女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?

フラワーシャワー 2〈解決編〉

『大和』たちが〈飛行場砲撃作戦〉から無事帰還したのをハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチそしてニャマトは察知したーー

 

この三人は『大和』が戦闘に参加中にはトレーラー艦隊司令部に預けられていたのだった。梨賀艦長の海兵同期が司令部にいた伝手もあり三匹は「戦闘が終わって帰るまでここでいい子にしていなさい」と、梨賀艦長そして桜本兵曹が付き添って艦隊司令部に来たのだった。この二人が『大和』に帰るとき、三人は二階の司令室の窓に引っ付いて艦長と桜本兵曹の姿が見えなくなるまで見送っていた。桜本兵曹は振り返りたかったが梨賀艦長に「振り返ってはいけません。顔を合わすとかえってあの子たちがかわいそうですからね」と言われていたので必死に前を向いて歩いたのだった。

最初の二日ほどは、司令部の世話係も心配するほどげんなりしていた三匹だったが三日もすると元気になり始め、司令部の建物の中をのしのしと歩くほどになった。

すぐに人気者になった三人、司令のあとを厠までついて回ったり職員の机の上のお菓子を食べてしまったりと笑いを繰り広げた。

中には冗談交じりで

「ねえ君たち、いっそ司令部のほうに引っ越してこないか?悪くないと思うよ」

と問いかける士官嬢さえいた。が、マツコたちは

「ありがとうございます。でも私たち『大和』のみんなに拾ってもらった恩義があるもので」

と丁寧に断った。するとその士官嬢は笑って

「冗談だよ冗談、君たちは『大和』にとってなくてはならないものだというのはよく知っているよ。でもこれを縁にして時々は遊びにおいで」

と言ってくれた。マツコはその大きなくちばしで士官嬢の頭を挟み込み、トメキチは彼女の膝にピョンピョン飛びつき、ニャマトは彼女の二種軍装の軍袴を爪を使って這い上がり喜びを表した。

士官嬢は大笑いしながら 

「よしよし…やめてくれえ、くすぐったい!――さあ、一緒においで、おいしいお菓子があるよ」

と三匹を抱きかかえるようにして自室で菓子を与えたのだった。

 

『大和』たちが出撃して行って一週間ほどが経った晩トメキチは寝床にあてがわれた大きな箱の中でタオルにくるまりながら

「トメさんたちどうしてるかしら。もう戦闘は始まったのかしら」

とつぶやいた。ニャマトもトメキチのそばで「ニャマート、ニャニャ」という。マツコはカーテンの下から差し込む月明かりをじっと見つめながら

「そろそろね、明日明後日には始まるんじゃないかしら。ああ、心配だわあ…」

と言って大きなくちばしをカタカタ言わせた。

そして三人はいささか不安なままで十日ほどを過ごしたのだった。

そんな三人を司令部の皆は何かと気にかけて遊びに連れて行ったり夜寂しそうなときは当直の兵隊嬢たちが抱いて寝かせてくれた。

マツコたちはそれを大変な恩義と感じ始めていた。

そして、

「大戦果、大戦果だあー。飛行場攻撃が大成功だあ」

とラジオを聞いていた少佐が興奮して司令部の中を駆け巡り、マツコトメキチニャマトたちも一緒になって走り回った。だれ一人欠けることなくーもちろん空母や巡洋艦たちもー帰還してくるのを悟って動物三人組は跳ね回って喜んだ。

 

そして今日。

『大和』から梨賀艦長と桜本兵曹が迎えに来ると、司令本人がマツコたちに言って、三人は喜んだ。が、一抹の寂しさを感じたのも本当である。

「何か、お返しをしたいわね。でもあたしたちにできることってたかが知れてるわねえ…」

マツコは翼の先で頭を撫でつけて考え込んだ。トメキチもニャマトの顔を見ながら考えていたが「そうだマツコサン」と話しかけた。なあに、とその顔を向けたマツコにトメキチは

「さっきね、」

と庭で見た光景を話した。トメキチはちょっと用足しに庭に出たときあるものを見た。その光景に感激したトメキチはそれをみんなにしてあげたらどうかしら、というのである。マツコは大賛成、ニャマトも喜んで賛成し、庭に出た。

 

その日の午後、梨賀艦長は桜本兵曹を伴ってトレーラー艦隊司令部にやってきた。迎え出た司令と同期の大佐―月岡―に心から礼を述べ、

「あの連中いたずらしませんでしたか?」

と聞いてみた。これは桜本兵曹の心配でもあったが、司令も月岡大佐も笑って

「いや全く。却っていろいろと笑わせてもらいました。またぜひ遊びに来てほしいですよ」

と言ったので二人は安どした。

そして、艦長たちの前にやってきたマツコたち。トメキチは桜本兵曹に

「トメさん、ちょっとだけ待っていてください。それからここのみんなを呼んでほしいの」

と言って、司令部の総員が玄関前に集まった。

トメキチとニャマトはマツコの背中に乗ると、マツコが

「司令部のみなさん、お世話になりました。本当にありがとうございました!また遊びによらせていただきたいと思います…では、今回のお礼に!」

というなり宙に舞い上がった。

わあ、と皆が声を上げるとマツコは皆の頭上で旋回した。そしてトメキチがニャマトと一緒にマツコの肩にかけてあった袋からそれを撒いた…

 

それは司令部の庭に咲いていた真っ赤な花の花びら。トメキチはこれがひらひらと散り落ちるのを見て

「これをみんなにお礼代わりに撒くのよ、きっと喜ぶわ」と言って三人で一所懸命拾い集めたのだ。
ひとしきり花びらを撒いた後、マツコは元の玄関前に降り立った。

司令部の皆がわっとマツコたちを取り囲み口々に「ありがとう」「また来てね」「素敵な贈り物ありがとう」「街で見かけたら声かけてね」などと言って別れを惜しんだ。

梨賀艦長と桜本兵曹も、三人のこの〈贈り物〉に感慨を深くしていた。動物とはいえ、恩義を忘れないその心、(私たちも見習わねば)と思うのであった。

花びらの雨は、司令部の皆に強い印象を残し、語り草になるのである。

 

そして『大和』に帰った三人は、ここでも乗組員たちに囲まれて「ただいま」「ええ子にしとってかね?」「会いたかったわあ」ともみくちゃにされたのだった。

 

その話を診療所の病室で聞いた山中副長は

「まあ、あの子たちがそんなことを。いい子たちですね、ハシビロたちも蝙蝠さんたちも。フラワーシャワーというんですね、いい思い出になります」

とほほ笑んで横井診療所長に語ったのだった――

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

二つの〈フラワーシャワー〉でした。

マツコたちはしばらく寂しい様子でしたが司令部のみんなとも仲良くなれてよかった!そして素敵な恩返しも。

やっと落ち着いた今までの通りの生活が戻ってきます。




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フラワーシャワー 1

ナニサ諸島の飛行場砲撃作戦は大成功に終わったーー

 

各艦艇はトレーラーに戻り、通常業務につくもの、元の基地に帰るものなどそれぞれであった。その中で『瑞鶴』の貝塚艦長はリンガへ帰る前日の朝、トレーラー海軍診療所に山中次子中佐を見舞った。貝塚艦長は横井院長に案内され山中中佐の病室に向かった。病室のドアを院長がノックすると「どうぞ」と声がして、横井院長はドアを開けて「山中中佐、ご気分はいかがですか?-お客さまですよ」と声をかけた。

その日の中佐は、顔色は相変わらずよくないものの気分はいつもよりは良かったようでベッドの上に起き上がって本を読んでいたようだ。まあ、どなたでしょうと本を閉じた中佐に横井院長は

「ご紹介します、こちら空母『瑞鶴』の貝塚たけよ艦長です」

と貝塚艦長を紹介。山中中佐は「まあ、貝塚大佐!」と声を上げると掛け布団をはぐってベッドから降り立った。貝塚艦長は

「あ。いやそのままで結構ですよ…。山中中佐、こうしてお会いするのは初めてですね。空母『瑞鶴』艦長・貝塚たけよ海軍大佐です。このたびはご懐妊の由、おめでとうございます。どうぞお体いたわって、丈夫な御子のご出産をお祈りいたします」

とあいさつ。中佐はこのような姿で失礼いたします、と言ってから

「ありがとうございます。山中次子海軍中佐でございます。『瑞鶴』では夫の山中新矢海軍技術大佐がお世話になっております。しばらくはご厄介になると思いますがどうぞよろしくお願いいたします」

と頭を下げた。

貝塚艦長は「さあ、どうぞベッドに」と中佐の肩を抱くようにしてベッドに座らせた。申し訳ございません大佐、と山中中佐は恐縮した。中佐にとって、貝塚艦長は海軍兵学校では数期上の先輩である。その先輩に丁寧に扱ってもらって中佐は大変恐縮した。

中佐がベッドの上に落ち着くと横井院長は「ではごゆっくり」と部屋を出て行った。その院長に礼をした貝塚艦長、ドアが閉まると中佐に向いて

「今回の戦闘では、山中大佐・繁木少佐の施された『松岡式防御装置』がたいへんに功を奏したんですよ。飛行甲板の日の丸部分や、狙われやすい機銃座に装置を施していただいたんですが、すごいですねえ。『翔鶴』飛行甲板に投弾された敵の爆弾が、あの装置に当たって思いっきり跳ね返って、敵は自分の爆弾で撃墜されたんですからね…いやはや素晴らしい装置です」

と、戦闘中に見たあれこれを中佐に語った。

中佐はその詳細な〈戦闘報告〉にうなずいてみたり質問したりして時のたつのを忘れた、ついでに気分の悪さも忘れた。

 

話し出して二時間もたったころ、貝塚艦長は「今回…ご主人の山中大佐をこちらにお連れ出来なくて申し訳なかったです。リンガ司令部が残るようにと言ってきかないのですよ、ほかに見てほしい艦もあると言って」と謝った。

山中副長は「そうでしたか、夫も海軍工廠の技術者ですから、それは覚悟の上だと思います。そのうちきっと」と言って言葉を切って下を向いた。貝塚艦長は言葉を引き継いで

「そうです、遠からずきっと大佐はこちらにいらっしゃることでしょう。その日を楽しみに待っていてくださいね」

と言い、山中副長は嬉しそうにほほ笑んだ。

 

そんなころ『大和』では皆が飛行場砲撃作戦についてあれこれと思い出話に興じている。

長妻兵曹は

「すごかったのう、あの主砲の大音響。艦の中に居っても腹にこたえるようじゃったな。じゃけえ、砲撃食ろうた飛行場はたまらんかったじゃろうね」

とうなって腕を組んだ。増添兵曹も

「ほうじゃねえ。それに「金剛」「比叡」の主砲を食ろうてはいかにアメちゃんと言えどたまったmンじゃなかったろうねえ」

と言って二人はウフフとうれしそうに笑った。

主砲射撃指揮所では井江田大尉、邑田大尉が小さな反省会を持っていた。「ちいと弾着がずれとったような気イするが?」「ああ、もうちいと手前に弾着するはずじゃったが。射撃の練度をもっと上げんといかんな」

などと言ってこちらも腕を組む。

 

この戦いは、内地で報道された。

〈向かふ所敵なし!帝国海軍大勝利。大型戦艦大砲撃ス〉

という見出しで大々的に報道されラジオでも軍艦行進曲もにぎにぎしく、敵の埋め立て飛行場を砲撃し占拠したということが報道された。

アナウンサーのやや興奮した声が、梨賀艦長の留守宅の、山中副長の東京の両親の家の、森上参謀長の親兄弟の、…多くの乗り組み将兵の留守宅のラジオのスピーカーを震わせた。さらに東京築地の聖蘆花病院では新聞を前にして日野原軍医長の夫、息子の昭吾、そして桐乃が三人手を取り合って喜んでいる。

そしてグアムの南洋新興支店では、高田兵曹に求婚している佐野がラジオをつかむようにして

「やった…やったぞ!高田さんよくやりました!」

と泣かんばかり。

広島の小泉商店では社長の孝太郎とその妻のエイがラジオに聞き耳を立てていたが大型戦艦が砲撃して大勝利というのを聞いて二人手を取り合って飛び跳ねて喜んだ。エイは「純子さんやったねえ、えらいわあ。今度お帰りになったらお土産話を聞きたいですわあ」と涙ぐんで喜ぶ。

そして同じく小泉商店の社員たちも大喜びした。中でも紅林次郎は皆から

「紅林さん、ええのうー!紅林さんの許嫁さんは大手柄じゃ」

と言われ、頬を真っ赤に染めている。

増添兵曹の実家では、畑仕事中に隣家の主婦が新聞を振りながら走ってきて、庸一が「なんじゃね、そげえに大ごとがあったんかね?」というと主婦は

「増添さんがたの要子ちゃん、大きなフネに乗っ取りんさってじゃろ。そのフネがな」

と新聞を差し出して言いかけたところで「なにー!要子になんぞあったんかー」と庸一が大きな声を出し、新聞をわしづかみにした。何事ね?と言いながら妻のさつきと、兵曹の母・やゑが寄ってきた。庸一は震えながら「要子になんぞあったらしい…今新聞読むけえ心して聞けえや」と言って、やゑとさつきは(まさか、要子ちゃんが)と不吉な思いに胸が塞がったが

庸一が「ええと…今次作戦において帝国海軍は大勝利を収めたり。大型戦艦の決死的砲撃により敵飛行場は壊滅セリ…じゃと!ああえかった~、うちゃあ要子になんぞあったんか思うて気が気じゃなかったわい」と言って涙を腕でぐいと拭いた。

やゑとさつきも「要子ちゃんがそげえな大手柄を立てて」と言って二人抱き合うようにして感涙にむせんだ。

呉の海軍工廠では総員大喜びだったが分けても、山中大佐・繁木少佐の所属の部署ではわがことのように皆大喜び。江崎少将も「それは良かった…。山中中佐は戦闘に参加できなかっただろうが、この勝利は副長としての中佐の存在あってのものだ。彼女は素晴らしい副長だ、その彼女を妻にした山中君は男冥利に尽きるだろう。それに繁木君の航海長の奥様の働きもあってのことだ。航海長の操舵がしっかりしていてこその艦である。航海長がしっかりしている艦は絶対だよ…二人とも、本当に良かった」と語った。

長妻兵曹の許嫁の毛塚少尉は「昭子さん無事だったんですね、ああよかった!―早く会いたい」と遠い南の海に思いをはせる。

 

さらに、桜本兵曹の祖母・伯父・伯母たちもこの嬉しい話を聞いて

「えかったねえ、トメちゃん。あの子がおるけえ『大和』は安泰なんじゃと分隊長さんが言うとった。きっとトヨも洋二郎さんもよろこんどってじゃろうねえ」

と言って仏壇に手を合わせた、「おじいさん。トメちゃんがお手柄ですよ」と祈りながら。

そしてー自分たちでは「もうあん家とは縁を切った、切られたけえ」と言っている松本少尉、麻生分隊士の実家でもこの報道を聞いて家族たちが

「無事じゃったんじゃね。…最近手紙の一つも来なんだが、便りのないのはええ便りいう言葉通りじゃね。あの子、がんばっとってなね」

とそっと手を合わせているのだった。

 

リンガ泊地の山中大佐・繁木少佐のもとへも大勝利の報せは届き、大佐は

「繁木君、大勝利だそうだ。よかった…むろん皆無事。繁木君の奥さんも大活躍だったね。ああ、よかったよかった。それに『瑞鶴』『翔鶴』もあの装置で無事だったというし、もう言うことないね。実験段階ではあったけど大きな収穫があったよ」

と言って繁木少佐も

「どうなることかとハラハラしておりましたが上首尾だったのですね、本当に良かったです。山中中佐もお喜びでしょうね」

と言って嬉しそうだ。

二人はリンガの青い海と空をすがすがしい思いで見つめた。その先には…二人の愛しい妻がいる。

 

山中副長は、貝塚艦長を見送ったあと診療所の庭に出た。久しぶりの外の空気に、副長の心は弾んだ。自分の体の奥に芽生えて息づいている小さな命に、目に映るものを話しかけながら。

と、彼女の上に何やら飛んできたものがある。なんだろう?とよく目を凝らしてみれば、

「あ、あの時の蝙蝠さんがた?」

そう、以前旧姓・野田兵曹がトレーラーで捕まえ、『大和』艦内の自分のチェストの中で飼っていて大ごとになってのち、トレーラーに返したあの蝙蝠三羽。

その蝙蝠が家族らしい蝙蝠を数匹ずつ引き連れて副長の頭上にやってきたのだ。

じっと見上げていると蝙蝠たちはあの時に礼を言うかのように副長の頭上を舞った後、何かを落としてきた。

副長の周囲に落ちたそれはきれいな花々。

蝙蝠は、副長の結婚と懐妊そして今回の『大和』たちの勝利を知ったのだろうか。祝いのフラワーシャワーである。副長はそれをいくつか拾い上げると

「ありがとうー、どうもありがとうー!あなたたちも元気で幸せにねー」

と叫んて片手を大きく振った。蝙蝠たちはそれにこたえるかのようにしばらくの間大きな円を描いていたがやがて一列になってどこかへ飛び去って行った。

 

それからしばらくして『大和』艦上でもこの蝙蝠たちの姿が。

報せを受けた艦長参謀長ほか科長たちのほかに、高田兵曹も急いで駆け上がってきた。懐かしいあの子たち、痛い目にあわせてしまって本当にすまなかった、ひとめ会って謝りたい。

高田兵曹は甲板に上がると上空を見つめた。飛んでいるのは間違いない、あの子たち。しかも家族を連れている。

「おーい、みんなあ。うちじゃ、うちじゃ覚えとってかね?うちはもう、野田じゃないで。うちは高田という名前になって生まれ変わったんよー」

高田兵曹は少し離れた場所に艦長たちがいるのも気が付かないか、大きな声で蝙蝠に叫んだ。

「あん時はすまんかったのう。ひどい目ぇに合わせてしもうてすまんかった!許してくれえ」

高田兵曹の声が涙に歪んだ。艦長たちがこちらを見つめている。

「すまんかった…」

そういって涙を流す兵曹、すると蝙蝠たちが高田兵曹の上に集合すると…ここでも花を落としたのだった。兵曹はその花を手に受けた。きれいな南洋の花々。

兵曹は蝙蝠たちを見上げると

「ありがとう!ありがとう…」

と言って泣いた。蝙蝠たちは、今度はうんと高く昇ってゆくと『大和』の上で何度も何度も大きく円を描いて飛んだあと、もう一度高田兵曹の上で一回りすると、島の奥目指して飛び去って行ったのだった。

 

蝙蝠たちはかつて自分たちが暮らした『大和』のことを、飼い主だった高田兵曹が新しい人生を歩みはじめたことを、危機を救ってくれた山中副長のおめでたごとを、それぞれ悟って祝福に来たのだろう。

それを目撃していた多くの乗組員たちの心に、さわやかな風の吹きぬけた午後であった――

 

            ・・・・・・・・・・・・・

戦い済んで、その後でございました。

どこの留守宅も、職場もこの勝利の報道に喜びほっとしたことでしょう。そして肉親の縁はそう簡単には断ち切れません。便りがないのを寂しく思いながら、勝利の報にほっと胸を撫でおろしている松本・麻生両特務士官の実家の人々です。

次回はマツコたちです、お楽しみに。


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守りたいもの 4〈解決編〉

敵の建設中の飛行場周辺には、敵空母一隻および駆逐艦5隻が待機していた。そして戦闘は唐突に始まるのであった――

 

それら敵駆逐艦を、夜間に忍び込んだ帝国海軍潜水艦部隊があっという間に撃沈してしまった。突如轟音と火柱が上がったのにびっくりして飛び起きてきた空母・ドンカーンの艦長嬢は「いったいなんだ、砲弾の暴発か?」と叫んだが次々に火を噴いて沈んでゆく駆逐艦に呆然として立ち尽くしていた。

ドンカーン副長が慌てて上着をひっかけて飛んできて「艦長これはいったい?」と震える声で問いかけた。その副長に艦長は、炎の照り返しを顔に受けて「――わからない、いったい何が起こったのだ」というだけ。空母から救命艇が出され、海に投げ出された駆逐艦の乗組員嬢たちは助け出され、建設中の飛行場に上がった。

一隻残った駆逐艦・スランプの艦長、ドン・ビッキーは訳が分からないといった顔で「何があった、調べろ。まさか敵襲ではないのか?」と部下に命じたが部下の将兵嬢たちもまったく訳が分からない。夜勤のレーダー員は「何も映っていません。何も映っていません!」というだけである。

「気味が悪い、いったいどうしたことだ」と、ドン・ビッキー艦長が言い終わるか終わらないうちに〈スランプ〉に大変な衝撃と大音響がとどろき、皆床に倒れた。

ビッキー艦長がやっと起きると、なんということかわが愛する駆逐艦・スランプの艦底に被弾してどんどん浸水中だと伝令からの知らせ。

ビッキー艦長は「総員退艦せよ、誘爆の危険あり、急ぎ退艦せよ!」と命じ、艦内は上を下への大騒ぎとなった。もうもうと黒煙が上がるのが夜目にも分かるほどの被害を受けた〈スランプ〉から乗組員嬢たちは我先にと逃げ出して行く。舷側から海に飛び込んで助けを求めて叫ぶブロンドの髪の女将兵を、救命艇が会場を駆け回って救い出す。

その惨状を見つめていた空母・ドンカーンのハナ・ターレ艦長は、はっと我に返ると艦内に戦闘態勢を指示した…その時。

数回の大きな衝撃が今度はドンカーンを襲い、ハナ・ターレ艦長は「敵襲―!」と怒鳴っていた――

 

潜水艦部隊の攻撃成功の報せを攻撃の艦隊は受け取って喜んだが「まだまだ、これからだ」と表情を引き締めた。

別れて進んできた『大和』隊と『比叡』隊は、あれから数日後合流し、飛行場まであと数浬の地点に来ていた。作戦ではこれから夜明けにかけて『瑞鶴』『翔鶴』から攻撃隊が発進し飛行場を空襲。そのあと『大和』『比叡』『金剛』などが一斉砲撃して飛行場を壊滅させるというものである。

『大和』艦上の桜本兵曹は行く手を双眼鏡で睥睨している。まだ、敵飛行場周辺に起こっている大火災は見えないが、何か行く手の水平線が尋常ならざることになっているような気配がする。松岡分隊長が首から下げた双眼鏡をのぞきながら

「あと二時間で砲撃地点に入る…しっかり見張れ」

とげきを飛ばす。この時点ではすでに艦長も防空指揮所に入り緊張の面持ちで海を、空を見回す。その艦長のもとへは各砲台・機銃群から「砲撃・射撃準備良し」の報告が入り、後はその時を待つだけである。海上の見張り員も敵潜の潜望鏡などがないか必死の見張り。時に「敵潜水艦潜望鏡、右二五度!」と叫びが上がり緊張が走るが、そのたび「ただいまのは流木の見誤りなり」と訂正が入り皆一斉に胸をなでおろす。松岡分隊長が「慌てるなと言え!落ち着いて見張れ」と怒鳴って、麻生分隊士はふと分隊長を見つめた。この人が本当の意味で熱くなっているのをはじめてみた、と思ったのである。やはり大したものだ、この場に来て肝が据わっているな、と麻生分隊士は初めて松岡中尉を頼もしく思った。

麻生分隊士は、そして指揮所の後方にも回って見張り員たちを督戦する。

 

さらに一時間ほど経過して、桜本兵曹がのぞいていた双眼鏡からいったん目を離し、前を見つめてもう一度双眼鏡をのぞいて

「前方、黒煙見える!」

と叫んだ。梨賀艦長が確認するとまごうかた無き敵飛行場を潜水艦部隊が攻撃したその火災の黒煙である。『大和』からの発光信号を受けて『瑞鶴』『翔鶴』から攻撃隊が発進を始める。今や遅しとこの時を待っていた攻撃隊員たちはてきぱきとそれぞれの愛機に乗り込んだ。零戦隊の攻撃隊長、艦爆・艦攻の攻撃隊長はそれぞれ整備長に礼を言い、整備長は「ご武運をお祈りします」と敬礼で応えた。

そして二つの空母から攻撃隊は大空に飛び立ち、敵飛行場へ殺到して行った。

 

空母・ドンカーンは沈没こそ免れていたが大きく傾いて航行は不能であった。

飛行場では救い上げられた駆逐艦と空母の乗員嬢が放心状態で座っていた。大けがなどしたものはなかったが、いかんせん当直以外はぐっすり眠っていた時間のこと、何が起きたかわからないまま大音響と大振動にたたき起こされ、そして海に叩き込まれたのでいまだ、はっきり何があったのか理解できていないものも多い。

ずぶ濡れの、空母・ドンカーンのハナ・ターレ艦長、彼女は飛行場建設の司令官役も仰せつかっていたが寒さに震えつつも「工作艦がいなくてよかった、工作艦がやられていたら大ごとだった」と独り言ちた。が、はっとして顔を上げると傍らにいた大尉嬢に

「今日は…なんにちだろうか」

と尋ねた。大尉嬢が「二五日ですが」というと艦長は「うわあ!」と頭を抱えた。どうしました艦長、と尋ねる大尉嬢にハナ・ターレ艦長は

「今日の午前中にも…工作艦がやってくる。このまま来れば敵の餌食だ」

と言って泣き出した。通信機能がほとんど壊され、仮に機能していても通信をすれば敵、そう、あの怖い日本海軍が「あいつらまだ生きてやがる!」と悪魔の微笑を浮かべてさらに攻撃してくるだろう。そしてこんな辺境に追いやられたわが身を嘆いた。

こんなところに追いやってどういうつもりなんだ、ろくに補給も来ないような環礁に飛行場だと?こんな飛行場に何の価値があるってんだ、もしかして我々はおとりだったのではないのか。それに、何度『ローストターキーがほしい』と打電しても無視され続けているし。ひどい。

ハナ・ターレ艦長はそろそろ明けそうな空を見上げて大きくため息をついた…

 

そんなころ、『瑞鶴』『翔鶴』からの攻撃隊は飛行場を視認した。かねてからの攻撃予定にのっとり、『瑞鶴』攻撃隊は飛行場の北から、『翔鶴』攻撃隊は南から攻撃することになっていたのでそれぞれに攻撃隊は二手に分かれて飛行した。

そしてー攻撃隊の各機はいよいよ飛行場に対して盲爆を繰り広げた。

 

アメ嬢たちは何かおかしな轟音がしてくるのに気が付いた。見上げた夜明けの空にごうごうと音を立ててやってくるのは友軍の飛行機ではない、「ジャップよ、見て、ミートボールよ!」。

その声を聞くなりアメ嬢将兵たちは一瞬恐慌に陥ったがそこはアメリカ海軍軍人、気を取り直し地上の機関砲銃座に飛び込んで迎え撃つ。あるいは地上に十数機、試験用に置いてあった戦闘機に乗り込む者もいる。

傾いた空母・ドンカーンに残っていた将兵嬢が機銃を撃つ。激しい対空砲火が日本海軍の攻撃隊を取り囲んだ。が、『瑞鶴』攻撃隊隊長は不敵な笑みを浮かべると

「そう来なきゃ。おもしろくないだろうが。さて、こちらも本気を出しますよ」

というなり僚機を率いて弾幕の中に躍り込んだ。激しい対空砲火をものともせず突っ込んでくる零戦、あるいは艦爆、艦攻。そしてたたき出される機銃弾にアメ嬢たちはなすすべもない。

頼みの綱のわが戦闘機・ワイルドドッグはああ、情けなや日本軍機に追い回され果ては撃墜されているではないか。

 

そんなころ、この飛行場の大騒ぎを工作艦とともに来た空母・ファイヤーゾンビが察知した。沈みかけのドンカーンからの切れ切れの電信で「ちょっと!飛行場が空襲されているって、何事だ?戦闘機隊を至急出せ、ここからなら間に合う」と急きょ、攻撃隊を発進させた。

そんなことはもう、『大和』の通信班が傍受していたので、その艦影が水平線上に見えるなり戦艦群が砲撃を開始。しかしファイヤーゾンビも必死で残った戦闘機を発進させ、『大和』ほかに攻撃を仕掛けてきた。アメ嬢搭乗員は「いたっ!日本の空母、イタダキ~」と、「翔鶴」に向かって決死のダイブをかけてきた。『翔鶴』の見張り員が「敵機直上!急降下してくる!」と叫び、艦は面舵を取った。その瞬間敵戦闘機から爆弾が投下される…。

その爆弾は、翔鶴飛行甲板の日の丸部分をめがけて落ちる。アメ嬢搭乗員はなぜか日本空母のこの辺りを狙って投弾してくるものが多い。弱点だとでも思っているのか何なのか、そのたびに日の丸は無残にはがれ、乗員の怒りを買っている。

が、今回例の「松岡式防御装置」が施されている。艦長は固唾をのんで(大丈夫なのだろうか、本当に万全の装備なのだろうか)と手にした双眼鏡を握りしめている。

投弾された爆弾は日の丸部分に落ちた…アメ嬢は「ヤッタワ。これで手柄ヒトツいただき~。休暇モラエルワ」と喜び、「翔鶴」の皆は「あの装備、口だけだったら絶対許さん」とこぶしを握った。

すると、大きな爆弾は日の丸の真ん中あたりでボン!と音を立てて跳ね返ったではないか。

アメ嬢は下からみるみるうちに大きく迫ってくる自分の爆弾に泡を食って反転した。と完全に彼女の機体が逃げ切らないうちに、爆弾は破裂した。

その影響で数機が被害を受け落ちた。

「翔鶴」では皆が一瞬あっけにとられた後大喜び、「やはり大したものだ、さすが海軍工廠の技術は素晴らしい」と絶賛。

 

日本軍機の攻撃は、二回にわたり続き戦闘機を破壊され、地上の機関砲も沈黙し工作艦とともに来た空母・ファイヤーゾンビも大破・着底してしまった。

その日も日が傾くころ、いよいよ最後の仕上げの時が来た。
「目標良し」「射撃用意良し」「主砲発射良し」次々に出される号令、そしてーー

『大和』「金剛」「比叡」たちの主砲が斉射され、飛行場はもうめちゃくちゃに破壊されたのであった。すさまじい轟音とともに飛んでくる砲弾、その砲弾は飛行場の地面をえぐりつくした。

『大和』では主砲発射の際艦内に退避していた将兵嬢たちがその終了とともに飛び出してきて飛行場の方角を見て、てんでに指さしては「やった、やったよ」と騒いでいる。

そして散々な目にあったアメ嬢将兵たちは、ぼろ雑巾のようになった空母・ドンカーンに乗り込んで何とか数日をかけて遠いアメリカ軍の基地に入った。しかしドンカーンは入港するなり、一気に着底してしまった。

 

桜本兵曹も、飛行場の終焉をその目で見てほうっと息をついていた。『大和』にも敵の戦闘機が数機襲来していたが機銃群の働きと松岡分隊長のラケットのおかげで撃退できた。

石川兵曹が「えかったですね。どうやら済んだようです」と言ってほほ笑んだのへオトメチャンの微笑み返し、「皆でしっかり守れたけえね。これでまた日本は安泰じゃ」と言って周囲の皆も同意の笑みを浮かべた。

 

さて、例の飛行場はその後どうなったであろうか。

梨賀艦長によれば「あの周辺はナニサ諸島と言って小さな島が点在している。あの飛行場は帝国海軍が占拠し、至近のイヤネ島に海軍設営隊がこの後来て整備し、緊急の不時着用地として使うことになったんだよ。もしかしたら今後大きな基地になるかもしれないね。いずれにしてもアメちゃんにはお気の毒だったね。彼女たちにとってもあの場所は守りたいところだったろうが、われわれにも守りたい場所だ。この先もずっと守ってゆかねばね」ということである。

 

艦隊はトレーラーに帰る。

そして『瑞鶴』『翔鶴』も二日ののちにリンガ泊地へ向けて再出港してゆくのである。

二つの空母の乗組員嬢は、例の防御装置の威力の一端を垣間見て「これが早く装備されるといいなあ」と待ち遠しげであった。

 

そして、トレーラーの水島では『大和』の帰りを待つ一人と三匹が、今か今かと首を長くしているのだった――。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・

おかしな名前の敵空母が出てきました。どうなることかと思いましたが今回も女だらけの帝国海軍の圧勝です。そうでなきゃ面白くないですね。ナニサ諸島…どこかで聞いたことがあるような名前ですね。

 

入院中の副長、そして司令部に預けられているマツコトメキチニャマトも笑顔で帰艦することでしょう。

次回のお話しをご期待ください。



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守りたいもの 3

出撃を明夜に控えて、『大和』の酒保は大変忙しかったーー

 

ワイワイと酒保にやってくる兵隊嬢・下士官嬢に酒保長嬢が「ええですか。ふんどしは一人二枚までにしてつかあさい!羊羹のでかいのは一人一本、こまいのは三本まで、キャラメルは一人三箱までですけえよろしゅう願います」と叫んでいる。

皆、『出撃の時は新しい下着で』臨みたいと思っているから無理もない。そして甘味はポケットに入れておいてちょっとしたすきに口に入れるのだ。いざ戦闘が長引いたりすると飯を食う暇もない。むろん戦闘配食はあるがそれだって戦闘の激しさいかんではきちんととれるかどうかわからない。だから、皆酒保になだれ込んでそうしたものを買うのであった。

その中に桜本兵曹もいて、小泉兵曹とともにふんどし二枚、それに小さい羊羹とキャラメルを二つづつ買った。小泉兵曹は

「ふんどしは一枚でもええんじゃが、トレーラに帰って遊びに行くとき汚い褌では女が廃るじゃろ?じゃけえそのために買うとくんよ」

と笑い、桜本兵曹は困ったような顔で笑い返した。小泉兵曹は

「ほいで?男と遊ばんオトメチャンが何で褌を二枚も買うたんね?」

と尋ねてきた。オトメチャンは「うちはもうずっと先に買うたけえ、そろそろ新しいんが欲しうなっただけじゃ。それにうちは昔っからこういうものは二枚買うとくんが倣いじゃけえ」と言って真新しい褌と菓子類をきんちゃく袋に押し込んだ。そして

「明日の朝〇四〇〇(午前四時)には出撃じゃ、今夜中に皆着替えておくよう言うとかんとね」

というと二人は酒保を出た。そのあとも続々と兵隊嬢たちが酒保へと詰めかけてくる…

 

その晩黒多砲術長兼副長代行の声が「酒許す」を艦内放送で伝え、皆は喜び、下級兵嬢が酒保に酒を受け取りに走る。各分隊ごとにささやかな酒宴が始まった。車座になって、今まで隠していた菓子を出すもの、ギンバイしてきたと思しき缶詰を出すものなどで、ささやかではあるが楽しい宴となった。

桜本兵曹は酒を注ぎに来た石川二等兵曹に

「明日はよろしゅうな。皆で力を合わせればどがいな敵でも撃滅可能じゃけえね。ほういやあ石川さんは下士官になって初めての戦闘じゃね、気張っていこうな」

と言って、石川兵曹は「はい。がんばります!」と返事をして、桜本兵曹はアルマイトのコップに注がれた酒をまず一口飲んだ。そして「石川兵曹も、どうね?ちいとはええじゃろ?」と返杯。あまり酒に強くないのを知っているので少しだけ注いでやった。石川兵曹は喜んで「ありがとうございます、いただきます」とコップを押し頂くとそっと飲んだ。

「今夜はよう眠れそうです」

そういって笑う石川兵曹に、桜本兵曹は「よう寝とかんとな。戦が始まったら寝とる暇もないじゃろうし、うちら目を使う仕事なけえ、眠るンも仕事のうちじゃ」と言って二人は笑った。

そのあとも亀井上水が「戦捷祈願の舞」と名付けた妙な踊りを踊って皆は腹を抱えて笑い、そこへ松岡分隊長と麻生分隊士がやってくると一層盛り上がり、松岡分隊長は例によってラケットを振りながら「熱くなれよみんな、もうあきらめてんじゃないか、そうじゃないだろう?もっと熱くなってあきらめんなよ!」と妙な檄を飛ばし、麻生分隊士は苦笑しながら皆に「…だそうだ。皆明日からしっかりやってくれ」と言って皆は「はい」と返事をするなり松岡分隊長を抱え上げると胴上げ。それを見て大笑いの麻生分隊士。

大笑いの中、「これでやめよ」と黒多副長代行の声がスピーカーから流れ、皆は酒宴を終わった。

そのあとは当直に立つもの、眠るものが分かれるのだが「その前に」と皆、その場で着替えを始めた。きれいに洗濯された、あるいはまっさらの戦闘服、そして肌着を取り出し身に着ける。女同士何を隠すこともないので素っ裸になっての着替え。

小泉兵曹はすべて脱ぎ去って、新しい褌を巾着から出すと紐を腰に回して前で縛った、そして前垂れを持ってくると紐の間にそれを入れ込んで「ヨシッ!」というと尻を思い切りたたいてから襦袢を着、そして戦闘服を着こんだ。そして丁寧に脚絆を巻く。

今夜から仮眠をしながら明朝の出撃に備えるのである。その傍らでは桜本兵曹がすでに服を着終えて脚絆を巻き、鉄兜をかぶって準備「よし!」である。

桜本兵曹は

「今夜〇四〇〇までは二時間交代じゃ、仮眠をとるものはそれぞれの配置で。しっかり寝とけや!」

と言って石川兵曹とともに居住区を飛び出していった。この二人が左舷の最初の当直員である。それを見て小泉兵曹は

「――だそうだ。右舷の一番はだれじゃ?おお、亀井上水にうちか…ほんなら行こうや」

とこちらは何とも情けない。亀井上水は「やれやれ、なんで右舷(


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守りたいもの 3

出撃を明夜に控えて、『大和』の酒保は大変忙しかったーー

 

ワイワイと酒保にやってくる兵隊嬢・下士官嬢に酒保長嬢が「ええですか。ふんどしは一人二枚までにしてつかあさい!羊羹のでかいのは一人一本、こまいのは三本まで、キャラメルは一人三箱までですけえよろしゅう願います」と叫んでいる。

皆、『出撃の時は新しい下着で』臨みたいと思っているから無理もない。そして甘味はポケットに入れておいてちょっとしたすきに口に入れるのだ。いざ戦闘が長引いたりすると飯を食う暇もない。むろん戦闘配食はあるがそれだって戦闘の激しさいかんではきちんととれるかどうかわからない。だから、皆酒保になだれ込んでそうしたものを買うのであった。

その中に桜本兵曹もいて、小泉兵曹とともにふんどし二枚、それに小さい羊羹とキャラメルを二つづつ買った。小泉兵曹は

「ふんどしは一枚でもええんじゃが、トレーラに帰って遊びに行くとき汚い褌では女が廃るじゃろ?じゃけえそのために買うとくんよ」

と笑い、桜本兵曹は困ったような顔で笑い返した。小泉兵曹は

「ほいで?男と遊ばんオトメチャンが何で褌を二枚も買うたんね?」

と尋ねてきた。オトメチャンは「うちはもうずっと先に買うたけえ、そろそろ新しいんが欲しうなっただけじゃ。それにうちは昔っからこういうものは二枚買うとくんが倣いじゃけえ」と言って真新しい褌と菓子類をきんちゃく袋に押し込んだ。そして

「明日の朝〇四〇〇(午前四時)には出撃じゃ、今夜中に皆着替えておくよう言うとかんとね」

というと二人は酒保を出た。そのあとも続々と兵隊嬢たちが酒保へと詰めかけてくる…

 

その晩黒多砲術長兼副長代行の声が「酒許す」を艦内放送で伝え、皆は喜び、下級兵嬢が酒保に酒を受け取りに走る。各分隊ごとにささやかな酒宴が始まった。車座になって、今まで隠していた菓子を出すもの、ギンバイしてきたと思しき缶詰を出すものなどで、ささやかではあるが楽しい宴となった。

桜本兵曹は酒を注ぎに来た石川二等兵曹に

「明日はよろしゅうな。皆で力を合わせればどがいな敵でも撃滅可能じゃけえね。ほういやあ石川さんは下士官になって初めての戦闘じゃね、気張っていこうな」

と言って、石川兵曹は「はい。がんばります!」と返事をして、桜本兵曹はアルマイトのコップに注がれた酒をまず一口飲んだ。そして「石川兵曹も、どうね?ちいとはええじゃろ?」と返杯。あまり酒に強くないのを知っているので少しだけ注いでやった。石川兵曹は喜んで「ありがとうございます、いただきます」とコップを押し頂くとそっと飲んだ。

「今夜はよう眠れそうです」

そういって笑う石川兵曹に、桜本兵曹は「よう寝とかんとな。戦が始まったら寝とる暇もないじゃろうし、うちら目を使う仕事なけえ、眠るンも仕事のうちじゃ」と言って二人は笑った。

そのあとも亀井上水が「戦捷祈願の舞」と名付けた妙な踊りを踊って皆は腹を抱えて笑い、そこへ松岡分隊長と麻生分隊士がやってくると一層盛り上がり、松岡分隊長は例によってラケットを振りながら「熱くなれよみんな、もうあきらめてんじゃないか、そうじゃないだろう?もっと熱くなってあきらめんなよ!」と妙な檄を飛ばし、麻生分隊士は苦笑しながら皆に「…だそうだ。皆明日からしっかりやってくれ」と言って皆は「はい」と返事をするなり松岡分隊長を抱え上げると胴上げ。それを見て大笑いの麻生分隊士。

大笑いの中、「これでやめよ」と黒多副長代行の声がスピーカーから流れ、皆は酒宴を終わった。

そのあとは当直に立つもの、眠るものが分かれるのだが「その前に」と皆、その場で着替えを始めた。きれいに洗濯された、あるいはまっさらの戦闘服、そして肌着を取り出し身に着ける。女同士何を隠すこともないので素っ裸になっての着替え。

小泉兵曹はすべて脱ぎ去って、新しい褌を巾着から出すと紐を腰に回して前で縛った、そして前垂れを持ってくると紐の間にそれを入れ込んで「ヨシッ!」というと尻を思い切りたたいてから襦袢を着、そして戦闘服を着こんだ。そして丁寧に脚絆を巻く。

今夜から仮眠をしながら明朝の出撃に備えるのである。その傍らでは桜本兵曹がすでに服を着終えて脚絆を巻き、鉄兜をかぶって準備「よし!」である。

桜本兵曹は

「今夜〇四〇〇までは二時間交代じゃ、仮眠をとるものはそれぞれの配置で。しっかり寝とけや!」

と言って石川兵曹とともに居住区を飛び出していった。この二人が左舷の最初の当直員である。それを見て小泉兵曹は

「――だそうだ。右舷の一番はだれじゃ?おお、亀井上水にうちか…ほんなら行こうや」

とこちらは何とも情けない。亀井上水は「やれやれ、なんで右舷(うちら)の班長はこうもええ加減なんじゃろう?いつも桜本兵曹の言葉を自分のものにしよる。おかしなお人じゃ」と横にいた酒井水兵長にぼやいた。酒井水兵長は「まあまあ。そげんいわんと、がんばりや」と慰めてその背中をポンと叩いてやった。行ってきます、と亀井上水は走り出しそのあとを小泉兵曹が走って追う。

そのころには居住区の前の廊下を各自の配置に急ぐ他分隊の兵隊嬢・下士官嬢たちがせわしなく走ってゆく。

酒井水兵長たち航海科員も装備を整え終わったものから防空指揮所などの各配置へと急いで走っていった――

 

梨賀艦長もすでに装備を整え、第一艦橋にいた。森上参謀長のほか、黒多砲術長・繁木航海長・山口通信長もいて、星明りに照らされた海を小さな窓から見つめている。艦橋にはほかに見張兵嬢が数名いて、双眼鏡を一心に覗いている。参謀長が

「『大和』『瑞鶴』が最初に出航だね。その数時間後「比叡」たちか…時間差をつけたか。そのほうが怪しまれない、われわれのような大型艦が一斉にいなくなれば不審に思われるかもしれんからね…で?集合地点はどのへんだっけ」

と言って繁木航海長が海図台に集合地点から問題の飛行場を作っているあたりの海図を広げ「このあたりです」と示した。

「比叡」「金剛」「翔鶴」ほかで作る艦隊はまっすぐその地点に向かい、『大和』『瑞鶴』ほかの艦隊は〈偽装進路〉を取りながら集合地点に進む。万が一のことを考えての策である。

「向こうもそれなりにこちらの動向を察知しているはずだ。新しく作った飛行場を死守してくるだろうからこちらも全力でぶつかろう。そして、われわれ戦艦部隊で一斉砲撃だ」

梨賀艦長はそういって皆を見渡した。それぞれ緊張感で頬を紅潮させ、艦長を見つめるひとみはきらきらとしている。繁木航海長が

「絶対、敵の一匹たりとも逃しません。操舵は任せてください」

というと砲術長もうなずき「主砲、副砲ともに万全です」と言い通信長も「各艦との通信状態も万全です」と言って艦長は満足そうに微笑んだ。そして

「では皆さん、よろしく」

というと皆はそれぞれの場所に散開してゆく。

花山掌航海長が主羅針儀の前に立って何やらしていたが繁木航海長がそばによると

「航海長、主羅針儀異常なしです。そのほかの計器も異常なしであります」

と報告した。繁木航海長はうなずいて「ありがとう花山さん。これで心置きなく行けますね」と言って、花山掌航海長は嬉しそうにうなずいた。

 

艦橋がそんな状態であるころ、医務科では日野原軍医長が数名の士官を使って医療用具の点検をしている。准士官・下士官兵たちをすべて寝かせて「あなたたちは今夜、よく眠りなさい。点検なら我々でできるから」と言った。点検と言ってもその二日前までに准士官・下士官嬢たちが医療用具の在庫を調べ上げ、足りないものは急いでトレーラー軍需部に走って買い付け、整理整頓してあったので特にすることもなかったが、古参の准士官・前田衛生兵曹長が「万が一のことがあるといけませんので」というので

「では再点検は士官が行う。准士官以下は手を出してはいけない、それより大事な用事を申し付ける」

と日野原軍医長は「よく眠れ、それが大事な用事だよ」と言って皆を納得させたのだ。

 

また林田内務長もあちこち見て回っては電気・工作など各分隊と連携を取りつつその日に備える。電気分隊では岩井しん特務中尉が中心になって万が一にも電気が途絶えるようなことがないよう気を配る。新入りの岳野カメ水兵長も必死で皆についてゆく。

 

機関科・浜口機関長のもとで機関のメンテナンスに余念がない。

「もしも機関停止などということになったら大ごとだ。それが整備不良からなら『大和』の名折れである。しっかり点検整備せよ。そしていざ戦闘になったとき十分その機能を発揮せよ」

浜口機関長は、機関科の総員を前にそう訓示。松本少尉はほほを紅潮させて人一倍大きな声で「はいっ!」と返事をし、そして皆はそれぞれの場所に走っていった。

 

山口通信長は通信室にいて、各通信員の間を見て回る。特に英語の堪能な中矢特務中尉や岡沢大尉のそばに行っては「敵の様子はわかるか?」「大きな動きはあるか?」などとそっと尋ね、中矢中尉はそのたび

「いえ、まったく動きはありません。本国からのラジオ番組が弱い電波ですが聞こえています。多分どこかで中継しているのでしょうが出力が弱いようです。そのほかには敵の通信はありません」と答える。岡沢大尉も「敵飛行場周辺からの通信はほとんどありません、無線封鎖というわけでもないようです。時折私信のような電文が流れてきますが暗号ではないですね、『ローストターキーが食べたい』とかいう電文が数回ありましたが返信はないです、無視されたんじゃないでしょうか」と言ってその場は皆は笑った。

山口通信長は「そうか、しかし慢心せぬように。敵の通信には細心の注意を払うように」と言って皆は「はい!」と返事をした後、通信機にかじりつく。

 

そのころ。

トレーラー艦隊司令部に預けられたマツコトメキチニャマトはまだ目を覚ましていて、

「帰りたいよう、マツコサン」「あたしだって帰りたいわよぅ」「ギャ、ギャ、ギャマト」

と小声で話している。この三人は司令部の中の一室の、大きな箱の中で夜を過ごす。トメキチはニャマトを自分のお腹に抱き込みながら

「やっぱり『大和』がいいわねマツコサン」

という、それにマツコも「そうよ。だってあのフネはあたしたちの家も同然だもの。ここも悪くはないわよ、おいしいものをくれるしみんな親切だし。でもやっぱりあたし、『大和』に早く帰りたいわ。ああ、無事で帰ってくるといいわねえ、帰ってくるわよねえ?」とため息をつく。その大きなくちばしがカタカタ鳴った。トメキチは「大丈夫、帰ってくるわよ」と言ってマツコはうなずいた。

ニャマトが「ニャマート…」と鳴いて、トメキチは(ニャマト、岩井さんと松本さんに会いたいのね)と思う。

三人は、それからもう少しの間、眠れないでいた。

 

そして、〇四〇〇。

定刻通り、『大和』ほかの艦隊は抜錨しトレーラー環礁を後にした。すべての艦艇の乗組員の表情は引き締まり、これから向かう戦場に心はせている。

戦いの時は、もう間もなくである――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・

出撃前の皆の様子、いやがうえにもみなぎる緊張感でした。

そしてマツコたち、司令部に預けられています。彼らも心配しています、『大和』が無事で帰ることを。次回いよいよ戦闘開始か!ご期待ください。


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