魅せられて二兎を追う 4

桜本兵曹不在の晩、また騒動が起きたーー

 

その晩の防空指揮所の当直は左舷石川兵曹、右舷亀井上水であったが時間になっても亀井上水が現れないのに石川兵曹が腹を立てた。彼女は第一艦橋につながる伝声管に

「亀井上水当直時間を過ぎても来ませんッ!」

と怒鳴ったのだ。ちょうどその時第一艦橋にいたのは繁木航海長でその尋常ならざる大声に航海長はびっくりして指揮所に上がってきた。そして怒り心頭で足踏み鳴らして怒る石川兵曹の話を聞いた繁木航海長は

「航海科亀井上水を探せ」

と怒鳴り、やがて亀井上水が麻生分隊士に引き立てられて第一艦橋に引きずられてきた。松岡分隊長もついてきている。麻生分隊士は床に投げ出すようにして亀井上水を航海長の前に出した。その後ろには石川兵曹がいて大変怒っている。

繁木航海長は亀井上水に

「亀井上水、なぜ当直時間を厳守しない?」

と厳しい声で詰問した。亀井上水は当惑したような表情で

「今は作戦中でも無いけえ、そんとに厳密にせんでもええ。そういわれました」

と言った。松岡中尉の目がきらり光って「誰が?誰がそんなことを言いました?」ときつい語調で言った。手にしたラケットを持ち替えて、ぶん殴りそうな気配がする。さすがに亀井上水もびくっと身を引き締めると

「だ、誰が…誰が言うたか…その…あの」

としどろもどろになった。その様子を見ていた石川兵曹が亀井を見据えて

「貴様の班長じゃろう?小泉兵曹じゃろうが、うちは知っとるで」

と冷たい声音で言った。亀井の瞳がたじろいだように泳いで松岡中尉、麻生分隊士は「やはりそうか」と言った。繁木航海長も話を聞いていたので

「亀井上水、小泉兵曹がそういったのだな」

と腕を組み怖い顔で問うた。亀井上水は航海長に問い詰められて観念したか、

「はい。小泉兵曹、最近なんぞぼーとしてらして、当直時間にうちと一緒になってもあとからきんさることが多くなったんです。ほいでも班長がそがいなことでは思うてうちも一応班長に注意したんじゃが、班長『今は作戦もなきゃ敵も居らんけえそんとに必死にやらんでもええよ。きっと上の人たちもそうおもっとりんさるけえ亀井もちいと楽にしたらええ』言ったがです。じゃけえうち、班長がそげえに言うならええか思うて」

と言って最後のほうはうつむいた。

「あほか、いくらなんでもそんとな嘘を信じるなん、亀井貴様もおかしいで?」

麻生分隊士は怒りをあらわにした。松岡分隊長が

「小泉君はいけないねえ、それでもって亀井君を注意した石川兵曹を殴ったりして。石川兵曹あなたとんでもない目に遭いましたねえ…よし!航海長も麻生さんも小泉さんが明日帰艦したらどういうことかしっかり確かめましょうや」

と言って麻生分隊士は

「分隊長。桜本兵曹が小泉兵曹の妙なわけを探りに行っとります。彼女も明日には戻りますけえその話を聞いてからにしませんか?そのほうが対処しやすい思いますが」

と言って繁木航海長はうなずいた。そして「桜本兵曹の話を聞いたうえで小泉兵曹を詰問しなければね、そして必要とあれば副長にもお話申しあげねば」と言った。麻生分隊士の顔が緊張で引き締まった、副長に話が行けばもしかしたら自分が監督不行き届きで副長から何らかの処罰を与えられる可能性もあるからだ。

それを悟った松岡分隊長が

「大丈夫だよ麻生さん。あなたに累が及ばないように私も頑張るからね、心配しないで」

と言って分隊士は感激した。繁木航海長が

「すべては明日ということだね。―亀井上水、あなた今日今この時からその気持ち態度を改めないと退艦ということもあるからな。その辺しっかり考えるように、いいな」

と亀井上水に厳しく言い亀井はすっかりしなだれて「…はいわかりました」と言って一礼するとその場を出た。

 

翌朝早く、桜本兵曹と長妻兵曹は上陸桟橋で迎えのランチを待っていた。

他の艦の下士官兵たちも集まりだしていてにぎやかである。長妻兵曹が小さな声で

「小泉のやつ早う来んと間に合わんで…大丈夫かあいつ」

と心配したが桜本兵曹の「来た!」と小さな叫びに、「わかっとろう?昨夜のことは決して言うんじゃないで」と念を押し桜本兵曹は

「わかっとる。心配せんでええよ」

と言って、近づいてきた小泉兵曹に「ありゃ、小泉兵曹。ここで逢うとはねえ」と何気なく話しかけた。しかし、小泉兵曹の表情は決して柔らかくはない。

じろりと桜本兵曹を見てフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた。そして「話かけんない、このええかっこしいのおぼこ娘が」とつぶやいた。それを長妻兵曹は聞き逃さず

「なんじゃと貴様、まだこないだのこと根に持っとってか?ええ加減にせえや」

とうなった。桜本兵曹が周囲を慮って「長妻兵曹、ええですけえ」と言って押しとどめたが長妻兵曹は怖い顔で小泉をにらんで

「今は収めたるがな。あとでちいと顔貸せえや」

というとこれも「フン!」とそっぽを向いた。その二人の狭間で(はあ…もうこがいなんいやじゃわ)とため息つくオトメチャンである。

オトメチャンこそいい迷惑であった、まさか小泉兵曹のあんな痴態を見せられるとは思ってもいなかった。話には聞いていて、いくらおぼこちゃんと呼ばれる自分でもそれなりにそっちの知識もついていたと思っていたが…(甘かった)。

アッチの世界はとんでもなく奥が深いものだとオトメチャンは思い知って(これはほんまに棗大尉に教えを請わないけんかも知らんなあ)と思い始めている。

そんなオトメチャンの思いを載せて、やがてやってきたランチはまっすぐに『大和』へと青い海を走り出す――

 

帰艦したオトメチャンを待ち構えていたのは繁木航海長、松岡分隊長、麻生分隊士そして石川兵曹である。この四人はオトメチャンが帰艦してくるとすぐにその身を航海長の部屋に押し込んだ。

驚くオトメチャンに、三人の士官嬢と一人の下士官嬢は急き込んで小泉の怠惰で不機嫌の原因を尋ねた。そこでオトメチャンは昨晩の恥ずかしいことを語った。さすがに四人もほほを赤らめたが「それで、その行為のどこに原因があると思うんだね?」という繁木航海長の言葉に桜本兵曹はややうつむき加減でちょっとの間考えた後、口を開いたーー

 

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・

また騒動の起きていた『大和』艦内。亀井上水の言い訳は到底許されるものではないはずなのに、小泉兵曹はいったい何を考えていたのでしょう…次回明らかになるその理由とは!

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魅せられて二兎を追う 3

オトメチャンののどが「ひえっ」と鳴ったーー

 

長妻兵曹は「ここ、ここに目え押し付けてみい」と押し入れの壁にオトメチャンの頭を押し付けた。細い細い隙間があって、でもしかし向こうの様子がよく見える隙間である。

その向こうで…小泉兵曹があられもない格好で見世の男性にまたがっているのが見えた。小泉兵曹は普段とは全く違う表情と声音で男性と戯れている。

「長妻兵曹、あれ、ほんまに小泉兵曹なん?」

とオトメチャンは小さな声で尋ねた。もうのどがカラカラになって咳が出そうなのを我慢している。

長妻兵曹はああ、と言って「ほうじゃ。おなごでも男でも〈あの時〉は全く違う人間になるんじゃ。――オトメチャン、あんたじゃってほうじゃ」と続け、オトメチャンは「うちも…か」と複雑な表情になった。長妻兵曹もオトメチャンの横に窮屈な格好で座り込んで小泉兵曹の痴態を見つめる。

オトメチャンは(ほいでもうち、いやじゃわ…人のこんなところじーっと見るなん)と居心地悪い思いでいっぱいである。

だんだん小泉兵曹と相方の男性の行為は激しさを増し、小泉兵曹は彼の下になると大きく足を広げ卑猥な言葉を叫びながら彼を迎え入れた。男性は小泉の乳房に顔をうずめその先を執拗にしかし、やさしく舐る。小泉兵曹の喘ぎが一層激しくなり、男性の動きがせわしくなった。見ているオトメチャンはもう恥ずかしくてたまらなくなってしまい押し入れから出ようとしたときその手を長妻兵曹がしっかりつかみ

「見とけ!あんたも許嫁のおんなるんじゃろう?ならしっかり見とけ。男と女はこげえなことするんじゃ、知らんで結婚したらあんた困るで」

とささやいた。ほいでも、と言いかけたオトメチャンに長妻兵曹は壁に顔を押し当てたまま

「ええから。知って損はないで。知っといたらその時あわてんで済む」

とだけ言った。その向こうから小泉の官能の叫びが伝わってくる…

 

二人の愛の行為は一時間半ほど続いてやがて終わった。長妻兵曹は「あん人、なかなかええな。どうねオトメチャン、見ていて優しい思わんかった?」とオトメチャンに尋ねた、がオトメチャンは暗い仲にも分かるほどほほを染めている。

優しく体を離した男性に小泉兵曹は

「ありがとう、きょうもえかったわ…ほいでうち、帰艦までにちいと眠りたいけえ。ほいで済まんが女将を呼んでくれかのう」

と言って男性は「わかりました。ではまたそのうちね、おやすみなさい」というと浴衣をひっかけ小泉に接吻してから出て行った。小泉兵曹は掛け布団にくるまっていたがやがて女将が部屋を訪ねてきたのへ何やらささやき、女将はうなずくとふすまを閉めていった。

「なんじゃろう」とオトメチャンが独り言つとまもなく小泉の部屋に誰かが来た。長妻兵曹は「飯か?いやそがいなことは…」と言ったそのすぐあと、入ってきたのは先ほどとは別の男性だった。

「なんねあん人は…まさか小泉の野郎」と長妻兵曹がごく小さくだったが叫び声をあげオトメチャンは「なんです?まさかなんですのん?」と長妻の顔を見た。

長妻兵曹は「まさかはまさかじゃ。ええから早う見てみいや」と壁に顔を押し付けたままいう。オトメチャンがしかたなく壁の隙間に目を当てると。

「ひえっ!」

もう一度オトメチャンの喉が鳴った。小泉兵曹はその男性とまた抱き合っているではないか。今度の男性は先ほどの人より筋肉質でたくましい。ゆえにか、その行為もさらに激しい。二人の肉体が打ち合う音が強く弱く響き、小泉はさっきよりも激しく悶えている。そして今度は言葉もないようである、ただ喘ぎ声だけが響いてくる。

「えらい激しいのう、あがいにすさまじいんは見たことも聞いたこともないで。むろん、したこともじゃ」

と長妻兵曹はつぶやき、オトメチャンはもう恥ずかしくて身の置き所がない。

(早う終わらんかなあ…うちこげえなものずっと見とるんは苦痛じゃわ)

しかも狭い場所での〈検分〉のためか足がしびれてき始めた。眼も疲れてきた。(はあ難儀じゃわ。戦闘やら航海で見張しとるほうがずうっと楽じゃわ)

そして音をたてないように姿勢を変えながらの約二時間。

小泉兵曹が背中をそらし、「いけ―ン…うち、もういけんわあ~」と叫び、男性は「もういけんですか?もういけんのか?―ほんならこれでどうじゃ!」というなり大きく小泉兵曹を一突きした。小泉兵曹はなんともいえない声を上げてぐったりとして男性もうめき声をあげると彼女に重なってー終わった。

長妻とオトメチャンの見つめる先には二人重なったままでハアハアと大きく息をついている小泉と男性の姿が。

小泉は男性の背中にもう一度手を回すと「ありがとう…えかったわあ。うちもう、壊れてしまいそうじゃった」と言って笑った。男性も「そげえに良かったですか?うれしいなあ、そげえに言ってもらえると男冥利に尽きる、言うもんですわい」と笑った。

そのあと男性は「ほいじゃあおやすみなさい。ゆっくり眠ってつかあさいね」というとそっと部屋を出て行った。

 

長妻兵曹は押し入れから這い出しながら

「えらいものを見てしもうたな。小泉のやつあがいに絶倫じゃったとは。おなごの絶倫、見たことがなかったけえ勉強になったわい」

と言って後に続くオトメチャンを見るとこれがすっかり魂を抜かれたような顔になってへたり込んでいる。長妻兵曹はさすがに心配になって

「おいオトメチャン、大丈夫ね?」

と声をかけその両肩をつかんで揺すった。オトメチャンは我に返ったようにはっとした顔になると

「うち…えらいもんを見てしまいましたな」

と言った。長妻がうなずくとオトメチャンは少し考え込むような顔になったあと

「小泉は…うちが思うに二人の男の人を天秤にかけとるんじゃないでしょうかねえ。言うてうちは男の人との経験がないけえなんともいえんのですが、長妻兵曹も見た通りあの二人の男の人、全然別の感じでしたよねえ。じゃけえ小泉、そのどっちがええか迷うとるんではないかと」

と言った。長妻兵曹は目を大きく見開いて

「オトメチャンの観察眼は鋭いのう!いやあ、まったく経験がない言うてもオトメチャンには物事をじっくり観察して見極める眼ぇがあるとうちは見た!すごいでオトメチャン!」

と言ってオトメチャンを抱きしめた。

オトメチャンは「ほうでしょうか」と照れていたが

突然真顔になって長妻兵曹を見つめると

「ほいでも長妻兵曹、そんとなまったく艦のこととも関係ないことでいらついて軍務がおろそかになるなん帝国海軍軍人の風上にも置けませんね。なんとかせんといけんでしょう」

と言った。責任感にあふれた海軍下士官嬢に立ち返っているのに長妻兵曹は感動さえ覚えた。長妻兵曹は「ほうじゃな。ほんならオトメチャン、艦に帰ったらこのことをそっと分隊士にお話しせえ。そのうえで分隊士の意見を伺ごうて必要だとなったら分隊長にもお話して何とかしてもらわんといけんで?人にやつ当たったりぼっとして自分の班員の怠惰を見逃すなん、班長としてあり得んけえの。下手こいたら配置換えじゃ、いや配置換えならまだええ、艦を下ろされるかも知らんで?」

と言って二人はうなずき合った。

 

そんな話を艦の仲間が隣の部屋でしているとも知らない小泉兵曹は激しいまぐわいの余韻の残る布団の中で(ああ…うちはどうしたらええん?やさしい人とええことしながらも強いあん人にも魅かれとる。うちはどっちの人を愛したらええんじゃろう…ああ運命言うんは残酷じゃ。どうしてあの二人と出会ってしもうたんじゃろう…ああ)と悩んでいるのであった。

 

そして長妻兵曹とオトメチャンはその晩は、見世に泊まるだけの金を持っていなかったので料理の代金だけ払うと、下士官集会所の一室で眠ったのだった――

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・

オトメチャンにとっては衝撃の時間でした。しかも二回も見せられてしまって。彼女の心に与えた影響が心配ですがしかし彼女はしっかりした海軍下士官ですね。見るべきところを間違うことなく見ていました。

さあこの後どうなりますかご期待ください!

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魅せられて二兎を追う 2

桜本兵曹の頭に小泉兵曹の言葉が稲妻のように閃いたーー

 

小泉兵曹は言ったのだ、「ええなあ、一人をずっと愛せるおなごは」と。すると、(またか。小泉の不機嫌のもとはまた男の問題じゃな)とオトメチャンは気が付いた。そして苦々しい気持ちになって(それにしても今までにないことじゃな、あいつが人にあがいに八つ当たりするんは。これは普通じゃない、なんぞあるに違いない)と思った。

桜本兵曹は、別に小泉兵曹は一人勝手に不機嫌になるなら別にどうでもいいのであった、しかし今回は石川兵曹、しかも桜本兵曹のお気に入りの部下を愚弄されたという思いがあるからただでは置けないという気が強かった。

「どうしたらええかのう」

桜本兵曹は独り言ちた。そしてさすがにこれはだれかに相談しないとならんと思い当たり、(そっちの話ならやはり、あん人じゃろうなあ)とその日の自由時間に機銃分隊の長妻兵曹を訪ねた。長妻兵曹は一所懸命に手紙を書いていたがオトメチャンの訪いに嬉しそうに笑顔を見せて

「おお、オトメチャンじゃないね。うちを訪ねてくれるなん、珍しいねえ。さあこっち来いや」

と便箋を仕舞って手招きした。オトメチャンは「ほいじゃあお邪魔します」と言って機銃分隊の居住区に入った。その場にいた機銃員たちが「オトメチャンじゃ」「オトメチャンを間近で見るんはうち初めてじゃ」「綺麗なねえ」と口々に言うのがオトメチャンには恥ずかしかった。それらの将兵嬢の間をそっと歩いてオトメチャンは長妻兵曹のそばに座ると、きょうの小泉兵曹の話を言って聞かせた。

「うち、小泉が一人で勝手に怒ったり不機嫌になるんはちいとも構わんのじゃが、石川兵曹を悪者にして虐めるんは許せんけえ」

そういってその頬を膨らまして怒るオトメチャンをまぶしげに見つめながら長妻兵曹は

「そんとなことがあったんか…ほりゃあ穏やかでないのう。しかしうちも最近あいつと一緒に遊びに行かんけえ、ようわからんところもあるんじゃが、うーむ」

と言って腕を組んで考え込んだ。そして「ほうじゃ」と顔を上げてオトメチャンを見ると

「小泉が上陸したらな、あいつのあとをついて見世に入るんじゃ。言うて別に遊ばんでもええ。飯食うておりゃええ。ほいでな、小泉が男と寝るところを観察したらええんじゃ」

とオトメチャンにとってはとんでもなく恥ずかしい提案をした。長妻兵曹は

「そん時はうちも一緒に行くけえ、言えや?一人でないほうがええじゃろ?」

とこともなげに言い、オトメチャンは「ほいじゃあお願いします」と言ったのだった。

機銃の部屋を出ようとするオトメチャンに数人の下士官嬢たちがまとわりつき、「ねえなんの話したん?」「もうちいとここに居ってよ、ええじゃろ?」「うちらとお話しせん?暇じゃろ?」などと話しかけオトメチャンは「ほいじゃもうちいとだけ」とその場に腰を下ろす…

 

その数日後。

オトメチャンは長妻兵曹とともに上陸することになった。小泉兵曹もその日上陸組であったが乗り込むランチは別のものに「してください」と願い出て果たされた。オトメチャンは事前に松岡中尉と麻生分隊士に「小泉兵曹の不機嫌のわけを解き明かしに行かせてください。うちは石川兵曹が気の毒なけえ、どうかして知りたいんです」と説得し松岡中尉は

「特年兵君はなんて情に厚いんでしょうね。麻生さーんあなたもっと見習いなさい…というわけでわかりました。特年兵君の上陸を許しますからしっかり小泉兵曹の悪行を暴いてきなさい」

と快諾し麻生分隊士も

「それはええが…くれぐれも気ぃ付けてのう?男とその…あの…」

と言い淀み、松岡中尉は

「男と寝てはいけない、と言いたいんでしょう麻生さーん。あなたもっと熱くなってきちんと言わなきゃ特年兵君にわかんないじゃないですか」

と言い放ち、麻生分隊士は「そんとにはっきり言わんでもええじゃないですか、分隊長には恥じらい言うもんがないんですかのう!」と言い返し二人で言い合いになる場面もあった。

オトメチャンはそんな二人を押さえて

「分隊士、うちはそんとなことをしに行くんと違いますけえ安心してつかあさい。長妻兵曹とその見世とやらで飯を食うて小泉の様子を探るだけですけえ」

と言って麻生分隊士を安心させた。

そんな小さなすったもんだがあったが、桜本兵曹と長妻兵曹は上陸桟橋から街中へと歩き出していた。

二人はしばらく、街中を見て歩いてそして「そろそろころ合いの時間じゃ」という長妻兵曹の言葉で小泉兵曹の行ったと思われる見世に向かった。

 

「ここじゃ。小泉のよく使う見世」

そういって長妻兵曹が立ち止まり指さした見世は大きな造りの見世で〈なんで屋〉と看板には書かれていた。「ふーん、〈なんで屋〉さんね」

長妻兵曹は「ここは下士官がよう使う見世じゃ。料金が安いけえの」と笑った。

「ふーん、ほうなん…」

オトメチャンはそういって見世を見上げていたが長妻兵曹に「いくで」とつつかれて我に返った。長妻兵曹と桜本兵曹が見世に入ると女将が出てきて「まあ長妻さんお久しぶりです」と頭を下げた。長妻兵曹も敬礼したあと女将に何やらささやいて、女将もそっとささやき返す。長妻兵曹はうなずいて「さ、上がるで」と言ってオトメチャンに促して靴を脱いだ。その靴を下足番の男性が引き取り、二人は女将の先導に従って見世の中を行く。

 

こちらへどうぞ、と言われて入った部屋は八帖ほどの部屋で、こういう見世には縁のないオトメチャンは珍し気に見まわした。長妻兵曹は「ここで飯を食うたり酒飲んだりしての。そのあとそれぞれ男と別の部屋に行くんじゃ。あるいはここで…する」と言ってオトメチャンは「…する、ですか…」と言って複雑な表情になった。

そして表情を引き締めると

「そんとなことより長妻兵曹、ほんまに小泉兵曹はここに来るんでしょうねえ」

と尋ねた。長妻兵曹はうなずいて「ああ、もう来とってよ。今は別の部屋に居ってん、が、事を始めるときはここの隣の部屋に来るよう、頼んどいてあるけえ」と言ってにやり、笑った。

「ほうですか」とやや困ったような表情でオトメチャンは言って所在なさげにその場に座った。長妻兵曹も座りながら

「まあ楽にしんさいや。そのうち女将があれこれ持ってきてくれるじゃろ」

と言って二種軍装を上着を脱いで洋服掛けにかけた。オトメチャンは初めての場に緊張したか、身じろぎもしないで正座している。長妻兵曹はそれを見て苦笑して

「そんとに四角く座らんでええよ。楽にしんさいや、見合いの場じゃないんじゃけえ」

といい、オトメチャンは「そうじゃね」とぎこちなく笑って胡坐に座りなおした。

 

そうこうするうち、仲居たちが料理を運んできた。その豪華さにオトメチャンは目を瞠って「こげえに豪勢なお料理、うちがいただいてええんかのう?」と長妻兵曹を見て言った。長妻はまた苦笑しながら小さな声で

「こげえな料理、普通じゃわここでは。そんとに驚きなさんな。さ、早いとこ食ってしまわんと、この後仕事が待っとるで」

といい、オトメチャンはまじめな顔でうなずくと汁椀のふたを取った。

 

二人が料理を食べ終え、膨らんだ腹を撫でていると外廊下を聞いたことのある声が男性の声とともに通ってゆく。そして隣の部屋に入ったようだ。

「小泉じゃ、来たで~」

長妻兵曹が妙にうきうきした、それでいて声のトーンを押さえてオトメチャンの肩をたたくとふすまを指さし「ここ、開けえ」と言ってオトメチャンはふすまを開けた。長妻は座卓を部屋の隅に押しやった。ふすまを開けたらそこは押し入れで布団が二組ほど入っていた。長妻兵曹は「その布団、ここに出せや」と言ってオトメチャンは二組の布団を出すと布団をそれぞれ延べて枕を置き、掛け布団を広げた。「布団敷けたで」というオトメチャンに「なにしよんね?」という長妻兵曹、その兵曹にオトメチャンは「布団敷くんじゃろ?じゃけえここに出したんじゃろ?」と言って長妻兵曹はあちゃ~、と片手を額に当てて天を仰ぐ。

「ほうじゃないわい!何が悲しゅうてここで二人で寝ないけんのじゃ。ええか布団を出したらうちらが押し入れに入るんじゃ。ええか、ほら入れ」

長妻兵曹はオトメチャンの背中をつかんで押し入れに押し込み、自分も入った。そして押し入れの壁の一か所を指して

「ほい。ここに目ぇ当ててみい」

と言ってオトメチャンはそこにそっと片目を押し当てた。

「ひえっ」

オトメチャンの喉が鳴ったーー

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・

不機嫌な、そして八つ当たり小泉兵曹の謎を解くべく桜本オトメチャンは長妻兵曹とともに潜入捜査?を開始しました。さてどうなりますか、次回をご期待ください!


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魅せられて二兎を追う 1

佐藤副長が着任して十日以上が経ったーー

 

ようやく「女だらけの大和」乗り組みの将兵嬢も佐藤副長に慣れ、佐藤副長も皆に慣れ、落ち着いた艦内が戻ってきたようだ。

そんなある日、桜本兵曹は第一艦橋で勤務を終えるとき交代の小泉兵曹とちょっとした言い争いをした。

事の発端は、防空指揮所での小泉兵曹の班の亀井上水の勤務態度がよろしくないと桜本兵曹オトメチャンが意見をしたところから始まった。

「なあ小泉兵曹、亀井上水はちいとだらしないんと違うか?交代の時間にちょくちょく遅れてきよるし交代のもんが来んうちに戻ろうとしよるらしいで?そんとなことで何ぞあったとき対応できんじゃろうが、小泉からきちっと言わんといけんで?右舷の見張りの評判落としたら困るじゃろうが?右舷の不評は総じて『大和』の不評じゃ。小泉は班長なんじゃけえ、ちいと班の人間の様子を見たほうがええよ」

そういった桜本兵曹に小泉兵曹はなんだか面倒くさげに

「なんじゃねオトメチャン。うちに意見する気か!?右舷のことにくちばしを突っ込まんでほしいのう!いったいだれじゃ、そんとなことご注進するやつは」

と言って桜本兵曹をにらみつけた。

オトメチャンは

「誰でもよかろうが」

というと小泉兵曹はいきなりオトメチャンの防暑服の襟をつかんで左右に振り回し

「言わんか!誰じゃそんとなつまらんこといちいち告げ口するんは。どういうつもりなんじゃ!誰だか言わんか」

と怒鳴った。オトメチャンは小泉兵曹の手を襟から払いのけ

「言ったらどうするんね?貴様、『余計なこといいおって』いうてこうやって暴力ふるうんじゃろ?うちは大事な班員に手えだされとうないけえ、言わんで。そもそも貴様の部下が悪いんじゃけえの!貴様の部下ならきちんと教育するんが班長の役目じゃろうが!」

と言って上着をびっと引っ張ってしわを伸ばした。

小泉兵曹は桜本兵曹の顔をじっと見つめていたが「――じゃな」と言った。桜本兵曹は聞き取りかね「は?なんね?」と問うと小泉兵曹は大きな声で

「石川兵曹じゃな。貴様に告げ口したんは、あの野郎下士官になってからえらそうな態度とりおって、前々からなんやええ子ぶりおっていやなやろうじゃ思うとったがこのところどうも…。おい、桜本。貴様こそきちんと教育せえや、人のことなんぞあれこれ嗅ぎまわったり告げ口するよりてめえの頭のハエを追えってのう!」

というなりオトメチャンの肩をドンとばかりに突いて、オトメチャンはよろけた。がすぐに体勢を立て直すと

「小泉兵曹貴様ちいと変じゃで?前にはそんとなことこれっぽっちも言わんかったんに、なんで今になってそげえにいうんじゃね?石川兵曹が問題なんとは違うな、さては。何があったか言うてみんか」

と小泉の瞳の奥を見つめて言った。

しかし小泉兵曹はそっぽを向くと

「なんもないわい。ーいうかオトメチャン、貴様最近ずいぶん大人になったのう。さては許嫁の男と、大人になるようなことしたんじゃろ。ええなあ、一人をずっと愛せるおなごは」

と言って「ほんなら交代じゃ。異常なしじゃな」というとオトメチャンを押しのけて双眼鏡についた。オトメチャンはため息を一つつくとその背中をちらと見た後、艦橋を出て行った。そして(このことは石川兵曹に言うといたほうがええな、小泉のやつ何をしでかすかわかったもんやない。ほうじゃ分隊士のお耳も入れといたほうがええな)と思った。

小泉兵曹は去り際のオトメチャンの背中をきつい目つきでにらんだ。

 

騒動はその晩の巡検後、航海科の居住区で起こった。

小泉兵曹がいきなり石川兵曹をぶん殴ったのだった。「貴様いらんこと言うなあ!」と怒鳴って。桜本兵曹、酒井水兵長、そしてちょうど居住区前を通りかかった樽美酒少尉が駆けつけ

「なにをする小泉兵曹、艦内での喧嘩はご法度だ」

と叫んで取り押さえた。小泉兵曹は「放せ、放してつかあさい」と叫びながらも樽美酒少尉に組み敷かれておとなしくなった。

桜本兵曹は口元から血を流している石川兵曹のそばによって腰から手ぬぐいを外し「血がでとる…大丈夫か?」と口元の血をぬぐってやった。石川兵曹は「はい、平気です。ありがとうございます」というと頭がふらつくのか両手でひたいを押さえた。

酒井水兵長がケンパスを出してきて「ここに横になってつかあさい」と気を利かせた。桜本兵曹は、石川兵曹をそこに寝かせ

「話をしたばかりで、いきなりじゃったな。守ってやれんでごめんな」

と謝ると石川兵曹は「そげえなことないです、班長から話を聞いとってからこそこの程度で済んだと思うてます」と言って目を閉じた。めまいがするのかもしれない。

その向こうかわでは樽美酒少尉が小泉兵曹を詰問している。少尉は今まで見せたことがないような厳しい表情で小泉兵曹を問い詰めている。

そこに騒動を聞きつけた麻生分隊士、松岡中尉が走りこんできた。樽美酒少尉は二人に敬礼して自分が見た限りのことを話し、桜本兵曹も立ち上がって二人のもとへ行き今日昼間の小泉兵曹とのいざこざを語った。

麻生分隊士が松岡中尉を見て、中尉は小泉兵曹の背中をつかむと部屋から引き出した。麻生分隊士が慌てて後を追う。その場の皆も部屋の入口まで小走りにその様子を見に行く。

松岡分隊長は、麻生分隊士から昼間桜本兵曹と小泉兵曹の小さな争いを聞いていたので

「小泉さん、あなた石川兵曹をそんなに目の敵にする本当の理由は何ですかねえ?私が考えるに、あなたの言った理由、本物じゃない気がするんですよねえ。これは私の当て推量ですがあなた、ほかに大きな悩みがあってそれを石川さんにすり替えただけじゃないですか?だとしたらあなた、石川さんは被害者でしょう?本当のことをいったんさい?」

と言葉は優しげだが見つめる視線は大変に厳しい。背中をつかまれたままの小泉兵曹、ずっとうつむいていたが突如として顔を上げると

「申し訳ございません、こげえな騒ぎを起こしてしもうて。うちは自分の班のものを桜本兵曹に指摘されてちいと腹が立っただけです。うちの監督不行き届きを桜本兵曹に言われ単に腹が立ってしもうて。石川兵曹にはすまんことしてしまいました、謝ります」

と言って松岡分隊長、そして麻生分隊士樽美酒少尉を見た。

松岡中尉が小泉兵曹をつかんでいた手を緩めると、兵曹は一礼しあっという間に走り去ってしまった。

桜本兵曹はその様子を見て(なんだかへんじゃのう、今まで小泉はあがいなことで腹を立てたり人に暴力ふるったりせんかったのに。ほかになんぞ理由があるんと違うかのう?どうも妙じゃ)と感じている。

その時、オトメチャンの頭の中を稲妻のように走った小泉兵曹の言葉があった。

(まさか、小泉のやつ…)

オトメチャンはまさかの思いに立ち尽くしていた――

   (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・

今までなかった桜本オトメチャンと小泉兵曹のいざこざ、そしてそれは小泉から石川兵曹への暴力となりました。いったいなにが彼女をそうさせたのでしょう、そしてオトメチャンの頭にひらめいた言葉とは?次回をお楽しみに。


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佐藤副長が着任して十日以上が経ったーー

 

ようやく「女だらけの大和」乗り組みの将兵嬢も佐藤副長に慣れ、佐藤副長も皆に慣れ、落ち着いた艦内が戻ってきたようだ。

そんなある日、桜本兵曹は第一艦橋で勤務を終えるとき交代の小泉兵曹とちょっとした言い争いをした。

事の発端は、防空指揮所での小泉兵曹の班の亀井上水の勤務態度がよろしくないと桜本兵曹オトメチャンが意見をしたところから始まった。

「なあ小泉兵曹、亀井上水はちいとだらしないんと違うか?交代の時間にちょくちょく遅れてきよるし交代のもんが来んうちに戻ろうとしよるらしいで?そんとなことで何ぞあったとき対応できんじゃろうが、小泉からきちっと言わんといけんで?右舷の見張りの評判落としたら困るじゃろうが?右舷の不評は総じて『大和』の不評じゃ。小泉は班長なんじゃけえ、ちいと班の人間の様子を見たほうがええよ」

そういった桜本兵曹に小泉兵曹はなんだか面倒くさげに

「なんじゃねオトメチャン。うちに意見する気か!?右舷のことにくちばしを突っ込まんでほしいのう!いったいだれじゃ、そんとなことご注進するやつは」

と言って桜本兵曹をにらみつけた。

オトメチャンは

「誰でもよかろうが」

というと小泉兵曹はいきなりオトメチャンの防暑服の襟をつかんで左右に振り回し

「言わんか!誰じゃそんとなつまらんこといちいち告げ口するんは。どういうつもりなんじゃ!誰だか言わんか」

と怒鳴った。オトメチャンは小泉兵曹の手を襟から払いのけ

「言ったらどうするんね?貴様、『余計なこといいおって』いうてこうやって暴力ふるうんじゃろ?うちは大事な班員に手えだされとうないけえ、言わんで。そもそも貴様の部下が悪いんじゃけえの!貴様の部下ならきちんと教育するんが班長の役目じゃろうが!」

と言って上着をびっと引っ張ってしわを伸ばした。

小泉兵曹は桜本兵曹の顔をじっと見つめていたが「――じゃな」と言った。桜本兵曹は聞き取りかね「は?なんね?」と問うと小泉兵曹は大きな声で

「石川兵曹じゃな。貴様に告げ口したんは、あの野郎下士官になってからえらそうな態度とりおって、前々からなんやええ子ぶりおっていやなやろうじゃ思うとったがこのところどうも…。おい、桜本。貴様こそきちんと教育せえや、人のことなんぞあれこれ嗅ぎまわったり告げ口するよりてめえの頭のハエを追えってのう!」

というなりオトメチャンの肩をドンとばかりに突いて、オトメチャンはよろけた。がすぐに体勢を立て直すと

「小泉兵曹貴様ちいと変じゃで?前にはそんとなことこれっぽっちも言わんかったんに、なんで今になってそげえにいうんじゃね?石川兵曹が問題なんとは違うな、さては。何があったか言うてみんか」

と小泉の瞳の奥を見つめて言った。

しかし小泉兵曹はそっぽを向くと

「なんもないわい。ーいうかオトメチャン、貴様最近ずいぶん大人になったのう。さては許嫁の男と、大人になるようなことしたんじゃろ。ええなあ、一人をずっと愛せるおなごは」

と言って「ほんなら交代じゃ。異常なしじゃな」というとオトメチャンを押しのけて双眼鏡についた。オトメチャンはため息を一つつくとその背中をちらと見た後、艦橋を出て行った。そして(このことは石川兵曹に言うといたほうがええな、小泉のやつ何をしでかすかわかったもんやない。ほうじゃ分隊士のお耳も入れといたほうがええな)と思った。

小泉兵曹は去り際のオトメチャンの背中をきつい目つきでにらんだ。

 

騒動はその晩の巡検後、航海科の居住区で起こった。

小泉兵曹がいきなり石川兵曹をぶん殴ったのだった。「貴様いらんこと言うなあ!」と怒鳴って。桜本兵曹、酒井水兵長、そしてちょうど居住区前を通りかかった樽美酒少尉が駆けつけ

「なにをする小泉兵曹、艦内での喧嘩はご法度だ」

と叫んで取り押さえた。小泉兵曹は「放せ、放してつかあさい」と叫びながらも樽美酒少尉に組み敷かれておとなしくなった。

桜本兵曹は口元から血を流している石川兵曹のそばによって腰から手ぬぐいを外し「血がでとる…大丈夫か?」と口元の血をぬぐってやった。石川兵曹は「はい、平気です。ありがとうございます」というと頭がふらつくのか両手でひたいを押さえた。

酒井水兵長がケンパスを出してきて「ここに横になってつかあさい」と気を利かせた。桜本兵曹は、石川兵曹をそこに寝かせ

「話をしたばかりで、いきなりじゃったな。守ってやれんでごめんな」

と謝ると石川兵曹は「そげえなことないです、班長から話を聞いとってからこそこの程度で済んだと思うてます」と言って目を閉じた。めまいがするのかもしれない。

その向こうかわでは樽美酒少尉が小泉兵曹を詰問している。少尉は今まで見せたことがないような厳しい表情で小泉兵曹を問い詰めている。

そこに騒動を聞きつけた麻生分隊士、松岡中尉が走りこんできた。樽美酒少尉は二人に敬礼して自分が見た限りのことを話し、桜本兵曹も立ち上がって二人のもとへ行き今日昼間の小泉兵曹とのいざこざを語った。

麻生分隊士が松岡中尉を見て、中尉は小泉兵曹の背中をつかむと部屋から引き出した。麻生分隊士が慌てて後を追う。その場の皆も部屋の入口まで小走りにその様子を見に行く。

松岡分隊長は、麻生分隊士から昼間桜本兵曹と小泉兵曹の小さな争いを聞いていたので

「小泉さん、あなた石川兵曹をそんなに目の敵にする本当の理由は何ですかねえ?私が考えるに、あなたの言った理由、本物じゃない気がするんですよねえ。これは私の当て推量ですがあなた、ほかに大きな悩みがあってそれを石川さんにすり替えただけじゃないですか?だとしたらあなた、石川さんは被害者でしょう?本当のことをいったんさい?」

と言葉は優しげだが見つめる視線は大変に厳しい。背中をつかまれたままの小泉兵曹、ずっとうつむいていたが突如として顔を上げると

「申し訳ございません、こげえな騒ぎを起こしてしもうて。うちは自分の班のものを桜本兵曹に指摘されてちいと腹が立っただけです。うちの監督不行き届きを桜本兵曹に言われ単に腹が立ってしもうて。石川兵曹にはすまんことしてしまいました、謝ります」

と言って松岡分隊長、そして麻生分隊士樽美酒少尉を見た。

松岡中尉が小泉兵曹をつかんでいた手を緩めると、兵曹は一礼しあっという間に走り去ってしまった。

桜本兵曹はその様子を見て(なんだかへんじゃのう、今まで小泉はあがいなことで腹を立てたり人に暴力ふるったりせんかったのに。ほかになんぞ理由があるんと違うかのう?どうも妙じゃ)と感じている。

その時、オトメチャンの頭の中を稲妻のように走った小泉兵曹の言葉があった。

(まさか、小泉のやつ…)

オトメチャンはまさかの思いに立ち尽くしていた――

   (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・

今までなかった桜本オトメチャンと小泉兵曹のいざこざ、そしてそれは小泉から石川兵曹への暴力となりました。いったいなにが彼女をそうさせたのでしょう、そしてオトメチャンの頭にひらめいた言葉とは?次回をお楽しみに。

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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