2016年06月|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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夫婦凱旋 3

2016.06.26(16:51) 1106

「次ちゃん」と新矢は小さく叫ぶと妻へとーー

 

新矢はベッドの上の妻の隣に座るとその体を抱きしめ、むさぼるような接吻をした。長い長い間の不在の隙間を埋めるような激しい接吻をし、新矢は次子の存在を確かめた。

やがて新矢は唇をそっと離し、次子を見つめた。彼女も潤んだ瞳で新矢を見つめ、彼はもうたまらなくなった。かすかに上ずった声で

「次ちゃん、その…見せてくれますか」

といい、彼女の答えを聞かないうちに寝間着のひもを解き始めた。次子は「恥ずかしい…」と軽く身もだえしたが新矢は「恥ずかしくなんかないです。きれいなあなたの体が見たい」といい寝間着を脱がせてしまった。

部屋の明かりの中、次子の裸体が美しい。双子を孕んだ腹部がいとおしく、彼はその部分をやさしくなでた。乳房も、以前よりその大きさを増してき始めているようだ。彼は次子をベッドにそっとあおむけに寝かせると乳房を掌で包み込んだ。

「綺麗だ…」

とつぶやいた後、彼はその先を口に含んだ。舌の先でその部分を軽くつつくと次子が「ああ」と声を漏らした。新矢は口をそこから離すと妻の両足をそっと持って開いた。次子は恥ずかしさに横を向いたままである、その彼女に「いいかな…?気分が悪くなったらすぐにやめますから、言ってくださいね」というと彼は次子の中にそっと、わが砲身をねじ込んだ。

新矢は久しぶりすぎるこの感覚におぼれた。根元まで入ると、矢も楯もたまらなくなり走り出した。膨らんだ腹に自分の重みをかけないように気を付けてはいるが、もう止まらない。ハアハアと息も荒く次子を攻め立てた。

「次ちゃん、次ちゃん…大好きだ!やっと一緒に暮らせますね…私はうれしい」

そう話しかける深夜に次子も夢中で「はい。私もうれしいです…待っていましたわ、この時を」と答える。それを聞いた新矢は体中に喜びと愛しさが電撃のように走り抜けるのを感じた。

次子を攻めながらその乳房をつかんでその先をもみつぶした。ああ、いやあ!と次子が悲鳴に似た声を上げ、新矢はその瞬間わが砲身を締め付けられ…果てた。

 

次子の隣に横たわって新矢は

「次ちゃん、いきなりごめんね…。お腹、大丈夫だろうか」

と心配そうに尋ねた。次子は裸の腹部を撫でてから「お腹は平気ですよ。ちょっと張りが来ただけです、ここが刺激されると張るんだと聞きました。でも収まりましたから平気」と言って乳房の先を示した。新矢は

「お腹が張る…赤ちゃんたちはどうもなかっただろうか…あんなことをしてしまって。心配だ」

と言ったが次子は微笑みながら「あなたと私の赤ちゃんたちですもの、平気ですよ。私たちが仲良くしているのをきっと感じてくれていますよ」といい、新矢は

「そうか、そうだねきっと」

というと裸のままの次子を抱きしめた。寒くない?と尋ねて毛布にくるんでやった。次子は嬉しそうにほほ笑みながら新矢に抱かれている。そして「あなた。今まであった出来事をお互いに話しましょうよ、どんなことでもいい、話しましょう」と提案した。新矢も「そうだね、お互い何があったのか知っておくのも悪くないね」というと「では私から」と話し出した。

次ちゃんを送り出してからの寂しい独り寝のこと、繁木少佐と初めて行ったリンガ泊地。空母瑞鶴と翔鶴の話。例の「松岡式防御装置」を施す際の空母の乗員たちとの話し合い。高橋美代子中佐のとんでもない思い違い。そして

「瑞鶴の貝塚艦長が従兵を一人つけてくれたんです。その人が何か、次ちゃんを想わせるような人で」

と語った。風邪をひいて高熱を出し、妙な夢を見たその詳細まで話した。

次子はそれを聞いて新矢の胸の中でくすくす笑った。そして彼をやさしくにらむと

「まああなたがよその女の人にそんな気持ちを持つなんて、私が近くにいたらそれこそ陸戦装備で斬りこみに行ったかもですよ」

と笑った。新矢は次子にこの話をすべきかどうか迷っていたが(隠していていいものではない)と告白することに決めた。もしかしたら次子は怒るかもしれない、背中を向けて二度とこちらを向いてはくれないかもしれないが、隠すのは嫌だった。

その新矢の思いを知ってか、次子は

「なんて冗談です。私、あなたがその人の中に〈私〉を見出してくれたのがうれしい…。私、あなたと出会えてそしてこうして一緒になれたことがとてもうれしい。その上こんどは二人の子供まで授かることになって、本当に私は幸せです」

と言って新矢の瞳をまっすぐに見つめた。新矢も次子の瞳を見つめ返し

「幼いあの時から私は次ちゃんが大好きでした。まだ本当に小さかった次ちゃんをだっこさせてもらったりおんぶするのが私の喜びでした」

と言った。

思い返すと遠い記憶の中では二人はいつも一緒だった。新矢がお菓子を持っていればそれを必ず彼は二つに分けて次子にくれた。次子が熱を出して臥せっているときは枕元で見守りながら静かに本を読んでいた新矢。二人花を摘みに出かけ雨に降りこめられ泣き出す次子を抱きしめて農家の牛小屋の軒下で雨宿りしたあの日。

懐かしいあの日が次々に二人の脳裏によみがえる。

新矢が引っ越してしまったあとの空虚の胸の内、そして風の便りに新矢が海軍の技術者になったと聞いて自分も海軍に入ると決意したあの時。次子が忘れられなく、ほかの女性が目に入らず同僚たちから「あいつはどうもおかしい、男色家ではないか」といやな噂を立てられ、それでも次子への思いを絶たなかったこと。

そして、やっと互いを見つけることができた松岡中尉をめぐる事件。そして二人を決定的に結び付けた次子の迷惑な見合い話。

「でもそのおかげでこうして一緒になれました、けがの功名とでもいうものでしょうか」

二人は微笑んだ。

祝言の日の互いの美しい姿、皆から祝福されたあの日、次子が見た瀬戸内の美しい春の海と海兵同期が送ってくれた祝福の発光信号。楽しかった宴、兄夫婦と次子の両親のほっとしたような笑顔。初めての夜、初めて交わした愛…。

次子は新矢の胸に額をそっと当てて思い出に浸っているようだったが顔を上げると「では今度は私のお話し」と新矢と別れてからこちらを話し出した。

新矢の面影を求めて夜更けに一人露天甲板で泣いたこと、最後の休暇から悪くなった体調を押しての軍務、そして発覚した妊娠。つらかった悪阻。

「でももうあの悪阻も思い出。笑ってお話しできます」

そう次子はいい、新矢はさらにいとおしさが募り次子を抱きしめた。

「次ちゃん…、これからは決して無理をしないで出産に備えようね。あなたは今まで十分帝国と海軍のために働いてきましたからね、今度は自分とそして、私のために…」

新矢はそういうと次子をくるんだ毛布をそっと取り、その頬を撫でた。新矢の熱い両手は次子の肩を滑り、乳房を何度かこねるように揉み、そして膨らんだ腹部をやさしくなでた。

そしてそこに唇を押し当てるとしばらく彼はそのままでいた。次子もじっとして彼のなすがままに任せる。

新矢はやがて唇を話すと

「次ちゃん。これから大変かもしれないけど一緒に頑張ろう」

というと。

再び次子のからだを開かせ、その中へと入っていったのだった――

  (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

山中大佐、やはり抑えきれませんでしたね。でも、次ちゃんに無理がかからなければいいのかな。そして二人の間には語り切れない思い出の数々。そうした思い出を胸にこの先も二人は仲良く過ごすのでしょうね。

次回をお楽しみに。

 

この歌が大好き。軽くモチーフとして使用した小比類巻かほるさん「TONIGHT」。



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夫婦凱旋 2

2016.06.24(22:52) 1105

ーー「山中副長…山中副長」と自分を呼ぶ声に目を覚ました次子は…

 

そこは『大和』の副長室であった。次子は「あれ…私確か呉の自宅に帰ったはずじゃ?」と思い大きなおなかを撫でようとした。…が、

「お腹が、ない!!」

と思わず彼女は叫んでいた。五か月に入りだいぶ膨らみ始めてきた双子の居るお腹がペッちゃんこ、妊娠前のお腹である。次子の顔が蒼白になり「どうしたのかしらいったい、私まだ赤ちゃんを産んでいないのに…いったいどうしたのこれ」と声が震える。と、ドアが開き

「副長!」

と繁木航海長を先頭に桜本兵曹、長妻兵曹に高田兵曹がなだれ込んできた。次子は「あらあなたたち、どうしました?」と言ってよく見れば彼女たちは例の妊婦用の軍装に身を包んでいる。そして大きなおなかを抱えるようにして「副長、私たちこういうことになりましたけえ退艦となりました。今までありがとうございました、お世話になりました」というと頭を下げて副長室を出て行ってしまった。

「ああ、ちょっと待って。わたし、わたしのお腹がないんだけど!」

慌ててそのあとを追う次子の耳に、四人の嬉しそうな笑い声だけが響く―

 

はっ!と目を覚ましたのはまごうかたなき呉の自宅、寝室のベッドの上である。ふっと左を見ると夫の新矢が心配そうに次子を見つめている。そっと自分のお腹に手を当てると大きなおなかのまま。

「次ちゃん…ずいぶんうなされていたけど、大丈夫ですか」

そういって新矢は次子をそっと抱きしめた。外はまだ明け初めてはいないようだが早起きの鳥の声が聞こえ始めている。

次子は新矢の背中に手を回して

「変な夢を見ました。お腹がぺちゃんこになっていて、それで私『大和』にいるんです。そこに繁木さんと三人の兵曹が大きなおなか抱えてきて『退艦します』というんです。わたしそれで大きな声出して目が覚めました。このお腹がぺちゃんこになってるのが嫌な気がして。怖くて」

と言って目を閉じた。

「そうですかそんな夢を。きっとね、次ちゃん今までの激務で相当疲れているんですよ。今日は夕方から海軍工廠に行けばいいんですからそれまでゆっくり寝ていなさい。きっとお腹の子供たちが『お母さん少し休んでちょうだい』と言ってるんですよ。私は今日から十日、休みをいただきましたからいろんなことは気にしないで思い切り休みましょう、いいですね」

新矢は次子を抱きしめたままでそうささやいた。次子は新矢をつかむ手に力を込めて

「あんな夢。悲しいわ、もしかしてお腹の赤ちゃんたちに何かあるんじゃないかと思って私、怖くて」

というとすすり泣きだした。

新矢は次子を抱き起しその肩をしっかりつかむと

「平気です。次ちゃんのお腹の赤ちゃんたちは私たちの子供です、きっと強い子供ですから大丈夫。そんな心配をするほうがよくありませんよ?さ、涙を拭いて…笑いましょう」

と言ってその手のひらで次子の頬を流れる涙をぬぐい、お腹に手をそっと当てて撫でると微笑みかけた。やがて次子は泣き止んで笑みを浮かべるとお腹に当てた新矢の手に自分の手を重ね

「そうですよね、私たちの赤ちゃんですもの。何があるわけないですよね…そう、私ちょっと疲れているのかもしれませんね」

と言って新矢を見つめた。次ちゃん、と言って新矢は彼女を胸に抱き、そしてその唇に自分の唇をそっと重ねたのだった。

 

確かに山中次子は大変な過労に陥っているのは確かだった。

眼の下には深い隈ができていて、それを見ていた新矢は強制的に次子をその日、出かける時間ぎりぎりまで寝かせておいた。

「疲れているのに申し訳ないが、なんでも工廠の仲間たちが帰還と双子懐妊の祝賀会を開きたいと言ってきかないのでね…。ぜひ夫婦でと言われたら断れなくて。いろいろ向こうにも都合があるらしくって帰ってすぐになってしまって…、本当にごめんね」

新矢は今朝そういって次子に謝ったが次子は微笑みながら

「まあ、それはうれしいことです!私も皆さまにお会いするのはしばらくぶりですわ、結婚式以来ですから楽しみです。向こう様はお忙しいのですから御都合にこちらが合わせるのは当然ですわ」

と言ったのだった。そこで彼は

「そしてね次ちゃん、私が見たところ次ちゃんはかなり疲れているから出かけるまで眠っていてくださいね。お腹の赤ちゃんたちのためにもね」

と言って彼女を寝かせていたのだった。自宅に帰ってホッとした次子は眠気を必死で払いつつ、新矢に「ごめんなさい。お食事も作らないで寝てしまうのは良くないことですが」と言うと新矢は笑って「飯は適当にやるからいいんですよ、それより次ちゃんは何か食べないと」というと下へ行き塩むすびをいくつかッ持ってきた。「昨日嫂さんが作っておいてくれたんですよ」

そして二人ベッドの横のテーブルについてそれを食べた。次子は(こんなにおいしい塩むすび、生まれて初めていただきました)と感謝しながら食べ、そして新矢にベッドにいざなわれ泥のような眠りに落ちていった。

 

次子は出かける一時間半前に目を覚まし、妊婦用一種軍装に着替えて階下に降りた。下では新矢がいつでも出かけられるように準備を終えていて、次子を見ると駆け寄って抱きしめた。

「素敵だ…次ちゃんなんて素敵なんだ。袴がよく似合ってとっても素敵」

そうささやく新矢の言葉が何か恥ずかしい次子である。「恥ずかしいわ。そんな」というと新矢の熱い手が袴に包まれた次子の膨らみ始めた腹部を撫でまわす。

新矢はたぎる思いを必死に我慢しつつ、

「もう少ししたら出かけます…気分は悪くないですか?大丈夫?」

と問いかけ次子は「平気です、とても気分が良いです。おかげさまでよく眠れましたから。ありがとうあなた」と答え、新矢はさらに次子を抱きしめた。

家を出て二人は坂の下へ降りた。するとそこに一台の自動車が来て運転席から降りてきたのは山中中佐の同僚の益川中佐。

中佐は「おかえりなさい!待っていましたよ。そして今日はご無理を言って申し訳ないです」と言いながら二人の前に来ると敬礼した。大佐は返礼し、次子は頭を下げた。

そして益川中佐は二人を乗せると呉の街中へと自動車を走らせた。山中大佐が「工廠へ行くんじゃないのか?どこへ行く?」と尋ねたのへ益川中佐はハンドルを動かしながら

「えへへ、実は料亭に参ります。工廠に行こうとは言いましたがいくらなんでもあんな殺風景なところでは身重の奥様に良くないですしそもそも胎教に良くはないでしょう?というわけで」

と言って笑った。山中大佐も笑いだし次子も「まあ、そんなにお気にかけてくださってうれしいことです」とほほ笑む。

 

十五分も走って自動車は一件の立派な料亭の車寄せに入り、玄関から女将が出てくると自動車の扉を開けてくれ、運転席から素早く出てきた益川中佐が扉の横に立ち、大佐に敬礼し次いで降りてきた次子中佐にそっと手を貸し、降り立った次子中佐に敬礼した。

そして三人は女将に先導されて中に入り、途中で益川中佐は別の廊下を行った。そして二人は一室に案内された。女将が「いらっしゃいました」とひそやかな声をかけふすまをそっと開けた。

開けた襖の向こうの座敷には、江崎少将他大佐の研究の仲間たちが居並んで拍手で迎えてくれた。大佐と次子中佐は入り口で頭を下げると江崎少将が席を立って二人を迎え

「おかえり、山中君。そして山中次子中佐、お帰りなさい。そしておめでとう!」

といい皆も「おかえりなさい、おめでとう」と倣って拍手が大きくなった。恥ずかし気な次子中佐を見て益川中佐は(ああやはりあの人は天女だ、いいなあ山中大佐)と思う。

二人は江崎少将のそばの上座に案内され席に着き、江崎少将が乾杯の音頭を取った。男性士官たちは杯を干し身重の次子中佐はコップに注がれたラムネを飲んでの乾杯。運転の大役を仰せつかっている益川中佐も今日のところはラムネ。

料理が運ばれ、座が和み二人には質問が次々に投げかけられる。その質問に笑ったり考え込んだり、にぎやかに宴は進んだ。

次子中佐は江崎少将にそっと「今日は奥様はいらっしゃらなかったのですね」と残念そうに言うと少将は

「子供の一人が風邪をひきましてね。家内も残念がっておりました、落ち着いたらまた我が家にご招待しますから是非に」

と言って「あ、これを預かってきましたよ」と懐から取り出したのは亀山神社のお守り、

「妻があなたの安産を祈っていただいてきたそうです」

と次子中佐に手渡し、次子はそれを押し頂いて「奥様にくれぐれもよろしくい伝えくださいませ、ありがとうございます、と」と言ってお守りを懐にしっかりと仕舞った。そしてそこを両手で押さえて嬉しそうにほほ笑む。幸せそのものの笑顔である。

その様子を見る江崎少将、(なんてこの人は可愛い人なのだろう、山中大佐は果報者だな)と心底思った。

 

長い時間続いた宴もやがてお開きとなり、山中夫妻は益川中佐の運転で自宅へ戻る。皆の見送りを受けて自動車に乗り込む次子中佐に男性士官たちは口々に

「またお会いしましょう」「くれぐれもお大事に」

などと声をかけ次子中佐はそれぞれに頭を下げ「是非に。どうもありがとうございます、皆さまもお元気で、きょうは本当にありがとうございました」と答え、自動車が走り去ったあと

「素敵な人だ」「山中のやつ、いい人をめとったなあ」「うちの女房にもあの方の爪の垢を煎じて飲ませたいものだな」「貴様の女房じゃ無理だろう」「なんだと!」

とそれぞれひとしきりうらやましがりそして散開した。

 

自宅の坂の下に戻った山中夫妻は、益川中佐の心から礼を言った。次子中佐は

「お酒を飲めなくてお辛かったでしょう。ごめんなさいね、いつかぜひうちにいらしてくださいませね」

と益川を気遣った。山中大佐も「今日はありがとう、今度はうちで酒を飲もうな。―気をつけて帰ってくれよ」と部下をねぎらった。

益川中佐は夫妻にー特に次子中佐にー親しく話しかけられてうれしさで頬が火照った。そして「こちらこそありがとうございます、またお会いしましょう。山中大佐にはよい休暇をお過ごしください。ではこれにて、ごきげんよう」というと自動車を運転して帰って行った。

それを見送っていた二人はやがて自動車が遠く見えなくなると坂を上り自宅の玄関を開けた。

大佐が「風呂を沸かしてくるね」と外へ回り風呂を焚き始めた。

次子はその間、茶の用意をして夫を待った。

新矢が入ってきて、「そろそろ風呂が沸きます…次ちゃん先にどうぞ?」と言って、もう一度妻の袴姿に見とれた。

「次ちゃん。きれいだ」

というといきなりのように次子を抱きしめた。あ、と声を出した次子の、腹部を撫でた。そしてその耳元に

「ここに…私たちの赤ちゃんたちがいるんですね…ああ、嘘みたいだ。ああ…」

とささやきかけさらに腹を撫でた。しばらくそうしていた大佐だったが、はっと気が付いたように顔を上げ「さ、次ちゃん。お風呂お風呂」」と笑いかけて、次子は「ではお先にいただきます」と一礼して湯殿へ。

 

大佐が風呂に入り、次子は二階に上がった。ベッドの上に座り(今夜は寝ちゃわないようにしないと。いろいろお話もしたいし)と思う彼女。

やがて彼の足音が聞こえ、寝室のドアが開いた。

新矢は「次ちゃん!」と小さく叫ぶとベッドの上の妻に走り寄りーー!

  (次回に続きます)

       

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

呉工廠の山中大佐のお仲間が祝賀会を開いてくれました。この嬉しい出来事に次ちゃんの疲れも少しは癒されたようです。そして…山中大佐、次ちゃんに走り寄って何をしますか??次回をご期待ください!

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夫婦凱旋 1

2016.06.19(23:42) 1104

『大和』を退艦した山中次子副長は夫とともに内地へ向かったーー

 

すっかり悪阻も収まり安定期に入った次子中佐は、内地へ向かう巡洋艦内では皆に大事にされ、あるいは「妊娠てどんな感じなのでありますか、後学のため教えてください」と若い少尉たちに請われたりした。その様子を夫の山中大佐がほほ笑みながら見つめていた。

艦が小笠原諸島父島に寄港した時、山中大佐は呉の兄夫婦に電報を打ち間もなく呉に帰る旨を知らせた。

大佐は、妻のいる部屋に入ると

「電報を打ってきましたからね、心待ちにしてくれていますよ。皆に逢うのが楽しみですね」

と言って嬉しそうにほほ笑み、次子中佐も「本当に…。ああ早くにいさま嫂様に逢いたい」とほほ笑んでそっと腹部に手をやった。その手に自分の手を重ね、山中新矢大佐は幸せな気分に支配された。

やがて艦が呉に入ると艦長が「しばしお待ちいただけますでしょうか、お渡しするものがございます」と言って、二人は二時間ほど艦内にとどまることになった。

次子中佐は「なんでしょう。渡すものとは?」と首を小さく傾げ大佐も「そうだね、いったい何だろう」と考えていたがその後、艦長と副長が大きな風呂敷包みを奉持してやってきた。

艦長が

「山中中佐にはこちらに御着替えを願います」

といい副長が風呂敷包みを手渡し「冬物の着物でございます」と言った。

冬用?とかすかに不思議に思った次子中佐であったが、すぐにああ、もう内地は秋なのだと思い当たった。トレーラーで妊娠が発覚して数か月たち、内地はもう十月になっていた。

「ありがとうございます」

とその包みを受け取り深く礼を言った中佐に艦長は

「今年の内地は九月の末からずいぶんと冷たい風が吹くときが多いようです。大事なおからだです、どうかお大切に。では御着替えが済みましたら甲板へお越し願います」

と言って副長と礼をすると部屋を辞した。

次子中佐は風呂敷包みをテーブルの上に置くと「では、着替えます」といい、夫の大佐は慌てて「わ、私はちょっと用が…」とほほを紅く染めると部屋をそそくさと出て行った。中佐は「まあ」とふふっとほほ笑むと袴のひもを解き始めた…

 

それから約一時間後、艦長以下に見送られ山中夫妻は内火艇に乗り込み上陸桟橋を目指していた。退艦の際、次子中佐は心から巡洋艦の艦長以下に礼を言って、大佐も「大変なお世話になりました、貴艦のご武運を祈ります」とあいさつして降りた。冬用の袴姿が中佐を一層りりしく見せている。

内火艇の後ろから巡洋艦に手を振る二人、「いい人たちばかりですね。あなたは幸せですよ」と大佐は言って次子中佐は微笑んでうなずく。そして「私にはもったいないほどいい人ばかりに恵まれています」と言って巡洋艦にそっと頭を下げた。

 

上陸桟橋には衛兵長以下が整列して山中夫妻を迎えている。内火艇から降り立った二人は艇指揮の少尉に敬礼し礼を言ってから桟橋を歩き衛兵所長以下が居並び祝福の敬礼をする中、二人は返礼しながら歩いた。りりしい夫の大佐と、楚々とした袴姿の妻の中佐の姿に衛兵所員たちは感涙にむせぶものさえいる。そして二人が衛兵所を出ると、そこに待っていたのはー

「にいさま、ねえさま!!」

次子中佐が声を上げた。思わず駆け寄った次子中佐にシズが走り寄り「次ちゃん、走っちゃいけませんよ…」と抱きとめそして直立不動の姿勢をとると

「おかえりなさい。そしてーおめでとうございます」

と言った。その嫂にきっちりと返礼して次子中佐は

「ただいま戻りました。ご心配をおかけして申し訳ございません。これからよろしくお願いいたします」

とあいさつした。その中佐を笑みを以て見つめていたシズの夫一矢が

「次ちゃん…」

と言ってそばの大きな木の陰から誰かを連れてきた、その人の顔を見て中佐は

「お母さん!?」

と大きな声を上げていた。カヨがその場で頭を下げ、新矢は岳母のもとへ小走りに行き、その手を取って

「お久しぶりですお母さま!今回はわざわざ呉までお越しいただいて…申し訳もございません」

と言った。カヨは微笑みながら

「おかえりなさい新矢さん、次子。このたびはおめでとう、双子だと伺いましたよ、お父さんも大変お喜びです。今日はお父さんは伺えなかったけどそのうちいらっしゃいますからね」

と言って娘夫婦に言った。

そうでしたか、お父様にもお会いしたかったのに残念ですと大佐は言ってから「そうだ、私は鎮守府に行かねばなりません。次子のいろいろの手続きをしないとならないんです。本来は海軍省へ出向くんでしょうが彼女身重ですから私が鎮守府で済ませよとのお達しです」と皆に言い新矢は鎮守府に行き、ほかの四人は呉駅の近くの喫茶店で彼を待った。

新矢が戻りいよいよ久しぶりの我が家へ―

 

家へ上る坂道に来たとき次ちゃんは「まあ、ここは」と声を上げていた。今まで土の坂だったのにそこがきれいに石が敷かれ、しかも滑りにくい工夫がされている。

すると新矢が

「ここ、にいさんが改良してくださったんだよ。次ちゃんが滑ったりしないように」

と教えてくれたので次子中佐は感激して

「にいさま、ありがとうございます!」

と頭を垂れて礼を言った。カヨも「ありがとうございます」と礼を言うと一矢は照れくさそうに笑って

「いやいやそんな。暇だったからね」

と言って「鍵を開けて来よう」と走り出していった。シズが

「あのひと照れくさいんですよ。今回の話を聞いて一番張り切ったのがあの人ですからね。この石もあの人が選んできました、滑らない材質はどれかって石屋さんにうるさいくらい聞いて」

と笑う。カヨが

「次子、あなた幸せ者よ。こんなに思ってくださる人が居るなんて。本当にありがとうございます」

ともう一度シズに頭を下げた。そのシズは「いいんですよ、もうお互い家族ですから遠慮なしに行きましょう」とほほ笑み、次子中佐もうれしさに瞳を濡らした。

 

一行は家の中に入った。家は一矢夫婦が住んで綺麗にしてあったのでちり一つない美しさが保たれている。シズが

「私たちもやっと家を見つけたのよ、ここから歩いて五分ほどの場所。今度来てね」

と言って次子は

「近くでよかったです、心強いです」

と喜んだ。シズはカヨに「今夜からうちにお泊りになりませんか。――新婚夫婦は二人きりのほうが…ね」とほほ笑み、カヨは「そうさせてくださいますか、すみません」とほほ笑み返す。

「さあみなさんお入りください」と新矢が声をかけ、シズが「さあ、分隊長」と次子に声をかけ次子は新矢に手を取られて家の中に。

 

五人は大広間に入りそこで茶を喫して話に花を咲かせた。次子も新矢も、いろんなことを話し一矢もシズもカヨも笑ったり感心したり。

楽しいひと時を過ごした。

その晩はシズの手料理で食卓は賑わい、終始笑いが絶えないままで兄夫婦はカヨとともに至近の自宅に帰った。一矢は帰る前に湯殿へ行き湯船に水を一杯に張ってくれ、ついでに湯も沸かしてくれた。

 

皆の姿が坂の下へ消えると新矢と次子は戸締りをした後広間に戻り改めてあいさつを交わしあった。次子は両手をついて

「このたびはお忙しいところをありがとうございました。この先いろいろご迷惑をおかけしますがどうぞよろしくお願いいたします」

と頭を下げた。その妻を満足げに見て新矢は

「迷惑なんかであるものですか。私たちの子供が、子供たちが生まれるんですから。私ができることを精いっぱいさせてもらいますよ」

と言って妻の前に頭を下げ

「今までお疲れさまでした、ゆっくり休んで体を整えてくださいね」

と言った。二人の瞳が正面から合って、そして二人はこの上ない幸せな気分に酔った。新矢が次子に先にふろを勧め、次子は従った。袴を解き着物を脱ぐとほっと息をついた。

久しぶりの家の風呂にじっくり浸かった、疲れが噴き出し次子は深呼吸した。そして膨らんだ腹部をそっと撫でて

「ここがあなたたちのおうちですよ。いいおうちでしょう…ここはあなたたちのお父様がお建てになったおうちですよ」

と話しかけた。

風呂から上がると新矢が「よかった、のぼせてしまったのではないかと心配で見に行かないといけないかと思ってたとこでした」とほっとした微笑みをみせ、次子は「ごめんなさい!あまりにも気持ちよかったもので、すみません」と謝った。新矢は「いや、それならいいんです。では今度は私が。次ちゃんは布団に入っていてくださいね、疲れたでしょう。明日の午後は海軍工廠にちょっと顔を出してくれませんか。皆楽しみにしていますから」と湯殿へ向かった。

次子は懐かしい自宅の二階へ行こうと階段に向かうとここにも一矢の心遣いを見て感激した。階段横には手すりが新しく取り付けられていた。

一矢が「階段などの段差が危ない。手すりをつけておけばいいかな」と思いついてつけてくれたもの。次子はその心に感謝しながら手すりをつかんでゆっくりと二階へ上がる。

懐かしい寝室のドアを開き、二台並んだベッドの一方の掛け布団をはぐってそこに腰を下ろし、やがて横になった彼女は新矢を待ちながらいつの間にか寝息を立てていた。

風呂からあがって寝室に入った新矢は(次ちゃんよほど疲れたのだろう、このまま目覚めるまで寝かしてあげよう)と、妻の掛け布団をその肩まで引き上げて自分も布団に入った。

(今夜から次ちゃんがここにいる)

そう思うだけで心楽しい新矢であったーー

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

山中夫妻、とうとう呉に帰還しました。新矢の兄夫婦と次子中佐の母親が迎えてくれてうれしい二人。新矢の望んだ家庭の形ができつつあります。

少しの間、この夫婦の生活を見ることにいたしましょうか^^。よろしくお付き合いを願います!

 

キャラ版「間宮羊羹」のおまけ、しおり三種。
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副長、「洗礼」を受ける 2〈解決編〉

2016.06.15(23:47) 1103

佐藤副長は何物かに口をふさがれたまま、後ろ向きに艦内に引きずり込まれていった――

 

副長は自分の口をふさいでいる手に食いついてやろうかと思ったがそれすらできないほど相手は上手に口をふさいでいる。(苦しいよう)と思ったその時背後でドアが開いた音がし、そして彼女は床に投げ出された。

どすん、と腰を床にしたたか打ち付けて「うっ…」としばし痛みに耐えた後顔を上げると、〈その人〉が目の前に立ってにやにやと笑っているではないか。そして

「とうとう捕まえたぜ。副長、さあ一緒にやろうじゃないか」

と言って副長の前にしゃがみ込む。

その人こそ、〈森上参謀長〉――。

 

森上参謀長の楽しみの一つに、『巡検後一升瓶を持ち、ふんどし一本で艦内をうろつき当直などの将兵嬢の度肝を抜いた後酒を少し飲ませる』という厄介なものがある。

「酒許す、酒保開け」の号令の後などその姿で艦内を闊歩すれば将兵嬢たちに取り囲まれ、参謀長自身も「無礼講だ、さあみんな飲め飲め」と大騒ぎするのだが、普段は将兵嬢の中には「あれはうちにはちいとばかり…恥ずかしくって。どこを見たらええんかわからんけえ」と言ってほほを染め、嫌がるものもいる。士官連中などは面白がっているが下士官兵嬢たちには当惑ものである。

そしてー

参謀長は着任間もない佐藤副長を自室に引きずり込んだ後、唐突に言ったのだ、

「佐藤中佐、私と一緒にふんどし一本で艦内を歩こう!」と。

それを聞いた佐藤副長は「いやです!そんなこと私は嫌です!だからずっとあなたに合わないようにしていたのに!」と荒い声を上げてしまっていた。そしてはっと気が付いて慌てて防暑服の襟を正すと軽く咳払いの後

「参謀長、どうして私が参謀長とふんどし一本で艦内を歩かねばならないのですか」

としかつめらしい顔で問うた。思いがけなく怒声を発してしまったバツの悪さを隠すためでもあった。すると参謀長はにたりと笑い

「そりゃ、佐藤さん。『大和』の掟だよ。ここに新しく着任した士官は皆私と一緒にふんどし一本で艦内を歩き回らねばいけないんだ」

と言った。佐藤副長はあきれた、といった風情で軽く頭を振ったあと

「そんな馬鹿な事おっしゃらないでください。そんなことをしたなんて私は野村中佐からは聞いていませんよ。ええ、これっぽっちもね」

と反論した。正直、暴力的にここに引きずり込まれて腹が立っているので自然、言葉もきつくなる。しかし森上参謀長はそんな佐藤副長を楽しそうに見つめて

「野村、いや今は山中だが、彼女は恥ずかしがりだから言わなかっただけだよ。あいつも最初は恥ずかしがってたけどやってみたら楽しいって言ってたぜ。それにほかの科長連中だってそうだよ。だからさ、佐藤さ~ん」

というなり副長につかみかかりその服を脱がしにかかった。

「や、やめてえー!」

佐藤副長の叫びが部屋中にとどろいたー

 

―その二人のすがたに、艦内将兵嬢たちは笑うに笑えず、しかし気の毒そうな表情をして二人を見送る。そう、二人とは森上参謀長と佐藤述子副長である。森上参謀長と佐藤副長はふんどし一本のあられもない姿で、参謀長は一升瓶を片手に陽気に「おお!みんな元気かあ?当直のものはしっかりやれよ、そうでないものは早めに寝ることだ。が、その前に私のこの酒を飲まないか?」と言いながら手近の下士官嬢を引き寄せその口に一升瓶を突っ込む。

「うぐぐ~~」

と目を白黒させている下士官嬢、その喉が一回グビッとなったのを聞くと参謀長は一升瓶を引き抜いて「美味かったかい?そうだろうそうだろう、参謀長の酒は美味かろう。そして今夜からは佐藤副長も一緒だ、さあみんな喜べ!」というなり、副長のふんどしのどこかをつかんだ。

佐藤副長が「いやっ、いけません」と叫んだが次の瞬間…

副長のふんどしが、ハラリと床に落ちた。

「キャーーー!」

叫んだのはその場の下士官嬢たちだけでなく佐藤副長本人、そしてちょうど来合わせた山口通信長と繁木航海長。

佐藤副長は顔を真っ赤にしてふんどしを拾い上げると一散に走り出してしまった。そして下士官嬢たちは頬を染めながら「副長…災難じゃったねえ」「ほうじゃねえ、あれはきついわい」などと言って佐藤副長を気遣っている。

山口通信長が

「森上参謀長、またなさったんですね。前に梨賀艦長に『金輪際やってはならん、やるなら一人でやれ』と言われていたのに」

と参謀長を咎めるような口調になり、繁木航海長も

「そうですよ、しかもその時の士官は航海科(うち)の樽美酒少尉だったんですから。まったく私あの時もし樽美酒少尉が『こんなことされるなら海軍をやめます』とか言ったらどうしようとさんざ気をもんだんですからね!本当にやめてくださいよ、佐藤副長がお気の毒ですよ」

と言ってふくれた。

しかし参謀長は全く意に介さずへらへらと笑いながら

「私のこのふんどし一本艦内旅行の洗礼を受けて初めて『大和』の士官となるのだ!これを恥ずかしがってるようじゃまだ一人前じゃないなあ。ま、佐藤中佐もゆっくり『大和』の士官にしてやろうね~」

と笑う。

山口通信長、繁木航海長はそろって深いため息をついた…

 

佐藤副長は、床に落ちたふんどしを拾い上げて半泣きになりながら廊下を走った。巡検が終わり、当直に立つものや眠るもの、そっと起きて私用を足すものなどがいる時間帯。そうした人々の目に触れはしまいかと恐れながらラッタルの下でふんどしを急いで締め直し、裸の胸を両手で抱えるようにして周囲を見回した。

(誰も来ないな…行こう!)

そっと立ち上がり床を蹴って走ろうとしたその背中に

「おやぁ!気合いが入っとるではないですかあ!」

「熱くなってますねえ副長―」

と二つの声がぶつけられた。はっとして振り返るとそこには浜口機関長と松岡中尉が満面の笑みをたたえて立っていた。

「浜口…機関長。松岡中尉…ですね」

そういう佐藤副長の瞳が潤みだし、涙が一粒落ちた。するとそれを合図のように涙が次々とこぼれ落ちていく。

「どうしました、副長?」

機関長が佐藤副長のはだかの肩に手をかけ尋ねた。松岡中尉は「ああそうか」と小さく言ったあと

「森上参謀長に『ふんどし一つで艦内を歩こう』とか言われましたね!はい図星ですね。それで副長はこんな姿でここにいらっしゃると見ましたよ」

といい、副長は下を向いたままうなずき浜口機関長は

「なんだまた参謀長の病気が出たんか!しょうもない人だなあ」

とあきれ顔で言い、

「森上参謀長はそれをするのが楽しみなんです。普段は一人で風呂上りにやるんですが新任の士官が来るとこの洗礼を受けさせるんですよ。艦長にもやめろと言われてるんですが、アリャもう病気の域です。佐藤副長にはお気の毒でした…でももう、誘われないとは思いますよ。たいがい一人に一回こっきり」

と慰めた。佐藤副長は裸の胸を腕で隠したまま浜口機関長を見つめて

「あの、もし知っていたら教えてほしいんですが…この洗礼を、野村中佐も受けたのでしょうか?」

と尋ねる。すると浜口機関長は楽しそうに大きな体をゆすって笑うと

「受けましたよ。しかしね、野村中佐…今は山中中佐ですが…は、歩かされる前に『そんな恥ずかしいことできますかあー!』って怒鳴ってなんと森上参謀長をぶん殴っちゃったんですよ」

と言ってなお笑う。ええっ、と驚いて佐藤副長は

「そんなことをして、野村、いや山中はお咎めを受けたでしょうに」

と心配げに言ったが、機関長はなお笑って

「いやいや、まったくおとがめなし。というか、その中佐の勇ましさに森上参謀長は惚れこんでしまったんですよ」

といい、松岡中尉が「熱くなってますねえ、山中中佐も参謀長も!」と感激し、佐藤副長は「なんと」と言って絶句した。その副長をやさしいまなざしで見つめ機関長は

「とんでもない洗礼を受けてしまいましたが、佐藤副長はこれですっかり『大和』の一員と認められたんですよ。まあこれきりでしょうからどうかご容赦を」

と森上参謀長のためにとりなしてやった。

「そうでしたか…」

と佐藤副長はつぶやいた、そのころにはもう胸を隠していた腕も解いている。そして「私は認められたんですね」と嬉しそうに言った。松岡中尉が「そうです!佐藤中佐、熱くなってくださいよー!」とラケットを振り回し、

「私もこの洗礼を受けましたよ!私の場合は喜んでふんどし一本になって艦内を参謀長とともに走りました。爽快でしたねえ~、みんなの驚く顔が新鮮でしたよ。出来たらまたやりたいくらいです」

といい、「熱くなれよー!」と叫ぶと二人に敬礼して走り去った。

「なんだありゃ」と機関長が苦笑し、副長は機関長にきちんと向き合うと

「機関長、ありがとうございました。私、大人げなかったですね」

と言ってほほ笑んだ。機関長は

「もう平気ですね。この艦にはさっきの松岡中尉みたいな変わり者もいますけども、少しづつ慣れていってください」

と励まし、副長は嬉しそうに笑った。

 

と…

廊下の向こうから何やらものすごい大声が沸き上がり、それはだんだん近づいてきた。

「なんだろう?」

副長と機関長がつぶやいたその時!

向こうから跳ねるように走ってきた人がいた。その人は裸の副長を見るなり「ウホー」と叫んでとびかかってきた。

「危ない副長!」

機関長が叫んだ。

次の瞬間、副長はとびかかってきた人に「でええい!」とすさまじいパンチを繰り出し、パンチはその『ひと』の鳩尾に見事に入った。

その場に昏倒したのはーー

「エガチャンじゃ、あん人がまた『大和』に侵入しよったで」「いつの間に来よったんかね」「いつもの格好じゃ、黒の股引に上は素っ裸じゃ」

下士官嬢たちが大騒ぎする中飛んできたふんどし一本の参謀長は、同じくふんどし一つの佐藤副長が静かにこぶしを収めて気絶しているエガチャンを見下ろしているのを見て

「うわあ…危なかったな私。野村に殴られたときも結構堪えたが…今回やられたら命がなかったかも」

とポツリ言ったのだった。

そのそばで機関長は呆然として

「さすがこれこそ『大和』の副長ですな」

とつぶやいていた。

数分後騒ぎを聞きつけて梨賀艦長がすっ飛んできたが佐藤副長が撃退したと聞いてびっくりするやら喜ぶやら。そしてふんどし一本の姿を見て

「佐藤さんも洗礼を受けましたね、森上の。でもこんなこともうしなくて結構ですからね、お嫁入りに差し支えますから」

と言って副長は「嫁入りに!?はい、もう絶対しません」と答えたのだった。

 

森上参謀長が新任の士官に授ける迷惑千万な洗礼ではあったが、佐藤副長も受けてこれでさらに『大和』艦内は絆を深めるのだった。

が、梨賀艦長は「全くねえ、森上のやつあれは絶対やめろっていうのになかなか止めやしない!」と一人頭を抱えているという。

 

そして艦内への侵入者、エガチャンは尋問され「新しく来たという女の裸を見たがちっともそそられない、胸が小さい色気がない」と『大和』幹部の前で言い放ち、佐藤副長は激怒して「貴様もう一度ぶん殴られたいかあ!」とエガチャンを追い回したという…

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

変な洗礼でございました。

森上参謀長には風呂上りにふんどし一本で艦内徘徊の癖がありますが、まさかこれを新任の士官にまで強制していたとは。

佐藤副長は参謀長にこれをさせられるのが嫌でこそこそしていたわけですね。

そしてまた出たエガチャン…しょうもないひと。でもいきなりどつかれて気の毒ではありましたな(-_-;)

 

次回、内地に帰った山中夫妻のお話です! 

「間宮羊羹」キャラ付き^^!
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副長「洗礼」を受ける 1

2016.06.12(09:49) 1102

すっかり女ばかりの『大和』になじんだ佐藤副長であったがどうも最近挙動不審なところがある――

 

乗り組み将兵嬢たちもすっかり佐藤副長になじんで、艦長ほかの幹部たちもほっと胸をなでおろしているこの頃である。佐藤副長はハッシー・デ・ラ・マツコ、トメキチ、そしてニャマトとも心を通じ合わせ早くも三匹は副長の腰ぎんちゃくのようになり、松岡中尉を「あなたたたたちは私の大事なお友達なんですから副長に鞍替えしたらいけませんよ、あなたたたたち熱くなりすぎです!」と嘆く場面さえあった。

副長はそんな松岡中尉に「すまないねえ松岡中尉。でもこの子たちとてもいいこなんでね、甲板士官の役割もできそうなくらいだよ。藤村少尉と組ませたいくらいだわ」と言ってさらに松岡を慌てさせることもあった。

 

そんな、佐藤副長であるがどうもここ数日その挙動がおかしい。

周囲をきょろきょろと見まわして今まで以上の速足で廊下を駆け抜けラッタルを駆け上る。そして目的の場所についても常に背後を気にしているようだ。

さすがのマツコたちも

「変ねえ佐藤さん。何をあんなに気にしてるのかしら」

と言って佐藤副長に聞き出そうとするが「いや…何でもないよ。君たちの見間違いじゃないかな」と笑っているだけ。

マツコたちはそれでも

「何か変よね。追っかけられてるみたいな気がしない?」

と言っては首をひねる。

副長の挙動不審には多くの乗り組み将兵嬢もそろそろ気が付き始めている。

機銃の長妻兵曹も、後ろを振り返りあるいは頭上を気にしながら行く佐藤副長を見て

「副長絶対へんじゃわ。あん人がここに来てからあがいな行動せんかったのに、なんでここにきて突然に?こりゃなんかあるんじゃわ…もしかしたらまたこの艦内に妖怪が出たんかいな!」

と言って周囲の兵隊嬢たちは軽い恐慌に陥ったが、辻本上水が工作科の水木しげこ二等兵曹のもとに走り

「水木兵曹、艦内に南方妖怪なんぞの類はおらんかね?」

と聞きに行き、工作科の居住区で何やらしていた水木兵曹は

「なんぞ用かい?――あなた今の駄洒落解りましたか?妖怪と用かい。わかったでしょう、ワハハハ」

と笑ったあとまじめな顔になり

「うーん。今のところまったくと言っていいほど気配はないですが。何か不審なものでも来ましたかね?もし変なもの見たりしても手出しちゃいけませんよ。憑りつかれますからねえ~ヘヘヘ」

と気味悪く笑い、辻本上水はなんだかぞっとしながら

「そうですか。ならいいんです。いや別におかしなものなんぞ見とりませんけえ安心してつかあさい。はい、何かおかしなものを見たら必ず水木兵曹にご相談したしますけえ」

と急いでその場を走り去ってきた。

皆が首をひねる事態に、だんだんとなってきた…

 

その佐藤副長、きょうも何者かに追われるようにして第一艦橋から防空指揮所までやってきた。ちょうど居合わせた桜本兵曹が

「副長!」

と敬礼したのへ佐藤副長も丁寧な返礼をした後、周囲をきょろきょろしている。桜本兵曹はかすかに不審そうな表情になって

「どうかなさいましたか?」

と尋ねた。その表情を見て取った佐藤副長は慌てて背筋を伸ばし威厳を保つとエヘンと咳払いをした後

「どうもしないよ…いやだなあ。私が何か不審そうに見えるかね?」

と言ってワハハと笑ったがその笑いはどこからどう聞いても作り笑いで本当のものではない。桜本兵曹はさらに佐藤副長を見つめた。

ぎょっとして佐藤副長は

「そう見えるならばだ。私は久しぶりの『大和』がどこか前とは変わっていまいかとみているだけなんだよ。…兵曹には私が妙な雰囲気に見えますか?」

といよいよ落ち着いて見えるように答えた。

「見えます」

と桜本兵曹は即答し、佐藤副長は(いかん!この子に見抜かれた)と焦った。佐藤副長はいよいよ焦る。桜本兵曹は

「副長、うちら下士官兵の分際で…とお思いでしょうが副長の心配や悩みはうちら『大和』乗組員すべてのものじゃと思うてます。なんぞあったら早う、誰かにお話ししてつかあさい。願います」

と心底心配そうに語り、副長は感激した。そして

「ありがとう。ええと…桜本兵曹。大丈夫心配ないよ、何かあったらきちんと艦長にご相談するからね。ありがとう心配してくれて」

と言ってそこを辞した。副長に敬礼しながら桜本兵曹は(なんか…やっぱし変じゃ。なんぞ起こらんか心配じゃわ)と思う。

 

それから間もなくのある晩。

副長はいつも通りの巡検を終え、最上甲板で掌長たちとの明日の打ち合わせを済ませた後散開を命じた。皆がそれぞれの場所に戻り、副長も(さ、急いで部屋に戻らないと)と思い急ぎ足で露天甲板から立ち去ろうとした。その時ちらと見上げたトレーラーの夜空には全天、細かい宝石をまき散らしたような星々がきらめいて副長は足をとめ、それに見とれた。

(またこの素晴らしい夜空を見られるとは)

そう思って彼女の瞳は星空に吸い寄せられ、見つめる瞳に星を宿す。

その時。

副長の両肩を背後からがしっとつかんだものがいた。その力ものすごく、

「ギャッ」

副長が叫びをあげた。抗おうとする間もなく、副長は何物かによって艦内に引きずり込まれていったのであった。叫ぼうとした口をしっかり塞がれて…

  (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・

一体何が起きた、女だらけの『大和』艦内!佐藤副長に誰かが危害を加えようとでもいうのでしょうか。彼女が挙動不審だった理由が次回明らかになりますが艦内に引きずり込まれた佐藤さん…果たして無事なのでしょうか??

 

「海軍兵徴募」のポスターです。昨年だったか発売の雑誌の付録についていました。

これを見て「行くぞ!」と応募した少年たちも多かったことでしょうね。彼らはその後どうしたでしょうか…

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2016年06月
  1. 夫婦凱旋 3(06/26)
  2. 夫婦凱旋 2(06/24)
  3. 夫婦凱旋 1(06/19)
  4. 副長、「洗礼」を受ける 2〈解決編〉(06/15)
  5. 副長「洗礼」を受ける 1(06/12)
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