。佐藤さん何か聞いていないかな?」

梨賀艦長は心配そうに副長に言った。副長は防暑服の腕を組みながら

「山口通信長が…。いや、私は何も聞いていませんがそんなに様子がおかしいなら訓練の前に本人を呼んでわけを尋ねたほうがいいですね。訓練に差し障りがあるといけませんものね。通信長も内心つらいのではないでしょうか、ここは艦長が直々に聞いてあげるのが良策でしょう」

と言って、梨賀艦長はうなずいた。そして

「訓練にも、実戦にも大事な通信のトップに何かあってはいけないからね。悩みがあるなら早いうちに改称してあげないといけない…では善は急げというから私は早速山口さんのところに行ってくるよ」

と言って立ち上がり副長に見送られて廊下を小走りに行った。

 

佐藤副長は艦長室を出ると、巡検は終わったが艦内をもう一通り見て回ろうと歩き出した。

就寝時間にかかっていたのでだいぶ艦内は静かになってきて、時折行き交う将兵嬢たちは当直に向かうところだったり私用を足すものであったりした。

そんな中、向こうから息せき切って走ってきたのが航海科の石場兵曹長で、佐藤副長を見るなり

「ふくちょうーーー!!」

と大声を出し、副長につかみかかってきた。佐藤副長は驚いてウオッ!と叫んで避けようとしたが石場兵曹長に捕まった。

石場兵曹長は普段は重々しく見える通称・暗黒のひとえまぶたを今夜は大きく見開いて

「大変なことが二つ起きました!まずは医務科に来てつかあさい!」

と怒鳴るように言うと、なにがなんだかわからないといった態の佐藤副長の片手をぐっとつかんで引っ張りながら廊下を走った。

その道々副長は

「ねえ一体何があったの?教えてよ、ねえなにがあったの?」

と尋ねたが石場兵曹長は前を見据えて走るだけ。

やがて二人は医務科の診察室に飛び込んだ。日野原軍医長が「ああ、副長!お待ちしていました」と言って副長を部屋の奥の診察台にいざなった。診察台の横に松岡分隊長と麻生分隊士が立っている。

台の上に繁木航海長が真っ青な顔で横たわっていてその様子に佐藤副長は

「繁木さん!いったいどうしたんです、彼女とても顔色が悪いですよ、何か悪い病気では?」

と言いかけて涙ぐんでしまった。

すると日野原軍医長の顔がほころんで

「ご心配なく。繁木航海長ご懐妊です。つわりですよ。どうも最近繁木さんはうとうとして変だと聞いていましてね、もしかしたらと思っていたところですよ」

といい佐藤副長は

「へ!?ご、ゴカイニン…ゴカイニンって、あの、おめでたのほうの〈ご懐妊〉てことですか?」

といい、次の瞬間「ああ…よかった。よかったねえ繁木さん」というと泣き出していた。佐藤副長、感激家のようである。

すると、診察台に寝ていた繁木航海長が上半身を起こした。麻生分隊士が「航海長、横になっていてつかあさい」と言いながらもその体を支えてやった。繁木航海長は真っ青な顔いろのままで

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、副長、軍医長…。大事な訓練前にこんなことになり申し訳もございません」

と謝った。副長が軍医長の顔をそっと見ると軍医長はうなずいて

「航海長おめでとうございます。三月目ですね。これまでつらかったことでしょう、でもこれで原因がはっきりしましたからもう大丈夫。山中中佐に続いてのおめでたですね、ご出産は来年の秋前になりましょうね。この件早速艦長にご報告します」

と言って祝福した。佐藤副長、松岡分隊長に麻生分隊士も「おめでとうございます!」と祝福。繁木航海長はしかし、

「大事な訓練前にこんなことになって…本当に申し訳ない!」

と言って泣き出した。日野原軍医長は笑って彼女の背中をやさしくなでると

「訓練前にわかってよかったじゃないですか、さあこれからのことを考えないといけませんから私は艦長に報告してきます。航海長には今夜は入室していただきます。とりあえず今夜はゆっくり眠ってください」

と言って看護兵曹を一人呼ぶと、航海長を病室に連れて行った。

副長がはたと思いついたように松岡分隊長を見ると

「そうだわたし、石場兵曹長に『大変なことが二つ起きた』と言われてここに連れてこられたんだが、一つは繁木さんのこと。で、もう一つは?」

と言って、松岡分隊長は小泉兵曹の件を話し

「あれは困ったものです。ですから訓練中は班長の任を解いて配置も変えます。班長の任は石場兵曹長に、石場兵曹長の配置には谷垣兵曹を置きたいと思うのです」

というと佐藤副長は

「その件了解した。訓練中の配置変更を認めます。…で、そのあとも小泉兵曹の様子が変ならば一度私は話をしてそれなりの処遇を考えないとならないね」

と言った。

そして副長は日野原軍医長とともに艦長を尋ねに医務科を出た。

「そうだ。艦長もうお部屋にお戻りだろうか…軍医長、艦長が言っておられましたが山口通信長の様子がこのところ変だと。そう見えましたか?」

副長が艦内帽をかぶりなおしながら言うと日野原軍医長は

「やはり艦長もそうお感じだったのですか…私も実は感じていましたが…。あの通信長がそこまで様子が変だというのは何だろう、なにがあったのだろう。気になりますねえ」

と言って首にかけた聴診器をつかんだ。

 

艦長室に艦長は戻っていなかった。

通信長の私室に行きドアをノックすると中から返事があり、副長と軍医長はドアをそっと開けて中に入った。

部屋に中にはうなだれた通信長がいて、その様子に日野原軍医長はぎょっとした。今までにない通信長のうなだれ方に軍医長はそっと、「どうしたんですか艦長?通信長普通じゃないですよ」とささやいた。

すると艦長が

「実はね軍医長…」

と語りだしたその話に、軍医長は強く胸を打たれることになったのだった――

 (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小泉兵曹何が気に入らない?大事な訓練前だというのに…。

そして繁木航海長の不調はおめでただとわかりました。山中次子中佐に次いでのおめでた!でも訓練はどうなる???

そして山口通信長はいったいどうしたというのでしょう?緊迫の次回をお待ちください。

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青空 1 - 2016.09.25 Sun

『女だらけの戦艦大和』はここ、常夏のトレーラー諸島で今日も訓練に励んでいるーー

 

「三日後、巡洋艦・駆逐艦・潜水艦部隊それに航空部隊との大掛かりな訓練を行う。場所はーー」

その日の朝、佐藤副長は各科長、掌長そして森上参謀長の集まった幕僚室でそういって海図を広げた。皆がそれを覗き込み副長が細かく説明をするのを梨賀艦長は少し離れたところから見ている。

(佐藤副長、皆に溶け込んだね。すっかり『大和』副長だ)

そう満足げに軽くうなずいた艦長、ふとある科長を見て(どうしたんだろう、彼女。なんだか最近変な様子だが)と不審に思った。が、それを当人にストレートに切り出すのもどうかと思い、(しばらく様子を見よう)と思ったのである。

「…でよろしいですね、梨賀艦長」

いきなり副長に水を向けられて軽く慌てた梨賀艦長であったが、海図の広がった長机に寄っていき海図を一瞥してから視線を上げ、皆を見回すと

「では当日はよろしく、あと中二日ほどしかないがそれまで兵器の点検、補充を念入りに願います」

といい皆は「わかりました!」と返事をし散会した。

各科長と掌長は駆け足で部屋を出て行った、副長と森上参謀長は艦長を振り返り部屋を出ようとしたのへ梨賀艦長は

「森上さん佐藤さん、ちょっと私の部屋に来てくれないかな?話したいことがある」

と言って副長は「はい、参りましょう」といい森上参謀長は

「なんだい改まって話とは?」

と言ったが艦長は「まあいいから、私の部屋に来てほしい」とやや硬い表情で言うと歩き出す。佐藤副長はけげんな表情で森上参謀長を見上げ、小首をかしげてから皆の出た部屋のドアを閉め、二人の後を追い小走りに行く…

 

さてそんなころ。

最上甲板の艦首に近い場所で、桜本兵曹が各部署の見張り員たちを集めて「対空見張」の講習をしている。敵機の識別表などを用いて「この機影はアベンジャー、ではこの機影は?」などとやりそのあと詳しい識別法を伝授している。これは麻生中尉から「やってみんか?オトメチャンもそろそろ人にものを教える立場じゃけえ、今度の訓練はええ機会じゃ」と勧められたものである。

当初「そんとなことうちはようできません。同じ配置のものにならできますが、ほかの部署の人に教えるなんうちにはまだ早すぎますけえ、ほかにええ人居りませんか?」と必死で断った桜本オトメチャンであったが、その日の夜居住区で話を聞いた石川兵曹に

「桜本兵曹は適任じゃけえ麻生分隊士はそういうてお願いされたんと違いますか?そんとな機会はなかなかありませんけえ、ぜひうちは桜本兵曹に講習をしていただきたいです。兵曹のお話はわかりやすうてええと思いますよ?じゃけえ、ぜひほかの見張り員たちにも話してやってつかあさい」

と言われ、

「ほうかね?ほんならお受けしようかいな」

と言ったのであった。

それを聞いていた小泉兵曹は座っていた部屋の隅から立ち上がって二人のそばに来てしゃがむと

「ほう~、えらい出世じゃのう。麻生分隊士から直々に講習のお願いかいね。さすが海軍一の見張りの達人は違うのう。それにしてもみんな桜本しか目に入らんのかね?見張ならうちもできるいうんにのう!」

と言って最後は語気を荒げた。

他の航海科の面々が黙ってこちらを見つめている。桜本兵曹は同期のそんな激しい、理不尽な言葉に黙って打たれているだけである。石川兵曹が、小泉兵曹のあまりな言い分に憤慨したのか、シュ―ッと息を吐くと

「小泉兵曹はそういわれますが、桜本兵曹の見張技術はおっしゃる通りの海軍一です。ほいじゃけ、麻生分隊士は『やってくれ』言われたんでしょう?ほんなら何も文句つけることなんかないじゃないですか」

と言い放った。本来なら飯の数も違えば階級も一つ上の兵曹に口答えなぞ許されるものでは決してなかったが石川兵曹はもう我慢の限界だったのだ。

いつのころからか小泉兵曹は、桜本兵曹に対し敵対心のようなものを持ち始めている。そう感じていた。

たぶんその大もとは(桜本兵曹に許婚ができたからじゃな。自分に許婚ができんけえやっかんどる)のだと石川兵曹は見抜いていた。それにしても激しい激しすぎる、と石川兵曹は心酔する桜本兵曹のために憤っていた。

「なんね貴様、もう一遍言うてみんか!」

小泉兵曹の怒号が響き、石川兵曹は小泉兵曹に胸ぐらをつかまれて引き起こされた。桜本兵曹は慌てて立ち上がり「やめんか小泉、乱暴はいけん!」と石川兵曹を取り戻そうとしたが、小泉兵曹は憎々し気に石川兵曹をにらみつけると

「やかましいわい、貴様は黙っとれや!こいつは大体生意気なんじゃ、今夜はうちがこいつをたたきのめす!」

というなりその頬をぶん殴っていた。あっ!と叫び声を上げて吹っ飛ぶ石川兵曹は、壁にぶつかって止まった。その場の皆が「石川兵曹!」「石川さん、大丈夫か」と口々に叫んで彼女を抱き起した。桜本兵曹は怒りと驚きで真っ青になって

「小泉、貴様やってええことといけんことがあろうが、うちに言いたいことがあるんなら何でうちを殴らんのだ、なんで石川兵曹を殴るんじゃ、貴様ちいと変じゃで?」

と怒鳴って小泉兵曹の胸ぐらをつかんで揺すった。

すると小泉兵曹は桜本兵曹の両手をつかんでねじりあげた、「痛い!」と叫んだ桜本兵曹。皆が「桜本兵曹!」「オトメチャン!」と駆け寄り、谷垣兵曹が

「小泉兵曹ええ加減にせえ、人をやっかむくらいならもっと貴様自身練磨してオトメチャンを超えてみいや!それもせん癖になにいうとる、だいたいな、貴様の班は最近だれとる言うて有名じゃで?ちいとは考えんか、この阿呆!」

というなり小泉の手をオトメチャンから離させ逆に小泉兵曹の手をねじりあげた。谷垣兵曹の馬鹿力で腕を捩じ上げられた小泉兵曹は痛い痛い、もう勘弁してつかあさいと叫んだあと慌てて逃げだしていった。谷垣兵曹やほかの兵隊嬢たちが

「桜本兵曹に石川兵曹、大丈夫か?」「腕、痛う無いですか?」「石川兵曹頭を打ちやせんかったか?」

などと心配するのへ、桜本・石川の二人は「ありがとう、平気じゃ」と答えた。

そこに繁木航海長が入ってきて、

「何かあったのかな?今、小泉兵曹がえらく怖い顔して出て行ったんだが」

と言って外を指さした。谷垣兵曹が実はこれこれこうで、と説明し繁木航海長は

「そんなことが…でもちょっと前にもいざこざがあったと聞いたけど、小泉兵曹は何にそんなヒリヒリしてるのかねえ。あまり過激にならないうちに手を打った方がいいなあ…後で彼女を呼ぼうか」

と言うとその場に座った。皆も繁木航海長を囲むように座り、繁木航海長の顔を見つめた。航海長は「麻生分隊士と松岡分隊長を呼んでくれないかな?こういうことは皆そろってきいたほうがいいから」といい、酒井上水が二人を呼びに走った。

その間、オトメチャンはやや気になる光景を目にしていた…(繁木航海長、どうしたんじゃろう?今までこげえなことなかったのに)…

そこへ、松岡中尉と麻生分隊士が走ってやってきたーー

  (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

梨賀艦長が見た科長のおかしな具合はいったい誰のこと?そしてオトメチャンが見た繁木航海長の気になる様子とは?

そして何より、小泉兵曹のオトメチャンと石川兵曹への暴力の根源はやはりあの事なのでしょうか?気になる次回をお楽しみに。

 

海兵団の怖ーい〈罰直〉の映画を見つけました…正直こんなにぶっ叩かれたらたまりませんしテーブル支えなんて腕がたまらんぜ…なんていったらほら!麻生分隊士が精神注入棒をもってふっとんできたああああ!!!!

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番外編・横須賀ぶらり行軍 2 〈解決編〉 - 2016.09.22 Thu

柳本柳子艦長は皆を次の場所へとーー

 

「次はいよいよ三笠公園ですねえ、うちは〈三笠〉を始めてみます」

と桜本兵曹、長妻兵曹それに石川兵曹たちが口をそろえて言う。麻生中尉もうなずくと、松岡中尉が「麻生さんたちはまだ見てなかったんですねえ、熱くなれますよ。我々の大先輩の東郷元帥が日本海海戦で戦ったあの〈三笠〉に足を踏み入れることができるんですからね。さあ、今からしっかり気を張って行くぞ」というと柳本艦長が笑いながら

「松岡中尉は噂にたがわず熱いんだねえ。その調子でみんなを引っ張って行ってちょうだいよ」

と言ったので松岡中尉は張り切ってラケットをぶんぶん振り回して

「さあみんな、熱くなれよー!尻の穴を閉めろ!さあ歌いながら行軍だ、…ゆんべ父ちゃんと寝たときに~へ―ンなところに芋がある~」

と歌い出したので麻生中尉はもう慌てふためいて松岡中尉を後ろから羽交い絞めにして

「いけません松岡中尉、そげえな下品な歌を天下の往来でしかも大声で歌ったら我ら皆変人扱いされますけえ、それだけはやめてつかあさい!!」

と怒鳴ったので松岡中尉は「そんなに麻生さんが言うならやめたげる」とやっと歌をやめたのだった。ほっとする一同…

 

〈三笠公園〉

「さあここが三笠公園、あれが〈記念艦・三笠〉だよ」
三笠公園1

柳本艦長の指さす方に、「わあーっ、あれがあの噂の〈三笠〉でありますな」と皆は大興奮して、しかしその前のほうに東郷元帥の銅像が立っているのに気が付くと柳本艦長以下はその前に居並んで「敬礼!」したのだった。
三笠公園2東郷さん

桜本兵曹は東郷元帥の銅像を見上げながら

「ええですねえ、東郷元帥。こげえに立派な銅像になって…。うちは絶対なれんですもんねえ。ああうらやましい」

と心底うらやましげに言った。亀井上水、酒井水兵長たちもうなずき、石場兵曹長は「ほりゃオトメチャン。銅像になるようなお方は海軍兵学校や海軍大学校を出たエリートじゃけえ、うちらとはそもそもが違うで。ほいでもお国に尽くす誠に変わりはないけえね」と言って皆深くうなずいた。

そして一行は〈三笠〉に入ってゆく。

甲板に出た一行は

「これはすごい」「これが日本海海戦を戦った艦なんじゃねえ」「見い、z旗があがっとってよ」三笠Z旗

と姦しい。松岡中尉が「君たち少し静かに見られないのかねえ。いいかい海軍軍人というものはだ、」と話し出したが誰も聞いてはいなかった…。

電信室、15センチ副砲の装填の様子、左右の補助砲に皆大興奮。柳本艦長さえ皆と一緒に興奮を抑えられないようだ。今の戦艦と違う装備もあって興味深いものがある。
三笠砲門 機械水雷 三笠マスト1 三笠マスト2 三笠マスト3 三笠煙突

中甲板を回っての艦長室や長官室、キッチンや風呂、その他いろいろな内部の様子に一同時間を忘れたのだった。

「ええねえ、この部屋!艦長になるとあがいにええ部屋で生活できるんじゃねえ」

「ええわあ、うちももっと頑張って兵学校に入ったらえかったかなあ。ほしたら艦長さんになれたんじゃろか」

「亀井一水は艦長は無理じゃわ」

「そうですねえ、やたらキーキーうるさいだけの艦長は不閑旗をあげられるでしょうねえ、あはは」

「そんな!」

〈三笠〉の中で皆は子供のように夢中になった。

そしてまた艦上に上がり東郷司令長官が「指揮を執った艦橋」を見て

「おお。ここで元帥は指揮をとられたんじゃねえ。見い、伝声管じゃ」
三笠艦橋1 三笠艦橋伝声管 舵輪

「『大和』とはちいと違いますねえ」

「ほうじゃねえ、やっぱしちいと昔の艦じゃし、それにこれは外国で作られたものじゃからね」

「ほいでもロシア相手に戦うて勝利するなん、大したもんじゃわ。さすが日本海軍!」

皆はやはり、鼻が高い。
三笠左舷

 

〈三笠〉でどのくらい見学していたか、すべて見学し終えるとみんなのお腹の虫が鳴き始めて、柳本艦長は

「それならお待ちかね、食事に行こう!」

と言って皆は「やった、待ってました」と嬉しそうに笑いあう。松岡中尉がやたらハッスルしてラケットを振り回して危ないので表通りは極力避け、裏道を通る…。

そしてやっと商店街に入り、「ここでカレーライスを食べよう」と柳本艦長が指したのは

横須賀海軍カレー本舗

で、「ここはたいへん有名なお店だよ、ここの二階で横須賀海軍カレーなどが食べられるんだ」とのことで一同また興奮。しかし満席なのでしばらくの間待つことに。

石場兵曹長は「一階は土産物を売っとるようですなー、ちいと見てええですか?」と言って売り場の中をうろうろ歩き出す。

それを見て「うちも、うちも」と大勢が売り場に。麻生中尉は「みんなここから出たらいけんで、呼ばれたらすぐ二階へ行くんじゃけえ」と注意し、皆は「はーい、わかりましたー」と返事をし、品物を見ている。

やがて。

「柳本様○○名様―」

と呼ばれて一行は二階へ上がる。〈三笠〉の艦内をイメージした店内に皆は「おお。すばらしいね」とため息を吐く。そしてそれぞれ席に着き、メニューを見る。その皆に柳本艦長がほほ笑みながら

「今日ここは私が料金を持ちたい、だから皆どんどん好きなものを注文してほしい」

と言ったので大食いの長妻兵曹などは歓喜の涙を流して

「本当でありますか柳本大佐!ああ生きててえかったわあ、こげえに嬉しい日が来るなん、思いもよらんかったけえねえ」

と言ったので皆下を向いて笑った。皆、メニューとにらめっこしながらやっと食べたいものを見つけウエイトレスさんに注文する。料理が来るまでのあいだ、皆は楽しく歓談。こんなに楽しい時を今までもったことがあるだろうかというくらい、お互い階級も忘れて話しこむ。

やがてそれぞれの注文した料理が目の前に並び始めた。「さあ冷めないうちに」と柳本大佐の言葉に来た順から「ではいただきます」とスプーンを手にして食べ始める。

「ああ、おいしいわあー。艦の食事もうまいが、娑婆でいただくカレーライスもおいしいねえ」

皆舌鼓を打つ、その時。

ドーン!バリバリ!!

と砲撃音が鳴り響きオトメチャンなどはっとして「敵襲?」と声を上げてしまっていた。がその次の瞬間店内に鳴り響いたのは「軍艦行進曲」いわゆる軍艦マーチである。

「なにが始まるんじゃろう?」と麻生中尉が言った時、ウエイトレス嬢が静々とワゴンを押してやってきた。その上に載ったものを見て石川兵曹、石場兵曹長が「わあっ、なんじゃえらい大もりじゃのう」と目を剥いてしまった。むろん周囲のお客さんたちも驚きのあまりぽかんとして、あるいは笑いながらそれを見ている。

ワゴンの上にはそれは大きな皿にてんこ盛りのご飯、そしてチキンカツがずらっと約30センチの長さに並び、カレーが海のように揺蕩っているではないか。カツとご飯のあいだにはキャベツの千切りがこれもたくさん押し込まれている。その超大盛カレーを載せたワゴンは、長妻兵曹の横で止まり、ウエイトレス嬢が

「お待たせしました!〈横須賀海軍チキンカツビッグカレー砲〉でございます~」

と長妻兵曹の前に差し出した。嬉しそうに「ありがとうございまーす!」と礼を言って両手を合わせると長妻兵曹は「いただきます!」と元気よく言って食べ始めた。

あぜんとしてそれを見ている隣の席の高田佳子兵曹がやっとの思いで

「そんとにたくさんのもの、ナガツマサン食べきれるんか?」

と尋ねたのへ高田の顔を見た長妻兵曹は「ありゃ、高田さんいつの間に居ったんですかいのう?」と言って高田兵曹、「最初っから居ってん。じゃがこれを書いとる作者が面倒じゃけえ言うて名前を出さんかっただけじゃ!」

と怒った。しかしそれに構わず長妻兵曹は「うちはこのくらいなんともないで?それによう歩いたけえ腹が減ってしもうてね。高田兵曹、食わんのですか?ならうちがいただいてもええんですよ」と言って高田兵曹慌てて「食うに決まっとろうが!あほの大食いが」と言って食べ始める。

 

やがて30分ほどたって。

長妻兵曹は超大盛カレーを見事に完食し膨らんだ腹を撫でながら「はあー。うまかったあ、…ほいで済みませんが柳本艦長。デザートいうんを頼んでもええですか?」と言った。

えっ、まだ食べるんかいねと驚く麻生中尉達をしり目に長妻兵曹はチーズケーキを二つも食べたのだった。

「麻生さーん、長妻さんの食欲ってすごいねえ。彼女そういえば許婚がいるらしいけどあの食欲を知ってるのかねえ?相手もそうとう食う人でないと釣り合わないんじゃない?大丈夫なのかねえ」

さすがの松岡中尉も心配顔である、が長妻兵曹は笑って

「松岡中尉、その点まったくご心配いりません。毛塚さんはよう食べるおなごが大好きじゃ言うてましたし、毛塚さんご自身もよう食べるお人ですけえね。見合いの席で二人でえらいたくさん食うて互いの両親を驚かせました。――ほうじゃ、うちが今食った〈大盛カレー〉、だいたい三人前はあるそうですよ」

といい、松岡中尉は「…さすがですね。熱い女は違いますねえ」とうなった。

 

食休みをした後、一行は店を出た。柳本艦長に深く礼を言って。

店の前でオトメチャンが「ありゃ、これはだれじゃろう」というので皆が振り返るとそこには鳥が水兵服を着てカレーライスを持っている大きな人形がある。カレー本舗スカレーちゃん

柳本艦長が「これは、スカレー君と言ってこのお店のマスコットだよ。マスコットと言えば〈大和〉にもいたねえ」と教えてくれ、松岡中尉がラケットを振りながら「居ります居ります!誰あろう私の部下の鳥くんと犬くんに猫くんですね!彼らのうわさ、もう〈蒼龍〉まで響いてるとは!熱くなってらっしゃいますね大佐~」というので麻生中尉と石場兵曹長が「危ない言っとるんがわかりませんか!」と二人がかりでラケットを取り上げる始末。

桜本兵曹と石川兵曹、亀井上水がスカレー君の前にしゃがんで

「スカレー君いうてんですか、可愛いですのう。どうぞよろしゅう」

と言ってその頭を撫でている。

その光景に思わず微笑みを浮かべる柳本艦長、麻生中尉そして石場兵曹長である。

 

一行は京急横須賀中央駅に。

「ありゃ、ここにもスカレーさんがおるで!…ここまで見送りに来てくれたんじゃろか」横須賀中央駅スカレーちゃん

と桜本兵曹が言うのへ亀井上水が「まさか。まったく桜本兵曹は子供みとうなこというんなけえね」とつぶやいたが石川兵曹が自分の横に立ってこちらをにらんでいるのに気が付いて口を閉じた。

「さてと。柳本艦長、帰りはここから来たときみとうに快速いう汽車ですか?」

麻生中尉がそういったのへ柳本艦長は思い切りにっこり笑うと

「なに言ってるんですか麻生中尉?さあみんなでここから東京まで徒歩で帰るんですよ。私はいつも艦が横須賀に入ったときはそうやって自宅に帰っていますからね、私にできてあなたたちにできないことはありません。不可能はないぞ、あきらめるなよ!」

と言い放ち皆は愕然。ただ松岡中尉だけが

「ありゃー!私のお株を奪いましたね柳本艦長―、いいでしょういいでしょう、私たちは艦長には負けませんよ、歩いて歩きとおして東京まで行きましょう!―さあみんな飯も食ったしいうことなしのコンディションなんですから艦長とともに歩きましょうね。さあ行くぞ!」

と張り切って柳本艦長とともに先に歩き出した。

そのあとを「ま、待ってつかあさい」と慌てて追う麻生中尉以下。

東京に着くのは明日の朝だろうか…

 

               ・・・・・・・・・・・・・

ハチャメチャ横須賀行軍となりました。

記念艦〈三笠〉には何年ぶりでしょうか、しばらく行ってない間に少し変わった部分もありましたがいろんな展示もあり楽しく拝見しました。

「横須賀カレー本舗」内での大盛カレーは目の前で見てしまいましたw。本当に突然砲撃音が鳴り響いた後軍艦マーチが演奏され、「?」と思っている間に大きな皿に盛られた「横須賀海軍チキンカツビッグカレー砲」(でよかったのかな?)がワゴンで運ばれ、私の斜め前にいた若い男性の前に!この大盛カレー、ご飯が一キロ・カレーが600グラム・チキンカツが300グラムそして牛乳100CC、そして付け合わせにキャベツ。総重量約2キロ、通常の三人前だそうです。チキンカツの305センチは、戦艦三笠の主砲40センチの口径と同じだそうです。

見ているだけでお腹いっぱいでした。どなたか我こそは!と思う方はぜひ挑戦してほしいですね^^。でも相当苦しいみたいですよ。

それをペロッと食べてしまった長妻兵曹はやはり―ただものではないですね。
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番外編・横須賀ぶらり行軍 1 - 2016.09.19 Mon

麻生分隊士はある朝言った、「今日は暇じゃけえみんなして横須賀に遊びに行こうや」と。

そんなわけで麻生分隊士以下航海科の面々とその他の暇人もとい有志が集まって横須賀へと出発したのだった――

 

と言っても横須賀とか関東の地理に疎い連中であるからナビゲーターになんと「蒼龍」艦長・柳本柳子大佐をお迎えしての横須賀ぶらり旅である。柳本艦長は「まあいいからみんなそんな緊張しないでよ、きょうは無礼講で行こう。いやあ私も海軍期待の弩級艦『大和』の優秀な皆さんとご一緒できてうれしいわ、さあ行きましょう。それはそうとこれは保健行軍と言うことでいいのかしらね」と大喜びである。

「単に遊びに行くんじゃないんか」と麻生中尉…。

 

品川駅

「さあみんな!ここで省線から京浜急行に乗り換えるぞ…って何だいつの間に省線が省線でなくなっているのだ?JRとは何者だあ?」

となぜか怒りをむき出しにする柳本艦長を松岡中尉がラケットを振って「大佐、熱くなって居られて大変結構です。が省線はある時から国鉄に、そしてまたある時からJRという名称に変わったのだそうです」と教えてやって柳本艦長は「ふーん。なんだか知らないが横文字を使うなんてアメちゃんのまねか?――ハッ、まさか日本はアメリカに…!」

と言いかけたところで麻生中尉や桜本兵曹、石川兵曹や機銃の長妻兵曹たちに「柳本艦長、早うせんと汽車が出てしまいます」と背中を押され京浜急行電鉄の改札を通り…

麻生中尉ホームに出たはいいが「どの汽車に乗ったらええんかうちにはようわからんわい…」と途方に暮れてしまった。ほかの連中もわからないのでぼーっとしてしまうがそこは柳本艦長、胸を張って

「これだ、〈三崎口〉行の快速に乗るんだよ。そして金沢八景で鈍行に乗り換え、今回はまず<汐入>駅で下車して行軍だよ」

といい皆は「ああ、詳しい人がおってえかったねえ。ほっとしたわい」と胸をなでおろす。亀井上水が「あの〈浦賀行き〉いう鈍行で行ってもええんじゃないですか?」と言ったのへ柳本艦長は笑いながら

「それでも当然いけるが途方もない時間がかかるよ、それでいいなら君は一人で来るか?」

と言われ慌てて「いいえ!快速とやらで参ります!」と言って一同大笑い。

 

さあ京急に乗った一同は「すごい、すごいでこの汽車。早いねえ」とか「あの駅の名前面白いねえ」などと大喜びである。〈青物横丁〉〈六郷土手〉など、風情を感じる駅名が多い。

多摩川を越せばそこは神奈川県。横浜の大都会に腰を抜かし、だんだんと汽車(電車ですね)は横須賀に近づく。麻生中尉はオトメチャンに「なんかドキドキせんか?初めての場所に行くんは楽しいのう」と話しかけ、オトメチャンも「はい、うちは関東は初めてですけえもうドキドキです」と言えばそこここの座席から賛同の声が上がる。

松岡中尉はラケットを振り回し

「あなたたたたち少し静かにしなさい、恥ずかしいじゃないですか。もっと堂々としていなさい、特年兵君そんなきょろきょろしない!亀井さんあなたキーキーうるさいですよ、公共の場では静かになさい!」

といさめるが麻生中尉に

「お言葉ですが松岡分隊長、分隊長のラケットあぶのうていけんです。どうか仕舞うてつかあさい」

と言われバツ悪げにラケットをケースに収納…。それを見てうれしそうに笑う柳本艦長である。

 

やがて汽車(電車だ!)を乗り換えた一行の汽車は逸見駅に。この周囲は丘陵地帯で海が迫っている。なかなか素敵な土地である。そこで柳本艦長は

「『女だらけの戦艦大和』豆知識の一つだが、横須賀海軍病院の外科次長で辺見次長という方がいらっしゃろう?奥様は元零戦の搭乗員の。あの方の名前はここ<逸見駅>から取ったものだそうだ」

と知識を披露。一同感心。逸見駅(画像はWIKIより拝借しました)
逸見駅

汐入>到着。

松岡中尉はラケットをカバーから出して肩に担ぎ、柳本大佐に

「で、これからどこに行くのですか?」

と尋ねた。大佐は「ヴェルニー公園だ、横須賀の観光名所の一つでね」というと皆を促して歩き出した。途中幹線道路の交通量の多さに驚きながら。

「海のにおいがする!」とオトメチャンはつぶやいた、長妻兵曹も「ほうじゃな、もう海がそこなんと違うか?」と言って空を見て「見い、トンビがおってじゃ」と指さした先には大きなトンビが一羽、悠然と大きな弧を描いて風に乗っている。

 

〈ヴェルニー公園〉

ここは横須賀製鉄所の建設に貢献したフランス人技師・ヴェルニーを祈念してつくられた公園でフランス式庭園も美しい公園です。園内にはヴェルニーと、幕末の幕臣で横須賀製鉄所の建設を推進した、小栗上野介忠順の胸像があります。ベルニ― 小栗上野
ここは昔海軍横須賀軍港逸見門があり、その衛兵詰所が残っています。ほかに、たくさんの碑があります。順にご紹介しますが、…

「さてこれはなんだ!」

という柳本大佐の声に皆が見たものはーー

戦艦陸奥の主砲です。
ベルニ―公園入口1 陸奥主砲1 陸奥主砲2 陸奥主砲3

陸奥は横須賀が故郷…広島県柱島沖で謎の爆沈を遂げた陸奥の主砲の一つがここ横須賀のちに安置され、この後きちんと周辺を整備されてお披露目となるそうです。(こちらもご参照くださいスカレーブログ

見つめる一同<謎の爆沈>という言葉は聞かなかったことにして。

気を取り直して海に向かう一同、「ああ、やっぱし海はええねえ」という長妻兵曹にオトメチャンがうなずく。その左側には海上自衛隊横須賀総監部の建物、そして護衛艦。正面を見れば潜水艦が!
海上自衛隊横須賀総監部 潜水艦 潜水艦2 潜水艦3

「見てみい、戦艦じゃ」という亀井上水に酒井水兵長が「いや、ちいと違うで。どれが主砲なんだか、ほいで副砲はどれね?機銃群もないで?それに『大和』よりなんやちいそう思えるが」と首をかしげる。
自衛艦1 自衛艦2 自衛艦3 自衛艦4
この辺の事情はこれを読んでくださる皆さんのほうが詳しいですねw。

目の前の海上を、遊覧船が走ってゆきましたーー
横須賀周遊

 

細長い格好の公園を歩きますと、まあなんと美しいフランス式庭園が!ベルニ―公園噴水 ベルニ―公園バラ

「ここはバラが咲くときれいだそうだよ。これから秋バラの季節だからそのころ来るといいかもしれないね」

柳本艦長はそう言い、麻生中尉が「ほいでもあれ!ちいと咲いとりますね。これがたくさん咲いたらほりゃあ綺麗でしょうねえ!まるで」と言ったところへ間髪入れず松岡中尉が横から

「オトメチャンみとうに、でしょう麻生さん―。私はあなたの思うことすべてわかっちゃうんですよねえ~。熱くなってっていいぞ、うん!」

と茶茶をいれ、大笑いの皆。

「海軍の碑」海軍碑

「軍艦山城の碑」山城の碑

「国威顕彰の碑」国威顕彰2

「軍艦長門の碑」軍艦長門の碑

「軍艦沖島の碑」軍艦沖島

に敬礼した一同。正岡子規の文学碑を見て「うーん、うちらももうちいと文学的素養を養いたいもんじゃの」とうなるのであった。

子規碑

そして「さあ次はもう少し歩いて〈三笠公園〉へ行くぞ。そのあと食事だ」と柳本大佐がいい、一同の士気はさらに上がるのであったーー

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昨日娘と横須賀へ行ってきました!普通に書いたのではあまりに普通なので『女だらけの海軍』さんたちに出演してもらいました。いかがでしょうか?

天気は曇りでしたが雨にも会わず良い一日でした。京浜急行線の中でこれを思いついていました。本当は京急に乗る際いきなり鈍行に乗ってしまい、後で慌てて快速に乗りなおしたのですw。えらい時間がかかるところでした(-_-;)。しかし空の大きさ、海の爽快さを胸いっぱいに吸ってきました。普段見ている空がいかに小さく切り取られている不自然なものかを感じもしました。外に出る、ということの大事さを痛感した一日でもあります。

そして停泊していた自衛艦を見て「乗せてくれんかなあ~」と独り言ちていましたw。

次回は記念館三笠をご紹介です。
文中の国威顕彰の碑についての詳細はこちらを→ヴェルニー公園国威顕彰の碑

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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